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No,34:無機質現象

ふぃ。

だいぶクライマックスってことで;

本当のことをいうと、嫉妬していたかもしれない。

いや、完全に100%嫉妬というわけではなく、少なくとも一割方は嫉妬成分が含まれていたかもしれない。そんなことをいまさらいったって仕方のないことなのだが。

幼馴染、そういうカテゴリーに分類されるのかどうか自分の生きてきて環境の中では分からない。

家族、というカテゴリーの方がぴったり合うという奴もいれば幼馴染なんじゃね? という奴もいるだろう。

やってしまったこと、それはもう取り消すことはできない。 だからこそ誰もが苦悩し、乗り越えて生きていくのだとわかってはいるのだけれども、なかなか足が進まないのは何故なのだろうか。

嫉妬。 最初にそうは言ったが、本当にそうなのだろうか。

ここで矛盾が生じているが、そんなことはどうだっていい。だって俺はバカだから。

近くに居るのが自分ではなく彼。 人付き合いがよく、色んな事に気が回る。混乱した時はウジウジ悩んだりするが、それでも心の芯はしっかりとしていて折れるようなそぶりも決して見せない。決断を下し、それに沿って信じて進む彼の強さに惹かれた。 そう言われればそこまでだ。

実際、自分だって敵わないと分かっている。 すごくいい奴で、まっすぐな奴。 そんな表現しかできないが、伝わるだろう。

では、俺はどうだったのか。

昔のことは……いい。 ただの過去になってしまったものはどうしようもない。だから、今。

一番最初に見つけたい、と思う心が存在すると同時に見つけたくないという心が存在している。

矛盾だ。 そしてバカだから答えだって分からない。どちらが本当なのか、という答えが。

もしくは、そんなものは存在していなくて。

やっぱり結論はいつものわかんねぇ。

どうしたらいいか分からないから、とりあえず誰もが喜ぶであろう策に縋る。

それは滑稽なことだろうか。でも、縋ったっていいと思う。だって、道しるべさえ見つけられないバカなのだから。

バカはバカなりに、がんばっているのだから。


廊下をなるべく音を立てないように小走りで進んでいると、化学実験室の扉の曇りガラス部分に人影が映っているのを見つけた。

テロリスト? それとも鵜川? それとも、別の誰かか。

その影の主は何やら慌てているようで、すぐに曇りガラスの中から影は消えた。

正体を確認しようと、慎重に化学実験室の扉を開ける。

水道の付いた固定机がいくつも並んでいる。 実験器具の揃えられた棚の横を過ぎ、薬品置き場へと続く扉の前に立つ。拳銃を構える。

ゆっくりとドアを開けると、そこには布がはためいていた。

「カーテン?」

開け放った窓から風が吹き込み、太陽光を遮る黒いカーテンが靡いていたのだ。

そこで大事なことに気が付く。

「窓が開いている……ということは誰かがいた。 それはテロリストじゃない?」

逃げた、という表現が当てはまるのならそうなのだろう。

学校の生徒か、鵜川か。俺が現れたことによって、テロリストと勘違いして逃げたのかもしれない。

窓の外はベランダがある。しかし、ここは三階であり化学実験室のベランダはどこにも通じていない。

飛び降りたのかと下をのぞき見るがベランダの下はコンクリート。

こんなところから飛び降りたとしたら足を痛めるはずだ。

「分かんねぇ」

つまるところ、分かったことは分からないということだけだった。





結局、俺はどうしたかったのか。

月乃を見つけてから、それから?

第一なんで月乃が消えたのか、もしかしたら予兆はあったのかもしれない。それに俺は気付けなかった。

一番近くに居て、それでいて気がつかなかったとなれば俺の目は腐っているのかもしれない。

信念や理由がごちゃごちゃしていて、よく分からなかった。 今この足を動かしているのは、月乃を見つけられればそれでいいという、とりあえず見つけた後に考えればいいやという曖昧な考えがあるからだった。

だって、分からなかったから。

現状を把握できていない上にこの状態だった。月乃を見つけても俺は声をかけられるのだろうか。


一階を見回っていた俺は、中庭を横切る影を目で捉えた。

「なんだ?」

窓を開けて身を乗り出して外に顔を出してみるが、その影はもういなくなっていた。

月乃……では無いと思う。 彼女であれば、靡く金髪が絶対に目に入るはずだから。

では、テロリストだろうか?

この線は無いと思う。 校舎内を出る必要が無いからだ。 もし、見回りをするだとか月乃を探すだとかしているのであれば、校内を探るだろうから。

この学校は今、閉鎖空間となっている。校門は閉じられ、学校の敷地内から出ることはできない。

そして、その敷地内の90%を占めるのは学校という建物。

であれば、外には出なくてもよい。

必要があるとすれば、何か別の思惑がはたらいている時だ。

ただの学生かもしれない。 酉種だって後から体育館に避難してきたわけだし、登校人数の疎らな今日は全生徒が何人なのかもわからない。 それゆえに全員を体育館に避難させたとは言いきれないのである。

どう動くべきか。

その影の主を追うべきなのか、このまま月乃を探すのか。 もちろん月乃を探すアテはない。

影を追いつつ、月乃も探す。 それがいいのではないだろうか。その影が生徒だったら体育館に行くよう勧める。そしてその生徒の危険は回避できる。その影がテロリストだった場合、もしかしたら月乃につながっているかもしれない。

どちらに転んでも良い展開となるよう思案してみた。しかし、第3の想像を超えた展開だとしよう。

その時はどうなる………?

考えていてもはじまらない。

とりあえず、影の行った方向へと向かうべく廊下の窓から外へと飛び越えた。


その様子を歪んだ顔の継ぎ接ぎ人形が眺めていた。




三階に位置する中央制御処理室にその少年は居た。右目には眼帯、ごく自然な流れでダメージジーンズへと変化したジーパンに黒一色の飾り気のないTシャツ。それが彼を体現していた。

「ったく、マダ捕まえられないのかよ。 愛玩用アイシは何を手こずってやがんだァ」

「おそらく人間と鉢合わせがあったのだと。それよりも、客人だぞ壊れない実験台ハード

感情制御リミッターが抑揚のない声でそう告げた。 眼帯の彼は驚くよりも先に後ろを振り向き、その表情を固まらせた。

存在希薄クリア………てめェ、いつの間に」

そこには白を基調としたワンピースを身にまとった少女が立っていた。それはとても悲しそうな顔で、我が子の絶望をそばで眺める母のように。慈愛とは違った何かを彷彿とさせる表情だった。

「もう、無理なの」

「何がだァ」

わけがわからずに壊れない実験台ハードは訊いていた。

彼女は何かを隠していた。

何故だかいつもは分からないその存在希薄クリアの考えていることが今は分かるような気がした。

「………」

「何言ってやがんだお前。 それより感情規制リミッター。何故こいつの存在に気がついた?」

後ろを振り返る。感情規制リミッターは背を向けたままコンピュータに向かって何かを打ち込んでいる。そしてそのまま言った。

「何故、ですか。 それは、分かったからとしか答えようがないな」

「あぁ?」

「あなたが敏感に人の気配を察するのと同じことですよ。 察したから気付いた。それだけです」

こいつも何かを隠している。そう思えた。

計画終盤に入ってから、なぜこうも障害が立ちはだかる?

何かが俺の行動を阻止しようとでもしているのか。

「はーど。あなたにはもう会えない。さよなら」

少女は儚げに言う。

「何だァ、死ぬってのかお前」

ただ、少女は告げる。

「ばいばい」

眼帯の彼は、胸の内に怒りがこみ上げてくるのを感じていた。

何だ、何だこれは。

意味のわからない不安にかられる。存在希薄クリアという存在が、危険だと本能が告げる。

再び存在希薄クリアを視界に入れようとしたとき、彼女はもうそこにはいなかった。

「どこ行きやがった………?」

結局、最後まで理解できない。

やはり、このクニをつぶしてデータバンクを漁るしかない。

自分の存在意義と、彼女の存在意義を知るために。

そして、腐った種族を根絶やすために。



そんな彼の様子を、ただ静かに捉える無機質な目があった。













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