No,31:switch
テスト期間入りました;
テスト嫌だよテスト(`・ω・´)
体育館はいつもの全校集会のように混雑していることはなく、むしろ人が少なすぎて結構なスペースが出来るほどであった。やはり、今日登校してきている者が少ないのだと改めて実感させられる。
体育館の隅の方では、先生達が集まってなにやら話をしている。 聞くところによると、先生方は今朝、会議室でテロのことについて話し合っていたところに放送が流れ、状況を知ったのだという。その時にはとっくに職員室は占領されていたらしい。 不幸中の幸いというところか、誰も怪我なく体育館に集まることが出来たのだという。 だからこそ、生徒会長と連携をとって生徒を集めることが出来たのだろう。
だがしかし、敵の人数は不明。さらに、録武ナナという生徒も不明ということで混乱しているのだという。
とは言え、このままではいけないということで現在、話し合いをしている中なのだという。
「あっ……さ、桜参さん」
体育館の中を見渡していると、出入り口の方から少女が声をかけてきた。
少し癖のある髪に小動物系の瞳、酉種風見だった。
「酉種……来てたのか。大丈夫だったのか?」
「え、はい。 あの……やっぱりこれって……」
「テロ、だと思う」
「皆さんは、なんともありませんか……?」
酉種は俺を含め、全員に視線を合わせた。
「だいじょーぶだよ、風見くん。 私はどうともない」
「俺は完璧だな! なんなら腹筋しようか、腹筋!」
「いや、蓮はうるさいから黙ってて」
会長さん、蓮と、大事がないことを伝える。それに酉種は安堵したようにほぅと息を吐き、それから口を一文字に引き締めてから、何かを言いだそうとする。
それでも思ったように言葉は出てこない。 というか、言うべきか言わないべきかを迷っているようにも見える。
「どうしたんだ、酉種。 ここに来るまでに何かあったのか」
どうやらそれは図星だったらしく、一度目を見開いてからおろおろし始める。
「何があったんだ、話してくれ」
そう言うと彼女は、小さな口を開いて言った。
「あ、あの……月乃さんが階段を上がっていくのが見えて、私声をかけたんですけど全然聞こえてなかったみたいで、走って行っちゃったんです。 特別教室棟の会談だったんですけど……」
特別教室棟と言えば、三階には職員室がある。
月乃は、職員室に向かったのか? 九分九厘そうだろう。では何故……。
自分が行けば、周りのみんなは被害に合わなくて済むから?
奴らの目的は月乃だ。 だからこそ、彼女が自ら職員室に行くことでテロリストが歩きまわることを阻止した? 月乃なら、そう考えるだろうか。
でも、そうかもしれない。
そうでないかもしれない。
分からない。
「亮、行くしかないでしょ」
そんなとき、蓮が肩を叩く。
「じゃ、生徒会長も動かないとねぇー」
会長さんが笑いかけてくる。
「桜参さん………」
酉種は心配そうに見つめてくる。
分からないことは考えても分からない、それがあまり頭の良くない自分ならなおさらだ。
だから、答えを見ないと理解できない。
分からない問題は、答えを確認しないと理解できない。
これも同じことだろうが!
なんで頭で考えようとする、桜参亮。 自分から動かないと、この問題は解けない。
そもそもの定義からして曖昧なものだ、自分で積み上げていくしかないだろう!
「そうだよ、何を考えてたんだろ……」
ようやく、顔を上げられる。
「月乃を迎えにいかないとな」
決心はついた。
奴らの言葉の呪縛から月乃を取り返して、戯言は消し去る。
月乃は月乃だ。
録武ナナなんて奴は知らない。
「全部、元に戻して日常を取り戻すんだ」
そう、決心はついた。
「へぇ、録武ナナ。あんたがかぁ……。確かにそんなところに製造番号刻まれてちゃあ目立つよね。見つけるのも簡単ってことか。 すごい偶然だよねー、この街に居たなんてさ」
職員室。
人は誰もおらず、まるで放課後かのように静けさが漂っていて愛玩用の声は反響していた。
その言葉に目の前の彼女は返事をすることなく、ただこちらを直視し続けていた。 今は、録武ナナなのだろう。壊れない実験台が言うには、この少女は人格を二つ共有しているらしい。一つは彼女自身。カーヌルブレインが初期化され、今までに作り上げられた人格。鵜川月乃のものだ。もう一つは元のカーヌルブレインの人格、私たちが求めている録武ナナだ。どうやら、壊れない実験台は彼女を使って、最後の決戦に出るのだという。 そう、クニとの決戦に。
詳しいことは分からないが、どうにかして仲間に引き込めとのことだった。
「まぁ、世間話はいいとして、あなた───────録武ナナ? 私たちとともにクニを潰しましょう?」
彼女はあえて遠回りはせず直球で訊ねた。
それは分かっていたから、録武ナナがどのような絶望で生きて死んだのかが。
世界最古である。
仲間はいない。
自分と同じモノはいない。
そんな中で他種族に使われ、どのような気分だっただろうか。
自分ならば、殺意あるいは絶望が生まれていただろう。それとも両方か。
分かる。彼女は、クニを潰すために動くであろうと。
「ここは、私が無くなってから何年たった世界なのかしら?」
感情の起伏のない、冷めきった声でそう訊いてきた。
彼女の眼は、まだ私を射抜いている。
「100年は経っているわね。 まぁ、それは表ではそうなっているということだから詳しいことは分からない。ただ、確実に100年は経っている」
「そう、じゃあ、屑はまだ繁殖しているのでしょうね」
「屑……? そういうことになるわ」
彼女は人間のことを屑と呼んだ。
私たちもそう思う。ただ、彼女がその言葉を口にすること自体も嫌がっているように聞こえた。
いや、実際に嫌悪感を抱いていた。
「それで? あなた達は何をしようというの?」
「……このクニを潰すの。 壊して毀してコワシテ、numberだけの世界にするの」
「ふうん……。じゃあ、私は何をすればいいの?」
「それは、先ほどの誘いに乗った、ということでいいの?」
「そうね」
「じゃああなたにこれを渡しておくわ」
腰に携えていた一丁の拳銃を放り、彼女に渡す。
いくら世界最古だろうと、武器がなければただのnumberである。
それとも、他に何か力があるのだろうか。
「使い方は……流石に分かるよね。 とりあえず、壊れない実験台のところへ行きましょ」
そう言って背を向けた時、明らかに雰囲気が変わった。
「いや………」
「はぁ?」
振り向くと、そこには先ほどと姿形の変わらない彼女の姿。しかし、内面──────人格の方は変わっている。厄介なことになった、そう思い行動するよりも早く、彼女は職員室から出て駆けだしていってしまう。
「なっ……待ちなさい!」
今走り回られると厄介だ。本当に厄介だ。
何故なら、あの継ぎ接ぎ野郎が歩き回っているからだ。
プログラムされた命令は、『校内を歩きまわり、廊下に出ている者がいれば発砲せよ』だ。
もし、偶然にも彼女がそいつに出会ったら。
折角見つけた作戦に重要な人物が欠けてしまう。それだけは避けたかった。
愛玩用は、舌打ちを一つしてから、彼女を探すために廊下を走り始めた。