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No,03:屋上→告白

政府は人間とnumberの数を正確に把握している。生まれながらにしてDNAを採取され、戸籍に登録されることで存在を証明されるのだ。

では、逆の場合はどうなるのか。DNAを採取されず、戸籍にも登録されていないものそれは存在を証明されていないこととなるのか。ただ、今まででその人物がだれなのか分からないという事態は起こらなかった。それは一種の偶然が続いたものなのか、政府が完璧に戸籍に登録するということを完備しているのかは誰も分からないだろう。そう、政府にも。でも今までは何も起こっていない。それはこれからも起こらないということが暗示されているのだろうか。絶対とは言い切れないのではないだろうか。

こんなことを危惧する必要はないと思うのだが、どうも気になってしまう。今の世界でそんな不備が発生することなどあり得ないとは思うのだが、考え出すと止まらない。

例えば、その存在しえない者が居たとして、その者を使い捨て覚悟でなにか事件を起こしたとしたら。

存在しない者は人とのつながりさえも存在しない、よって事件の犯人は闇の中となる。

そのような手のテロがいくつも発生したとしたら? 自分に被害がない事件の中心人物はさらなる攻撃を始める。それは何をしようが自分の尻尾がつかまれることはないから。

こんなことを考えるのは馬鹿げたことかもしれないが、可能性の一つとしてあり得るから考えざるを得ない。

その考えが無駄になってくれることが一番いいことではあるのだが。





放課後の屋上は良い風が吹くのは知っていた。町が一望できるここは、とても気持ちのよい場所だった。

少なくとも月乃は好きだった。それは思い出があるからであり、それがずっと心に残っているせいでもあったから。

ここの屋上であった出来事ではないが、それははっきりと鮮明に今でも色濃く残っている。それが自分を変える第一歩だったから。

『言い訳を盾に生きていくのはもう止めにしないか、それは自分が一番傷ついている』

私の世界を砕いた一言。それは今も耳に残っている。


月乃が屋上に来たのはこれから告白を受けるため、この間の手紙の件だ。

答えは決まっているのだが、何故だか胸がドキドキする。それは初めての面と向かっての告白だからかもしれない。今までは手紙の最後には『返事待ってます』の一言だった。

自分の口からは告げずに振られても最小限の傷で済ませようとするその心が月乃は嫌だった。

今回こうやって従っているのはそのせいでもあるのかもしれない。

フェンスに寄りかかる、ギシッ、と小さく音を立てるが静寂に一瞬でかき消される。

静かすぎるときは逆に音が静けさに消されるような感覚に襲われる。

そのとき、カチャ、と屋上に一つしかないドアが開かれた。そこから顔をのぞかせたのは不良上がりの男だった。月乃は思わず、うわ、と声を出してしまっていた。こういうのは苦手なのだ。

「ご、ごめんね、待った?」

普段は絶対に使いそうのない言葉だと月乃は思った。

明らかに取り繕っている感が丸見えだった。ドキドキしていた自分は何だったんだろうと後悔さえした。

すべてが馬鹿馬鹿しく思え、適当にあしらって帰ることにした。

「えと、俺な、鵜川さんのことずっと見てた。そしたらぎゅうって締め付けられるような感じがしてさ、それは恋だって気がついたんだ!」

台詞はおそらく用意されていたものだろうと考える。

「だから、だからさ、俺と付き合ってくれ!!!」

すでに答えの決まっている月乃は答えようとして、その視線があるものに釘づけになった。

鼻ピアスである。男の鼻にはピアスがつけられていた。先ほどから顔をあまり見ていなかったので気がつかなかったが、答えようとして顔を上げた時に発見したのだ。

告白の答えとは別の言葉をいつの間にか月乃は口走っていた。

「あなたのそれはなんなの」

「え? あ、ああ、ピアスのことか? 嫌って言うんなら外すぜ、ははは」

「そうじゃなくて、自分の意思で穴を開けようかと思ったの?」

「ん、うん? そうだけど………」

別にいい、と月乃は男の横を通り過ぎようとして腕を掴まれる。

睨んでやるが、男はそんなことを気にした様子もなく、問いかけてくる。

「なんでだよ! 俺のどこがダメなんだよ!」

「っ、じゃあ言ってあげるわよ。全部! その顔も、声も、言動も、しつこさも、ピアスを付ける考えも、存在もぜんっっっっぶ! 大嫌いなのよ!」

無理やり手を解こうとしたが、はなしてくれない。

男と女では腕力差があるからそうだとは思っていたのだが。

「なっ、ふざけるなよおまえっ! 彼氏は、彼氏はお前にいないだろ!?」

どうあっても食い下がってくる。本当にしつこい奴だ。

「いる、いるって言ってんのよ! 同じ学年の亮が、桜参 亮って奴が!」

それだけ言うと次こそ手を振りほどいて男から逃げるように屋上を後にした。

屋上に一人残された男は呟く。

「ありぇねぇ…………俺が振られる事なんてよぉ。桜参、亮な……」


いつの間にか太陽は傾き、夕日は沈みかけていた。この男の気分と同じで───────。







月乃のへの告白があった次の日。

昼休みに鼻にピアスの男が教室のドアを開け放ってずんずんと踏み入ってきた。

「お前が、桜参か。とりあえず面ぁかせや」

教室がざわめき、動揺が全員に走る。

「え、俺? なにかしましたっけ………」

いわれのない罪に俺は動揺を隠しきれなかった。でも、ここで暴れてもらっても困るのでとりあえずは言うことを聞いておくことにする。

男の後に続いて教室を後にする。今にも男に襲いかかりそうな蓮を手で制して目線だけで伝える。

しぶしぶ蓮は了解したらしく、自分の席に戻っていく。何があるのか知らないが、俺は極力人を巻き込みたくなかった。しっかりと蓮は受け取ってくれたようだ。

どうやら男は屋上に向かうらしかった。そこに至るまでの道のりは、ずっと奇怪な視線を浴び続けた。

確かに、こんな不良の後ろに自分で言うのもなんだが普通の生徒が歩いているのだ。こんな構図は人目には理解できないことだろう。しかし、勘のいいものには何かしらが理解できるかもしれない。今は全くと言っていいほどどうでもいい話なのだが。


屋上に着くと、男は振り返り唐突にこう言った。

「お前が鵜川月乃の彼氏の桜参亮であってるな?」

「は?」

何かおかしい部分があった気がする。俺の聞き間違いでは絶対にないはずだ。

「意味わかんないんだけど」

「隠したって無駄だからな。俺は本人に聞いたんだからな」

こいつはまた厄介なことになってるな、と亮は頭を抱えた。

おそらく振る口実に適当なことを言ったのだろう。

「俺は、昨日鵜川に告白したんだ。そして振られた理由は分かるか? 俺の存在そのものが嫌いなんだってよ。ありえねぇよなぁ? そんな振り方!」

確かに月乃の嫌いそうなタイプだ。もしかすると谷枝以上に毛嫌いしてそうだ。

それにピアスをするために鼻に穴をあけているのだ。これは月乃の怒りの元になるに決まっているだろう。

何よりもそういうことに敏感なのだから。

「で、俺になんでそういうこと言うんだ?」

「あいつ、numberだよな」

ひゅっ、と心が凍りついた。これからの言葉に備えて、体が反応したのだ。

「あり得なくないか? 俺の告白を断るなんてよぉ、今までなかったんだぜ? 人間の相手ならさぁ。それがなんだよ、numberごときになぁ? あんたなんかより俺のほうがよっぽどいいとは思わないか? 俺は一応経験者だぜ? そういうのには慣れてるんだからよぉ」

「……………」

「まったくもっておかしい奴だなぁ。はははははははっ!」



それと同時刻、月乃はクラスでの噂が耳に入った。

「ちょっとそれ、どういうこと?」

近くにいた男子生徒に聞いてみる。顔を少し赤く染めながらも懇切丁寧に教えてくれた。

先ほどここで起きたことを。

そこで思い当たった。昨日の自分の言葉を。


『いる、いるって言ってんのよ! 同じ学年の亮が、桜参 亮って奴が!』


しまった、といまさらになって思う。いつも間にか足は屋上へ続く階段へと向いていた。




「言いたいことはそれだけか?」

「いいや、それに俺は腹が立ってんだよ。少しばかりサンドバックになってくれよぉ!」

男は地面を蹴って間合いを詰めてくる。こぶしを構え、喧嘩戦法で突き出してくる。

そのこぶしには何が乗っているのだろうか。ただの八つ当たりしか感じられない。

腹が立つ、こんな奴が人間であることが。

同族であることが。

そんな喧嘩拳を避け、的確に男の顔面に自分の精一杯の拳を打ち込む。

バゴッ、と嫌な感触が腕まで伝わり、気分が悪くなる。

それでも思いっきり振り切った。この拳を。

「あっ、がぁぁぁぁぁっ!」

男は地面でのたうちまわる。俺は別段、強いわけではない。最小限の動きで無理矢理押し切っただけなのである。だから俺が動けるのは相手が油断しているその最初だけ。

ここからはただの一般生徒に格下げとなる。しかし、今の怒りに任せればどこまでもいける気がした。

「ふざけやがって………あの女もそうだ、こっちが下手に出れば調子に乗りやがって……numberのくせに人間様にたてつくんだぜ? 無礼にもほどがあるだろぉ!?」

「何を言ってんだよ、お前は馬鹿か。月乃は人間だよ」

「ははははっ! お前こそ何言ってんだよ、作られたものが俺たちと同族だと? 笑わせるっ、狂ってやがるぜ!」

「狂ってんのはてめぇだよ! なんでそういう風にしか考えることができないんだよ! お前のような奴がいるから肩身の狭い思いをするやつがいるんだろうが、差別がなくならないんだろうが!」

「はっ、綺麗ごと並べやがって! 口ではなんとでも言えるだろうが、お前だって心の奥では違うかもしれないだろ?」

聞いていれば気分が悪くなる。その口を動かなくしてやりたいとさえ思えてくる。

黒い感情が俺の中で渦巻いていく。仲間をそんな風に言われるのは我慢ならなかった。

「俺はな、違うんだよ。そういう風には思えねぇんだよ、月乃はおんなじなんだよ。世界中があり得ないって言っても俺は意見を変えることなんてできねぇんだよ! おんなじなんだよ! たった一人でも、そう思い続けることしかできないんだよ! 俺だけでも、そう思うんだよ!」

「ったく………だからてめぇみたいなやつは嫌いなんだよぉぉぉぉぉぉ!」

怒りで顔を真っ赤にした男は、もう構えもなく突っ込んでくる。ただ、怒りのボルテージは俺の方が高い。黙らせたいやつがそこにいる。それで十分だった。

「──────────────────」



終わった、男は倒れ気絶している。柄にもなく倒してしまった。

何発かもらったせいでズキズキと全身が痛んだ。屋上を後にしようとして、ドアが少し開いてることに気がついた。ここは風がよく吹く場所だから俺らが来てから開いたままというのはあり得ない。

そこは少し濡れていた。雫がいくつか落ちたように点々と濡れていた。




馬鹿だ、本当にいつまでたっても馬鹿だ。他人のためにあそこまで叫べる奴なんてそうはいないだろう。

だからこそ行動を共にしているのだ。

うれしかった、ただそんな感情だけが心を埋め尽くしていた。

いつまでたっても変わらない、本当に馬鹿な奴。

『言い訳を盾に生きていくのはもう止めにしないか、それは自分が一番傷ついている』




だからこそ、見ているのかもしれないけど。







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