No,21:東西南北
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熱量上昇は面白そうに手榴弾を投げ、東の出口を破壊していった。
立派だった出口は瓦礫で埋もれ、当然のごとく階段さえも見えなくなっていた。周りの者が反応する。
携帯でどこかへ通報する者もいれば、写真を撮る者もいた。しかし、そんなものに構っている暇はなかった。とりあえずは仕事を達成したわけだが、移動手段となる『アシ』がない。と、そこへ騒ぎを感知してか無人警官が3台ほどすべるようにしてやってきた。
台形の形を取ったポリバケツ程度の大きさのそれらは一瞬にして熱量上昇を取り囲む。
キュィィィィンと懐かしいような音を響かせ、どこかに付いているであろう小型カメラで標的を認証、ロックして攻撃対象を定めるのだ。上方が開き、そこからは遠隔型のスタンガン……電流放出装置が現れた。それで対象者を気絶させ、後は警官などに取り次ぐのだろう。
だが、彼は捕まる気はなかった。
一台の無人警官を掴むと、力を込める。
それだけのことで無人警官は壊れない。軽くて丈夫な特殊な金属でボディは作られているので、通常の握力で壊すことはまず無理だ。
「耐熱性があるかもしれねーが……内部からの熱量とかはどうかな」
ボゴグォ! と無人警官は膨張し、機能を停止させた。
おそらく内部の精密機械が破損したのだろう。彼が行った『熱量操作』によって。
残った他の二台は距離をとりつつ、電気を放ってくるが意味はない。
壊れた一台を投げつけ、傾いたところを狙って掴む、暴発させる、これの繰り返しでいとも簡単に無人警官は動かなくなった。
「なんだ、あっけねぇ」
彼はただ、面白くないという感想を漏らしただけだった。
電磁放出はとりあえず出口の破壊に努めた。
彼女の能力としてはこういうことにはあまり向いていなかった。何せ微量の電磁気を放出することと操ることぐらいしかできないからだ。まぁ特殊な装置があるというのなら出来ないことはないが、あんなことはもうこりごりだ。
とりあえずは持ちこんだ手榴弾で破壊したのだが……どうやら防火シャッターが降りる方が早かったらしく、シャッターに焦げ目を付けてしまった。大した傷はついていないものの、なんだか心配になってきた。
仕事は終了したが、特にあの場所へ帰ってもすることが無いので、ここに居ることにした。
シャッターが破壊されたらされたで出てきた人間どもを麻痺させてやればいい。そう思っていた。
幸いにもここ西口は会社が立ち並ぶ高層ビルだけがある。
業務に勤しんでいる彼らは外のことに気付いていないだろう。人通りも少ない。
ゆっくりと出口の残骸を積み重ねて作った簡易イスに座り、時間が過ぎるのを待った。
感情制御は特に何もしなかった。待っていれば防火シャッターが降りるのを知っていたからだ。
特別壊すこともない。外の人間に不思議がられることはない。
彼はただ、見ているだけだった。
撤退しようか、とも考えたが気まぐれでこの街を歩くことにした。
特に何の感情も抱くことなく、彼は雑踏の中に消えていった。
「開かないなら他の道を……か」
考えながらも地下街を歩く。月乃は怯えることもなくしっかりとついてきてくれた。ここまで冷静さを欠かないことはすごいことだと思う。
「ねぇ、やっぱりこれってテロ……なのよね。 だったらこの間みたいに暴れる人がいるんじゃないかしら……あまり動かない方がいいんじゃない?」
やっぱり月乃は取り繕っていた。本当は怖いのだ、それをあえて表情に出さないようにしている。
俺だって怖い。でもとりあえずここから出ることを考えないといけない。おそらく今回もあの眼帯の少年が関わっている。ならば狙われる範囲はこの地下街だけだと考えられる。他の出口もおそらくシャッターが降りていることだろう。
「色んな人がパニックになって動きまわっている。止まってても同じことだと思う。それにここから出られればそれで大丈夫だ」
詳しいことは説明できないが、月乃を安心させることが大切だ。
「何か出口は無いかな……?」
現在地はおそらく西口に近い通路だと思う。
この駅地下は、十字の形をしている。それぞれ中心の時計台から東西南北に幅の広い通路が伸びているのだ。そして通路を挟むようにして色々な店が立ってる。
北口には先ほど乗ってきたリニア乗り場がある。わざわざこの地下街に降りなくても夕川町に出られるのだが、地上にはあまり店が無い。地下街に収容されているからだ。
だから当然のごとく遊びに来た人は地下街に降りる。そこを今回は狙われたわけだ。
南口は夕川町のはずれの方に出る。そこには大きなショッピングモールがあったり、ホテルがあったり、遊園地があったりとレジャー施設がたくさんあるのだ。
だから自然と人も集まる。先ほども南口のシャッター付近には多くの人が集まっていた。
西口は会社などが立ち並ぶ高層ビル街に出る。仕事の純度100パーセントの世界なので、通行人はほぼ0に近い。あそこに居る人たちみんなは自分のオフィスから出ないそうだ。
東口は住宅街。特には何もないが、そっち方面に家がある人たちでごった返してそうだ。
と、いうことは。
「月乃。西口に行こう。人が少ないから暴走からは逃れられると思う」
その前にはまず中心まで行かないといけないのだが。これがここの構造の難点だ。
「そうね……少し静かなところがいいかも」
特に反対することもなく月乃はついてきてくれた。
南口に向かって走る人の群れとは逆に俺たちは中心へと向かっていく。
その中で、何か、嫌な感じがした。
何かは分からないが、混じっていた。
不純なものが混じっていた気がする。
「亮? どうしたの。いきなり立ち止って……?」
「いや、なんでもない」
たぶん思い違いだ。今の雰囲気に当てられているのかもしれない。
そう振り払って歩みを進める。
だが、彼の予想は当たっていたのかもしれない。
「欠陥製品を数体放つとは言いましたが……こんなにも行動不能なるなんて思いもしませんでしたよ……」
使い捨てはこの街の中央制御室で自分のパソコンを開きながらそうつぶやいた。
逃げるために必死になった者たちは押し倒し、乗り越え他の出口に向かう。
そんな中で2体の欠陥製品は頭を損傷し、使い物にならなくなった。やはり弱点である頭を補強した方がいいのだろうがそんな技術は生憎持ち合わせていない。せいぜい頭を裂いて改造することぐらいしかできないのだ。
そして他には5体を北口に設置し、警備隊との対戦に使っている。おそらく地下街で正常稼働しているのは一体だけだ。そいつがどれほどやってくれるかが今回の騒ぎをどこまで大きく広げられるかを左右する。
「始まりましたね……」
中央制御室でモニターを通して欠陥製品と警備隊との戦闘を眺める。
欠陥製品は古来のマシンガンを使い警備隊を追撃するが、盾で完全に防がれている。
多少も考えて行動しているのうだが、所詮は捨て駒だった。すぐに警備隊と無人警官に制圧され、拘束されてしまう。
対して被害は出ていない。今回は失敗か、と彼は思った。それはただ、その捨て駒に対してだけだ。今、画面に映っている刃物を振り回す男には期待を寄せていた。なぜなら彼は痛覚無視なのだ。こいつに対してアイツらはどう対応するのか、反応するのか。それが楽しみでならなかった。
せいぜい、恐怖するがいい。そう思った。