No,20:十二時
更新再開です。
「オマエら、ちゃんと休養取ったのか? いざって時に倒れて使い物にならないってんじゃあ話になんねぇぞ?」
彼は起きるなりそんなことを言い出した。
今、とある廃ビルの一角に数体のnumberとその他が存在していた。正式的には『居る』と世界的には認識されない『居る』の二種類なのだが。
彼は心底楽しそうにこう告げた。
「新たなメンバーも揃ったことだし、宴の一発でもやっておかねぇとなァ」
手にはハンドガンが一丁。他にも武器が欠陥製品の手によって運ばれてくる。
マシンガンやショットガン。本来ならばもう手に入らないはずの古来の武器。今現在では火薬なんてものに頼らない。空気圧式か電気式のいずれかである。わざわざ古いものを使うのは壊れない実験台のただの思い付きだろう。
温い世の中に生まれたことを教えてやるだの何だのとも言ってた気がするが、もう忘れた。
今は、この作戦に向けて、だ。
「次狙うのはこの間の中心街の次に大きな街だ。ちょうど中心街とは隣町にあたるってことだ。……まぁ詳しいことは使い捨てから聞け」
そう言って彼は説明を放棄し、使い捨てに投げ出す。
その行動に対して指名された彼はパソコンを閉じ、部屋の隅から中心へと移動してきた。
「次の襲撃地は中心街の隣町にあたる『夕川町』です。具体的な場所は人の多い夕川駅地下街です。あそこならば地下なのでテロが起きた場合、住民はほとんど逃げ出せません。防火シャッターを下ろしておけば地下から出られなくもできますから」
「ちょっといいか?」
使い捨ての説明を止めたのは熱量上昇だった。彼は運ばれてきた古い武器を勝手に弄りながら続けた。
「この間のテロのおかげで隣町といえど警備は厳重になっているのではないか? それに場所は地下だ。それなりの警備はあるだろう、そこはどうするんだ?」
その質問に使い捨ては応えず、代わりに壊れない実験台がにやついた笑みを浮かべながら答えた。
「心配はない。あいつらは馬鹿だからな、ろくに警備はしていないだろう」
「そんなことが言えるのか?」
「あぁ、人間ってのは実際に自分の身に何かが起きないと信用しようとしねぇ。たとえ隣町で何かが起きたって『隣町で何かが起きたのか、気の毒になぁ』程度の感想を抱くだけだ。次は自分達に来るんじゃないか、と思いつつも心のどこかではそんなはずはないと決めつけている。要するに高を括ってんだ」
「確かに……そうとも思えるな」
「心持ち少し厳しくなったって程度だ。心配することはねぇ」
そう言うと彼はハンドガンを解体し、何やら調整を始めた。質問をした熱量上昇も武器を弄ることに戻った。
「では続けて。配置についてですが、駅地下への入口は全部で4つあります。東西南北に設置されていて、それぞれの隣の入口への距離は800m~1km程度です。超高速移動用リニア乗り場は北口に近いのでとりあえずは反対側の南入口とその他の二つの入口は倒壊させておきましょう。機動隊や無人警官が入ってこれるのは北口だけに絞らせます。もちろん、発見される前に撤退は済ませますが。」
使い捨ては一旦そこで言葉を切って、続けた。
「東西南の入口の破壊はここに手榴弾がありますが、どんな手を使ってもかまいません。熱量上昇、電磁放出、感情規制の三人で分担してもらいます。その間、私は駅の警備システムに侵入して防火シャッターを全て下ろしますので巻き込まれないようにしてくださいね。後は欠陥製品を数体地下に放ちますので撤退してもかまいません。勝手にやってくれるでしょう。あなたは地下に残るのでしたっけ?」
視線も向けずに使い捨ては壊れない実験台に向かって問いかける。
くくくっ、と小さく笑ってから彼は応える。
「ああ、捕まる気はねぇから心配するな。ちょっと様子見だ。いるものがあったら取ってくるが?」
「それ、盗ってくるの間違いでしょ」
珍しく作戦の説明途中に口をはさんだ愛玩用から出た言葉は突っ込みだった。
「っは、おもしれぇ」
彼は微塵も面白くなさそうにそう言って、作業に再び戻った。
廃ビルに一瞬の沈黙が訪れ、使い捨ては小さく息を吐いて最後に言った。
「作戦は明日、土曜日12:00に開始します。それまでに各自持ち場に着いていてください」
また見えないところで一つ。闇が濃くなった。
土曜日。昨日は色んなことを考えたせいで頭が疲れていることに気がつく。
あの後、月乃は何も言うことなく自分の家に帰ってしまうし、折角用意した鍋も残っていた。それらを片付けるなりして風呂に入って色々と考えていたら逆上せてしまって………、そうだ。そこからベットの上で考え事をしていたらいつの間にか朝になっていた。
でも昨日答えは出た。
それが正しいものなのかどうかは俺には分からないけど、きっといい方向に進んでいくとは思う。
だって決めたから。月乃のために出来ることはやるんだって、必要とされたいからって。
「と、言うわけで電話をしよう」
テキパキと顔を洗い、朝食を食べてから身支度を整えて電話をかけようとしたその時。
ピンッポーン!
と、電子ベルが鳴り響いた。時刻はまだ7:00というまぁまぁ早い時間帯に誰だろうと思いつつ玄関へ行くとそこには月乃が立っていた。
彼女の表情は俯いているため覗うことはできないが、昨日のような弱々しさはなさそうだった。
「月乃? どうしたこんな朝早くに……っても俺は今から電話をかけようと思っていたんだけどな」
「え……?」
「いや、だからさ……えっと、久しぶりに隣町まで遠出しないかなぁって」
月乃は自分の要件も言わずに口をパクパクさせている。頬は赤く染まっていたが、それ以外いつもと変わらないように見える。
「わ、分かった……行く。ううん、行きたい……待ってて!」
「あっ……おい……」
何を思ったのか月乃はエレベーターまで駆けていく。出かけるなら今来ていた服でも十分だとは思うのだが……。
俺はそのままぽかーんと立ちつくしていたのだった。
中央街はいまだ工事中で通行整理をされていたが、駅には何の問題もなかったらしくいつもと変わることなくダイヤルは運航しているらしい。
月乃は朝見たラフな格好とは変わってフリルをあしらったような薄いピンク色のワンピース(?)のようなものを着ていた。女物の服のことはよくわからないのだが、似合っていると思った。
月乃はあまり話そうとはしなかった。度々俺が話しかけたりはするものの、会話はすぐに途切れ、沈黙が訪れるのであった。なんだか調子が狂うようで変に緊張してしまいそうだった。
「なんで、いきなり出かけようなんて思ったの?」
リニアに乗ってから少し時間がたった頃に初めて月乃から話の話題を振ってきた。ただの疑問かもしれないが、俺はホッとした。
「い、いやぁ……やっぱり今日は休みだし」
「答えになってないじゃない……。まぁ、亮のことだし私を元気づけてくれようとでもしたんでしょ?」
えぇー。
分かっててそれを言う月乃はやっぱり性格が悪いのではないかと考えてしまった。
「その通りだけど……言っちゃうんだ」
「うん。でも……うれしいかもね」
心臓が脈を打つのが早い。どうしてか、それは月乃がいつもの月乃ではなくなんだか頬染めバージョンだったからだ。
「な、なーんだかいつもと調子が違うような……」
「なに、やっぱり私はいつも通りじゃないと駄目とか?」
ん? なんだって?
「は?」
「だからさ、やっぱ取り繕っているの分かるの?」
「ひ?」
「そうかそうか……やっぱ亮には分かっちゃうのか……」
「ふ?」
「じゃあやめ! いつもの私でいいよね? やっぱり性格作るって言うのも面倒だしね」
「へほ?」
なんだ、そうか……。
ふはーっはっはっは! やっぱり俺は騙されていたっ! 少なくとも昨日のは本気だとしても今日の朝からは作っていやがった! 流石は策士月乃! 完全に敗れたぜ!
「なんだ、そうじゃないかとは思っていたよ。……ちょっとだけ」
「亮は騙されやすいんだもん。でも、うれしかったってのは……ほんとだよ」
最後の方はなんだか聞き取れなかった。
「ん? なんて?」
「いや、いいから! ほらっ、降りるんでしょ!」
いつの間にか隣町まで来ていた。
月乃の後に続くようにしてリニアから降り、駅の地下へと降りる。
少し歩いて駅地下の中心に着いたところで時計台を発見する。夕日をモチーフとして作られてそれは薄紅色で、立方体の上に鎮座している。
とりあえずは昼飯にしようと考えた。隣町まで来るのにリニアといえど少し時間がかかってしまった。まぁ月乃の用意の時間が長かったって言うこともあるけど。
「んで、どうするの? 来たはいいけど考えてませんってことはないわよね?」
「とりあえず何か食べようよ、ほら時計だってもうすぐ12時を指して────────────」
駅地下の時計台の秒針が12を指し、完全なるタイミングで12時になった。
それと重なって完全なタイミングで爆音が後方から聞こえた。いや、正確には今歩いてきた通路の向こう側から。
危険だ! とすぐに思った。蓮は今ここにはいない。自分を守ってくれる者はいない。それ以前に今は自分が守る立場にある。月乃という少女を。
「とりあえず走ろう! 他の出口から出るんだ!」
「どこへ向かうの!? 」
「南口だ! 直線的に走ろう!」
ガンっ と何かの落ちる音がした。
それは人々が騒ぎまわる中でも鮮明に聞こえた。
それほどまでに轟音だった。そしてその音の正体に気付かされる。
防火シャッターが降りている。先ほどの爆発を受けて火事か何かと判断したのだろうか。だが、だが!
「ここを通らないと外に出られないじゃないかっ!」
亮と月乃の他にも大勢が押し寄せていた。シャッターを叩く者も少なくはない、しかしそんなものにはびくともしない。
テロだ! と誰でもなくつぶやく声が聞こえる。
俺は嫌な予感を押えることができなかった。
そして無意識中に腰に備えていたハンドガンに触れていた。