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No,17:鍋とギャップと過去話

テスト終わったーヾ(●゜ⅴ゜)ノ

買い物から帰った俺と月乃はマンションに戻ってきていた。

二人でエレベーターに乗り込み、会話もないままに俺の部屋のある階に着く。

ポーン、と扉が開く旨を伝える音が鳴り、俺はエレベーターから降りる。月乃も降りる。

ん?

「あれ、なんで月乃が降りてんの?」

「鍋パーティするんでしょ。何? 頭打っておかしくなったの?」

「いや、なんでもないです。……そうか、俺んちでやるのか」

月乃からの返答が返ってきていないということはそうなんだろうと、勝手に解釈しながらポケットから家の鍵を取り出す。

「あ、俺が鍋の用意しておくからさ、月乃は蓮と塩埜しおのさん呼んできておいてよ」

ちなみに塩埜さんというのは、このマンションに住んでいる女の人で、色々とお世話になっている人だ。聞いた話によると、どうやらこのマンションはその塩埜さんのお父さんのものらしい。

年齢は知らないが、社会人なので成人はしている。まぁ当たり前のことなんだけど。

以上、簡単な説明終わり。

「嫌」

「へ?」

見るといつの間にか月乃は苦い顔をしていた。そうか蓮か……。

「分かった、じゃあ塩埜さんだけは呼んできてくれる?」

「なんで命令されなくちゃいけないの? なんかむかつく」

苦い顔をしていたことをごまかすかのように月乃は不機嫌になろうとする。自意識的になってもらうのは少々、いや大いに困る。

「スミマセン、オネガイシマス」

「………分かった」

やけに聞き分けのいい月乃に不信感を抱きながらも俺は自分の部屋に入った。

特に変わったものの無い自分の部屋について語ることもないだろう。とりあえず買ってきたものを冷蔵庫にしまっていく。そのとき、エコバックの中に今日の鍋とは全く関係のないものが入っていた。それはお菓子だった。

俺はそんなものを買い物かごに入れた覚えはない。だとしたら月乃だ。なんということを……俺はちゃっかりおごらされたのか?

そう思ったが、そのお菓子のパッケージを見て固まってしまった。

『ネコのビスケット』

びびびびびび、びすけっと!?

しかも猫と来た………。これはおかしい、ヤバい逆におかしすぎて怖い。

月乃は大抵お菓子はあまり食べない。食べるとしても俺が知っているのは細いスティックにチョコレートがコーティングされているアレだけだった。

パッキーだったかプッキーだったかそんな感じのヤツだった。

それなのに何だこれは、なんでこんな可愛いパッケージなんだ。問題はそこだけじゃない。

ビスケットにもどうやら猫さんの絵がプリントされているらしいではないか!

最後に、このお菓子は聞いたことがある。今何故か可愛さゆえに流行っているらしいではないか。そんな可愛らしいものを月乃が食べていいはずがない!

あいつは……そういうの嫌いだったはずだ。

あれ? おかしいな、俺は入れてなくて月乃がこういうの嫌いなはずなのに何故こんなものが買い物かごに入っていたのだろうか? 


おそらくこのとき桜参 亮は混乱していて、鵜川 月乃が入れたという選択肢を無意識のうちに消していた。


箱を掴む。猫が可愛い。

それよりも震える手をどうにかしてほしかった。そして冷蔵庫を閉めたかったが、思うように身体が動かない。

何だこれは、俺はものすごいギャップに対しておかしくなったのか……!? いや、それではこれを月乃が入れたと認めてしまったことになるじゃないか! だ、駄目だ……。

狼狽しすぎて亮はもはや何を考えているのか、何と戦っているのかが分からなくなった。

そんな時だった。後ろから声が聞こえたのは。

「ぅぁ………………」

すごく小さな声だった。しかし、この静まり返った部屋の中ではしっかりと聞こえていた。

ギギギギ、と錆ついたブリキロボットのように振り返るとそこには顔を真っ赤に染めた月乃が珍しく内股で立ちつくしていた。少し震えている。

その瞬間、嫌な汗がどばぁっっと亮の体中から噴き出した。

え、え、え。マジで、その反応はマジで? やめろやめろ、月乃がありえない。そんなことわ……。

「つ、月乃サン………」

かすれた声で俺はかろうじてそう言うことができた。

対して月乃はそのままペタン、と床に座って青くなった。まるで終わった、とでも言うように。

しかし、そのあとすぐに赤くなり震える声で言う。

「ぅ………な」

「これは、もしかして……月乃サンが………?」

「言うな………」

「かっ──────────」

「いうなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──────────っ!!!」



目をぎゅっっとつむってそう叫んだ彼女は久しぶりになんだかおかしく見えた。




「あっはっはっは! そう、月乃ちゃんがねぇ! ひゃはっはっはっはっはっは!」

月乃が一通り叫んだあとに俺の部屋で囲んだ食卓の第一声はこの人の笑い声だった。

茶碗と箸を両手に抱えながら器用に大爆笑をしてくださいました。本当にこの人は天真爛漫というかなんというか………全く飾ることなくありのままで俺たちに接してくれる。

そこが塩埜さんの尊敬するところであり、特徴ともいえるところだった。

「し、塩埜さん………あんまりその件は……」

話題を変えようと試みるが聞く耳も持たず。

「なぁに? 駄目なの。 月乃ちゃんは恥ずかしがり屋だからね~、別に隠すことなんてないのに」

「そ、そんなことは………、っ! もうなんでもないです!」

「可愛いね~ 流石は月乃ちゃんだよ。亮くんはどうとも思っていないわけ?」

「何ですかいきなり!」

この人の話はいつも唐突で話の軸なんて存在しない。コロコロと変わる話題は聞いていて飽きないが、標的にされるのとは違う。そして月乃さえ逆らえない、というか逆らう気さえ削ぎ取っていくような人なのだ。

「いやぁ、だって本当は私だってお邪魔だったのかもしれないでしょ?」

「何を言っているんですか………別にそんなこと考えてないですし!」

「どうだかねぇ~。 その年齢の男の子はちょっと野蛮なところがあるからね。亮くんはどうなのかなってさ」

「ご飯、食べましょう………」

そう促すことも精一杯だった俺は、電話がかかってきたので席を立った。

「すいません。携帯に電話が」

「んー」

塩埜さんはいつの間にか熱い豆腐と格闘していた。

それを横目で見つつ、廊下にでて通話ボタンを押す。

「もしもし?」

『もしもしー。さっき留守電入ってたんだけどどうしたんだ、亮?』

電話の相手は蓮だった。先ほどこの鍋パーティーに誘おうと電話をかけたのだが出なかったのだ。とりあえずは電話が返ってくることを待っていたのだが、月乃の一件でそのことを忘れていた。

「あぁ、今日うちで鍋パーティーやってるからこないかな、と思ってさ」

『おおそうか、参加者は誰?』

「俺と月乃と塩埜さんだけど」

『あー。俺さ、そういえば夕飯食べたんだよねだからやっぱパス』

「え? あぁ、そうか? 別に食べなくてもいるだけでもいいぞ?」

『う………ん。まぁ、今日はちょっと疲れたから早めに寝ようかと思ってさ、じゃ』

「ふうん、……じゃあな」

短い会話の中にも不自然なところは見てとれたが、気にはしない。

何度も言うが、俺には関係のない場所。踏み入れてはいけない個人の場所なのだ。だから深くは聞けないし、聞かない。仕方のないことだ。

リビングに戻ると、塩埜さんが鍋と格闘しており、月乃はまだ口をとがらせていた。

「電話ー、誰だったの?」

塩埜さんが豆腐を持ち上げつつそう聞いてきた、その顔は微妙に薄ら笑いを浮かべていた。

いや、別に塩埜さんが思っているようなことじゃないですよ?

塩埜さんは人を恥ずかしがらせることが大好き……というかもはや趣味の領域にまで伸ばしているほどである。それゆえに色々と性質が悪い。まぁいい人ではあるんだけど………。

「誰って……別に塩埜さんが期待してるようなものじゃないですよ」

「蓮君かぁ」

「違いま………って! なんで分かったんですか!」

「リビングから出た時と今入ってきたときの表情の変化、テンションの±1の変化、眉の下がり具合。そしてお祭り騒ぎには駆けつけていない蓮君の存在から……かな?」

観察眼なんてものじゃない。この人はどんな微細な部分からでも心境や考えを読み取れるのか……?

そんな力……どこで? 趣味から?

「うそうそ、勘だよ勘。 んも~、そんなこと出来るわけないじゃん」

「そう……ですか」

「んー、でもさ、なんで蓮君来てないの?」

「それは………」

正直、どう答えていいか。 月乃と蓮の仲の折り合い? それは俺が勝手に言ってるだけじゃないのか?

月乃の方を見てみる。箸を止めたままうつむいて俺の言葉を待っている……ように見える。

分からない。結局俺は踏み込んでいないのだから。

「月乃ちゃんには心当たりがあるのかな?」

「………」

塩埜さんも仲があまり良くない、というか一緒に居るところを見たことが無いと知っているはずなのにあえて踏み込んだ。

「ねぇ、蓮君はいつも気を使っているように見えるよ。でもさ、それはたぶん蓮君が何かしでかしたって感じじゃないんだよね。月乃ちゃんからも蓮君からもそれは微妙だけど伝わってくるんだよ。亮くんだってうすうす感付いているんじゃないの? そして知りたいと思ってるんじゃないのかな、二人の間に何があったのか。こんなに近くに三人がいるのに分からないって、亮くんは馬鹿にならないほどのストレスを受けてるんじゃないの?」

「いえ、俺は……そんな…」


「私は………」


そんな時だった。

月乃が小さな声で何かを語ったのは。










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