No,16:固執
テスト期間中ながらも投稿しました;
おかしな点があるかもしれませんが、どうかよろしくです。
「よぉ、なかなか早かったじゃねぇか。オマエにしては優秀だったんじゃねぇか?」
光源がまったく存在しないこの空間において少年は彼女にそう言った。
姿かたちも見えないのによくわかるものだな、と感心してしまうくらいに少年が言葉を放つタイミングは完璧だった。
そんな彼はテロの首謀者。この国に対しての恨み憎しみが詰まったnumber。いや、定義から言うとnumberですらないのかもしれない。それは私にとっても同じことが言えるのだが。
「集まったのは4よ。私たちを合わせても7しかいないけど大丈夫なの?」
「何言ってやがんだ、そのためのA-100010A達を集めてきたんだろうがよぉ」
「そうなんだけど………」
彼女はチラ、と後ろを振り返る。感情制御はとくに何も言うことなく立っていた。
パッと灯がともされて、ビルの廃屋内が照らされた。
「お前らがAA十万十か、どうだ奇跡の時代に生まれた感想は」
彼女が連れてきたうちの一人、無理矢理に髪を黄色に染められたツインテールの少女はこう吐き捨てた。
「最悪に決まってるでしょ。今でも暴れだしたい気分よ……変な機能まで搭載してくれて」
怒りを捻出するかのように彼女は声を震わせてそう答えた。
あの時代はやはり研究者共が腐りきっていた時代だ。自分好み、あるいはうけを狙ったように作られていたからやりたい放題だったのだろう。
「正直、あなた達が助けてくれて助かったわ。いつまであんな牢のようなところに入れられているか分からなかったもの。それに妨害電波で毎日のように頭痛がしてたのよ」
「あぁ、そりゃあ大変だったんだろうなぁ。3年間ってところかぁ? 牢に入ってたのは」
「そうね……もう思い出したくもないわ」
「ッハ!そのうち懐かしくなるぜぇ!」
不気味なほどに口角を吊り上げて笑う壊れない実験台は狂っているようにしか見えなかった。それでこそ私たちのリーダー足り得るのだけれど。
「まずはネームだな、使い捨て。調べてたものを読み上げろ」
「命令形は受け付けたくないですけど。仕方ありません。では、黄色い髪のあなたは電磁放出でしたかね」
「その名前で呼ばれるのかよ……思い出したくないんだけど」
気にすることなく淡々と読み上げていく使い捨て。
「次にあなたが熱量上昇。隣のあなたは痛覚無視。最後に茶髪メッシュのあなたが感情制御ですね」
それぞれが苦い顔をして名前を確認し合う。これは傍から見ていると何をしているのかと気味悪がられるだろうが、大切なことだった。そう、numberで言い換えるなら、製造番号を確認し合っているようなものなのだ。
「俺が壊れない実験台だ。オマエらを連れてきたのが愛玩用で名前を読み上げたのが使い捨てだ」
「名前からすごく嫌な感じが伝わってくるのね………。特にあなた」
黄色い髪の少女は少年を指差した。
「俺かぁ? だろうな、そうだろうなぁ。後言っておくがなぁ、俺ら三人には■■■■がねぇ」
その発言に感情制御すらも反応を示した。
それはそうだ。numberの根源ともいわれるものが無いのだ。これが示すものは『裏』。この国の裏事情だ。
「な、なんで………。それは」
「ありえないってかぁ? んなら体中見てみるかぁ? ひゃはははっ!」
「…………」
「っくっく……。そんなことよりアレだ、次の襲撃場所だが───────」
「ちょっといいか、この間のテロはお前たちの仕業だろうな」
声を上げたのは感情制御だった。
「そうだが?」
「目的は国家反逆じゃないのか。あれほどの大掛かりなことができるなら国の中枢を一気に叩いた方が確実じゃないのか」
感情制御のその言葉に少年壊れない実験台は当然のことのように口を開き言葉にする。
「は、分からねぇこと言うなよ。考えてもみろよ、国のトップ潰してはいおしまい、じゃあつまんねーだろうがよぉ? 徐々に国を壊滅させていくからこその復讐なんだよ。大都市が潰れるごとに国家が揺らいでいくだろうよ。それも首謀者が分からないとなればなおさらだ」
「あなた……なかなか酷いことを考えるのね」
電磁放出はためらうことなくそう言い放った。
それに対して彼は顔色一つ変えることなくむしろ笑って返した。
「お前だって分けわかんねぇ色に髪を染められてんだ。拘束だってされてたんだろうがよぉ。それくらい考えなかったか?」
「考えたわよ、考えたけど…………」
そこで彼女は言葉を切った。何が言いたかったのかは愛玩用には分かった。
─────そんな悪意に満ちたタノシソウナ顔で実行しようとまでは思わなかった─────
そうだろう。実際問題、彼は今ものすごく楽しそうに計画を練っている。
人を殺し、国一つを根絶やしにするレベルの計画を楽しそうに練っている。
そこら辺は私にだって分かる。これからのことを思うと楽しみでしかたない。
ただ、心持ちだ。
どんなことをしてでも可能である限り暴虐を尽くす。あらゆる手を考え、実行して相手を絶望のどん底にたたき落とす。そして彼は言うだろう。『こんなモンじゃぁねぇよ?』と。
壊れない実験台。名前の通りに歪んでいる、正確には歪まされたわけだが名前だけでその悲痛さ、言いようのない苦しみは伝わってくる。本当にどんなものなのかは本人にしか分からないがらそれ以上踏み込むことはできないから筆舌することはないだろう。
「それだけかぁ? 他にないなら話は終わりだ」
「ああ、……理解した」
それだけ言うと感情制御は壁に背を預けて目を閉じてしまった。
チームに亀裂など入らない。それはもともとチームではないから。
利害関係が一致したことによってただ群がるように集まっただけ。不要なら切り捨てるし、助けることは一切しない。それが自分にとって利益になるのか、それだけを考えて行動する。
今のところ愛玩用は形上だけ壊れない実験台に従っている。使い捨ては何を考えているか分からないが別に何を考えていたっていい。
もともとはここには他にも人員はいた。しかし、いつの間にか姿を消しているのだ。
壊れない実験台は何も知らないというが、果たして本当なのか。そんなことは分からない。
実際に知ったからと言ってどうということは無いのだが、ここから一度いなくなった者で戻ってきた者はいない。表の世界でニュースにもなりはしない。こちらの世界でも噂すらやってこない。
本当に『いなくなった』のだ。
別にそんなことに恐怖しているのではない。力の底が見えない私たちの形式上のリーダーの腹の内を読めないことが恐怖なのだ。
何も知らない、というのは一番危険なことだと生まれた、いや造られた時から分かっている。
それゆえに固執する。
だから愛玩用は壊れない実験台にいつまでたっても近づけない。
第二回テロ実行会議なるものが終わった後は、各々が自由に過ごしていた。
表の世界に行くことは禁じられたが、ここでは何をしてもいいと言う。
それを聞いたAA十万十達は外に出て大空を仰いだりしていた。ここから見える空はそんなに綺麗なものではないにもかかわらず彼女たちは普通にうれしそうだった。その光景に見覚えがあった愛玩用は少し肩をすくめつつ、それを眺めていた。しかしそれも少しの間だけだった。見覚えのある光景の記憶がリンクして吐き気をもよおす。
そして今朝襲った研究室での言葉、それが重なって不安が増大する。
気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み気持ち悪い笑み───────────。
止まることのない記憶の洪水のせいで視界がブレていた。
「うっ………ううっ。ゲホッ、うぇ………」
何も吐けないということはどれだけ気分の悪いことだろうか。そんなもの、私以外に分かるわけがない。
「ちょっと! 大丈夫なの?」
視界が霞んでいてなお声をかけてきた者の正体が分かったのは彼女の髪が黄色だったからだろう。
彼女に支えられながらも愛玩用は男の名を呼ぶ。
「は、は……壊れない実験台っ! 」
頭の中がグルグル回って平衡感覚をつかめない。支えてくれている彼女に寄りかかるようにして立ったままの姿勢を保つ。
「なんだぁ、騒々しい。 ナニ発狂してやがんだよ、愛玩用。悪い夢でも見たかぁ?」
不快な笑みを浮かべながら彼はビルの闇から姿を現した。
そのまま愛玩用の数メートル手前で立ち止る。
「夢なら……はぁ、どれだけ……よ、かった、か………」
対して彼はとくに反応はしない。ふうん、そうか。という言葉だけを残して今にでも去っていってしまいそうだった。
「いる、あいつらの生き残りがいる……。私を、また私をっ……あああああああっ!」
愛玩用が暴れた拍子に支えていた彼女は吹き飛ばされ、地面を転がる。それに見向きもせずに愛玩用はどこからともなくナイフを取り出して握る。
「今からコロスッ。すぐにでもコロスッ。……っああ゛!」
彼女はもう何も見てはいなかった。ただ、虚ろなその眼は腐りきっているとしか言いようがなかった。
「そうか、やめておけ。今のまま向かったらお前、」
一旦壊れない実験台はそこで言葉を切って
「またあの生活に逆戻りだぞ?ははっ」
愛玩用の行動は早かった。
瞬く間に壊れない実験台に肉迫し、手に携えたナイフを反転させて逆手に持ち頸動脈を狙って突き刺した。
その間、壊れない実験台は眉をひそめているだけだった。
ギィン! と刀同士を打ち合えさせたような音が響き、ナイフは根元から折れた。
全体重をかけて振るった一撃に対して愛玩用はバランスを崩し、まえのめりになっていた。
ナイフが砕けたことに対しての反応は無い。
「落ち着け、バカヤロウ」
壊れない実験台は愛玩用の横顔を思いっきり殴り飛ばした。
吹き飛んだ彼女に対して彼はただこう告げた。
「あの研究室で何があったかは知ってんだよ。俺が対策をうってないとでも思ったかぁ?」
心なしか彼の愛玩用に対しての蔑みの視線がいつもより弱かったように思えた。