表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/42

No,15:不等号<

テロが起こる。二回目の。

その単語だけが脳裏に浮かんだ。

「な、なんでそんなことが分かるんですか!」

「それは………詳しくは言えないんだけど。とある研究施設が襲われたのよ、そこで色々な物品を持ち出されて……ね。その品々から推察するにおそらく、なんだけど」

物品。それは武具などのことなのだろうか。それに時期的にもなのだろうか、ちょうど一ヵ月が立とうとしている。再びあの惨劇が訪れるのだろうか。それより、

「なんでそれを俺たちだけに……? そういうのは全校生徒とか、いやテレビとかで注意を促した方がいいんじゃないんですか? 」

「さっきも言ったようにおそらくなのよ。そんなことを大勢に振りまくことができないの、あなた達に言ったのはこの間のテロで巻き込まれたから注意した方がいいっていうことなんだけど………」

「そ、それじゃあ酉種さんは………」

「酉種さんは女の子だからね」

「それにどういう関係が……」

一息ついて眞奈美さんは持っていた手提げバックからあるものを取り出した。

シンプルな形をした、殺傷能力を兼ね備えたもの。

「拳銃……?」

「なんでこんなものがあるんですか………」

流石の蓮も動揺を隠せなかったようだった。

「護身用、だからね。この間のことを踏まえて……特に桜参くん達は見ちゃったよね」

その時、自分の中に何か冷たいものが落ちるような感覚に陥った。

「な、何を、ですか」

「『欠陥製品ジャンク』って呼ばれてるらしいんだけど……、テロ実行犯が間違いなくどこかからの流通品で持ち出してきているの。好きなようにコントロールできる最悪な人形」

眞奈美さんはあえてnumberとは言わなかった。

欠陥製品ジャンク………確かに最悪なものだ。あのテロの中では昌さんのほかにももう一体機関銃を乱射していた奴がいたはずだった。あんな風に、戦闘用ロボットのように操られたnumber達が何の罪もないのに再び意識を覚醒させられた者たちが……扱われるのか。

テロの首謀者は何を考えているんだろう。あの時あった少年は言っていた。

『この国の政府がどれだけ腐っているかも知らずにのうのうと生きている人間がふざけたことぬかしてんじゃねぇよなぁ!』

この国に対して悪意を持っている……? だとしたら国の中枢にいた人物だったのだろうか。いや、それしては年齢が合わない。俺と同じ年頃の少年だったはずだ。

しかし、純粋な怒りがそこにあったのは覚えている。ただ楽しいからやる、といった享楽主義者ではないのだろう。それがまた厄介なところだとは思うのだが。

「それで、その欠陥製品ジャンクに対しての護身用の拳銃。大丈夫よ、弾は硬質ゴム弾だから。気絶することはあっても死ぬわけじゃないからね。それが逆に危ないかもしれないんだけど」

「眞奈美さん、じゃあこれは俺と亮に渡したってことは……テロが起こったらそこに向かえということなんですか?」

「それは違うわ。さっきも言ったように護身用なの、万が一巻き込まれたときにだけ使うの。そんなことはもうないとは思っているんだけど……何か心配なの。私の勘が、……当たってほしくはないんだけど」

「嫌な勘ですね」

蓮が空気を和ませようとするが、この雰囲気だ。笑い一つ起こりはしない。

静まり返った生徒会室にはグラウンドからの運動部の掛け声しか響いてこない。

「まぁ……何事もないと思うから、大丈夫! 」

最後に眞奈美さんはそう言って生徒会室から出ていった。仕事の合間だったのかもしれない、心なしか早足で立ち去ったようにも見えた。

「お姉ちゃんからはこんなところだけど……私から言うと、これ以上この学校の生徒が傷ついてほしくない」

生徒会長の眼は真剣だった。

「さ、今日は帰って休みなよ二人とも。何事もないように日々が過ぎてくことを祈るしかないよね」

俺たちに返す言葉は無く、そのまま立ち去って帰路についた。


今日の天気は生憎曇りで綺麗な夕焼けは見えなかった。俺と蓮は並んでマンションまでの道のりを歩いていた。会話はほとんどなく、蓮の方はどうも考え事をしているらしかった。

ここは気分転換も兼ねて久しぶりに鍋パーティーでも開こうか、と考えていた時そいつは現れた。

「よう、桜参。ここであったが百年目だぜ!」

声変わり前の可愛い声がしたかと思えば桃川だった。さらに突っ込んでおくといまさらそんな台詞はく奴はいないと思う。

「何だ、桃川君か。君の家ってこっちだっけ?」

「いや違う。しかし今日は訳あってこっちが帰り道だったんだよ」

「へぇー、じゃあね」

あまり背の高くない桃川の隣を素通りしようとするが肩を掴まれる。

蓮は気にすることなくただ桃川を見ており、掴まれた俺は反応せざるをえなかった。

「なんだよ、うっとおしいな」

「ふ、ふん。そんなこと言っていられるのも今のうちだ。俺はなんと、今日は鵜川さんと下校したのだ!」

「はぁ、だから帰り道こっちだったんだね。じゃ」

「まてまてまて! 他になんかあんだろリアクションってもんがよぉ! 馬鹿なのかお前は!」

「とりあえず桃川君には言われたくないね。っていうかどうせストーキングだろ? 犯罪者め」

「ふざっけんな馬鹿んなわけあるかボケ! ってかお前最近調子乗ってんだよなぁ?」

「何こいつむかつくな。亮、知り合いだったのか」

いきなり話に入ってきた蓮は退屈だったのだろう。疲れた顔をしていた。

「いや、知り合いっていうか……その前に蓮、お前も同じクラスだから……」

まるで眼中にない発言だったなさっきのは……。

「おい! そこの茶髪も馬鹿なのか! 馬鹿ばっかりだなほんとに」

「うるさいなお前は。よし、やるか決闘。桃栗なんちゃら、かかってこいよ」

「ほぉ、やるか。俺の神速の右ストレートを味わってみるか?ってか桃川だっつーの!」

「へぇ、面白いこと言うじゃねぇか。久しぶりに腕が鳴るねぇ」

何かが始まってしまう予感がしたのでとりあえず俺は止めることにした。バカバカしい二人を見て。

「ちょっと止めとけって。蓮が本気だしたら桃川死んじゃうから」

「何言ってんだよ亮。喧嘩したこともない奴に本気なんか出すわけないだろ?」

分かってたんかい。つーか、どんだけ相手を見極める能力持ってんだ蓮は。

「お前ら~~~。舐めすぎだっての! ぶち殺すぞ!」

これじゃあただのガキだなぁ……。

そう思ったことが俺の顔に出ていたのか、桃川はこちらをキッと睨みつけて

「覚えてやがれ!」

と言いつつ走り去ってしまった。

いちいちボキャブラリーが古いんだよなぁ………。

それに対して蓮は面白くなさそうだった。腕をだらんと下げ、大きな溜息をついていた。

「面白い奴だなあいつ。桃の果実?同じクラスだったのか」

「桃川ね。んで同じクラスなのに覚えていないところに俺は最早尊敬の念を抱くよ」

どうだ! と言わんばかりに胸を張る蓮。全然ほめているわけでもないのに。馬鹿だ。

やはり先ほどの対決は


  桃川<蓮  (馬鹿度)


こんな感じだろうか。

などと余計なことを考えているうちにマンションについてしまった。

マンションの入口でばったりと月乃に出会った。

おう、とかよう、とか言う前に月乃は、

「無性にむかつく」

と俺の脛を蹴ってきた。

「痛いし! 俺がなんかしたのか、どうしたんだ!」

「くぅ……後は若いお二人に任せて、と俺はここらでじゃあな!」

余計なことを吐き捨てて蓮はマンションの中に入っていく。

意味の分からない沈黙が続き、月乃と俺は向かい合ったままだ。

「え、と。………何か」

仕方なく俺はそう口火を切った。

「付き合って」

「はぁ? いや、イキナリ何をおっしゃっているんですか月乃サン!?」

「買い物に付き合いなさいって言ってんの! この屑!」

一通り言った月乃は頬を赤らめて早足でスーパーのある方向へと進んでいく。

「あ、あぁ………買い物の荷物持ちですね」

理解の追いついた俺は駆け足で月乃に追いついて、隣に並ぶ。

そこで先ほどまでのことを思い出した。

「なぁ月乃。今日桃川と帰ったんだって?」

「はぁ!? 何言ってんの、馬鹿なの! 馬鹿でしょうね、そんなことも分からないんだから!」

「ちょ、おい。そんな怒らなくてもいいだろ……。冗談だって」

「死ね、死んで詫びてよね。不快感しか生まれないわ」

この話が本当に不快だったようで、月乃は真面目に苛立っていた。

よく不機嫌になることはあるのだが、こんなに怒ることあまりなかったのに今日はどうしたのだろうか。それほどまでに桃川がうざかったとか? いや、そんなことより過去の経験からして考えてみると……。やっぱりあれだよなぁ……。

「えっと……今日は何食べるんだ?」

「別に、考えてない」

「そ、そう言えば俺も冷蔵庫の中が空なんだよね~………」

「…………」

「久しぶりに一緒に食べない……よね、すいません」

「誰が……って」

「え?」

「誰が食べないなんて言ったのよ。折角だからご馳走されてあげるわ、感謝しなさいよね。亮の寂しい夕食を紛らわせるために付き合ってあげるんだからね」

早口でまくしたてるように月乃は言った。

「そ、そうだよな。久しぶりにみんなで集まって鍋パーティでもしようか」

「みんな………?」

「みんな、だろ?」

「~~~~~っ!」



何故か再び不機嫌になった月乃は俺に中段蹴りを浴びせるのであった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ