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No,12:機嫌

すみません、だいぶ遅れましたm(_ _)m

「おい、どこへ連れていくつもりなんだ」

茶髪に金メッシュの男は抑揚のないその声で少女の背中に問いかける。

「とりあえず、これ渡しておくから。 あ、間違っても後ろから刺そうなんて考えないでね」

「ふん、………こんなものを軽々と渡せる奴にそんなことは思わんよ。……特にお子様にはな」

「なんなのあんた………喧嘩売ってんの? さっきからぁ……」

イライラしつつ、少女は次の目的地に移動していた。とりあえずは歩きで、山の中にある一つの研究施設にだ。先ほどの収容施設から山一つ越えたところにある。

それまで、こんな薄気味悪い奴と二人きりだなんて嫌だったが、まぁ仕方ない。

これも私の仕事の一つだからだ。

それにしても蒸し暑い。ジャージのチャックを下げたいのだが、こいつがいる前では……。

別に平たいだとかお子様体型だとか言われたから気にしているわけではない。

「いっ………たいなぁ……。ほんとに歩きにくい」

「………」

男は何も答えず私の後ろをついてきている。なんか背中がゾワゾワしていて気持ちが悪い。

そんなことを考えているうちに、山の頂上まで来てしまっていた。とっくに陽は落ちて辺りは真っ暗になっていた。

向こう側に光が見えた。あれが例の研究施設だろう。あそこに大量収容されているだろうから、あそこまでたどり着ければ私の仕事は終わり、とは聞かされていたけれど連れて帰るときはどうしたらいいのだろうか。そこら辺は、使い捨てユウズド壊れない実験台ハードがなんとかしてくれるだろう。

「今日はここで休憩よ。私は寝るけど、あんた勝手にどこか行ったりしないでよね。あと、私に何かしようとも考えないでね!」

「分かったから黙ってろ小娘。今の状況下で軽口をたたけるのか?」

がさがさ、と周りの草木が揺れる。

『おい! 見つけたぞ、脱走者と協力者だ!』

多くの警備隊が迫っていた。

「えぇ……使い捨てユウズドが回線切っててくれたんじゃないのぉ? 完全に油断してたよ」

「未熟だな」

「っ……なによ。 そうだ! この際あんたの力がどのくらいなのかを確かめてあげるわ」

「まぁいいだろう。 見てろ」

スッ、と流れるように移動した金メッシュはナイフを逆手に構えて一番近くに居た警備隊員ののど元を掻っ切る。

噴水のように流れ出す赤に見向きもせず次の標的に迫る。

流れるように敵を仕留め、血飛沫をまき散らす。それはまるで『舞い』のようだった。

どしゃあ、と警備隊員が全員倒れたころ私は目を見開いていた。

「やるじゃん……あんた」

「あんた、じゃない。感情規制リミットだ」

「へぇ、そっちの名・・・・・を自ら名乗る奴がいるなんてね。どっちにしろ後でアイツに探られるんだけどね。あ、ちょっとどこいくの!」

「寝るだけだ」

「木の上で?」

「何か問題があるのか」

ぎょろり、とまだ獲物を狩り足りないかのような危なげな目をしていたのでこれ以上関わるのはやめることにした。また明日だ。明日、あの研究所を突破すれば私の仕事は完了。

また街に遊びに行けるだろう。


もっとも、もうすぐ遊びに行ける場所さえなくなるのだが。







昼休みに登校を済ませ、俺は机に突っ伏していた。あの警察署から徒歩で学校まで戻ってきたのだ。

飯は蓮と一緒に学校へ来る途中で済ませていた。今はボーっと昼休みを流しているだけで、蓮はいびきをかいて寝ている。後ろの席の月乃は、何かの文庫本を読んでいるようでその姿も様になっていた。

なんとなく暇を持て余していた俺は廊下に出て窓枠に腕を組んでかける。

外からの風は気持ちよかったが、気分がすぐれない。疲れているだけだと思うのだが、何故だか心が重かった。あの事件を引きずっているからだろうか。あれはテロだ。そして俺は巻き込まれた。ただそれだけのことなのだが………。

「桜参くん。さーくらまいりくん」

「え? ………生徒会長さん?」

窓の外を眺めていた顔を声のした方向に向けると、確かにそこには生徒会長、錠越眞守先輩がいた。

声をかけてきたことにも驚いたが、何故に俺の名前を知っているのだろうか。いくら学校のトップだからと言って生徒全員の名前を覚えているわけでもないだろう。

それでは、何故?

「ん、この間のテロに巻き込まれたんだって? 大変だったでしょ。」

ああ、なるほど。それは確かに知っていて当然かもしれない。街の中心部のテロにこの学校の生徒が巻き込まれていたらそれは生徒会長の耳にも入るだろう。

「こんにちは、会長さん。確かにこの間は大変でしたよ……」

「そっかそっか。でもさ、そんな中でも酉種さんを助けてあげたんでしょ? 男だねー、カッコイイね!」

「あ、はぁ……そうですか?」

「そうだよ、普通は自分のことで精一杯だよね。 そんな冷静だった桜参くんに聞きたいんだけどさ。あのテロの中で怪しい人物って見なかった?」

怪しい人物? どうしていきなりそんな事を聞くのだろうか。 知り合いが巻き込まれていたとか、いやそれなら怪しい人物だなんて言い方はしない。誰かを探している? 知り合いではない誰か。もっとほかの、誰か。

「な、なんでそんなこと聞くんですか?」

「いんや、お姉ちゃんの真似してみただけだよ。桜参くんは今日お姉ちゃんに尋問されてたんでしょ?」

「尋問って………そんなことはないですよ」

「んーそっか。じゃ、昼休み終わっちゃうから戻るね。時間割いちゃってごめんね」

くるり、と踵を返しながら錠越眞守はそう言った。ひらひらと背を向けながら手を振る姿は妖艶だった。

気付けば授業開始5分前だった。

錠越生徒会長の顔はよく見えなかったが、特に何も気にならなかった。

教室に入る前にもう一度廊下を見やったが、そこにはもう姿は無かった。

返事を忘れていた。


「どうしたの、亮。なんだか難しい顔してるけど」

教室に戻るなり月乃がそう言ってきた。ちょうど文庫本をしまって次の授業の準備をしていた。

自分の顔に手を当ててみるが、分からない。当然か。

「そんな顔してたのか?俺」

「うん。なんか疑う感じ。 もしかして次の数学に嫌気がさしてたりして。宿題やってないでしょ?」

「そりゃあ学校休んでたからなぁ………」

「当てられないことを祈りなさいよね」

あ、見せてはくれないんですか。

そこのところはぬかりなかった。やっぱり月乃はSだ。どうせ、俺が答えられないところを見て後ろからシャーペンか何かで突きつつ、『ねぇ、教えてあげよっか? 分かんないんでしょ? 恥かくよー』とでも囁いてくるのだろう。酷い話だ。

こんなことが何回かあって、それから俺はちゃんと宿題をやるようになったのだが。今日はしょうがないだろう………。

「あ、あのさ。鵜川さん! 俺さ教科書忘れてきたから見せてくんない?」

可愛い声が後方から聞こえてきた。あいつの声だ。

月乃はシカト。仕方がないので俺が対応することにする。

「桃川くんさ、席あっちだよね。隣の席じゃないんだから無理じゃないかな?」

「あぁん? お前はかんけーないだろ。すっこんでろ! 俺が鵜川さんの隣の席にこればいいだろうが。オイ替われ」

四月当初、月乃の隣の席になって喚起していた男子生徒に白羽の矢が立った。

「えっ、い、嫌だよぉ」

「うっせ! 今の時間だけだって。マジだって」

「こ、困るよぉ」

「ぐだぐだ言ってんじゃねーぞ!」

「あぅぅぅ……」

桃川こんなやつにビビる奴もいたのか。確かに線が細くて気は強そうじゃないけど。

「私の隣はこの人なの! あんたはうっさいからさっさと席に帰って!」

いきなり月乃が吠えた。

桃川は『おぉぉぅ………』としなり、月乃のとなりの男子生徒は『ふぉぉぉぉぉっ!』と何かをみなぎらせていた。

よかったな、男子生徒よ。月乃様の機嫌がよかったのだろう。

「痛ったぁ!」

俺の背中に電撃が走った。否、シャーペンが刺さった。

「な、な、な、………何をするんだ」

「イライラしてたから」

「…………」

俺はその言葉に返す術は無かった。やっぱり月乃の機嫌は悪かった。












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