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No,11:錠越の字

少しの間の病院生活を終え、また普段の学校生活に戻れるかと期待していたのだが退院して早々警察の方々にこの間のテロについて詰問のようにネチネチ細々と聞かれ続け、俺はへとへとになっていた。

「お疲れ様。これで聞きたいことは大体聞いたわ」

そう言って女警官は書類を机の上でタンタン、とまとめ、先ほどとは違う柔らかい笑みを浮かべて空気を和ませた。とはいっても、ドラマなどで見るような殺風景な部屋に机と椅子とライトが置いてあるだけの部屋ではないので、気分はそんなに悪くはならなかった。横の蓮がにやにやしているのはシカトするとして、俺はもうすでに帰りたくなってきていた。学校にはもう4日程度も行っていない。

「そんなことよりおねーさん、若いですね! いくつ?」

やはり俺の思っていたことは間違っていなかった!? だから先に帰りたかったのに………。

それにこいつ、怪我の直りが速すぎやしないか?

「さぁ、いくつだと思いますか? それより君たち、今からでも学校には行けるわよ、どうするの?」

「あ、いや。俺は家に帰って休むことにします」

「お、俺は! あなたとともに………」

「そう、じゃあ今日はゆっくり休んで明日に備えないとね?」

女警官は微笑を浮かべ立ち上がった。

「え!? 俺はスルーなの? 確かにふざけ過ぎたとは思うけどさぁ!」

大きなリアクションでおどけて見せた蓮は、もう十分というくらいに元気そうだった。

俺はその光景に安堵し、それと同時にもう一度あの出来事を思い出していた。

瓦礫に包まれたあの普段とは全く別の世界へと変わってしまった場所。何もかもが壊されたいつもの世界で誰が平然としていられただろうか。それに加えて蓮の大怪我、昌さんの崩壊、裏世界の眼帯少年の登場。どうして俺はここまで平然としていられるのだろうか。自分でも分からない。まるで、今まで起こったこと・・・・・・・・・・に全く自分が恐れてい・・・・・・・・・・ない・・ようではないか。そんなことはない、実際俺は恐怖していた。パニックに陥っていた。それなのにどうして。自分が強靭な心の持ち主だと言い張ってしまえば済むことではあるのだろうけど、それでは根本的解決にはならない。考えても答えが出るわけではないのだけれども。

「どした? 亮」

眼前をひらひらと舞うものがあった。いや、舞うと言っては語弊があるかもしれない。振られていたのは蓮の手だったのだから。

「いや、なんでもないよ。ほら、お前もさっさと帰ろうぜ?」

「え、ちょ、いやいや! 俺はこのおねーさんとさぁ。………と、その前におねーさん! 名前を教えてください!」

くるりと一回転し、先ほどの女警官に目線を合わせる。

「あれ? さっき言ったと思うんだけどなぁ。錠越よ」

ん? 錠……越? どこかで聞いたことのある名前だったような気がしたが、昨日せいだっただろうか。

そんな俺の考えを余所に、蓮は大きな声を出した。

「錠越!? あの、もしかしたらうちの学校の生徒会長のおねーさんとかですか!?」

「そうよ? あっれ、知らなかったかしら?」

「知るも何も言ってませんよ! あぁ~。流石、錠越の名を持つ人だぁ………美人過ぎるぅ」

ふにゃふにゃと蓮が踊りながらもリアクションを続ける。それを微笑で返す錠越警官。

俺は正直驚いてはいなかった。ただ、世界は狭いなぁと感じていただけで、特にリアクションは無かった。別に求められていたわけではないけども。

「もう一度正しく自己紹介するなら………そうね。錠越眞奈美まなみよ。錠越眞守の姉で、今は警官をやっているわ」

そう言いながらかるく会釈した眞奈美さんは、蓮が言うとおりに美人だった。






こんな服を着るのは我慢ならなかったけど、これからのことを思うとそうも言っていられなかった。側面が灰色一択に塗りつぶされたこの建物はとても人間を収容しているような場所ではないと思う。とは言ってもここは目的地の一つでしかないので、こんなところで躓いているわけにはいかないのだ。そうは言ってもやっぱり腑に落ちない。何故自分が先行役なのか。まぁ、答えは自分で乗り出したから、なんだろうけども。

「でもさぁ、私一応女の子だよ?」

木が生い茂る森の中、灰色一色の建物を目の前にして女はそう呟いた。その美形に似合わず黒色のジャージを上下着ていた。背中には大きな鞄を担いでいて、ガシャリガシャリと音を立てていた。

その音から察するに、中のものは相当重いものだと推測できた。

「早めに終わらせて次行っちゃおうか。さぁて………」

彼女は歩く速度を上げる。背中に担いだ鞄の中に手を突っ込みながら。

彼女は灰色の建物の門をくぐる。片手に黒光りするものを握りながら。

そして彼女は建物の中で一声。「こんにちわー」と。

「君、こんなところに何の用だい? ここは囚人施設だよ?」

腰に警棒、拳銃を携えた男が歩み寄ってきた。武器は確認済み、施設内の地図も頭の中に入っている。後は暴れるだけ………おっと、もう一つの用事もこなしておかないといけない。

確か最下層に囚われているはずだ。使い捨てユウズドが時間になったらセキュリティを解除してくれるので、特に問題はない。

ここに居るのは………A-0100001Aだっただろうか。最初にして最狂とは聞いていたが。

それも特に問題はないだろう。ジャミンングをかければ解決する話だ。

少し考えたところで男に目線を移し、やっぱり殺すことにした・・・・・・・

「ちょっとお借りしたい人がいるので、さようなら?」

ドパァン、と発砲音が鳴り響き、男は糸の切れた操り人形のように床に崩れ落ちた。

寸分の狂いもなく心臓に命中したのだろう。溢れだす血が止まらない。血の洪水が起きている。

「な、………んだ、お前………?」

「なんだー、って聞かれてもねぇ? あえて言うんなら国に見放された者ってところかな。それじゃ、永久の眠りにつきましょうねー?」


バンバンバン、と新たに発砲音が施設内に響いた。



たどり着いたのは最下層。光もささないこの場所では自分の持っている懐中電灯だけが頼りだった。

しかし、狭い廊下は一本道だった。ここまでこればもう迷うことはないだろう。

「しっかし暑いわね………それに暗いし……。地下ってそんなもん?」

誰に問いかけるでもなく独り言のように呟いた。

上ジャージのチャックを胸元まで引き下げ、手であおぐ。風は来ないので気晴らしにしかならないが。

懐中電灯の光に反射し、何かが光った。柵……のようなものだ。

「ここかなー?」

懐中電灯で照らしてみると、そこには椅子に拘束された男がうつむいていた。どうやら首以外は動かせないように拘束されているようだった。それによく見ると、鎖で何重にも雁字搦めにされていた。その鎖の繋ぎ目には南京錠ではなく、電子ロックのようなものがついていた。

「なかなか厳重だね……って当たり前か」

部屋の隅には超音波を発生させる機器のようなものが置いてあった。あれは人間、numberどちらにも有効な、脳波に超音波をぶつけて乱れさせるものだ。そうなると身体の自由が利かなくなるどころか、気絶してしまう。その気絶している間にも超音波は飛んでくるので、最悪死に至る。もちろん、numberの場合は脳の情報伝達を不能にし、回線を焼き切ってしまう。要するに死んでしまうのだ。

「怖いねー、こんなものまで用意しているだなんて。確かにこの子がこれば私たちがぐっと楽になるしねぇ」

電子ロックのかかっているはずだった鉄格子を外し、超音波機器を拳銃で破壊して中に侵入する。

茶髪に金メッシュ………これが彼の特徴だった。まったくもって開発者は何を考えているのか分からない。私だって赤がかった髪の毛の色だし。

彼は起きている様子が無い。かといって寝ているようにも見えない。何だろう、何だがおかしな気がする。

「ぁあ、………誰か来たのか。誰だ」

グゥイン、とまるで効果音が鳴ったように首を持ち上げ、その眼が私を捉える。その眼にはいまだ生気が失われていなかった。じり、と私は後ろに距離をとること自分の中でが最優先となっていた。

「んだ、ガキか。遊ぶ場所じゃねぇぞ。ここは」

そいつの目線は私の胸元に注がれていた。

「な! なんなのよあんた! 見せもんじゃないわよ!」

急いでチャックを上まで上げ、ギギンと睨み返した。

彼の顔には無表情が張り付いていた。しかし、その顔のままで、

「無いもの見せたってしょうがないだろう。 それよりなんでお前がここに居る」

「なっ、く………。あんたを連れ出しに来た」

「へぇ、ガキが一人でか。この国の警備も甘くなったもんだな」

「───────それよ」

身体に纏わりつくいつもの雰囲気は切り裂き、内側から殺意、悪意、をむき出しにする。

交渉においては、どこまで自分を相手に見せるかが重要となってくる。

「なるほど、そんなガキでもか。ますますだな」

「それで? 返事を聞かせてもらいたいのだけれど」

「面白そうだな」

「そう、それじゃあよろしく。AA十万十ダブルエーじゅうまんとんでじゅうの御一人さん?」




「またの名を………なんだっけ? 科学者達ノ玩具アクシュミナオモチャだっけ?」










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