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No,10:AA100010

目が覚めた俺に飛び込んできたのは見なれない天井の景色だった。

ここが家ではないことはすぐに理解できた。

確かにベットが普段使っているものより柔らかかったのもあるし、枕も違う。極めつけは目線の高さ、であろう。

清潔なシーツに挟まれて眠っていた俺はようやく思い出す。

あの破壊と暴力に満ちたあの場所で気を失ったということに。

目の前に現れて狂気と殺気を振りまいていたあの少年は何だったのだろう。それに、欠陥製品ジャンクという単語にも引っかかりがあった。

通常、欠陥製品ジャンクは損傷して生きることが困難になったnumberや作られる段階で欠陥があったものを指していうものだ。それらは動くこともなく、すぐに処分されるはずなのに何故こうして動いていたのか、残っていたのか………それが謎で仕方がない。

それに昌さんはどうなってしまったのだろう………少年は『もう動かない』と言っていた。最悪の場合を想定するが、それは振り払う。

身体を起こそうとして、手に何かが繋がっている感覚があった。

点滴ではない。ベットの傍らには何も置いていないからだ。

そのときに来客用のパイプ椅子に座り、ベットに顔をうずめるようにして眠っている月乃を見つけてしまった。

だとしたら、この手にある感触は月乃の手? 手をつないでいるという状態なのか?

困惑する俺に対して、月乃は目を覚ます。

「………あっ! 亮、起きたの?」

いつもとは違う月乃の声音に、戸惑いつつも返事を返す。

「あ、ああ………それより月乃サン、この手は………?」

そう言って俺がシーツをめくる前に─────────。

最高速で顔を真っ赤にした月乃はそのまま振りほどこうとはせずに、俺の腕ごとひねって関節技を綺麗に決めてくる。

ギチギチギチと骨が軋み、鈍い痛みがやってくる。

「うぁ、痛たたたたたたたたたっ! いきなりなんだっ!」

「うるさいっ! とりあえず黙れ───────っ!!!」

朝の病院に俺の悲鳴と月乃の怒号が飛び交った。



数分後、ナースコールもしていないのに看護師が飛んできて大騒ぎになった。

あれだけ大声を出せば当たり前のことなのかもしれないが。

事態が収まって、看護師がこの病室を出て行ってからやっと月乃は口を開いた。

「わ、私は酉種さんのお見舞いに来てただけだからね。たまたまあんたの部屋によって寝ちゃっただけなんだから。そ、そもそもあんたの病室に来たのは酉種さんが『行ってあげてください』って言ってきたからなんだから!」

「分かった、分かったから拳を作るのはやめてくれ! 俺は一応病人なんだから!」

先のほどこの部屋に訪れた看護師の話からすると、極度の緊張から来たただの精神的な疲れが出ただけらしい。なので、貧血で倒れたようなもので明日には退院できるらしい。

大事を取って入院らしい。

「そういえば………酉種の所行ってたんだよな? どうだった?」

「うん。そんなに大きな怪我もしてないし、大事には至らなかったみたい」

ようやく拳を解いてそう返してくれた。

俺はあと一人、容態を確認しなければならない奴がいた。

おそらく、というか絶対に月乃はあいつの病室には行っていないだろうから、聞いても無駄であろう。

と、俺がベットから降りようと身体を起こした時、

「亮ー! 生きってっか!?俺はバリバリだぜ! つーか部屋どこだよ!」

「先生っ! 243号室の岩沢さんが抜け出しましたぁ」

「なにぃ、すぐに連れ戻しなさい!」

「うぁぁぁぁぁっ、先生! 患者が走ってますっ」

廊下からすごい大勢の声が聞こえてきた。病院は静かにするところだぞ。

それにしても蓮が無事だったのはよかった、大きな怪我をしているようだったがあの調子なら大丈夫だろう。

…………あれは、俺をかばって受けた傷。

心が重くなる。あの時、俺が反応できていれば蓮は今頃無事だったのかもしれない。昌さんだって………。

「亮………?」

見れば月乃が心配そうな顔でこちらを見ている。月乃には、心配掛けたくない。

「いや、なんでもないよ」

「そう? すっごい悩んでそうな………ううん、悲しそうな顔してたから」

「本当に大丈夫だ、………あれ? なんで月乃は制服着てんの?」

昨日が三連休初日であって、今日は二日目の朝だ。俺が丸2日間寝ていたわけでもないし、時間がおかしくなっているのでもない。ではどうして?

「なぁっ! べ、別に私が何着ようと勝手でしょ!? なんなの、喧嘩売ってんの!?」

いつもより3割増しぐらいの怒気と大声で俺の言葉を破壊しにかかる。

俺は何かおかしいことを言っただろうか。

もともと無い頭を回転させても答えは出てこないだろうから、適当にテレビのリモコンをポチポチとしていた。

どこもかしこも昨日の事件のことをやっている。中央街爆破テロと名付けられたその事件は大きく取り上げていた。

≪昨日、爆破テロがあったこの中央街はいまだ復興作業が行われず警察が立ち入って捜査を始めています。犯人はいまだ不明。警察の調べによると爆弾を使った建物倒壊型テロなどと言われています。≫

テレビからのあまり抑揚のない声が病室を満たした。

犯人、それはあの少年なのだろうか。それにしては武器も持たずに軽装備、いや私服同然だった。

銃を発砲していたあいつらは? あれこそが犯人だったのか。それにしては目的もなくただ撃ちまくっているだけだった気がする。だったとしたら愉快犯? それにしてもずいぶんと大掛かりな事件だ。

目的が分からない。

「亮、さっきから固まってるわよ? 本当にどうかしたの?」

いや、あの少年は政府がどうとか言っていた。世界の裏がどうとか。

これからもこんなことが起こるのだろうか。

俺にはもうよくわからない………。

「うっしゃー! ここだな。亮、見舞いに来たぜ!」

病室のドアを開けて大声で挨拶するのは蓮。見舞いって、お前も病人だろう。

月乃は、『うるさい奴がきた……』と言わんばかりに頬を引きつらせた。

「お、月乃も来てたか。俺は完璧に治った!」

その場でスクワットを始める蓮。なんだかいつも以上にテンションが高い。

「じゃ、私帰るわね。お大事に」

そう言って颯爽と居なくなってしまう月乃。どうしたっていつも蓮とは相性が合わない。

なんでかは俺が預かり知るところではない。

「ふっ、ふっ、ふっ………あれ、………なんか感覚がなくなってきた」

「馬鹿かお前! それやられてんだよ、おとなしくしてろって」

再びドアが開かれ、医師と看護師が息を切らせて立っていた。

「岩沢さん! 困ります、勝手に抜け出したりしてもらっては!」

「そうですそうです! いきなりいなくなるものですから腰が抜けちゃいましたよ!」

「ほら、戻って。………朝から疲れた、今日も家に帰れない……」

医師1人と看護師2人に引っ張られ俺の病室をあとにする蓮。

どこまで行っても馬鹿だった。




私のもとに珍しい見舞い人が訪れた。

今日はやけに病院が騒がしいうえに私の病室によく人が来る。

「生徒会長………さん?」

「や、色々と大変だったみたいだね」

片手を上げて軽く挨拶を返してくれるのは私たちの通う私立舞桜高等学校の生徒会長さん、錠越眞守さんだ。つややかな黒髪をさらっと払って、来客用のパイプ椅子に腰かける先輩はやはり美人である。

その髪がうらやましく思える。自分の髪は少し癖があって、湿気の多い日などは大変なのである。だから雨の日はあまり好きじゃないし、梅雨の季節は困る。

「酉種風見くん、そんなに大事はないようだね。安心したよ」

ふわっと彼女は柔らかい笑みを浮かべて目を見つめてきた。

その美貌に女である私でさえ赤面してしまう。

「あ、………ぅ、はい。………少しだけ煙を吸っただけです」

「そうか。確か火事にもなってたんだよね。………あんな惨状の中でよく抜け出せたね」

「それは………桜参君が、助けて……くれて。テロリストもその場に居たそうなんですが……逃がしてくれて」

「テロリストの顔って見たのかな?」

「いいえ……煙がすごくって、影は見えたんですけど……」

「その前に桜参くんが、か。ああ、なるほどね。そっかー、そうだよね」

先輩は一人だけ何かに納得したようで、ウンウンうなづいている。

「何がそうなんですか?」

「いや、こっちの話だよ。時に風見くん、キミには今思いの人っているのかな?」

急な話題転換とそういう話になったことで、息が詰まって咳が出た。

「………っ! けほっ、けほっ。 い、いきなりなんですか」

「キミは分かりやすいほどに面白いリアクションをしてくれるよ。なんでもないよ、気にしないで。………さて、そろそろ帰ろうかな生徒会の仕事も溜っていることだ」

「あ、あのあのっ。わざわざ来てくださってありがとうございました」

「いやいや、いいよ」

先輩はそのまま背を向けて病室から出て行った。

黒髪が宙を舞い、扉の向こうに消えた時にはもう静寂が戻ってきていた。







「今回はそんなに被害は大きくなかったそうね」

一つの拠点としている旧市街の一角の廃ビルの入口に立っている女の第一声はそれだった。

「んだよ。人間風情が頑張ってくれてたみたいだな、それに無人警官オートロイドの復旧が思ったより早かった」

「折角欠陥製品ジャンクを仕入れたのにこんなにパッとしないなんてね」

彼女はいつも違う服を着ている。今日は胸元にフリルをあしらっただけの簡単な紺色のワンピースを着ていた。

「てめぇは………。いや、なんでもない今回は俺たちが舐めすぎた。次の作戦までには日を要する」

「やった、じゃあ遊んできてもいいの?」

彼女は女の子らしい仕草と何かしらで目をきらきら光らせる。そんなものはこの世界ではなんの意味もなさない。おそらく表に居る時での条件反射だろう。

「…………駄目に決まってんだろ、馬鹿かお前は。仕事だ」

「えー、彼氏がまってるのにぃ?」

「そんな口調どこで覚えやがったんだ、いいからその資料に目通しとけ。それに─────────」


「そうね、いざとなったらその彼氏だって殺す・・・・・・・・・


その一瞬だけは、彼女は彼女でなくなっていた。

「ははっ、………大事にしてやれよ」

「あれ? あんたがそんなこと言うなんてね。冗談でしょ」


黒い笑みのなすりつけ合いの末に彼女は表へと戻る。

そして彼はまた暗がりに戻る。

資料の中でかろうじて読み取れる文字。その中にはこうあった。



───────────────AA十万十ダブルエーじゅうまんとんでじゅう回収せよ。








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