No,01:number
number………人間とほぼ変わらない作られた生命体。
製品番号………numberの身体のどこかに刻まれている数字と英字。
桜参亮………この物語の主人公。科学技術者の父を持つ、差別を許さない。人間
鵜川月乃………金髪ツインテールの美少女であり、亮の幼馴染。ドSである。number
谷枝………一言で表すなら『変態』。ドMの称号を持つ。人間
岩沢蓮………茶髪ツンツンの亮の友達。チャラく見えるがお洒落なだけ。number
科学技術の進歩。それはこの世界に最も大きな影響をもたらしたものといえる。
豊かな暮らし、細かく分類するとしたら安全であること便利であること平等であることなどがあげられるだろう。しかし、その一方で逆の影響をもたらすこともある。便利になりすぎた世の中、環境への悪影響など。人間はほとんどできないことはなくなってきていた。
だが、環境への悪影響や農業営業の人員不足などにより食料不足になることは明らかだった。
流石の人間も、生命を一から作ることなどはできない。機械生命体────アンドロイドのようなものは別として。
そんな中で政府は一家に子供は2人までといった政策をとり、それと並行して疑似人間、つまり人間のような知能を持ち合わせ、外見も肉体も人間そのものそれであって感情をも持ち合わせている限りなく人間に近い存在を作り出すよう申請した。
技術者によれば、時間はかかるが可能だという話であった。
生きた細胞をまとった機械。人工知能を搭載した生命体。
まるでどこかの映画のような話だ、と笑っていた者もいたであろう。
俺もその当時に生きていたら笑っていたであろう、その者たちは現物を見ることすらできなかったからやっぱりこの時代に生きていてよかったとは思うのだが。
話はずれたがこれは今から100年も前の話だ。
当時の人間はこんな日が来るなんて思ってもいなかっただろう。
人類と機械の共存───────。人間は完璧に成し遂げたのだ。
それが今の話、俺が生きるこの世界の話。
今では人間と人工生命体、世間ではnumberと呼ばれているが、全く見分けがつかなくなっている。
確かめる術はnumberの体のどこかには製品番号のようなものが刻まれているのでそれを見つけることだ。
それも今は簡単ではなくなって、numberにも人権というものが存在するようになり、人間と同等の扱いを受けることとなる。だから暴力やセクハラでnumberも訴えることができるのだ。それは逆もしかり。
numberの中には人間に生まれたかったと思うものもいたかもしれない。そんな奴は製品番号を隠していたりもする。
しかし、簡単ではないのはやはり人間の方。差別というものは必ずしも存在するのだ。
number差別、というものが流行った時期がある。それはどうして機械に対して平等に接しなければならないのかといったものだった。人が作り上げたものなら良いだろう、という考えでもあった。
それに対して抗議したのが科学者技術者の者たちだった。
結果は科学者技術者たちの大勝。numberと人間は平等であることとされた。
それでも変わらないというのが現実。今も差別は残っていたりする。
それがこの世界。それでも明日はやってくる。毎日は変わらずに過ぎていく。
私立舞桜高等学校。それが俺の通う高校であった。
全校生徒500人教職員50名といった、結構有名な学校だったりするのだ。
今は始業式の真っ最中で、ステージの上では校長がなにやら熱弁しているようであった。
大半の生徒はそれを聞き流しておしゃべりに夢中になっていたりケータイをいじったりしていた。
ぐるりと周りを見渡してもそんな奴ばかりである。学力は中の上あたりの学校なのだが、校則がかなり緩かったりする。
そろそろ立っているのが疲れてきたころ、ぎゅむりと踵が踏まれる感覚が生まれた。
というかアキレス腱辺りを重点的にやられている。間違いなくドのつくS。そんな奴の正体なんて俺の知り合いで一人しかいない。
「ちょ、月乃。アキレス腱は駄目だと思うんだ、俺は」
鵜川 月乃、俺の古くからの幼馴染であり暇な時になると決まって俺に攻撃を仕掛けてくる。こいつのおかげで体が丈夫になったのは秘密である。
作り物のような綺麗な金髪を二つに縛ってツインテールと呼ばれる髪型にしており、かなり整った顔立ちをしている。睫毛も長いし肌も綺麗だし瞳だって吸い込まれそうなくらいに綺麗だ。最後に彼女の左頬にはアルファベットと数字が刻まれている。E-4296078J、これは製品番号である。
彼女はnumberだ。
「暇だから暇つぶし。亮がどんな反応するのか楽しみで、ね?」
ニコッ、と初めて見る者なら間違いなく一目惚れするだろう天使のスマイルは生憎俺には効かなかったりする。それは裏にドSの顔が隠れていることを知っているからだろう。
その間にもぎゅむ、ぎゅむりと踵を踏まれ続けている。
「痛、痛いっ! そんなに踏みたいならドM代表の谷枝を踏めばいいだろうがっ」
谷枝は俺の右斜め前に並んでいる、小太りしたメガネ男。
2年生になり、クラス替えを行ったときに同じクラスになり先ほど知り合ったのだ。
先ほど知り合ったのになぜドMという真実を知っていたかというと、第一声が『はぁはあ、桜参君って鵜川さんと知り合いなんだよね? ど、どうか今度僕を蹴ってもらえるよう頼んでもらえないかな……ぐふぐふぐふ』だったからである。最悪の出会いだった。
「いやよ、あんな奴気持ち悪い。それに私は嫌がっている亮をいじめるのが好きなの」
完璧なるドSとはこのことを言うのだと俺は理解した。しかし、これでまたアキレス腱が鍛えられるな………なんだが複雑なんだが。
「桜参亮。君はなんてうらやましいんだ…」
見れば谷枝がこちらをうらやましそうに眺めていた。つうか今すぐ変わってくれ。
そのほかからも視線を感じたが、それは月乃に好意を抱いているものであろう。こいつは頭もいいし容姿もいいからモテるんだろう。それならば俺から離れて誰かとくっついてしまえばいいと思うんだが。
ぎゅむり、ぎゅむぎゅむ………。どうしてだろうか。
いろんな意味で疲れた始業式が終わり、各自教室に戻ることとなった。
こうして周りを見渡してみると少しはnumberが確認できる。
手の甲、首の後ろ、腕……などに製品番号が刻まれている。月乃のは特別なケースで、顔には普通は製品番号は刻まれない。まぁ、その容姿にアクセントといった形で一部マニアには受けるのだろうとは思うのだけれども。
この学校に何人numberがいるのかはわからないけども、差別は必ず存在する。そう、すぐ近くに。
俺にはnumberを守る義務があるのだと父さんは言う。それは父さんが科学者だからそう言うのだ。でもそのおかげで小さいころから俺の周りにはnumberがいたので差別なんて言葉は今になっても出てこない。
それはとてもいいことだと思う。それならばお前が守ればいいのだ、と父さんは言う。確かに差別はしていないけども、考えたことさえないけど、そんな勇気や力が俺にはあるのだろうかとたまに思ってしまう。でも俺はできる限り行動してみたいとは思っている。
そんな思いにふけっていると、肩がぶつかった。
茶髪ロングの制服改造、指にはリングがいくつかはまっていた。
「いってぇなぁ……。てめぇ、気をつけろよ?」
この学校では専ら噂になっているいわゆる不良と呼ばれる奴らだったが、とくになにもされなかった。
「ひひひっ! マコトさんの機嫌が良くて助かったなぁ、お前」
取り巻きの一人が俺にそう言って過ぎ去っていった。
周りの人が安堵のため息をついたのが分かった。それだけで俺がどれだけの状況にいたのかが理解できた。
「おいおい、亮。あっぶなかったな~」
俺の目の前に音も立てずに現れたのは岩沢 蓮。こちらも茶色に染め上げた短髪であるが、別に不良ってわけではない。校則で禁止されていないから、ファッションの一環として染めているだけなのである。いつも通りのツンツン頭である。ちなみにこいつもnumber。
確か、背中辺りに製品番号は刻まれてあったはずだ。
「あいつら今日停学明けたばかりなんだってよ。運がよかったなぁ」
周りの人が微妙な感じでこちらを見ていた。また絡まれているのではないかと心配されているのだろうか。
「とりあえず教室戻ろうか、なんか俺絡まれているみたいに思われているからさ」
「なに!? 俺は不良じゃないからな!? 誤解するなよ周りのみなさん」
適当な奴に喋りかける蓮。『は、はぁ……』と曖昧な返事を返されるだけだったが。
教室へと向かう途中、アホの子が突然言い出した。
「俺らもさ、もう高校2年生なんだよな。ここいらで年齢=彼女いない歴ってのは結構厳しいもんだとは思わないかな、亮」
「いきなり何を言い出すかと思えば……。進学の話とかほかにすることないのか?」
「おーおー、取り繕ったって無駄だからな! 男は………そう、みんな獣なんだ」
周りの女子たちがサッと引いて行くのが分かった。
そりゃあ廊下のど真ん中でそんなこと堂々と言われたらねぇ。
「まぁ、その話はわかったから早めにやめないとそろそろ視線が厳しいよ」
周りからジト目で見られていることに今気づく蓮。
「うっ……おお、よし、早く教室へ行こう」
賢明な判断だった。
教室に着くと、ほとんどの生徒がもう席に着いており、空いているのは俺の席と蓮の席ともう一つだけだった。先生は教壇の上で仁王立ちをしていた。ちなみに女教師である。
「早く座りなさい、……あとは一人だけね」
先生は空いている席を眺めながらそう言った。そして視線を出席簿に戻すと、出欠を取り始めた。
「鵜川 月乃さん」
「はい」
後ろの席から声が聞こえた。ん?後ろの席から?
振り向くとそこにはツインテールの金髪美少女が座っていた。
しまった─────と思った。その表情が顔に出たのか、彼女はニコォと笑った。
俺の前に座っている男子生徒がこちらを振り向いていた。彼は勘違いして月乃に笑いかけた。
他人から見ればエンジェルスマイル……か。
しかし、俺にはこう解釈できた。
『私の前の席でよかったわね? これから毎日授業中いじめてあげる♪』
九割方正解だといっても過言ではないだろう。
ちく、とシャーペンが背中に突き当たった。
「おわぁ!」
思わず叫び声をあげてしまい、クラス中の注目を浴びる。
「どうかしましたか? 桜参君」
怪訝そうな顔で教壇に立つ先生は俺にそう問いかけた。
「う、……。いえ、なんでもありません」
クラス中が軽い笑いに包まれるなか、笑っていない奴が2人ほどいた。
もちろん月乃と谷枝である。
月乃は魅惑のエンジェルスマイル、谷枝はうらやましそうな目で眺めてる。
頼むからマジ変わってください。そう思う俺だった。
そんな日常生活が始まる。 ───その平和の先に何があるかもわからずに────
どうも、鳴月 常夜です。性懲りもなくまた新作を出すことに決定いたしました。
もう片方のTo the way of the mirrorも完結していないというのになんということだっ! とお思いになる方もいらっしゃるとは思いますが、どうか温かい目で見守ってくださると鳴月は喜びます。
さて、今回のお話はなんと前に一度投稿したことのあるものです。覚えていない方がほとんどだとは思いますが、キャラクターなどの名前はほとんど変わっておりませんので、もしかしたら分かった! あの作品だ! と思う方もいるかもしれません。
とはいっても舞台設定は前作の少し進歩したものと変わっていますので、違った目で見てくださるとうれしいです。
長くなりましたが、新作です。また不定期更新になるかもしれませんが、精一杯やっておりますでどうか応援よろしくお願いします。