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後輩 1

「集合何時か分かってる?」

「いや〜今日先輩来れるって聞いたからわっくわくっすよ」

「僕そこまで幽霊部員ってわけでもないのに」

「先輩こそ何でこんな早くに来たんすか?」

「普通に課題を片付けたかったから。君がいるからもう課題が出来ないことが確定したんだけどね」

「邪魔はしないっすよ〜」


 煙草に火をつけてコントローラーを握る。篠宮先輩が居ないのだから窓を開ける必要もない。


「僕が課題やってる横でランクマッチしてるでしょうが。ゲーム出来ない人の横でしかも煙草吸いながら」

「先輩、分かってます? ここ、部室っすよ」

「…それも、そうだね」

「じゃあ、やりましょうよ」

「ほら邪魔するじゃん。もういいよ抵抗しても無駄だし」

「そう言う割には楽しそうっすけどね〜。しばらくぶりなんじゃないすか?」

「僕は家でゲームをしないからね」


 器用にコントローラーを操作しながら、先輩も煙草に火をつける。左ひじで目の前の灰皿を二人の中間にずらす。


「ゲーム好きなら買えばいいのに〜。バイトもしてるんすよね?」

「してるね。老人ホームで清掃してる」

「よりによって老人ホームを選ぶって珍しいっすよね。俺ならまず選ばないっす」

「いや、君の髪の毛だと選ぶというより選ばれないよ。絶対に落とされる」

「介護って人手不足なんじゃないんすか?」

「そうらしいけどね。僕はあくまで清掃だから介護はしないよ。資格もないし。それに考えてもみなよ。自分のおじいちゃんを君みたいな髪した人に面倒見てもらいたいと思う?」


 介護施設で働くなんて考えたこともない。いかに楽して稼げるかがバイト選びの基準の俺と、人のできている先輩とでは尺度が違う。


「絶対いやっすね」

「じゃあもう答え出てるじゃん。君はバイトしてないの」

「カラオケの店員してますよ〜」

「あ〜似合うね」

「カラオケへの偏見ありますねそれ」

「それは申し訳ないな。君以外のカラオケ業界の人に謝るよ」

「ひで〜な〜。先輩やっぱりこのゲーム強いっすね」

「君が接待プレイしたからでしょ」

「そんなことないすよ…そういや今日は篠宮先輩は一緒じゃないんすね」

「今日は予定があるみたいだよ。友達と買い物にいくらしい」


 篠宮先輩のことは苦手だ。自分の理想の男性像を先輩に求めすぎている。そのままの先輩で充分に魅力的だというのに篠宮先輩はあるがままを受け入れない。


「へぇ〜俺が彼女ならずっと一緒にいたいってのに贅沢な人っすね篠宮先輩」

「きっもちわる。もしかしてそっち系なの? 今の時代偏見は無いけど僕には興味を持たないでほしいな」

「ひでえ〜。ちゃんと女性が好きっすよ。安心してください」

「山下は彼女いないの?」

「そっすね。サークル楽しいし、女といるより男でワイワイしてるほうが性に合ってますし」

「オカ研にも川名ちゃんと香織がいるじゃん」

「川名はいいんすよ。篠宮先輩はなぁ〜」

「川名に言いつけてやろう。香織のこと苦手か?」

「…まあ正直苦手っすね。キャピキャピしてて」


 ここで嘘をついたところで先輩はきっと気がつく。それにそのほうがより先輩を傷つける。


「あ〜まあ今時の女子大生って感じだよね。でもいい子だよ」

「はいはいお幸せに。このまま結婚でもしたら式場のスクリーンに先輩がやらかしてきた歴史全部映してやりますよ」

「心当たりがないなぁ。それにしても皆遅いね」

「いや…まだ集合時間まであと二時間あるんで」

「分かってるよ冗談。ちょっとコンビニ行ってこようかな。何か欲しいものある? 酒以外で」

「ん〜そしたらドクペ頼みます」

「あれそこいらのコンビニじゃ売ってないんだよ他のにして」

「え〜じゃあコーラでいいです」

「おっけ。じゃ行ってくるわ」


 三年生になって色々と忙しいのだろう。最近は月に一度来るか来ないかといった具合だ。そのせいで部室は常に川名と坂田、俺の三人の溜まり場になっている。


「おはおはよ〜」

「ばかなじゃんはえーな」

「蹴飛ばすぞ〜山下こそ何ゆえにこんな早く?」

「今日は先輩が来る日だからに決まってんだろうが」

「して、先輩は何処に? カバンだけあるけど」

「コンビニ」

「ほぇ〜。今日は篠宮先輩一緒じゃないんだ?」

「そだけどなんでわかんの?」

「キツイ香水の匂いしないから」


 嘲るような言い方が気になった。普段女子同士ということで傍からは仲良さそうにしている。


「お前、篠宮先輩のこと嫌いなの?」

「はあ? 彼氏でもないくせに私のことをお前って呼ぶな。てか篠宮先輩のこと好きな人なんて田宮先輩くらいでしょ。おかしいよあの人」


 何かあったのか? こいつがここまで他人を悪く言うのを見たことがない。


「いや…先輩が選んだ人なんだからそこまで言うことないだろお前」

「山下! ホントにお前って呼ぶ癖直したほうがいいよ。嫌われるよ私は既に嫌いかけてる」

「そこまで言うことないだろ、ばかな」

「篠宮先輩は自分が世界で一番大事だし、田宮先輩の彼女でいる自分が好きなだけなんだよ。田宮先輩のことなんて何も考えてない」

「おま…ばかなは田宮先輩のこと好きなのか?」

「全く。顔がタイプじゃない」


 というか、ばかなと呼ぶのは良いのか。なんだこいつ。


「先輩のこと何も考えてないってことはないっしょ〜。彼女だぜ?」

「いや〜。まあいいや」

「気になるだろ言えよ」

「ただいま〜。お、川名じゃん早いね」

「先輩おはおはよ〜」

「相変わらず変な奴だな川名は」


 間の悪い先輩だ。まあ、幾らでも聞く機会はある。普段この部室には三人しかいないのだから。


「先輩先輩聞いてくださいよ〜。山下が私のことをお前って呼ぶんです酷くないですか?」

「山下…女性にお前は良くないぞ」

「はぁ…ま、気をつけるようにしますよ」

「坂田くん来るまで何します?」

「何でもいいけど…寧ろ坂田くんが来たら何する予定なの?」

「麻雀すね」

「先輩気をつけてください。そこの山下とか言う男、イカサマしますから」

「…山下。負けるのが悔しいのなら練習すればいいじゃないか。ズルは良くないぞ」

「待ってくださいよ。ばかなの言うこと信じすぎですって」


 川名の奴、ここぞとばかりにコケにしてきやがる。


「じゃあ坂田くんが来るまで僕は課題をやってもいいかな」

「もちろんです!山下は羽交い締めにしときますので!」


 ふざけるな。羽交い締めにはされなかったが真横に座られる。本気で監視するつもりなのか。


「あ、先輩タバコ吸います?」

「麻雀始まったら吸うだろうから今はいいかな」


 首に弱々しい力を感じる。どうやら掴まれているようだ。


「次話しかけたら根性焼きいれるぞ」

「わーったよ。黙る黙る」


 スマホを開いてネット小説を開く。川名が横から画面を覗き込んでくる。これも監視の一環だ、とか言っていたが途中から顔を乗り出して画面を追いかけていた。暑苦しいことこの上ない。それと自分が女性であることを忘れないでほしい。

 三分の二程読み進めたところで坂田が汗まみれで現れた。タオルを放り投げ、拭いてから入ってくるよう促す。


「失敬。遅くなり申した」

「集合何時だと思ってんだ。時間通りだわ」

「待ってね〜ここだけ書いたら終わりにするから」


 先輩が課題を完成させた所で雀卓を用意する。中古で購入したマットを敷き、牌を混ぜ合わせる。


「田宮殿お久しぶりでございます。勉学が忙しいのでありますか」

「色々立て込んでてね〜中々来られなくてごめんね。今日は夕方まで居られるから打ちまくろう」

「あ、先輩先輩灰皿貰えます?」

「…え! 川名煙草吸うの!?」

「女の子だからって煙草を吸ってはならないという決まりはないはずですぜ、先輩…」

「何その口調…びっくりしただけだよ。あ、じゃあ全員喫煙者だね!」

「窓開けなくて済むんでまあ楽っちゃ楽っすね」


 他愛もない話をしながら打つ麻雀は楽しい。これぞ大学生の夏休みだ。結果は惨敗。川名の一人勝ちだ。


「楽しかったな〜。川名強いね!」

「どこかの山下が張ってるのを直ぐ放銃してくれたのでテンポ良く上がれましたからね〜」

「山下は自分が上がることしか考えてない打ち方だもんね」

「それもあるのかも知んないっすけど、川名がフツーに強えんすよ」


 坂田も頷いている。普段三人の時は暇な友達を誘って麻雀を打つがその時も大抵川名が勝つ。健全な賭けのない麻雀だからいいが金を賭けた状態で川名と打つのはごめんだ。


「…やっぱりここは楽しいね〜。それじゃあぼちぼち帰ろうかな」

「先輩次はいつ頃来れるんすか?」

「ん〜どうだろ。今月は難しいかな…あ! 十九日なら来れるよ!」

「私も来れます!」「拙僧も馳せ参じる所存」

「ん〜うっわ。バイトだ…」

「はぁ? 先輩が来れるって日になんでバイト入れてんのあんた!」

「いや、来れるって分かったの今じゃん…」

「マジで。絶対に変わってもらえ分かってんだろうな」


 近い。


「分かってるよ! ぜってー来れるようにする。また遊びましょうね先輩!」

「…うん、楽しみにしとくよ。それじゃ今日はありがとね」

「こちらこそっす。お気をつけて!」


 最後、表情が少しだけ薄かった。煙草を吸いながら最後の表情の意味を考えていると雀卓を片付けるのを手伝えと小さい女が胸ぐらを掴んできた。

 雀卓を押し入れに仕舞うと、坂田と川名は溜め込んでいる酒をグラスに注ぎ酒盛りを始めていた。


「先輩は相変わらず至上の人格者でありますな!」

「な。山下も見習えバカ頭のクソ大学生」

「うるせえぞお前」

「お、おま! 坂田!またこいつ私のことお前って言った!」

「まだ一口しか飲んでいないのに出来上がり過ぎである件について」


 二時間程すると二人とも酔いつぶれていた。床に突っ伏して寝ている川名をソファーへ引き摺る。坂田はそこで寝てろ。

 とりあえず十九日のバイト変わって貰わないと…。グループラインしてみるか。


『八月十九日、急用が入ってしまいました。どなたか変わって頂けませんでしょうか』


 場合によっては賄賂でも渡すか。意地でも休みを手に入れてやる。


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