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彼女 1

 茹だるような暑さの中大学へと足を運ぶ。夏休みも終わりだというのにここ最近の気温は異常としか思えない。三十五度を超えたらテレビで騒いでいたのは子供の頃の話だ。未だに忙しなく鳴き続ける蝉の声が鬱陶しい。

 ハンカチで抑えるようにして額の汗を拭う。ペンキの剥がれた階段を登り、オカルト研究会のサークル部屋へと向かう。


「おはよ…」


 三人いる部員達が口々に挨拶を返してくれる。エアコンの冷たい風が心地良い。日傘を畳み、壁に立てかける。


「今日先輩一緒じゃないんすか?」

「えーっと今日は用事があるから来れないってさ」

「最近先輩全然来ませんよね〜。飽きちゃったんすかね」


 彼は後輩達に好かれている。とりわけ山下君は彼の事を慕っている。彼が居る時と居ない時で声色が随分と違う為露骨で分かりやすい。


「うむ。では例によって学園TRPGでもしますか。今回のシナリオは自信作でありますぞ」


 坂田君が得意げに眼鏡を人差し指で持ち上げる。名目はオカルト研究会だが大抵はネット掲示板を見ているか、大学の課題をやるかTRPG、カードゲームをするというのが専らの活動になっている。


「田宮先輩が最後に来たのっていつ?」

「うむ、八月十九日ですな」

「じゃあもう一月も来てねぇじゃん…元気っすか先輩」

「…元気だよ。ま、とりあえずやろうよゲーム!」


 彼についての追及を逃れるように話を逸らす。私が最後に連絡を取ったのも八月十九日。


『それじゃまた』


 八月十九日、バイト終わりにケータイを開くと一通のメールが届いていた。脈略もなく送られてきたこの一通のメール以降彼とは音信不通になっている。日頃から頻繁にやり取りをしていたわけでは無いが、連絡をすると大抵その日のうちに返事は来ていた。

 毎日下宿先のアパートへ足を運んでいるが、生活をしている気配が感じられない。ポストには山程のチラシが詰め込まれているし、同じシャツがベランダに干したままの状態で風に揺られている。大家さんに聞くと家賃は支払われているらしく、問題視はしていないようであった。

 彼の友達は多くない。学内で連絡先を知っているのはここにいる四人だけだ。きっと彼らにも教えてあげるべきなのだろうが言えずにいる。後ろめたい事があるわけではない。だが伝えれば今の日常は壊れる。それに彼らも直に気がつくだろう。


田宮悟は、きっともう居ない。

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