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4. 登場人物を振り返る




〈えっと……お話をするには、貴方にその『資格』があるのか確かめる必要があります。真実を知るに相応しい男か、しばらく見定めさせてもらいましょう〉


 苦し紛れにひねり出した台詞で、とりあえずお茶を濁すことにした。

 真ヒーローからの溺愛が約束されているのに、私のせいで運命が狂ってしまったら元も子もない。

 だからまだ、うやむやにしておきたかった。


 


 目覚めた初日から衝撃の連続だったけれど、そこから私の奇妙な異世界生活が始まった。

 とはいえ、実体の無い私に何かできるわけではない。エディウスの背後霊の如く、彼の生活を眺めるだけの毎日。


 結局その後もアパートで目覚めることはなく、エディウスと共に朝を迎えるのも十日目となった。

 その間に分かったことは、食欲や睡眠まで彼と『共有』していること。どうやら五感が連動しているらしい。

 そのせいなのか、この世界で暮らしている実感も湧いてきて、不思議と現実世界へのホームシックも起きなかった。

 死んだわけでもないだろうし、そのうち勝手に目が覚めるはず。それならば現実に戻る前にこっちの異世界を存分に覗いてみたいと、そんな風に楽観的に思っていた。

 


 そんな私が今考えていることは、とにかくこの物語の行く末を見届けたいということ。

 たまたま目に留まり、うつらうつらしながら途中まで読んだだけの小説。けれどヒロイン・リオレットの境遇がどうなるのか、それが気になって仕方がなかった。


 


 最後の宣言以降、私はエディウスに話しかけず、彼もまた私を呼び出そうとはしなかった。

「しばらく見定めさせてもらう」と言う私の言葉を、彼は忠実に守っているようだ。

  

 そんなわけで、話し相手もなく暇を持て余した私にできることは、唯一この異世界の観察だけ。

 侯爵家の息子であり小説の悪役である彼は、そんな私にとっては特等席だった。彼を通して見た貴族生活は、一見すると優雅でもそれほど楽ではないことを知る。

 

 エディウスは毎日馬車で王宮に通い、宮廷会計院という所で働いている。現在十九歳の彼は、上官の下で仕事に取り組んでいた。

 この十日間で休みはたったの一日、仕事終わりの夜会への参加は二回。それさえも社交という名の仕事のようで、華やかな表舞台の裏でかなりハードワークをこなしている。


 

 そんな日々を眺める中で、ずっと気になっていることがあった。

 それは彼らが『日本語』を話しているということだ。


 初めは特に気にならなかった。

 何故なら小説の登場人物たちの台詞は日本語で書かれていたから。日本の小説なのだから当然だ。


 だけどエディウスが外に出て、様々な人と会話をする中で「あれ?」と違和感を覚えた。

 どう見ても日本人とは程遠い外見なのに、会う人全てが流暢な日本語を話す。ではそういう世界なのかと思いきや、周囲は見覚えのない文字で溢れている。


 小説やマンガ、アニメなら『日本語吹き替え』されていると思って割り切れるけれど、生身の非日本人たちがネイティブな日本語を話しているから奇妙な感覚に陥ってしまう。

 それに加えエディウスは、一人称を『俺』と『私』とまで使い分けていて、この国の言語は一体どうなっているのかと不思議に思った。

 

 とはいえ、答えの出ないことを気にしていても仕方がないので、言葉が通じてラッキーくらいに思うように頭を切り替えた。


 

 

 そんな生活にも慣れ始めて、更に一週間が過ぎた頃。

 再びエディウスがサリアン邸を訪れる日がやって来た。どうやらリオレットとは月に一、二回は必ず会うことになっているらしい。

 


 それを知った私は、今回は前もって情報を整理することにした。 

 

 私としては、リオレットの現状を好転させてあげたい気持ちがある。それにコリーヌ母子を野放しにしておくのも癪だ。

 小説には『ざまぁ』タグが付いていたから、放置していてもいずれは因果応報が巡ってくると信じている。けれどあのいたたまれない空気がこれからも続くのかと思ったら、非常にモヤモヤしてしまうのだ。



 だから自分の気持ちを落ち着かせるために、現時点で私が知っていることを再確認したい。

 小説の内容と、ここで知った情報を加えて短くまとめることによって、記憶と認識を自分の頭にしっかり叩き込んでおきたいと考えた。



―――――――――― 


【登場人物】


●リオレット・サリアン:小説のヒロイン、十七歳(推定)。伯爵家の長女。十歳の時に実母を亡くす。

 その数ヶ月前にエディウスと婚約。宮廷舞踏会で社交界デビューを果たした当日、エディウスから婚約破棄を言い渡される。原因はミレイナのドレスを汚した疑いを掛けられた為。

 それまでは、彼に対して好意を抱いていた様子あり。


●エディウス・ニールセン:リオレットの婚約者。現在十九歳。数年以内には伯爵家に婿入りする予定らしい。

 宮廷会計院で働く。会計副官長という役職を持ち、会計官長の補佐として実務経験を積んでいる。

 

●コリーヌ・サリアン:サリアン伯爵の元妾で、現正妻。

 前妻の妊娠中、伯爵がコリーヌの住む別邸に通いミレイナを出産。リオレットの実母が亡くなった一ヶ月後に後妻として現れる。


●ミレイナ・サリアン:リオレットと同齢の異母妹。

 リオレットと一緒に宮廷舞踏会で社交界デビューを果たす。エディウスに気があるような素振りあり。

  

●ヤンデレ騎士(名前不明):今のところ、どこの誰かは不明。小説の真ヒーロー。

 宮廷近衛府に所属(?)。リオレットが庭掃除をしている時に顔見知りになり、挨拶を交わす仲になる。

 ※もしかしたら過去にリオレットと会ったことがあるのかも?


――――――――――


 

 物語はこの五人を中心に動いていた。全ての元凶であるサリアン伯爵は、私が読み進めた範囲では殆ど登場していない。


 こうして改めて振り返って見ると、今のリオレットはエディウスに恋……まではいかなくても、それに近い感情を抱いている可能性が高い。

 婚約破棄を言い渡された時、リオレットの『彼が生きる希望だった』という言葉が、私の中でいやな感じに燻っている。



 本来の真ヒーローに救われ、幸せな未来が待っているのだからそれを待てば良いということは分かっている。

 若干、ヤンデレ騎士の『ヤンデレ』具合が気になるところではあるけれど、それだけ彼女への想いが深いなら問題ないだろう。  

 読み手の私としても、ヤンデレ展開は割と好きでもある。執着も愛が重い系も楽しく読めるし、それによってリオレットが幸せになれるなら邪魔をしたくないと思う。


 だけど、もし彼女がエディウスへの想いを変わらずに持っていて、彼もまた心を入れ替えるなら――――それも彼女の幸せにはならないだろうか。

 

 そんなもしもの展開まで考え始め、今回二人が会った時にどんな目で見たらいいか迷い始めていた。



◇ 


 

「レノ、今日は約束の時間よりも早く家を出る。慌てる必要はないが、昼食を早めに済ませて午後になったらすぐ出発したい」


 朝を迎え、エディウスが身支度をしながら従者に声をかけた。

 

「途中、どちらかに寄られるご予定ですか?」

「いや、そういうわけじゃない。ただ少し早く行って伯爵家の様子を見たいんだ」

「かしこまりました」

 

 私はその意味を感じ取り、少し胸がどきどきしてきた。

 これはもしかして、リオレットのことを気にしているのでは?

 


 そう思った私は、ここで賭けをしようと思った。

 もしエディウスが私の助言なしで伯爵家の闇に気付けるなら、再び女神となって彼に真実を伝える。

 もし変わらない様だったら何もしない。その時はヤンデレ騎士にリオレットを任せようと考えた。



 そして数時間後。

 エディウスは昼食を済ませ、その後すぐに屋敷を出発した。前回と比べると一時間以上は早い。


 外は灰色の雲がどんよりと覆い、今にも雨が降りそうな空をしていた。風も少しあるらしく、馬車が横揺れする為かゆっくり走らせている。それでも前回とそれほど変わらない時間で伯爵邸に到着すると、正門の反対側の道端に馬車は停められた。


「ここから少し散歩をする」


 降車して石畳に足を下ろすと、エディウスはレノを連れて伯爵邸の庭に沿って歩きだした。

 石柱と鉄柵で囲まれた大きな敷地。柵越しに小さな噴水と緑の庭園が見通せる。


 エディウスは黙ってそれらを眺めながら歩いた。やがて伯爵邸の端まで来た時、それまで口を閉じていた彼が呟いて足を止めた。


 

「……リオレット?」


 その声に誘われるように彼の視線を辿ると、一人の使用人が庭掃除をしていた。

 私はハッとした。ここで出会えたのは一つの運命だったのかもしれない。


 そこには伯爵令嬢とは思えない、使用人服を着たリオレットが箒を持って立っていた。



 




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