2話
夜明け前の村は、まだ深い眠りのなかにあった。霧が薄く森を覆い、家々の屋根には白い霞が絡みついている。鳥たちが一声二声と鳴きはじめるその静寂の中で、六つの影がゆっくりと村の中心へ集まっていた。
約束の時間より少し早い。しかし誰一人、遅れてくる気配はない。むしろ、眠れぬまま夜を越した者がほとんどだろう。
「ふぁぁ……眠い……けど、行くぞ!」
アカネが大きく伸びをし、まだ薄暗い村道を軽く跳ねるように歩く。
「昨日あれだけ夜更かししてたんだ。眠いに決まってるだろ」
ソウマが呆れた声で返すと、アカネは舌を出して笑った。
「ソウマだって同じでしょ〜? 顔がね、寝てない顔してるよ?」
「アカネが言うのか……」
小さな笑いがこぼれる。
緊張と不安が入り混じる朝でも、その空気は変わらない。
「おはよー…、まだ眠いや…」
村の外れから現れたルシアンとアイ。二人とも眠そうに大きな欠伸をしている。
「おはよー!みんな早いな!」
4人の方にレンが手を振りながら駆け寄る。
レンの大きな声に驚いたのかアイはぱっと目を開く。隣に立つルシアンの方を見上げる。
「ねぇ、ルシアン。ちゃんと寝れた?」
「……まぁ、ちょっとだけどなんとか。アイは寝れたか?」
「ん〜、半分だけ?。でも、ワクワクして寝れなかった」
そう言って笑うアイの声は、夜明け前の空気の中でやけに澄んで聞こえる。
「……今日もあの2人は平常運転ね」
アリサはそんな二人を見て、ぼそりと呟いた。
「おー!アリサ遅いぞ!それと何かいったか?」
アリサに気づいたレンが聞き返す。
「べつに。さ、早く出るわよ。今日遅刻する訳には行かないんだから」
「お、真面目だな」
「いつも真面目よ!」
どこか照れたような、意地を張るような声。そのやり取りにも、六人の日常が滲んでいた。
そして六人は村の入口へと歩き出す。
そこには、村の人々がぽつりぽつりと集まっていた。
「みんな……!」
アカネが目を丸くする。
まだ夜が明け切らない時間。それでも村の大人たちは、六人が通る道に集まり、小さな松明を灯していた。
「気をつけて行くんだぞ」
「お前らなら大丈夫だ」
「ちゃんと食べたか? お腹は空いてないか?」
「模擬戦になっても慌てるんじゃないよ!」
次々と声がかかる。
普段は厳しい農夫も、寡黙な鍛冶屋も、みんな優しい目をしていた。それはまるで、六人が村の子どもではなく“大人として送り出される儀式”のようだった。
「……なんだよ、こんなの。緊張してきたじゃねぇか」
レンが肩をすくめると、ソウマが静かに笑った。
「緊張するくらいが、ちょうどいいんだ」
「ソウマが言うと説得力あるなぁ」
アカネが感心したように頷く。ルシアンは村人たちに深々と頭を下げた。その背中を見て、村の老人が静かに言う。
「お前たち六人が、村の誇りだよ。胸を張っていってこい」
その言葉に、アイの目が潤んだ。
「うぅ……なんか泣きそう……」
「泣くなよ、まだ出発してないぞ」
ルシアンが軽く笑うと、アイは慌てて目を擦った。
「泣いてない! これはね、風のせい!」
「はいはい」
軽いツッコミ。だけどその一言に、緊張がふっと解ける。村人たちに見送られながら、六人はゆっくりと村を後にした。道の先には、朝焼けが広がりはじめていた。
――王都へ向かう長い道が、ようやく始まる。
森を越え、丘を抜け、川沿いの道を歩き続ける。
「しかし……王都ってさ、どれくらい大きいんだろうな」
レンが荷袋を肩にかけ直す。
「村の百倍以上はあるらしいよ。お兄ちゃんが言ってた!」
アカネが頷きながら答えると、レンは眉をひそめた。
「まじかよ、そんなにか? 俺、自信ねーわ……」
「心配しなくていいよ。迷ったら私が迎えに行くから!」
アカネが胸を叩いて笑うと、ソウマが慌てたように咳払いをした。
「……アカネ、試験よりそっちの方が危ないぞ」
「え? なんで?」
ソウマは呆れたような顔をしたがいつも通りのアカネに少し緊張が和らぐ。
一方で、後方を歩くルシアンとアイはというと――
「ねぇルシアンはさ、筆記試験って得意なの?」
「……普通、だな」
「普通って言ってる時のルシアン、絶対得意なんだよね」
図星だったのか、ルシアンは少しだけ視線をそらす。
「アイは大丈夫なのか?」
「え? あ、うん。……うん、たぶん、きっと……大丈夫……?」
声がどんどん小さくなる。
「不安しかないぞ」
「うぅぅ……! でも、みんなと一緒に学園に行くためと思うと……頑張れる!」
にっと笑うアイ。その顔には迷いがなかった。
「……頼ってばかりじゃダメなんだけどね。でも、いてくれると心強いんだよ」
なぜかルシアンは言葉に詰まった。
「……まぁ。お前が落ち着いて受けられるなら、それでいい」
「……! うん!」
アイは小さく拳を握った。
朝の陽光が二人の影を長く伸ばし、それはゆっくりと村の方へ溶けていく。
六人の足取りは軽く、それでいて確かな決意を秘めていた。
川沿いの道を越えるころには、太陽は完全に昇り、王都の外壁が遠くに見え始める。
「……見えてきたぞ」
誰ともなく呟いた声が、六人の背筋を伸ばした。
世界が変わる地点が、目の前に迫っている。
王都の外壁は、ただ高いだけではなかった。陽光を受けて淡く輝く白石の肌は、幾百年もの歴史を抱えながら、一切の汚れを寄せつけない威厳をまとっている。城壁の上には魔導塔がいくつも立ち並び、塔の頂から淡い魔力光が糸のように溢れ、空へと溶けていく。
「うおお……ほんとにデッケぇな……」
レンが口を開けたまま立ち尽くす。
「前にお母さんたちと来たときは、もっと小さく見えたのに……」
アリサが瞳を丸くして呟く。
「僕たちが成長したってことだよ」
ソウマが穏やかに言い、しかし自分も壁から目を離せていない。
アカネは兄が学園に通っているということもあり、性格とは裏腹に少し落ち着いていた。
「相変わらず大きいな~!慣れるまではさすがに時間がかかりそうだね」
その横で、ルシアンとアイはしばし静かに王都を眺めていた。
「……やっぱ、大きいね」
アイがぽつりと漏らす。
「だな。さすが王国の中心だ」
ルシアンは淡々と言いながらも、その指先にはわずかに緊張の色が宿っていた。
アイはその小さな変化を見逃さない。
「あれ?もしかして、ルシアン、緊張してる?」
「してない」
即答。しかし声がほんの少しだけ低い。
「……ふふっ」
アイは嬉しそうに笑った。
6人は王都へ続く巨大な門へ近づいていった。
門前には、すでに馬車の列、旅商人の掛け声、兵士たちの警備、行き交う観光客……まるで一つの祭りのような活気だった。
やがて6人の順番が訪れる。門番の兵士が六人に優しく声をかける。
「おまえたち、もしかして王国学園の受験か?」
レンが元気よく胸を張る。
「もちろんです!」
「ははっ、いい返事だ。迷わず真っすぐ進め。その先に試験会場がある。道は人の流れが教えてくれるはずだ」
六人は揃って礼を言い、王都の内部へ足を踏み入れた。
一歩入った瞬間、空気が変わる。生地や果物の香り、鍛冶場から聴こえてくる金属の響き、商人たちの威勢のいい声。家々の屋根は赤や青に塗られ、石畳の道は朝日に照らされて美しく光っている。
「見て!あの店のパン、おいしそう!」
アカネが駆け出しそうになる。
「だめだ。試験前だぞ。そんなに走るな」
ソウマがまた止める。だがその表情には諦めと優しさが入り混じっていた。
「おおっ、あの装備屋、めっちゃ好きな見た目してる!」
レンは鎧を食い入るように眺める。
「鎧を見るのは後にしなさい」
アリサが呆れ気味に言うが、彼女自身も弓具の店に目線が吸い寄せられていた。
アイはルシアンの隣で、わざと肩が触れるくらいの距離で歩く。
「ルシアン、王都の匂いっていいよね。パンとか果物とか……なんかあま~い匂いする」
「気のせいじゃないか?」
と言いつつ、ルシアンも無意識に深く息を吸い込む。
アイはくすっと笑う。
「ルシアン、王都に来てからずっとソワソワしてるよ?」
「してない」
「嘘。耳、ちょっと赤い」
ルシアンは思わず耳を触る。そして、ほんの少しだけ目線を逸らした。
アイはその姿を見て、胸が温かくなる。
(……やっぱり可愛い)
だけど口には出さず、ただ小さく笑った。
王都中心部へ向かうにつれて、人の数が増えていく。
そして——ついに見えた。
王国学園の正門。巨大なアーチ状の門。その上部には王国の紋章である“五芒星と羽”が刻まれている。
広大な敷地に、魔法塔、訓練場、図書館、寮。そして中央には白い学舎がそびえる。
「……すご……」
アリサが呟く。弓を扱う細い指が、小刻みに震えていた。
「こりゃあ気合入るな」
レンが深呼吸する。
ソウマは真顔で言う。
「落ち着け。まだ始まってもいない」
「いや、お前のほうが落ち着いてないぞ」
レンが笑う。
そして六人は、試験場入り口へ向かった。
そこには——
数千人。
見渡す限りの受験者。村とはまるで違う。これが、たった30席しかない学園への入学を志した、国中の才能が集まる“舞台”だった。
「……こんなに……」
アイが一瞬怯んだ声を出す。
ルシアンは横目で彼女を見ると、ぽつりと言った。
「大丈夫だ。アイは強い」
「っ……」
その言葉は、まるで魔法よりも強い支えになった。
長い列を抜け、六人は受付テントへたどり着く。受付係の魔導士が、大量の紙と番号札を前に、次々と受験者を捌いていた。
「次の方、どうぞ」
ルシアン、アイ、レン、アカネ、ソウマ、アリサと名前を読み上げ、魔導士は六枚の札を机の上に並べた。
「あなた方は……」
指示棒が動く。
「ルシアンさんとアイさんが第一グループ。
アカネさんは第二グループ。
ソウマさんは第三グループ。
アリサさんは第四グループ。
レンさんは第五グループです」
「お前とアイ、また一緒かよ~」
レンがにやにやしながら肩を叩く。
ルシアンは無表情だが、わずかに眉が動いた。
アイはというと頬をほんのりと桃色に染めていた。
「ま、まあ……その……よ、よろしく、ね……?ルシアン……」
もじもじ。
「何でそんなに緊張してるんだ」
「べ、別に緊張なんてしてないし!」
アイの声がひっくり返り、周りがクスッと笑う。
ルシアンは、誰にも聞こえない声で言った。
「……よろしくな」
アイは一瞬固まり、そのあと目に見えて飛び上がるように嬉しそうにした。
「では、1、2、3グループの方は先に筆記試験になりますので学舎へ。4、5グループの方は実技試験になるので訓練場の方へどうぞ」
魔道士はそう伝えるともう一度口を開き、
「みなさん頑張ってくださいね」
その言葉に対し、6人は大きく頷く。
「…俺とアリサは先に実技か」
レンがボソッと呟く。
「まぁレンは実技で頑張らないと筆記はヤバいだろうから、頑張って」
ソウマがレンにそう投げかける。
「そうだけどそんな事言うなよー!」
「ソウマ、それは私にも効く…」
レンとアカネが焦り出す。
「まぁでも正直、筆記が0点でも私たちなら大丈夫でしょ」
アリサが口を開く。
「アリサがそんな事言ってくれるなんて嬉しいじゃ~ん」
アカネが嬉しそうにアリサに抱きつく。
「調子に乗るな」
そう言いながらアカネを小突く。
「照れちゃてるんだから、も~!」
6人には自然と笑みが生まれた。試験直前の緊張が和らいでいく。
会場となる学舎に足を踏み入れると、受験者たちのざわめきが一斉に耳へ押し寄せた。
広い教室には既に多くの若者が席を埋め、その熱気は天井へと揺らぐように反射している。
用意された席に四人は並んで腰を下ろし、周囲をそれとなく見回した。
「みんな強そうだね……」
アイがぽつりと呟く。緊張というより、純粋な驚きが混じっていた。
「そうだな。強くなりたいって気持ちが、本気でここまで連れてきたんだろう」
ソウマが落ち着いた声で返す。
ルシアンは何気なく隣のアカネへ視線を向けながら言った。
「どんな問題が出るかな。対策は一応したけど、同じようなのが本当に出るのか……」
「え~どうだろうね~。お兄ちゃんの時のがそのまま出たりしないかな~、なんて」
アカネは冗談めかして笑うが、どこか期待しているようにも聞こえる。
「丸々同じってことは無いだろうが……傾向が似てると助かるな」
ソウマが真面目に返す。
するとアイが慌てたように両手をバタつかせた。
「そ、そうじゃないと私とアカネやばいよ!!」
そんな和やかな空気の中、教室の入口付近がざわつき始める。
「……なにかあったのかな?」
アリサが首を傾げる。
「有名人でも来たんじゃない? ほら、お姫様とか!」
アカネが笑いながら、冗談として放った──はずだった。
「いや、どうやら本当にそうらしい」
ソウマの視線に釣られて入口を見ると、そこには長い銀髪を揺らしながら歩く少女の姿。
その気品は隠しようがなく、誰の目にも王族のそれだと分かった。
国王の双子の子──セレナ姫。
「ほ、ほんとに!? 確かに同い年だったはずだけど…、っていうかめっちゃ可愛い!っていうか綺麗!」
アイのテンションは一気に跳ね上がった。
セレナは静かに席を探していた。しかし周囲の受験者たちは、隣に来られてしまえば緊張してしまうと考えたのか、誰も積極的に声をかけようとはしない。
そんな沈黙を破るように、教室に響く大声。
「おーい! お姫様ー! こっち空いてるよー!!」
アカネだった。
教室中の視線がアカネへと集まる。しかし、セレナ本人はその声に迷うことなく近づいてきた。
「ありがとうございます。お隣、よろしいんですか?」
丁寧な言葉に、アカネは満面の笑みで返す。
「もちろんもちろん! こんな時じゃないとお姫様と話す機会なんてないし、むしろ大歓迎だよ!」
「では……失礼します」
セレナは柔らかな所作でアカネの横に腰を下ろした。
そしてふと、隣に並ぶ四人へ視線を向ける。
まるで何かを確かめるように、静かに、しかし鋭い眼差しで。
「……あなたたち、とても強いですね」
「へっ……?」
アイの口から間の抜けた声が漏れた。
セレナは小さく微笑んだ。
「いえ、気になさらないで。少し気配が気になっただけですわ」
彼女が言い終えた瞬間、壇上に試験官たちが姿を現す。ざわめきは徐々に収まり、重い緊張が教室を包み込む。
第一の試練──筆記試験が、ついに幕を開けようとしていた。
講壇に立った試験官が、澄んだ声で告げる。
「──それでは、第一試験。筆記試験を開始します」
その瞬間、広い学舎を満たしていたざわめきは、風が引くように静まり返った。紙がめくられるわずかな音や椅子の軋みが、妙に大きく響く。
ルシアン、ソウマ、アイ、アカネ──そして隣に座るセレナ姫もまた、一斉に問題用紙へと視線を落とした。
最初の数問は魔法史、属性理論といった基礎問題。しかし中盤に入ると、魔法災害の予測・対処、国境問題を模した状況判断など、容赦のない応用問題が並んでいた。
ルシアンとソウマは淡々と筆を走らせ、迷いの影すら見せない。一方、アイとアカネは途中から小さく唸り始める。
(うう……水属性の魔力循環の“例外”って何だっけ……!?)
アイはルシアンの答えを見たい衝動を必死に抑えつつ、ちら、と視線を向ける。
偶然その視線を受けたルシアンが、気づかれぬほどわずかに笑った。
会場の空気は重く、緊張感が張りついていた。それでも、この重さこそが“本物の試験”である証だった。
──そして。
「そこまで! 筆記試験を終了します」
試験官の合図と同時に、あちこちで安堵の息が漏れ、再びざわめきが広がる。
アイは机に突っ伏す勢いで肩を落とした。
「はぁ~~……生きててよかったぁ……。最後の問題、絶対わたしだけ違う世界線にいた……」
「確かに難しかったねぇ……」
アカネも髪を揺らしながらぐったりする。
ソウマは答案を整えながら静かに言った。
「ひねりはあったが、対策の範囲内だ。落ち着いて解けば問題ない」
「そうだな」
ルシアンが頷いたところで、隣のセレナが楽しそうに微笑んだ。
「皆さん、とても落ち着いていましたね。筆記でここまで冷静な受験者は、そう多くありませんよ?」
「そ、そうですか……?」
アイは照れ笑いを浮かべる。
セレナは四人を見渡し、穏やかに言った。
「同じグループでよかったです。……あなたたち、やはり強い。実技試験も楽しみですわ」
「私も楽しみ! 早く行こ!」
アカネは立ち上がるや否や、勢いよく訓練場へ向かう。
四人とセレナは彼女を追いながら、訓練場へ続く回廊を歩き出した。
訓練場へ向かう途中、すでに実技試験を終えた受験生たちが何人も通り過ぎていく。
その多くが、どこか怯えたような、興奮したような表情をしていた。
「……今年は王子と姫だけじゃなかったんだな」
「バケモノみたいな奴らが混ざってたぞ……」
そんな囁きが、否応にも耳に入る。
「おーい!」
聞き慣れた声が響き、四人が振り向く。
そこには──
両手を振るレン、疲れた様子ながら微笑むアリサ、そしてその横を堂々と歩く、王族特有の気品を纏った少年。
レオナード王子だった。
「……なんであいつら、王子と一緒にいるんだ?」
ソウマの疑問は、当然のものだった。
周囲の受験生たちもざわつき始める。
「ほら、あいつら……さっきのバケモノだよ」
「王子もすごかったけど、物理のやつと弓の子……完全に次元が違ったぞ」
その声に、ルシアンはレンへ問いかけた。
「……レン、アリサ。どれくらい本気出した?」
すると二人は、待ってましたと言わんばかりに胸を張る。
「100%!!」
「120%!!」
「レンが120%って言うなら、私は200%よ!」
アリサはどこか誇らしげだ。
「はぁ!? どう考えても俺のがヤバかっただろ!」
「何言ってんの、あんたの頭のほうがヤバいでしょ!」
取っ組み合いになりそうな勢いに、アイはくすりと笑う。
そして、ちらりとルシアンを見上げる。
「……じゃあ私たちも、本気出さなきゃね?」
ソウマが咳払いして話題を戻す。
「で、どうして王子と一緒に?」
「レンが話しかけたのよ。『王子と話す機会なんて滅多にない!』ってね」
アリサが肩をすくめる。
ソウマは、ゆっくりアカネへ視線を向けた。
「……聞き覚えがある言い方だな」
「き、気のせいじゃない?」
アカネはそっと目をそらした。
続いてレンがむくれた顔で言う。
「お前らだって姫様と一緒じゃん! なんでだ?」
「初めまして。レオナードの姉のセレナです」
セレナが丁寧に一礼する。
「筆記試験で隣に座らせていただいたので、少しお話していましたの」
「姉さん、この人たち……本当にすごかったよ」
レオナードが苦笑混じりに言う。
「首席、取れるかな……」
「王族が首席じゃなきゃ恥ずかしいでしょ。私は全力で狙わせてもらうわ」
セレナは強気に微笑む。
その言葉に、アリサが端正に言い返す。
「お姫様。申し訳ありませんが……首席は、おそらく私たち六人の誰かになると思います。筆記試験も含めるなら、ルシアンかソウマか、あるいは……私でしょうね」
その瞬間、ソウマが慌ててアリサを制そうとするが──
後ろではレンとアイとアカネが揃って
(自分たちは候補に入らないんだ……)
としょんぼりしていた。
「ふふっ、まだ分かりませんわよ。試験はこれからですもの」
セレナは微笑んだ。
アリサも小さく頭を下げる。
「……確かに。失礼いたしました」
レンがルシアンの肩に手を置いた。
「ま、とにかく頑張れよ! 俺も筆記頑張ってくるからさ!」
「ああ。俺たちも全力で行く」
ルシアンが笑みを返したそのとき──
王都の高い塔から、鐘の音が鳴り響く。
第二の試練──実技試験の開始を告げる音だった。




