1話
はるか昔、この大地に魔法が芽吹いたとき、人々はそれを“天の恵み”と呼んだ。火は生命を温め、水は生活を潤し、風は旅人を導き、岩は大地を形づくり、雷は軍を支配した。
五つの基本属性——これらを基盤として文明が栄え、王国は大地を統べるほどの力を得た。
魔法は人にとって空気のように当たり前の存在であり、誰もが生まれながらに最低一つの属性を宿す。
子どもが初めて火花を散らすと家族が笑い、水を出せば祝宴が開かれる。魔法は生活であり、誇りであり、武器であり、未来そのものだった。
そして王国には、若者たちの夢の象徴ともいえる学び舎がある。
王国学園。
そこに入学できる者は、才能ある者の中でもさらに選ばれた三十名だけ。五年をかけて魔法、剣、体術、戦術を叩き込み、王国の未来を担う者を育てる場所。
人々はこう言う──
「学園に入れた者は、国を動かす存在になる」と。
明日、その入学試験が行われる。
王都はすでにざわついていた。新しい才能、新しい英雄が生まれる日を、国全体が待ち望んでいた。
王都から少し離れた、手入れの行き届いた森に囲まれた小さな村。そこに、よく一緒にいる六人の子どもがいた。
岩の魔法で小さな壁を作り、その壁に魔法で出した小さな石を当てる少年。
自身を強化し素早く走り回り、勝手に転んで笑い転げる少年。
その少年を魔法で邪魔して、一生懸命に追いかける少女。
剣の真似をしながら、拾ってきた木の棒を振り回す少女。
弓を引き、一緒になって岩の壁に矢を放つ少女。
そして、みんなが好きに遊ぶ横で、ひっそりと観察している少年。
六人はいつも一緒だった。
性格や性別が違えど、泣くときも、笑うときも、怒るときも、力試しのときも。
森で魔物に遭遇した日。畑の手伝いで一斉に泥だらけになった日。池に落ちて大人たちに叱られた日。
気づけば、六人は村の誰もが知る“仲良し組”になっていた。
誰よりも冷静だった少年ルシアンが、レンの無茶を止め、ソウマの慎重さを補い、アイの失敗を笑って許し、アカネの暴走を受け止め、アリサの真面目さを軽くいなす。まるで自然と、その中心に立っていた。そのまま大人になっていくのだろうと、村の大人たちは思っていた。
しかし六人は、同じ夢を共有していた。
「王都の学園に行く、そして強くなる」
ただ単純に強くなりたいわけではない。ただ凄いと言われたいわけでもない。それぞれに守りたいものがあり、叶えたい願いがあった。
ルシアンは、魔法の全てを知りたかった。
レンは自分より強い存在と戦ってみたかった。
ソウマは争いのない平和な世界を望んだ。
アイは好きになれるものが欲しかった。
アカネは憧れのような兄のようになりたかった。
アリサは、誰かを守れるようになりたかった。
そしてそれらは、必ず同じ場所から始まると思っていた。
明日──
憧れの学園の、入学試験が行われる。
星が瞬く夜、六人は村外れの丘に集まっていた。大きなイベントの前日の夜遅くに集まるのは、昔からの“恒例行事”だった。焚き火を囲み、夜風に揺れる草を見ながら、それぞれが不安と期待を胸にしていた。
「とうとう明日だな…!」
胸をドンと叩きながらレンが笑う。
その声はいつもより、少し楽しそうだった。
「レン、あんた楽しそうね」
アリサがレンの方を向き、言う。
アリサの目からも、楽しみという感情は伝わった。
「当たり前だろ!憧れてた学園に入学するチャンスがやっと来たんだ!」
レンのその発言にソウマも頷く。
「これまで沢山準備した。あとは実戦だけだ」
「ソウマのそういうとこ、真面目だよね〜」
木の枝で焚き火つつくアカネが、火の粉を避けながら笑う。
「でも、そういうの嫌いじゃないよ」
小さく笑うアカネの顔に、ソウマがわずかに耳を赤くしたが、誰も気づかなかった。
ルシアンはというと、少し離れた場所で夜空を眺めていた。昔から変わらない。余計なことを言わず、必要な言葉だけを選ぶ。
そんな姿に近づいていき、アイが隣に腰を下ろした。
「ねぇルシアン。明日、楽しみだね」
アイは無邪気に笑う。
「とうとう私たちの目標に近づけるんだよ」
「そうか」
ルシアンは目を細める。
淡い微笑み。それだけなのに、アイの心臓はバクバクと跳ねた。
「……ねぇ、ルシアンはさぁ…」
「ん?」
「もし、私が落ちたら……、寂しい?」
その問いに、ルシアンは少しだけ驚いた表情を見せた。そして、夜風に髪をなびかせながらゆっくりと言う。
「寂しいに決まってるだろ。六人で行くって決めただろ。それに、俺たちが試験に落ちるとは思ってない」
その言葉を聞いた瞬間、アイの顔が一気に火のように赤くなる。
「あ、あははっ……、そうだよね」
内心は爆発しそうだった。
少し離れた場所で、レンがぼそっと呟く。
「…やっぱりあいつら仲良いよな」
そう言うレンをアリサが肘で小突く。
「幼なじみ6人とは言え、あの2人にとってお互いは特別なのよ」
「なるほどなー、まぁ俺もアリサのことはちょっと特別かもな」
そんなレンの言葉にアリサは照れ隠しなのか強めに突く。
「いってーな!何すんだよ!」
六人は笑い合う。
焚き火の光が揺れ、夜空が広がり、明日への不安も期待も全部ひっくるめて、ただ一緒にいるだけで心が少し軽くなる。
やがてルシアンが腰を上げ、みんなを見渡す。
「明日、俺たちは学園に入る。……必ず全員でだ」
その言葉に、六人全員の表情が引き締まった。
「「「……おう!!」」」
小さな村の、小さな丘。しかしそこは、未来の英雄たちの出発点としては十分すぎる場所だった。




