プロローグ ~ひねくれ男子は、不登校~
ジメっとした空気が漂う、陰気な雰囲気の室内。
パソコンのファンが低く唸る暗がりの中で、一人の小太りな少年――田上 真が歯ぎしりを立てながら苛立ち気にキーボードを叩いていた。
「あぁ!クソッ! 死ねやコイツッ!!」
パソコンの画面越しに汚い罵声を吐き捨てながら、真が操作するマッチョな外人は機関銃をひたすらぶっぱなし続けている。
真が今プレイしているのは、パソコンで圧倒的な人気を誇る一人称視点で銃撃戦を楽しむゲーム――いわゆる、FPSと呼ばれるものだ。
画面越しに真が銃口を向けているのは、廃墟内で姿を隠している敵兵。
ヘッドセットから漏れる微かな足音に神経を尖らせながら、真は念のため機関銃のマガジンをリロードさせる。
しばらくして銃を構えなおすと、壁際に身を寄せた――その時、
――ピコンッ。
パソコンの右下にメッセージアプリの通知が表示された。
送り主の名は、【DECON】。
内容は短く、『すまない』。たった4文字である。
「はっ? いきなりどういう……」
真が言葉の意味に思案していた――その刹那、
――バァーン!!
ヘッドセット越しに突如、大きな爆発音が真の鼓膜を劈いた。
画面越しに砂埃が舞い上がると、しばらくして真が操作していたはずのマッチョマンは、地面にうつ伏せ状態で倒れていた。
そんな倒れた兵士の上に、無機質な文字が躍る。
【そんな日もあるさ! 次は頑張ろう】
しばし呆然と画面を見つめていた真だが、
「なんだよクソッ!!」
乱暴な手つきでヘッドセットを投げ捨て、スマホのボイスチャットアプリを立ち上げた。
一番最近までやり取りをしていた、【DECON】をタップして呼び出すと、
「もしもしッ!? あれはどういう事か教えてクレメンスッ!」
『いやぁ、すまぬビショップ氏。ちょーどビショップ氏が隠れてた建物に敵が集まってたから……。ついミサイルぶっ放しちまったわww』
「き、貴様ぁ……」
真の怒りが爆発しそうな声に対して、ふざけた笑い混じりの声が返ってくる。
『まぁまぁ、許してクレメンス! ビショップ氏のおかげでワイらのチーム、ちゃんと勝てたんご』
「だからっていきなり殺すことはないナリ!!」
『いきなりじゃないんごよ? ちゃんと謝ったじゃんか』
「そんなメッセ送る暇があったら、ワイに退避するように教えてくれてもよかったんご!!」
『ミサイルぶっこむ直前まで、ワイも大学の課題も同時にやってタンゴねぇ。気遣う余裕がなかったんよ』
「クっ……」
謝りながらも開き直るような声に、真はスマホを握る手へ力を込めた。
『それより、ビショップ氏は確か高校生だったはずんごね? もう朝だけど、学校はダイジョブなん?』
「学校行ってないの分かってて聞くの、性格悪すぎるンご……」
『そだっけ? まぁワイはこれからリアル彼女とイチャイチャちゅっちゅしながら大学行くんご』
「……余計なこと、言わなくていいから……」
『んご? 年齢=彼女なしの非モテのビショップ氏にはちょっとうらやましすぎタンゴねぇ?』
「だからうるさいんご!! ワイはもう落ちるンごね!!」
『ぷぷぷッ! 効きすぎてテラワロ――』
真は通話を切る。
スマホに表示されている時刻は、すでに朝の7時半を回っていた。
「ワイだって……、彼女くらい……」
カーテンの隙間から差し込む朝日を睨みながら、真はポツリと呟く。
ひとまずパソコンの電源を落として、夜通し座りっぱなしの腰を上げると、真は関節をポキポキと大きく鳴らした。
その時――、
「ま、真ちゃん……? 今日は学校――」
「うるさいっ! 勝手に入ってくるなッ!!」
開きかけた扉に、エナジードリンクの空き缶を投げつけて威嚇する。
いつも通りあっさり引き下がった母親に、真は若干の罪悪感を感じつつも、そのまま敷きっぱなしの布団の方へ向かう。
昼夜逆転が染みついた身体は限界を迎え、真はそのまま布団の中へ潜り込んだ。
朝の通学路を歩く小学生たちの無邪気な声が、真の耳を刺激する。
家に引きこもり始めて、二カ月が経とうとしている6月下旬のこの日の朝。
真は理想にしていた学園生活とは真逆の現実から逃げるように、薄い布団を頭まで被った。




