9私の世話係は出来る奴
その日の夕食はパパと食べる事になった。
サタリがパパに私が話しがあると言ったらしい。さすがサタリ。一を知って十を知るみたいな。
さすが、私の世話係。
私は早速扇子やタオルの事を聞いてみようと。
「パパ、お願いがあるんだけど」
「なんだ。言ってみろリネア。なんでもいいぞ」
久しぶりに一緒の夕食を取るパパはすごく機嫌が良さそうだ。
「うん、実は学園にある騎士部の人たちを応援したくって、それでその応援に使う扇子とかタオルを作れないかと思って」
「ああ、その事なら夕方サタリが言ってたな。金色と銀色の扇子に名前をいれるのか?」
「ああ、でも名前より差し色の方がいいかも。それにね。タオルも‥でも、タオルの色は赤色とか青色でいいんだけど、名前とか入れられるといいと思ってるの」
私は一応考えてはいた。最近は硬貨が出来る技術が出来てうちの商会でメッキで金色や銀色を作れるようになったと聞いた。
そのおかげで染料にも金色や銀色を使えるようになったらしくて、それで扇子にも金色や銀色が出来たみたいなのだが。布はさすがに無理って言うか不向きだと思うから。
「さすがだなリネア。タオルには金色や銀色は無理だからな。タオルは色々色があるからそれから選べばいいんじゃないか。でも、名前を入れる事は出来るが刺繍になるぞ」
「ええ、それで大丈夫」
「わかった、明日にでも見てみるか?後で入れたい名前を誰かに知らせておきなさい」
「はい、パパ。ありがとう」
私はほっとした。
良かった。みんなにはあんな事を言ったけどこんなにうまく行くとは思わなかった。
食事が終わって部屋に戻るとサタリがやって来た。
「お嬢さん、ちょっと見てもらいたいものが‥こんなんでどうです?」
サタリがさらりと差し出したのは青色のタオル。その端にはグスタフと言う文字が黄色い刺繍糸で刺繍されている
「これ、サタリが刺繍したの?」
「はい、お嬢さんが夕食を召し上がっている間に。だって今日俺一緒に食べれなかったですしなんだか食欲もなくて。だから暇つぶしに作ってみたんです。どうです。お嬢さんが思ってたのはこんな感じです?」
嬉しそうに差し出す手の上には素晴らしいタオルが。
サタリ。お前恐るべし!
私の考えている事が分かるのもだけど、その腕前は?
「ば、ばか。こんなものを男が作るなんて。どうかしてるんじゃない!」
私はこんなにうまく刺繍出来ないと言うのに。どうしてお前に出来る?
「すみません。余計な事をしてしまったみたいですね。俺はお嬢さんが喜ぶかと思って‥」
サタリはすっかりしょげて差し出したタオルをクシャクシャに丸めた。
「いや、違うの。うれしいから」
私はサタリがクシャクシャにしたタオルを取り上げる。
「この刺繍すごいわね。私、こんなにうまく出来ないからちょっと嫉妬したの。だって、これ完璧じゃない」
「お嬢さん?怒ってないんです?俺、余計な事したのかと」
蒼白だった顔は、むくりと起こされて切れ長の瞳は見開かれその真意を探ろうと私をじっと見つめる。
サタリ。あなたこそ忠犬ハチ公みたいじゃない?
ああ、やっぱりあなたが好き。グスタフカッコいいと思うけどそれは見かけだけの事。
ううん、グスタフこそ私の癒し。そうあるべきなの!
私の心は振り子時計のように揺れ動く。
でも、サタリの気持ちは100%うれしいことに間違いはない。
「とんでもないわよ。すごくうれしいに決まってるじゃない。でも、この刺繍サタリがしたって言わないでよ」
「もちろんですよ。俺だってこんな事知られたくありませんから」
「これ、明日マロン様に見せてみる。それに他のみんなもそれぞれ推しの騎士がいるだろうから、タオルの色とかも考えてみるのもいいかも」
「ったく。お嬢さんは優しいから‥でも、相手は犬みたいなもんなんでしょ?そこまでする必要があるんです?」
「そ、それは、こういう事を考えるのが楽しいからよ」
「まっ、お嬢さんが楽しいんだったらいいんです。俺、お嬢さんが喜んだ顔を見たら腹減って来ました。じゃ、おやすみなさい」
「ええ、しっかり食べてね。おやすみ」
サタリが向きを変えて扉の方に歩き始めた。が、途中でくるりと向きを変えた。
「お嬢さん」
「なに?」
「俺、頑張ったんで‥ご褒美いいですか」
「うん?」
「やだな、もう忘れたんです?こうするっていったじゃないですか」
突然、ふわりとサタリに抱きしめられる。
温かい体温が伝わって来て彼の胸の中に閉じ込められて。
ああ、大好き。って思う。忘れたいのに‥
頭の上にサタリがキスをした。
「お嬢さん‥かわいい」
そんなつぶやきが聞こえるとすぐにサタリが身体を離した。
「じゃ、俺もう行きますんで。今度こそおやすみなさい」
「‥ええ、おやすみ」
私はただ一人そこに残された。
サタリ。
あなたが好きだよ。
でも、忘れなきゃだめだ。
私にはグスタフって言う推しがいるんだから。こんな気持ちすぐに忘れられるんだから。
推しはグスタフ。推しはグスタフ。推しはグスタフなんだから!
脳内で何度もそう言い聞かせる。




