8諦められない気持ち
私は、ベッドの上で反省会をしていた。
ああ、何してんだろ。グッズの事、パパに相談しないと。ニジェ達にあんな啖呵を切ったのに。
もう、サタリがあんな事聞くから。
それに私ったらなに?サタリに誤解されたくないみたいにグスタフを犬みたいだなんて。
グスタフが好きだって言えば良かったじゃない。
でも、推しは個人的な感情をいれたりするものじゃないし。
そりゃ、好きか嫌いかで言えば好きになるんだろうけど‥
でも、ここは日本じゃないんだからそんなのどうでもいい事で、でもなぁ、グスタフと恋人になりたいのかって考えるとそう言う相手ではないと思うし‥
ああ、もう何やってんだか。
抱きしめられた感触がまた蘇って来てまたベッドで悶絶する。
勘違いしちゃダメ!サタリは私の世話係で、仕事をきちんとこなそうとしているだけなんだから。
はぁぁぁぁぁ〜
それにしてもいつまで子ども扱いするつもり?
「お嬢さん。入っても良いですか?」
突然サタリの声がした。
「ええ、どうぞ」
私は急いで起き上がると髪の毛をなぜつけた。
サタリは部屋に入ると顔色をさっと変えた。
「どうしたんです。気分でも悪いんですか?」
サタリは私が横になっていたと気づいたのかすぐにそんな事を聞いてきた。
まったく、あなたってほんと。優しいよね。
「ううん、大丈夫」
心配そうな顔がふっと緩んで「良かった。あの、お嬢さん。こんなのどうです?」
「何?これって。さっき言ってたグッズの?」
差し出されたのは扇子。色は金色と銀色。どちらも無地で模様などは入っていない。
「はい、扇子っておしゃってたんで。確かこんな扇子があったなって思って。ここに文字とか入れたらどうかと思いますけど」
この男、しれっとすごい事を言うと思いながら私はうれしくて。
「サタリありがとう。すごくいいアイディアだわ」
「俺なりに考えたんです。あの、お嬢さん、もう一度ハグしても?」
なぜかサタリの頭に犬のような耳が見える、お尻は尻尾をブンブン振ってるんじゃないかって思わず目を擦る。
「えっ?」
「だから。さっきお嬢さん、俺に抱きついてくれたじゃないですか。子供の頃よくああやってご褒美ってお嬢さん俺に甘えてくれましたよね。それを思い出したらうれしくなって。だからもう一回どうかなって‥」
子供の頃を思い出した。
ああ、そうなんだ。グサッと心臓をえぐられるが。
目の前のサタリの顔が‥
いつもは怖い印象さえするその目は妙に細められ目尻には皺が寄って銀色の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回すサタリはもう悶え狂いそうなほどで。
何これ?この可愛い生き物はなんだ?
めちゃくちゃ摩って抱きしめたい。
「やっぱだめですか?」
ああ、もう降参。
「サタリ。ハグしていいよ」
私は手をすっと伸ばした。
かっと見開かれた瞳に一瞬驚いたけど、彼の腕に包まれるとそんな気持ちは瞬時に消滅した。
「お嬢さん、今度から俺のご褒美はこれでお願いしていいですか。そしたら俺、物凄く頑張れる気がするんで」
「えっと、でも、サタリは大人でしょ。ご褒美がこんなものでいいなんて‥いいの?」
「俺はこれがいいんです」
「そ、そう。あなたがいいなら‥」
「ええ、約束ですよ」
「ええ、約束」
そう言った途端サタリの抱きしめる腕に力が籠った。
がっしりと囲い込まれて後頭部を手のひらで押されて厚い胸板に顔を埋めさせられる。
彼の匂いを吸い込んで思わずうっとりなってしまう。
そのまま私達はベッドに倒れ込んだ。サタリは私を庇うように頭を引き寄せていた。
ギシリとベッドが軋む。
サタリの顔が真上にあって、彼の重みを感じて恥ずかしさでいっぱいになる。
「お、お嬢‥‥す、すみません」いきなりサタリが身体を離す。
「じゃ俺、忙しいんで。夕食には呼びに来ますんで、じゃ」
サタリは慌てて部屋を出て行った。
まあ、無理もないか。
子供の頃はいつだってこんなのやってたもんね。
寝る前に絵本を読んでそのまま抱きしめて貰いながら眠ったのは星の数ほどある。
サタリが距離を置くのは私が大きくなったからだけど。
もう、子供じゃないのに。
こんな事されたら‥あきらめられないじゃない。
せっかく推し活であなたの事忘れようとしてるのに。




