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7もぉぉ、ばかみたい


 家に着くと早速サタリが買ってあったケーキとお茶を用意しながらにこにこ笑って私に尋ねた。

 「お嬢さん、さっきに話ですがまさか本当に男が出来たわけじゃないんですよね?」

 「男が出来た?何よそれ」

 私は何言ってんの?みたいな顔で聞き返す。

 サタリはポンと手を叩く。

 「ああ、あの話ってもしかして学園で商売をしようって事なんです?」

 私は早速ケーキを頬張りながらブンブンと顔を振る。

 急いでくちにあるケーキをゴクリとお茶で流し込む。

 「まさか。そんな事する訳ないじゃない。あれは騎士部のファンクラブの応援グッズで」

 サタリが不思議そうな顔で私を見る。

 ああ、そっか、グッズとか言われても分かんないよね。

 「あのねサタリ。私ね、学園に応援したいって思える人が出来たの。騎士部のグスタフって人で、もうなんて言うか胸がキュンとなってああ、頑張っているこの人を応援したいなって思ったの。そのための応援する品物を作ろうと思ったのよ。まず手始めに扇子とタオルから始めるつもり。ねぇ、サタリも手伝ってくれるでしょう?」

 一気にしゃべってふっと顔を上げる。

 そこにはケーキにフォークをずぶりと突き刺して手はわなわな振るわせているサタリが。顔は伏せられて表情はわからない。

 「サタリ?どうしたの気分でも悪い?」

 いや、記憶ではサタリは私が出会ってから風邪ひとつひいたことはなかったはず。

 心配そうな顔でサタリを見ているといきなり顔を上げた。

 「お、お嬢さん。やっぱりその男が好きなんですか?」

 「そんな!好きとかそう言うんじゃないの。どう言ったら良いのかな‥気に入ったって言うか。応援したいって言うか。恋愛的なものじゃなくて‥えっと、そう!犬とか猫とかペットみたいな感じ。それでね。みんなと一緒に盛り上がりたいみたいな?」

 って言うか私ったら何言ってんだろう。

 サタリを好きな事を忘れたくて推し活しようと思ってるのにサタリには勘違いされたくないみたいな言い方をして。

 サタリは何かを見極めるかのような鋭い視線で私を見つめる。

 そしてふわりと笑みをこぼした。

 「なんだ。男とどうにかなろうなんて話じゃないんですね。要するにお嬢さんは学園でご令嬢達と一緒に犬を相手に楽しみたいって事であってるんですよね?」

 それ以外は認めない!そんな視線にびくりとなる。

 もう、どうして?サタリが私を相手にしてくれないから他を探したら推しにぶち当たったんじゃない!!

 でも、この世界で推しを説明するのはきっと難しいだろうな。

 私の脳内で思考回路が錯綜する。

 ここはサタリの話に乗ってしまおう。


 私の腕はナイスって感じにバシッと差し出された。

 「そう!そうなの。私ね。あの人たちを男とは思ってないの。そう!あれは癒しの犬で、その犬をみんなで一緒に見て盛り上がりたいって事なの。そのためにグッズ。ああ、扇子とかタオルを作れないかって、ニジェ達と話してたのよ」

 恐いほどしかめた目がふっと緩む。ぎゅっと寄せられた眉はふにゃっと下がった。

 「やっぱり!そんな事でしたら、俺に任せてください。お嬢さんのやりたい事は俺にとっても大切な事ですから」

 サタリはポンと胸を叩いた。さっきまでの胡乱げな表情は吹き飛んだみたいに、にこやかに笑った。

 「サタリ、ありがとう」

 私はうれしくて思わずサタリに抱きついた。

 「お、お嬢。さ、ん!」

 サタリは一瞬びくりと身体を強張らせたがすぐに私を抱き止めた。


 ふわりと吸い込んだ大人の男の匂いみたいなものを感じてキュッと身体が固まる。

 そんな私を大きな腕で抱きしめて背中を優しく撫ぜるサタリの手のひら。

 こんな事するのいつぶりだろう?

 彼を意識し始めてから私は極端に彼と距離を取るようになっていたし、こんな自然な感じで抱きついていたのはもう数年も前の事だったなぁ。

 こんなチャンスもう無いかも。

 そんな事を思ったら恥ずかしいけど今すぐサタリから離れてしまうのが勿体なくなる。

 どんどん頬が熱くなっていく。

 好きって言う気持ちや恥ずかしい気持ち。

 もどかしさや先のない見えない未来。

 色々な気持ちが混ぜこぜになって行く。

 でも、今はもう少しだけこうしていたい。


 私は受け入れてもらえない気持ちに蓋をしてもう一度サタリにしがみつく。

 サタリは私のことなんか好きじゃないのはわかってる。子供扱いするサタリが嫌いだけど今だけはそれを利用してもいい?って。

 彼の大きな手のひらが優しく私の髪をするりと滑って背中に降りて行ってそのままぎゅって抱きしめられた。

 胸の鼓動が半端ないほどになって心臓がバクバクして身体中に血液が押し出されて行く。

 そのせいで身体がかっと熱くなって私はさらにサタリに顔を押し付けた。


 「いいんですかこんな事して‥」

 「今だけ‥」

 「まったくお嬢さんはいつになっても可愛いですね。大好きですよ、いつまでも俺に世話係させて下さい」


 ビクリとその声に反応する。

 分かってる。ううん、分かってた。

 スッと冷える気持ち。萎えて行く心臓。いきなり鼓動が止まってしまうんじゃ無いかって思った。

 震える腕でぐっとサタリと距離を取る。

 「ごめんなさい。わ、私ったら子供みたい」

 いたたまれなくて私はその場から逃げた。

 もぉぉぉ、ばかみたいじゃない。







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