32やっと心が繋がった
「おい、俺もいるんだぞ。そろそろ離れたらどうだ?」
パパが低い声で言った。
「あっ、はい!会長すみません。とにかくお嬢さんが無事でよかったです」
サタリははっとなってあたふたと私から離れた。
「もう、いいじゃないパパ。私達結婚するんだし」
私はもう少しサタリとこうしていたかったのにと思ったがサタリがハッとした。
「け、けっこん?会長それほんとですか?俺達の結婚許してもらえるんですか?」
「まあ、約束だからな。お前はちゃんと約束を守って鉱山の仕事を立派に切り盛りした。リネアも頑張って学園を卒業して新たに商会の店のオープンにこぎつけた。二人ともよく頑張ったからな。もう、反対する理由がないだろう。お前たちの結婚を許す」
「あ、ありがとうございます。会長これからも一生懸命頑張ります。お嬢さんを絶対に幸せにすると約束します」
「ああ、お前を信じている。これからリネアをよろしく頼む。それにしてもリネア、お前なんであんな物を持っていた?まあ、そのおかげで助かったんだから良かったんだが」
「そう言えばお嬢さん何か持ってましたね?でも、あれで怪我をしなかったなんて‥それであれは何なんです?」
そう尋ねたサタリの顔はすごく嬉しそうだったが余裕も見えた。
私はうれしいのに何だか胸がもやっとした。
サタリってなんだかすごく大人になった感じ。
実は私は数日前新たな商品を開発した。
前世の世界では大会で優勝すると金メダルなるものがあった。この世界にはそんな風習はなくて剣の大会などでメダルがあったらいいなと思ったのだ。
それで作ったのが鉄製の10センチ程のメダル3種類。
それぞれ金色、銀色、銅色のメッキを施せば金銀銅メダルの出来上がりだった。
まあ、とにかく私はそれをサタリに一番に見せたくて持ったままで迎えようとしていたのだ。
どうやら私は胸にその鉄製のメダルを下げていたおかげで剣を防ぐことが出来て怪我をしなかったと言う事らしい。
私は事情を説明した。
その後この商品は幸運のメダルとして販売されることになっている。
すでに脳内では、今回私に起きたエピソードを付け加えれば大人気商品になるに違いない。などと思っている。
「ああ、あれがそのメダルだったのか‥まあ、リネアを助けたんだ。幸運のメダルだな。やれやれ、俺は忙しいからまた後で様子を見に来る。その間サタリお前が付いていろ。いいな結婚は許したがリネアはまだ結婚前だからわかってるんだろうな?」
「もちろんです。こんな状態のお嬢さんにそんな事考えてもいませんから!」
パパは笑いながら部屋を出て行った。
やっと二人きりになれるとサタリがすぐに私のそばに来た。
「お嬢さん、とにかく無事でよかった」
ふっとサタリの唇が額に落ちた。
きっとすごく驚いて心配したんだろう。微かに触れた唇はカラカラに渇いていて冷たかった。
「ごめんんさい。あなたを驚かせて‥」
「でも、お嬢さんのせいじゃありませんから」
ふわりと笑ったサタリの顔が眩しい。慌てて顔を反らすと話も逸らす。
「それで私を襲った人は?」
サタリは私を安心させるようにベッドに座って肩を抱いた。
「あいつはシグルドでした。騎士隊に入ったけどドバゴ公爵の事でみんなから非難されて騎士隊をやめたらしいんです。それからは乱れた暮らしをしていたと思います」
「それじゃ、マロン様との婚約は?」
「すでに破綻してたみたいです。まあ、こっちであいつのことは調べさせてはいたんですが、まさかこんな事になるとは‥お嬢さんをこんな目に合わせるなんて。俺のミスです。すみません」
サタリの眉が下がりしゅんとなる。
「そんな、あなたはここにいなかったんだもの。謝らないで」
「そんなの理由になりません!でも、あいつはもう二度と王都に入れないようにしましたから安心して下さいお嬢さん!」
彼が、がっしりした手で私の手を握る。
「もう、サタリったら!それより私の事いつまでお嬢さん扱いする気?私達は夫婦になるのよ。あなたは私の旦那様で‥」
まじまじとサタリを見つめる。
自分でも改めて驚いてしまう。ほんとにこんな素敵な人が私の旦那様になるのかな?
何だかサタリすごくカッコよくなってるし、前よりモテたりしてない?私なんかふさわしくないんじゃ?
もう、せっかく会えたと言うのにあまりに素敵になったサタリにちょっと引くと言うか‥ああ、もう何て言ったらいいんだろう。
心の中でもやもやした感情が渦巻いて行く。
「リネアと呼んでも?いえ、今までも呼んだことはある気がしますが‥」
サタリはぽっと顔を赤くする。
「もう、当たり前じゃない。私はあなたをずっと呼び捨ててるのよ」
「それは当然ですから」
「でも、これからはあなたと私は対等だから。って言うか何だかサタリものすごく大人っぽくなってるんだもの。私なんか相手にならない気がするんだけど?」
「えっ?お嬢さん。いえ、リネア。それはどういう事です?もしかして他に好きな人でも?」
サタリの顔が強張る。
肩を抱いていた手に力が入って私をものすごい目力で見つめて来る。
「そんな訳!サタリこそ。私なんかよりいい人がいるかも!」
「何言ってるんです?そんな事あり得ません。この3年間、俺がどんな気持ちで過ごして来たか。会いたくて逢いたくて好きで好きで溜まらなくて、やっとこうして会えたと言うのに、リネアあなたしかいないんです。あなたを愛してるんです。命が尽きるまでこの気持ちは変わらないと誓います。どうか俺を信じて下さい。愛しています」
サタリはハッとすると私から離れて床に跪いた。
ポケットから小さな真っ白い箱が取り出される。
その箱を私の目の前に差し出して小箱を開いた。
中心には美しい青色の宝石、その両隣には紫色の宝石が輝いている。
「リネア・シルベスタ。私はこの命の尽きるその時まであなたを愛し尽くすことを誓います。どうか私と結婚して下さい」
私ったら‥馬鹿な事を言ってしまった。
あまりにサタリあなたが素敵だからわたし‥
もう、迷いはなかった。
「はい、私も命尽きるまであなたを愛することを誓います。私と結婚して下さい」
「ああ‥良かった。こんな事があっていつこれを出せばいいかと思ってたんです。リネアありがとう」
サタリはそう言って私の左手の薬指にその指輪をはめてくれた。
「ありがとうサタリ。私、すごく幸せよ」
「ええ、俺も、でも、幸せはこれからです。もっともっと幸せにしたい‥」
サタリの唇が落ちて来た。
戸惑うようにかすめるように重なった唇。
「もっとぉ」
「おじょ‥いえ、リネア‥」
箍の外れたサタリは激しいキスを繰り返して何度も唇を奪われ口内を蹂躙され尽くした。
「あ、ぁぁん、うぅん‥」
彼のキスに酔いしれる。でも、髭ちょっと痛いかも‥
「ああ、リネアなんて可愛いんだ。もう‥はぁぁ」
サタリが我慢できないとばかりに私を押し倒す。
私の期待は膨らんだ。
とうとうサタリと‥彼になら何もかも‥‥




