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31待ちに待った日


 それから3年の時が過ぎた。いや、正確には2年と9カ月。

 長かった日々もやっと今日で終わる。

 私は学園を卒業して商会で働き始めていた。

 

 その日の昼頃サタリが帰って来ると知らせが届いて前日から眠れなかった。うれしくてうれしくてそわそわばかりしていた。

 朝起きてからすぐに私は今か今かと何度も商会を出たり入ったりしていた。

 胸に下げたペンダントを何度もぎゅっと握りしめる。


 店の者はみんなが交代で私に声をかける。

 「お嬢さん、サタリはまだ帰って来ませんよ。さあ、落ち着いて中で待ってましょうよ」

 「まったく、今からそんなんじゃ兄貴が帰ってくるころには倒れますよ。さあ、中に入って」

 「リネア、いい加減にしないか。みんなが仕事にならん!」とうとうパパに怒られた。

 パパも嬉しそうな顔をして「リネア、よく頑張ったな。あいつもよくやった。俺はすぐに投げ出して帰って来るんじゃないかって思ってたんだがやっぱり俺が見込んだだめの事はあった。もうお前たちの結婚は反対しない。約束通り二人の仲を認めるからな。さあ、中でお茶でも飲もう」

 「ええ、パパ。ありがとう。サタリが帰ってきたらその話してね。サタリきっとすごく喜ぶと思うから」

 私は思わずパパに抱きつく。

 「リネア。ハハハハハ。まったくお前はいくつになっても子供だな~」

 「だって私はいつまでもパパの子だもの。フフフ」

 


 昼近くなると私はもう店の前でずっと道路の向こうをじっと見据えていた。もう誰も邪魔はしなかった。

 そして遂に道路の向こうから聞き覚えのある声が聞こえた。

 「おじょうさ~ん!おじょうさ~ん!帰って来ました~」

 「サタリだわ。さたり~!!」

 私は急いで道路の向こうからかけて来る馬を見た。

 遠目から見えたサタリは顔はまだはっきりとは見えないが何だか逞しくなった気がした。

 馬にまたがりマントをたなびかせ一目散にこちらに向かって来るサタリ。

 ああ~この日をどれほど待ち焦がれたか。

 やっと、やっと愛しい人に会えるんだ‥

 胸が熱くなり喉の奥から込み上げるものがせり上がって来た。



 その時、いきなり道路の脇から男が現れた。

 男は黒いマントを羽織りフードを深くかぶって顔はよくわからない。

 ただ、見えたのは男が持つ銀色の刃。

 サタリはもうすぐ目の前に近づいている。

 男が剣を構えた。

 私の脳内に衝撃が走った。

 もしかしてサタリを?

 私は考える間もなく飛び出していた。

 「サタリッ!危ない!!」


 私は男の前に飛び出した。

 振り上げた剣先が私の胸に突き刺さった。

 「邪魔するな!」

 「きゃぁぁぁぁ~。痛い‥あぁぁぁ‥「お嬢さ~ん!」さたり?」

 私はそのまま意識を失った。


 *~*~*

 

 私が意識を取り戻すと見知った自分の部屋のベッドにいた。

 「う、ぅぅぅ~ん‥」

 「お嬢さん気が付きましたか?良かった。もう、俺‥」

 意識がはっきりして来て目の前にいるのがサタリのような気がした。

 「まったく、リネア心配したぞ。よくもまあ運よくあの物を持っていたもんだ」

 すぐにサタリの後ろからパパの呆れたような声がした。

 私の意識はゆっくり目覚めていく。

 あのブレスレット。やっと目の前にいるのがサタリだとはっきりわかった。

 ぼんやりとしていた視界がはっきりして行くとブレスレットのあちこちが傷つきメッキが剥げている部分もあると気づいた。

 フフッ、サタリったこのブレスレットずっと外さずにつけててくれたんだ。

 私もあのペンダントいつも一緒だったのよ。

 脳内にそんな事が浮かんだ。


 すっと頬を撫ぜる感触がして意識が覚醒する。

 「サタリ?サタリなの?」

 サタリは髭を生やし銀色の髪は伸びて後ろで束ねている。

 顔の造作は完璧そのままだが、なんだかすごく大人っぽくなり。いや、元から大人のサタリだったがさらに男の色気が大幅アップしているように見えた。


 その彼が碧銀色の瞳からポロポロ涙をこぼし唇を嚙みしめて私をオロオロした様子で見つめていた。

 「お、じょう。さん。会いたかった。会えた途端死んだかと。俺を殺す気ですか?まったく。お嬢さんがどうして飛び出したんです?お嬢さんに何かあったらどうすればいいんです?俺はお嬢さんに会うためだけにひたすら頑張って来たんですよ。お嬢さん。お嬢さん。どれだけ驚かせる気ですか?お嬢さんとにかく無事でよかった」 

 震える手が私の手と繋がる。

 温かい感触が伝わりその上に涙がポロポロこぼれ落ちる。


 ああ、私はどれほどこの人に愛されているのだろうって思えた。

 「ごめんなさい。あなたが狙われてると思ったら身体が勝手に動いて‥」

 「もう、お嬢さんは!どれだけ俺の心を揺さぶる気です?会えると思って俺がどれほど楽しみにしてたか、それを一瞬で奈落の底に突き落として、そうやってまた俺の為に犠牲になろうとして。お嬢さん俺を殺す気ですか?ほんとにこんなに愛しい人はいませんよ。お嬢さんは俺の、俺の命なんですよ。宝物なんですよ。そんなお嬢さんにもしものことがあったら俺はどうなると思ってるんです?俺、さっき一度死にましたよ。ったく!ほんとに!お嬢さん、お嬢さん‥」

 サタリは寝ている私に抱きつき泣きじゃくった。


 「ごめんサタリ。私だってずっとずっと会いたかった。あなたを愛してる‥」

 私は泣きじゃくるサタリの背中に手を回して何度も背中をさする。

 ごつごつした背中には筋肉が盛り上がり鉱山でのサタリがどれほど頑張っていたのかを物語っているようだった。

 微かに匂う誇りと汗と彼の香りを思い切り吸い込むと身体の隅々まで安心が広がった。

 やっと、やっと会えた。これからはずっと一緒に入れるんだ。私達結婚するんだ。

 何度も何度もそれを願ってこの3年間を頑張って来た。

 だから訪れたこの時がすごく愛しく思える。

 これからの時間を大切に生きて行かなきゃって思える。

 

 


 

 

 





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