28私たちの決意
やっと、少し落ち着いてくると「お嬢さん、俺やります。会長がせっかくチャンスをくれたんです。絶対にやり遂げてお嬢さんを迎えに来ますから、俺を信じて待っててくれませんか?」
そろそろと顔を上げると目尻に皺をよせ優しい眼差しのサタリの顔があった。
「いや、サタリに会えないなんて。私死んでしまうから、絶対死んでしまうから‥」
絶対死んじゃう。サタリに会えないなんて。
あぁぁぁ‥息が出来ない。脳内でそれを想像しただけで胸が苦しくなる。
私は彼の胸にしがみ付いた。
ぎゅって抱き締められて彼の吐息が耳元にかかる。
「俺だって死ぬほどつらいです。ずっといつだってお嬢さんのそばにいられた。それなのにこれから3年間会えないなんて、俺だって考えただけでも死にそうです。でも、会長が言うこともわかるんです。会長が助けてくれなかったら俺は今頃死んでたか、泥棒か詐欺師にでもなっていずれ捕まって牢にでも入る事になっていたと思います。だから、俺、死ぬ気で頑張りますから俺を信じて待っていてくれませんか?お願いです俺にはお嬢さん。リネア。あなたしかいないんです。俺の全てなんです。俺の命なんです。だからどうか俺を信じて待っていてほしい」
彼の言葉一つ一つに魂がこもって、それが私の心にくさびを打ち込むように打ち込まれる。
私だって頭の片隅ではわかっていると思う。
でも、今はサタリが好きだって言う感情があまりに大きすぎて、どうしようもなく膨らんでいる感情を押しとどめられなくて。
でも、きっと私。サタリの言うことを受け入れるんじゃない?
サタリを愛してるから。彼の言うことを信じれると思うから。
だから勇気を出して一歩前に進まなければならないって思う。
サタリのシャツをぎゅって握りしめた。
グイっと唇を噛んで涙を堪えて顔を上げる。
「信じてもいい?サタリ絶対に?私の所に帰って来る?でも、あなたがいないと私‥ああ、やっぱり無理よ。サタリ‥」
喉が締め付けられてやっとそんな言葉を押し出した。
ほんとは‥ええ、私待ってるから、私は大丈夫。だからサタリ頑張って来てって言えたら良かったのに。
こんな時なのにダメな私。
でも、会えないなんて。そんな心の余裕なんてあるはずないよ。
ただ、サタリと別れたくない気持ちばかりで。彼を困らせているってわかっているのに。
なのに。
サタリは顔をほころばせて大きくうなずく。
「お嬢さん。絶対に戻ってきます。だから俺を信じてくれませんか?俺はお嬢さんの世話係なんです。お嬢さんのお世話を生涯するって誓ったじゃないですか。まあ、しばらくお世話が出来なくてすごく残念ですけど。3年なんてあっという間ですよきっと」
「さたり…」
やっぱりいやだ。サタリを別れるなんて無理無理無理無理~だ。
「俺、絶対会長に認めてもらえるように頑張りますから、お嬢さんに会えないなんて俺も死ぬほど寂しいです。けど、3年後にはずっとこの先一緒に入れる未来が見えてるんですから。だからお嬢さん一緒に頑張ってもらえませんか?」
ふわりと下りたサタリの言葉にハッとする。
私‥私‥子供だな。
サタリも会えなくて死ぬほど寂しいんだよね。
でも、でも‥私も頑張らなきゃいけないじゃん!
やっと、やっと。心の折り合いが付いて行き始めた。
ここで少し大人だった前世の私が。そうよ、いつまでもわがまま言ってられないわよね。
彼がここまで言ったくれたんだから。
「うん、サタリ。わがまま言ってごめんなさい。私、サタリを信じる。私も頑張るから」
「はい、お嬢さん。覚えておいて下さい。お嬢さんは俺の最愛です。そして俺の妻になる人なんですから。会えない時間ずっとリネア。あなたの事を思っています。この気持ちは絶対に変わることはありません。約束します。俺の命に懸けて」
「ええ、私もあなたの事をずっと思ってる。約束するわ、サタリ思う気持ちは絶対に変わらないって」
パパが呆れたような声を上げた。
「ったく。いい加減にしろよ。リネア、いい加減こいつから離れろ。いいか、サタリ!俺の前でこれだけのことを言ったんだ。嘘だった時はその命で償ってもらうからな。覚悟できてんだろうな?」
「もちろんです。言葉に二言はありません!」
サタリがきっぱり言い切る。
切れ長の目には気迫が漲りその顔には覚悟が宿っているように見えた。
かっこいい。サタリやっぱりマジ好き。離れたくない。
でも、やるしかない。
「よし!これで決まりだな。明日出発だ。こういう事は早い方がいいんだ。わかったか」
こうして私とサタリは離れ離れの3年間を送る羽目になった。




