表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/33

23誤解です


 私は家に戻ると部屋に閉じこもった。

 ただ恐かった。サタリが実はあの人は俺の恋人なんですなんて話をして来たらどうしていいかわからなくなる。

 「お嬢さん?帰ってるんでしょう?返事をして下さい。驚きましたよ。急に走って帰るなんてひどいですよ。アグルとは前に仕事で一緒だった事があるだけです。俺にはお嬢さんだけです。だから」

 扉のノブが回る。

 なによ!白々しい!

 「入って来ないで!気分が悪いの、もう横になるから」

 「じゃあ、薬を持って来ます」

 「いらない!あっちへ行って!」

 自分でも駄々っ子みたいだと思う。でも、どうしてもあの女の人の顔がちらついてイライラをサタリにぶつけてしまった。

 「アグルがあんな事するなんて思ってもいなかったんです。気を悪くさせて申し訳ありませんでした。薬は後で扉の所に置いときます。俺は下がりますからお嬢さんちゃんと飲んで下さいよ。あっ、それからお茶とクッキーの置いときますので召し上がって下さい」

 サタリは優しい声色でそう言って下がった。

 しばらくしてガチャガチャ音がして多分ワゴンが扉の外に置かれたんだと思った。

 何よ。嫌なら手を振りほどけばいいじゃない。されるがままになってたくせに!

 その日は夕食も食べに行かなかった。サタリとは顔を合わせていない。



 その翌日は学園だった。

 私は休もうかと思ったが家にいると余計サタリがちょっかいを出してくるかもと思い学園に行くことにした。

 それにずっと顔を合わさずにはいられないんだってわかってるし。

 「お嬢さん、具合はいかがです?学園には行けそうですか?」

 朝、サタリが起こしに来た。いつものように扉を開けようとした。

 急いで返事を返す。

 「ええ、支度して朝食を食べるから入って来ないで」

 「わかりました。じゃ、俺、食事の用意してますから」

 素直にサタリは部屋から離れた。

 こんな時のサタリは私の言うことに逆らったりしないってわかってる。



 「おはよう」

 「おはようございます。お嬢さん目が赤いんじゃ?」

 サタリは朝食を並べていた手を止めてさっと私に近づく。

 すっと伸ばされた指先が目元に触れた。

 「大丈夫だから、痒かっただけ、心配しなくていい。もう治ったから」

 「そうですか?もし、おかしかったらすぐ言って下さいよ」

 「ええ、わかってるから」

 私は席に着くと食事を始めた。サタリもすぐ隣に座って食べ始めた。

 今まではサタリは私の斜め前に座って食事をしていたが、あの好きと言いあった翌日から席が隣になっていた。

 「ふふっ、お嬢さん。もう少し落ち着いて食べて下さい。ほら、ジャムが‥」

 口元についたジャムを指先で拭われ、サタリの指先が自身の口に運ばれる。

 「もぉ、サタリ。そんな事‥」

 「なんです?いつもしてるじゃないですか」

 嬉しそうに笑うサタリ。昨日の事など何もなかったみたいだ。

 行かなきゃよかった。あんなところ見なければこんな苦しい気持ちにならなかったのに‥


 いいから食べなきゃ、そう思い直してサラダやスープを口に運んだ。

 サタリはさっさと食べ終わって皿を片付けると何かを持って来た。

 「これは‥」

 「はい、せっかく行ったんです持って帰らなきゃ、工房の人に悪いんで、俺が変わりに預かって来ました。ほら、ニジェさんやエーヴァさんに見せるんじゃないんです?」

 ええ、そうだった。あの二人は楽しみにしてたんだ。それにマロン様達も。

 すっかりそんな事は頭から消えていた。あったのはサタリとあの人の事だけだった。


 もう、私ったら!!

 「さあ、食事が終わったらそろそろ行きましょうか」

 「ええ、そうね。あの‥サタリありがとう」

 「いいえ、どういたしまして。俺はお嬢さんの世話係でもあるんですからこれくらい当然です。どうです?少しは気分が良くなりました?」

 サタリも多分私がアグルさんの事を気にしていると思っているのだろう。あえてその話を避けているようにも見えた。

 まあ、どうせ大人の事情ってやつでしょ。彼女と恋人じゃないとしても関係があったのは確かよ。

 なまじ前世の記憶があるせいで大人の事情が分かるのもこうなると辛いかも。

 私は渡されたガラススタンドを受け取ってわざと歯を見せて笑った。

 「ええ、ニジェ達に見せるのが楽しみ」

 「良かった。お嬢さん昨日の事誤解してないですよね?言っておきますが、俺、アグルとは何もありませんからね」

 「そう。わかった」

 「良かった。俺、昨日はどうしようかって凹んだんですよ。お嬢さん、もう俺を信じて下さいよ!」

 サタリはポンと自分の胸を叩いて見せた。

 「そうね」

 その時は顔も合わせず軽く返事をした。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ