20ドバゴ公爵失墜
ドバゴ公爵とシグルド様が立ち去るとサタリがパパに食って掛かった。
「会長、まさかこの話受けるつもりじゃないですよね?冗談じゃありません。お嬢さんをあんな奴に!あいつが本気でお嬢さんを好きだとでも思ってるんじゃないでしょう?ドバゴ公爵はうちの商会の合金技術が欲しいんですよ。あいつの所の鉱山はかなり枯渇していると聞いています。だからきっと」
「ばか、そんな話をここでするんじゃない!‥ああ、すまんリネア。恐がらしたか?何でもないんだ。お前が嫌なら断るから気にしなくていいんだ」
実は私は少し前サタリやパパが話しをしているのを立ち聞いてしまった。
話の内容は、ドバゴ公爵がやっているドバゴ商会は表向きはまともな商売をしているように見せかけているが、実は裏ではかなりあくどい事をしているらしい事や領地には潤沢な鉱山がありその財力でこの国の魔石を独占販売している事も聞いた。
魔石が手に入らなければ貨幣を作るために鉱石をとかして加工する事も出来ない。
他にも生活全般にいまや魔石は欠かせないものだ。
調理にも風呂や灯りにも使う魔石は貴族だけでなく国中の人に関わることだ。
そんな魔石を利用してあくどい事をしているのがドバゴ商会というわけだ。
そしてうちの商会もかなり困窮しているらしい事も知った。
それとドバゴ公爵家が合金技術の持っている人たちを横取りするだけでなく、もしかしたらその技術で硬貨を偽造しようとしているのではないかとも。
そして何よりサタリ達、裏ギルドのアブハジは何を隠そうイルラン公爵直属の諜報活動をしている組織で、今まさにドバゴ商会の悪事を暴くためにいろいろ紛争しているらしい事も知った。
サタリがそんな事をしていたなんて知らなかった。
だから私なりにシグルド様の事も調べていた。
マロン様などに聞いたりニジェ達にも協力を頼んだ。
それで分かった事は、彼は侯爵家ではかなり邪魔者扱いらしいと言う事。
そうか!
シグルドは今回のドバゴ商会の危機に一役買えば自分の価値を知らしめることが出来ると思っているんじゃないかって事で。
もし、私と婚約すれば自分の立場が上向くとでも思った訳?
縁戚関係になればうちの合金技術が使えると思ったとか考えていたけどこれではっきりしたわ。
ドバゴ公爵は家を乗っ取る気よ。そんな事絶対にさせないんだから!
そうだ!これって‥もしかしてその計画乗ったらいいんじゃない?
もちろんドバゴ公爵の悪事を暴くためによ。
「パパ、私、その話受けるわ。もちろん本気じゃないわ」と言ったのに。
ガ~ン!!!パパとサタリ。二人とも顎が落ちたみたいな顔。
「ばか、そんな事。無理だリネア。そんな無理しなくていいんだ」
「そうです!お嬢さん止めて下さい!」と二人とも大慌て。
「あのね‥実は私、聞いてしまったの。魔石が手に入らなくてうちの商会も困ってるんでしょう?あっ、でも、勘違いしないでパパ。これは作戦。何も婚約者にならなくても、婚約者候補になればドバゴ商会や公爵家にも入る込むことが出来るんじゃない?そうなればドバゴ商会の悪事を掴めるかも知れないじゃない?ねぇ、サタリ?あなたはどう思う?」
「お嬢さん、そんなばかなこと。止めて下さいよ!」
「でも、サタリは何があっても私を守ってくれるんでしょ」
「いいえ、そんな事をしなくたって俺達でドバゴは排除しますから。だからお嬢さんは安心していればいいんです。ったく、あんな野郎がお嬢さんの婚約者になりたいなどと‥今すぐ耳を消毒しましょう。あんな戯言なんか忘れて下さい」
サタリはつらつらとそんな事を話すと私を部屋に連れて行った。
それから数日後、王都新聞がドバゴ公爵の失墜を大きく取り上げた。
ドバゴ公爵は今まですっと魔石の販売を独占していたがその裏で悪どいやり方で多くの貴族や商会を陥れて来たことが判明したと書かれている。
国王はその事実に落胆しドバゴ公爵の重ねて来た罪は重いと判断して、ドバゴ公爵の爵位を取り上げた。
ドバゴは爵位を奪われ北の辺境で生涯幽閉となった。
ドバゴ商会は解体され鉱山の所有権は王家に移行され管理はギルドが請け負う事になった。
うちの商会や貴族の持つ商会などすべてのギルドから代表を決めて管理を行っていく事になった。
ドバゴ公爵の子供たちには、ある程度の恩情が与えられることになり嫡男はドバゴ公爵領の一部を伯爵家として管理することになり次男は王宮で執務官を学生であるシグルド様は騎士隊に入ることが決まっていたのでそのまま騎士隊に入ることが決まった。
なので、あれからシグルド様からは一切声がかからなくなった。
彼もかなりショックを受けたのだろう。
元気はなかったが学園は休まず騎士部の練習にも参加していたことには感心した。
ただ一度呼び出された。
「リネアさん。あの婚約の話はなかったことにしてくれ」
「ええ、もちろんです。私もそんなつもりはありませんでしたから」
「良かった。じゃあ、もう声をかける事もないと思うから」
「はい、やっぱり私が好きだと言うのはうそだったんですよね?」
そう尋ねると愛グル度様は焦ったように額に手を当てた。
「いや、それは‥すまない。実は父に認めて欲しかったんだ。君と婚約すればシルベスタ商会の事業を手に入れることが出来るんじゃないかって‥浅はかだった。父が爵位を取り上げられたのは仕方がないと思っているんだ」
以外にも彼は照れ臭そうな顔でそう言った。
「シグルド様、騎士隊への入隊決まったそうでおめでとうございます」
「ああ、これからは自分の力で生きて行かなければならないから‥でも、マロンが支えてくれるって言ってくれて、俺達、婚約するんだ」
彼の頬がほんのり赤く染まる。
「まあ、それはおめでとうございます」
「ああ、ありがとう。君には迷惑をかけた。これからも騎士部の事よろしく頼む」
「はい、シグルド様も頑張ってください」
そう言って私達は話を終え最後に握手を交わした。
サタリが心配で少し離れたところでじっと私を見守っていたが話が終わるとは知り寄って来た。
「お嬢さん大丈夫ですか?」
私の手をハンカチで拭きながら尋ねる。
私はサタリにされるままにしながら「大丈夫よ。シグルド様も元気そうで良かったじゃない?」
「まあ、ドバゴがやっていた事は許せませんがあいつはほとんど関与してない事でしょうから」
私はクスッと笑う。だって、多分だけどサタリ達がドバゴ公爵の悪事を暴いたんだろうなって思うから。
「サタリのおかげなんでしょ?」
「何のことです?」
「とぼけても無駄よ。私が婚約するのが嫌だって知ってたんでしょう?」
「そりゃ、お嬢さんの推しはグスタフでしたしあいつを好きじゃないってわかってましたから‥そもそもお嬢さんが婚約なんて許せるわけがありませんから」
「でも、いつかは結婚するのよ」
サタリがぐっと唇を噛んだ。
ねぇ、サタリ。私が誰かと結婚するのが嫌なの?私の事どう思ってるの?
ああ、またあなたはそうやって私の心を掻き乱すのね。
もう、私そろそろ限界なんだけど。
サタリの気持ちはわかっているつもり。
だけど私が貴方を好きって気持ちはもう抑えようがなくなっていて‥
とうとう心は限界を超える。
「わたし‥サタリが好きなの」
ああ、言ってしまった。でも、考えてみれば二度目の告白だけど。
サタリが目を見開き口を開けた。でも、シャットダウンのあとすぐに起動みたいな感じで「はい、俺もお嬢さんが好きです」と答えた。
まるでオウム返しみたいに。
「もぉ!サタリはわかってない。私は本気で好きなの。あなたを愛してるの。一人の男としてあなたを好きなのに‥」
私はたまらなくなってその場から走り去った。




