2学園が始まった
私はそれからしばらくしてバカーラ国の王都ソマリラの王立学園に通う事になった。
王立学園には王都の貴族や商家の子供、それに平民でも試験で高成績を取れば通うことが出来る。
ただ、クラスは王族や高位貴族がSクラスとAクラスで子爵家、男爵家や平民の子供はBクラスとⅭクラスに分かれている。
教室も別棟でカフェテリアでも座る場所が違う。
だから王族や高位貴族と行動を共にすることはほとんどない。
ただ、男子生徒の希望者は騎士養成コースがあるので剣技の時間だけは平民の男子生徒も一緒に訓練を受ける。
中には高成績が剣技の平民の子もいて騎士隊を目指す人もいるらしいし、高位貴族の男子生徒はほぼ全員が騎士養成コースは受けるらしい。
そしてこの学園には学園騎士部なるものがある。管轄は生徒会で学園の治安維持のため見回りや色々な行事などでも警備を担うらしいと入学前の説明会で聞いた。
寮もあるが、主に遠い領地の子爵家や男爵家、平民の生徒が利用するらしい。
王都に屋敷がある高位貴族や商家の子どもは通いがほとんどらしい。
だから私も家から学園に通う事になった。
毎朝、学園までは馬車で護衛のサタリが送ってくれる。
基本的に護衛は学園内には入れない。王族などは別だが、それ以外は行きかえりや学園以外でどこかに出かける場合などに付き添う。
馬車どまりに着くとサタリが先に降りてさっと私の手を取って降りるのを手助けしてくれる。
彼の男らしい手の感触に一瞬我を忘れる。
「では、お嬢さん。じゃなかった。お嬢様、俺はこれで失礼します。また帰りにここでお待ちしていますので、お気をつけて」
もう!子供扱いして!!
「サタリ。お嬢様なんてやめてよね!」
「でも‥」
「いいから!」
言葉は乱暴になる。
「わかりましたお嬢さんがそう言うなら。では、失礼します」
義務的な会話が終わるとサタリはさっとお辞儀をして私を見送った。
ええ、わかってるわよ。あなたはただ私の護衛係だって。
指先はまだ彼の手の温もりを覚えていると言うのに‥
悶々とした気持ちのままで貴族でもない私は見知った人もないまま教室に入る。
貴族の令息や令嬢たちは誰もかれも通り一辺倒な畏まった挨拶をして席について行く。
こんなんじゃ友達なんて作れるはずもないじゃない。そんなずぶずぶな気持ちのまま一人席に着く毎日だった。
帰りには時間通りサタリが迎えに来てくれた。
「お嬢さ‥ん。今日はいかがでしたか?楽しかったですか?」
少し心配げな顔でサタリが聞く。
ふん、楽しいはずないじゃない。あなたと一緒にいる方がずっと楽しいわよ。と心の中で思ってもそんな事おくびにも出してやらない!
つんと澄ました顔で言う。
「何も変わった事はないわ」
「それは良かった。では、帰りましょうか。今日はお嬢さんの好きなミルフィーユがあるんですよ。帰ったらすぐにお茶にしますから」
サタリはほっとしたような顔で私の手を取る。
何がいいのかと思うけど、サタリがちゃんと私の好きなものを用意していると聞いてうれしくなった。
「うれしい。楽しみ。ねぇ、サタリも一緒に食べるでしょ?」
「はい、もちろんです。仕事はお嬢さんがいない間にチャチャッと済ませましたんで」
ふっと口元を緩ませて言うサタリにまた胸が痛んだ。
はいはい。どうせ子供一人にしたら寂しいだろうって事なんでしょ。
ふん、また子供扱いして。私はもう16歳なのよ。お茶くらい一人で飲めるのに!
ほんとはサタリと一緒にお茶出来るのはうれしい。けど、サタリに取ったらそれはお世話係としての仕事でしかないんだから。
うれしいのに嫌な気分になると言うおかしな気持ちだ。
私はそんなぎくしゃくした感情のまま毎日を過ごして行った。
新たな出会いでもあればもしかしてとも思う。
ほんと、いい加減こんな思いはさっさと捨ててしまえればいいのにと思いながら。
クラスは低位貴族の令息や令嬢それにお金持ちの商会ばかりなのにそんな子供たちでさえも妬みや嫉妬の巣窟だった。
リネアはすぐにみんなとうまくやれなくなって行った。
だってずっと周りに同じ年くらいの子なんかいなかったし、なんて話しかければいいのかもわからないんだから。
こんなんじゃ新しい出会いなんて無理だ。
でも、数週間後やっと同じクラスに気の合う友達が出来た。
ニジェ・シュティン子爵令嬢とエーヴァ・ストリッド男爵令嬢だ。
最初はニジェが教科書を忘れたのがきっかけだった。
隣の席なのにいつも挨拶だけで言葉を交わす勇気がなかったんだけど話をすると気さくでいい子だってわかった。
ニジェの友達になるとニジェの友達のエーヴァとも同じく親しくなった。
二人は貧しい貴族の子供で生活は平民と同じような暮らしをしていたらしく話が合った。
二人は学園の寮に入っている。
男の子とは仲良くなれなくてなれなくても、この二人と一緒で学園はそれなりに楽しくなっていた。




