19突然の訪問
そんなある日、突然我が家にドバゴ公爵とシグルド様が訪れた。
パパに書斎に来るようにと呼ばれる。
ドバゴ公爵と聞いてサタリも一緒に行くと言って二人で書斎に入った。
パパはサタリを見て少し嫌な顔をしたがサタリが一緒にと譲らなかったので同席を許した。
サタリのシグルド様を見る目はまるでナイフのように碧銀色の瞳がギラリと光って見える。
お、お前それ恐い。
「サタリ」
思わず私は急いでサタリに声をかけるとこちらを向いたサタリ一瞬でふにゃりとあま~い瞳に変わる。
もぉ、サタリ。あなたねぇ‥‥
「はぁぁぁ~」
顔を上げるとドバゴ公爵とシグルド様はすでにソファーに腰を掛けている。
私は急いで挨拶をする。
「お初にお目にかかります。リネア・シルベスタと申します」
「おお、君がリネアか。シグルドから聞いている。実はシグルドがどうしても君を婚約者に迎えたいと言ってな。今日はその話で来させてもらった」
ドバゴ公爵はシグルド様と同じ金色の髪で紅色の瞳をしていた。顔つきはシグルド様よりもう少し角ばった顎で男らしい顔つきだろうか。
それより今なんて言った?
婚約者?どうして?私、ずっと断わってたはずなんだけど。
ちょっと驚いてその場に立ちすくむ。すっと後ろから手が伸びて私の背中に手が置かれる。
「お嬢さん大丈夫ですか?」
「‥ええ、大丈夫。いいからサタリは下がってて」
「はい」
サタリはすっと後ろに下がるがその声は氷のように冷たい空気を纏っている。
私はパパから座るように言われてパパの隣に腰を下ろした。
パパが私の顔を見ながら話を始めた。
「実はなリネア、今、ドバゴ公爵がおっしゃったが3男のシグルド様の婚約者としてどうかという話なんだ」
パパには学園でのことはサタリから報告が入っているし、騎士部のグッズ販売の事もあるので騎士部の応援をしている事はもちろん知っているしシグルド様のおかしな行動も報告してあるはずだ。
私が戸惑っているとシグルド様が声を上げた
「学園で何度もリネアさんには付き合いをお願いしてるんですが、僕の気持ちを信じて頂けないようなので、突然で申し訳ないとは思いましたが、今日は僕の気持ちをはっきり伝えるつもりで伺ったんです」
「そんなの嘘に決まってます。どうしてお前がお嬢さんを?ギシリ‥」
サタリの眉は吊り上がり碧銀色の瞳は氷のようにシグルドを射抜いていて歯ぎしりした音まで聞こえた。
「サタリ!お前は黙ってろ!‥リネアはどう思う?」
パパはサタリを一括すると私に優しく聞いた。
「どう思うって‥私の気持ちよりパパはどうなの?」
誰だって知っている。
この国の実力者は一番は国王、次は高位貴族。ドバゴ公爵家となれば逆らうものなどいないと言ってもいい。
シグルド様の気持ちはわからない。あの日以来私が好きだって言っていた。でも、あれはきっと本心じゃないってわかっている。
だって、好きな子にあんな態度しないと思っていた。
でも、まさか本気?
一瞬そんな事を思うと背筋に冷たい氷が伝い降りるみたいにぶるっとなった。
不意にドバゴ公爵がごそりと身体を動かすと話を始めた。
「さすが、彼女はよくわかってるらしいな。息子が婚約者にと思うわけだ。シルベスタ殿、私は知っての通り国でも有数の公爵家の人間だ。君のような平民。いや、失礼。商売を手広くやってかなりの金持ちだとは知っているが貴族の婚約者に平民の女性がなるなどと言う事はほとんどない話だ。それでも、私が今日ここに来たのは君の商会の持っている合金技術に価値があるからだ。シグルドとリネアが婚約すれば私たちは姻戚関係になる。そうなればうちの商会でその技術を使わせてもらうつもりだ。その代り、君にも損はない。シルベスタ商会には魔石が滞りなく行きわたるようにするつもりだからな。安心してくれ」
ドバゴ公爵はすでに決まった事とでもいいたげな態度でシレッとそんな失礼な事を話した。
パパの顔が引きつっている。
ほんと。失礼な奴。
いくら実力者だからってこの横柄な態度はなんなの?
ふつふつと湧き上がる怒り。だが、しがない平民。いくらお金が少々あったとしてもドバゴ公爵ににらまれればひとたまりもないだろう。と察しはついた。
「いやぁ、興味深いお話ですなぁ。ですが、やはり今すぐにお返事できる事ではないでしょう。リネアの気持ちもあるでしょうし、また近いうちにお返事をすると言う事で今日の所はお引き取りをお願いします」
なんとパパはそつなくそう言ってドバゴ公爵を牽制した。
すごいパパ。
「ハハハ。そうか。まあ、いいだろう。いきなり来たのはこちらだし。なっ、シグルド。少しの間くらい待てるだろう?」
「はい、もちろんです。無理をするつもりはありません。僕はリネアさんをし愛していますから。リネアさん、僕の気持ちを信じて欲しい。いい返事を待ってるから‥」
シグルド様はあくまで紳士的な態度で私にそう言ってじっと見つめて来た。
美しい造形の唇が弧を描き頬笑みを浮かべる。
紅色の瞳が細まって目尻少ししわが寄ると前世で言うアイドルのような顔毛出来上がった。
うわっ!彼って完全にうぬぼれやだ。前々から思ってはいたけど‥
こいつ、うざっ!
心の声が如実に顔に現れたらしい。きっと私はしかめた顔をしたんだろう。
サタリと目が合うと彼がニヤリと唇を動かした。ですよね。みたいな?
ドバゴ公爵が立ちあがるとシグルド様も経ちあがった。
「では、私達はこれで失礼するがシルベスタ殿いい返事を待っているからな」
当然のようにドバゴ公爵が言った。
「リネアさん、また学園で」
シグルド様がにこやかにほほ笑んだ。
「はい、失礼します」
私は淑女の仮面を張り付けて耐えた。
「ドバゴ公爵、この件はゆっくり考えさせていただきます」
パパの声は地を這うように低く響いていた。
うわぁ、この先どうなるのよ?




