15我慢の限界
それから順調に試作品が完成して今日はそのお披露目の日。
すでにタオルと扇子は順調にほとんどの人に行き渡っている。もちろん名前入り。
朝、早速新しい試作品をニジェとエーヴァに見せたらものすごくいいって言われてほっとした。
授業が終わって急いで講堂に集まる。
サタリには来ないようにあらかじめ言ってある。
今日は迎えの時間に来るようにって。
だって、あれ以来サタリは私の放課後の練習に決まって付き添うようになった。
グスタフ様から声を掛けられるとすごく嫌そうな顔を露わにするし愛想笑いをしないって言ってたけど、そこまで嫌悪したような顔しなくてもっていいくらい冷めた顔でいるもんだからみんなとの雰囲気も悪くなって。
だから、グッズをみんなに見てもらう今日はサタリにいて欲しくないって思った。
早速、マロン様やカロラ様たちに、5人の髪色や瞳の色に合わせて作った編みぐるみとコイン型のキーホルダーとペンライト、それにボタンで作ったバッジを見せた。
「まあ、素晴らしいわ。特にこのコイン型のキーホルダーです?この金色と銀色のメッキがすごくきれい。まるで本物みたいで、それに金狼と銀狼はバカーラ国の紋章にも使われている由緒ある絵柄でしてよ。リネアさんあなたのアイディアいいと思うわ」
マロン様が手に取った金色のコイン型キーホルダーを見て褒めちぎる。
「これは?」
カロン様が手に取ったのはペンライト。
私はスイッチを入れると筒形の色ガラスに灯りが灯った。
「まあ、赤色の光がとってもきれい。これってシグルド様の瞳の色じゃありません?」
「はい、色ガラスの色は4色、赤、青、黄、緑でそれぞれの瞳や髪色で選んで頂ければと思って。いかがでしょうか?」
私はニジェとエーヴァに手伝ってもらってペンライトのスイッチを入れる。
4色のライトが点灯してとてもきれいだ。
「すごいですわ。それにこれは?凄く可愛いです。さっきから気になってんですけどもしかしてシグルド様ですの?」
次にマロン様が手に取ったのはシグルド様色の編みぐるみ。
金色は無理なので身体はベージュの毛糸、髪の毛は黄色で目の色は赤色にした。マントとベルト、小さな剣も付けている。
「ええ、人型にするとリアル過ぎて可愛さが半減するので頭を大きくして作ってみたんですけど、いかがです?」
「ええ、すごく可愛い。でも、これだけの物を作るのは大変だったんじゃありません?」
マロン様が逆に恐縮してしまった。
「私は編みぐるみは作りましたが他は考えただけで後はほとんど家の者が手配してくれたので‥」
「まあ、もしかしてあの護衛の方が?」
意味深な顔でカロン様が私を見る。
「いえ、うちは商会ですのでそれぞれの技術者がいるので作れただけで、それにもちろんお金は頂く事になりますし‥」
グッズはもちろんお金を頂くがうちの儲けはあまり重視していない。せいぜい材料費くらいで後は騎士部の活動費に充てるくらいのつもりだ。
「ええ、もちろんよ。商品の代金はきちんと取って頂かないと。早速みんなの希望を聞いて注文を取りましょうか」
「はい、ありがとうございます。あの、でも、編みぐるみは一度にたくさんは作れないと思うので順番にして頂けると‥」
「ええ、これはファンクラブの人限定にしましょう。それに無理はしないでねリネアさん」
さすがマロン様だ。
マロン様の声かけもあってコイン型のキーホルダー。ボタンバッジ。ペンライトは30人ほどいるファン全員が購入を希望した。
編みぐるみはみんなが欲しいと声を上げたのでそれぞれの希望を聞いて順番に作る事になった。
他にも騎士部のファンでない人からも購入希望がたくさんあった。
そんな訳でグッズは、学園の売店でも予約販売されることになった。
売店での販売が決まったと同時に収益は生徒会に入る事に決まった。もちろん騎士部の活動費は大幅アップになるはずだ。
サタリはあの一日だけは我慢してくれたが、それ以外はいつも放課後の騎士部の練習に付き添っている。
応援に口は出さないが、たまにグスタフ様に声を掛けられたり握手でもしようなら、消毒という激しい手洗いが待っていた。
ほんと、私をいつまでも子ども扱いしてる。
だから今日は来てほしくなかったのだ。
そして練習が終わりそろそろ解散という時、事件は起きた。
今日はグッズのお礼をと言ってシグルド様とグスタフ様が私の所にやって来た。
「やあ、リネアだったよね?マロンから聞いてる。いろいろ騎士部の為にやってくれてるんだって。あっ、これ、俺も使わせてもらってる」
シグルド様がコイン型のキーホルダーを見せた。
「いえ、とんでもありません。私こそ喜んでいただけたらうれしいです。あの、これからも頑張ってください」
「ああ、ありがとう」
そう言ってシグルド様が私の両手をぎゅっと握ってくれた。
その後はグスタフ様がお礼を言ってくれてハグしてくれた。と言ってもぎゅっとじゃなくてふんわりと肩が触れる程度のハグだ。
「グスタフ、さ、ま~あっ、もぉ、うれ、し~です」
やっぱり推しにこんな事されるとめちゃテンション上がる。
すっとグスタフ様の手が離れたと思ったらじっと私を見つめて来る。
はぁぁぁ、心臓がマックスヤバイ!!
それからグスタフ様に握手されて彼は去って行った。
私はふらりとする。
まじやばい!!
慌ててニジェが走り寄った。
「すごいじゃないリネア!」
「羨ましいわ~、リネア良かったね」エーヴァも嬉しそうに私を見た。
「お、じょう、さ、ん!!行きましょう」
「サタリ?どこに?えっ?お前いつの間に?」
サタリがもう来ているとは思わなかった。
彼は頬をヒクヒクさせて私の手を引く。
「いいから早く!消毒しなくては」
いつもより足早にサタリは洗い場に私を連れて行く。
がしがし手を洗われてハンカチで身体中を払われる。
「もう、今度は着替えも持って来なくてはいけませんね。あいつらときたらお嬢さんに気易く触れて!!俺でさえぐっと我慢してるのに!!くっそ!」
サタリは小声でぶつぶつとしゃべりながら私の制服を何度も払う。
「そんなに嫌ならもうついて来なくていいわ。ねぇサタリ。私、思ってたんだけど。あなたに護衛してもらうのもう嫌なの。パパに言って護衛を変えてもらうつもりだから。さあ、もういいでしょう。いい加減にしてよ。あなたなんか大っ嫌い!」
制服を払っていたハンカチがポトリと落ちる。
「お嬢さん‥今なんて?護衛を変えるって言いました?そんなに俺が嫌なんです?」
サタリの顔が蒼白になって唇がわなわな震えている。
でも、もう決めたの。私もう、サタリとははっきり距離を置くべきだって。
もっと早くそうすればよかったのよ。
学園の護衛が決また時にパパに言えばよかった。
「ええ、あなたに護衛は向いてないと思うわ。だから」
「でも、他に誰が?お嬢さんを守れるのは俺しか!」
「あなたは私を守ってなんかいない。私の邪魔をしてるのよ!いいからもう帰るから」
それっきり、サタリは一言もしゃべらなかった。
気まずい馬車の中、私達は目も合わせる事もなかった。
僧、もっと早くこうすればよかったのよ。
そりゃグッズを作るのを助けてくれたりしてサタリ事大好きだけど。
貴方が優しくすればするほど私がどれだけ辛いのかわかってる?
もぉ!こんな事するサタリは好きじゃない!!




