11ふん、サタリなんか!
私は嫉妬に駆られてサタリに冷たい言葉を投げかけた。
「ここのご令嬢のお世話はサタリ!!あなたに任せるわ。ニジェ、エーヴァ、あっちに行ってシグルド様やグスタフ様を見ましょうよ」
「ええ、そうね。でも、リネアの護衛って凄いのね。あなたの為にここまでしてくれるなんて」
ニジェが感慨の声を漏らす。
まあ、そうだけど‥
「そうよ。あっ、でも、やってくれたのはリネアってわかってるからね。ほんとリネアのグスタフ熱って凄いんじゃない?普通ここまで出来ないよ。ありがとうリネア。このタオルすごく素敵。私、自分で刺しゅうするわ」
エーヴァはもらった赤色のタオルにすでに夢中だ。
「いいから早く行きましょ」
私はむしゃくしゃする気持ちのまま騎士部の練習を見る。
グスタフ様はマヨック様と剣を交えていて剣を合わせるたびにカ~ンと剣を打ち合わせる音が響く。
そうやって練習が終わるとマロン様がシグルド様に駆け寄った。
何やら耳元で話をしていたがシグルド様が私の方を見た。
そしてすたすたと私に近づいて来た。
「その‥リネア・シルベスタ令嬢かい?」
金色の髪がさらりと零れ落ち、その隙間から緩んだ紅色の瞳が覗いた。
「はい、そうです」
「クリステン侯爵令嬢から聞いたんだが、ファンクラブの立ち上げも君が提案してくれたって」
うわっ、この人怒ってる?でも、この感じ怒ってはない気もするけど。
「はい、せっかくこんなたくさんの方が応援するならと思いまして、あっ、でも、騎士部の方に許可もなく申し訳ありませんでした。あの‥そのことで?」
「勘違いしないで、怒ってなんかないから。むしろうれしいよ。いつもみんなに応援してもらってさ。何かこういうの励みになるって言うか。俺きらいじゃないから。扇子やタオルなんかも作ってくれたんだって?すごいな」
「あ、ありがとうございます。それで応援で使う品物を用意させて頂いてもよろしかったんですよね?」
「ああ、学園の生徒としての範囲なら問題ないと思うから、じゃ、よろしく頼む」
シグルド様がふっと笑って去って行った。
「リネアさん。すごいじゃないあなた。シグルド様が直接話をするなんて」
そう言ったのはカロラ様。
いつここに?さっきまでサタリのそばでれしそうにしてたのに?
「そんな。きっとマロン様が何かおっしゃったからです。それに私の推しはグスタフ様ですから」
「あら、そうなの。まあ、シグルド様の隣はマロン様がお似合いですものね。グスタフ様なら少しはチャンスがあるかも知れないわね。頑張って」
「いえ、私、そんな個人的なお付き合いなんか考えてませんから、ただ、頑張っているグスタフ様を見て応援したいだけなので」
「あら、そうなの?まあ、せいぜい頑張って、でも、あなたがいれば騎士部の応援グッズも手はいるし‥あっ!シグルド様~」
カロラ様は突然シグルド様を見つけて走り出した。
ああ、こんな人どの世界でもいるんだなぁ。
誰にでもいい顔して、それでいてチクリと嫌味を言う人。
まあ、私、全然気にしないので。
ふっと先ほどまで人だかりが出来ていた場所に目を向ける。
サタリが荷物を配り終えてひと息ついたらしかった。
ふっと彼と目が合う。
「お嬢さん、俺、ここで待ってますから。ゆっくり犬と戯れて来て下さい~!」
「サタリ!お前声が大きい。それにグスタフ様をそんな呼び方しないで!!」
はぁぁぁ、顔から火が出るほど恥ずかしい。
サタリ、何か勘違いしてない?確かにあなたに効かれてとっさにあんなこと言ったけど。
さすがにグスタフ様に恋愛感情はないからと言って犬扱いは‥いや、推しはまさにペットのような存在と言ってもいいくらいではあるが。
今、ここでそれを言わなくても!!
みんなには日本の推しが何たるかなんてわかるはずもないのに!!
「リネア?彼、さっきグスタフ様の事、犬って言ってました?」
すかさずニジェが聞く。
「う~ん?さすがにあれはちょっとね‥あっ、私が、可愛い犬みたいだって言ったからかも‥」
何とか苦しい言い訳をする。
「ふ~ん。リネアってちょっとずれてない?普通好きな男の人とお茶したいとかデートしたいんじゃない?」
エーヴァも不思議そうな顔で尋ねる。
「ああ、私、好きな人とずっと一緒にいたいって思うから‥あはっ、まあ、犬はちょっと言いすぎだったかも」
何とかふたりを誤魔化した。
「まあ、気持はわかるけど。でも、あなたのおかげで私達すごっく楽しいわ。ありがとうリネア」
「ええ、私もすごく楽しい。これからも一緒に応援しようね」
「ええ、もちろん。まだまだグッズ考えるから楽しみにしててね」
「まだ作るつもり?リネアってホント凄いわね。私達も協力するからね」
「ええ、お願い」
そんな話をしていると今度はグスタフ様が私の所に来た。
「君がリネア・シルベスタ嬢?」
「は、はい」
「俺、グスタフ・ティニーク。よろしくな」
すっと差し出された手に思わず固まる。
きゃあ、まじかで見ると精悍なお顔立ちがさらに際立って、ああ、紺碧色に瞳に吸い込まれそう。
「大丈夫か?顔が赤いけど‥」
すっと近づく距離。彼の息遣いまでも感じて
やだぁ、もう、息が‥
グスタフの手が伸びて私の肩に触れた。
その衝撃で思考が再起動する。
やっと、現実世界に戻ってはっと姿勢を正す。彼の手が離れやっと言葉を。
「すみません。はい、あの、よろしくお願いします。‥えっと、握手しても?」
「ああ、もちろん」
グスタフの差し出した手に自分の手を重ねる。
ああ‥推しと握手。グフッ、何、ちょーうれしい。今日は絶対、手を洗わない。
「また、応援よろしく。じゃ!」
颯爽と立ち去るグスタフにうっとりとなって見送った。
やっぱり、推しいい~!!




