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10完璧な世話係。なんだけどぉ


 私は翌日の放課後、騎士部の練習を見に行った。

 もちろんニジェやエーヴァも一緒だ。

 すでに練習は始まっておりグスタフやシグルド他十数名の生徒が練習に励んでいた。

 ああ、グスタフやっぱりかっこいい。

 模擬剣で対面で剣を打ち合うグスタフ。真剣なまなざしで剣を打ち込む姿は見ている方もうっとりするほどで。

 ああ、いい!やっぱりグスタフは日々の癒し。目の保養。心の活力!

 ひとしきりグスタフを堪能した。

 ふっと目を向けるとそこにはすでにクリステン侯爵令嬢やヨルディス伯爵令嬢たちがいた。

 まあ、最初から見えてはいたんですがまずは。ねっ、癒しを。


 私は昨日の扇子とタオルを持って彼女たちに近づく。

 「クリステン侯爵令嬢。いえ、騎士部ファンクラブ会長。早速ですがこれを見て頂けませんか?」

 「まあ、リネアさん。いやですわ。そんな畏まらなくてもいいんですのよ。私の事はマロンと呼んで下さらない?それで‥?」

 クリステン侯爵令嬢が照れ臭そうに微笑んだ。

 彼女はつやつやのブロンドの髪をなびかせ美しい翠色の瞳で私の持っている品物に目を落とす。


 マロン様は貴族令嬢なのに平民の私にも気さくでほんといい人だわ。こんな人が会長になってくれて良かった。

 私はそんな事を思いながら持って来た品物を見せる。

 「昨日話した扇子とタオルなんですが‥」

 言い終わらないうちに彼女が私の手の上にあるタオルを手に取る。

 「まあ、これは。グスタフの刺しゅうですわね。たった一晩でこれを?」

 「‥あっ、ええ、まあ」

 「カロラ様もご覧になって。この刺繍素晴らしい出来栄えだと思いません?‥あの、リネアさん。もしかして刺繍は自分で入れるなんて言うつもり?」

 確かにサタリが施した刺繍はすごくきれいだったが、まさか自分やそれを刺した事になるなんて考えてもいなかった。


 「とんでもありません。刺繍は各自の希望のお名前を商会の方で入れるつもりです。でも、ご自分で刺しゅうされたい方はご自分で入れられてもいいのではないでしょうか」

 「そうね。自分で応援する人の名前を一刺し一刺し入れるのもいいかもしれませんね」

 カロラ様が嬉しそうに話す。


 「そうそう、忘れる所でしたわ。リネアさん、これどうぞ召し上がって」

 マロン様から差し出されたのは昨日話していたラフラン。薄い緑色で細長い形。日本で言えばウリと小さくしたような感じだ。

 「まあ、うれしい、いいんですか?」

 「もちろん」

 私は紙袋に入ったラフランを頂く。



 そこにいいなりサタリが現れた。

 「お嬢さん?」

 ふっと振り返るとサタリが大きな荷物を持って立っている。

 「どうしたの?こんな所に入っていいの?」

 「はい、もちろん許可はもらってますよ。俺が勝手に立ち入るわけないですよ。今日はこれをお持ちしました」

 さっとサタリが荷物を広げた。


 そこには金色、銀色、青色、緑色、赤色。茶色の扇子。さらに金色と銀色はないけど他の4色と同じ色のタオルもある。その数およそ30点ほど。

 「サタリ、これあなたが準備してくれたの?」

 「当たり前じゃないですか。ボス。いえ、会長の許可はもう出てますし自由に持ち出していいと言われたので取りあえず適当にお持ちしてみましたがいかがです?」

 私はあまりの手際の良さに驚いてしまう。

 そこにカロラ様がはしゃいだように扇子に手を伸ばす。

 「まあ、なんて仕事の早い。彼ってリネアさんの護衛の方ですよね?昨日もお見掛けしましたわよね?」

 カロラ様は栗色の髪で瞳はピンク色の可愛い顔立ちをしている。小柄ながら体形はかなり豊満な方で‥

 彼女はぐいぐいサタリに近づく。

 「はい、こんな所にまで立ち入らせて頂いて申し訳ありません。お嬢さんの事よろしくお願いします」

 サタリは挨拶をしてカロラ様をじっと見つめている。

 「まあ、いやですわ。そんなに見つめられて‥私あなたみたいに大人の男性が好みなんですよ。良ければ今度お茶でもいかがかしら?」

 えっ?カロラ様、あなたの推しはシグルド様ではないんです?脳内が混乱する。

 それにも増してサタリの顔がにやけてちょっと照れたような顔で髪をクシャとかき回す様子にイラっとなった。

 私の事は子ども扱いのくせに、あんな女らしい女性には興味があるんだ。

 ふん!

 私の中で嫉妬の炎がメラメラ燃え上がる。

 「サタリ!そんな事よりこんなものを持ち込んでもいいの?こんなたくさんの品物。勝手に差し入れたらダメなんじゃないの?」

 勝手な言い分だと思う。サタリは私の為にと気を利かせてくれたと分かっているくせに彼の態度にむしゃくしゃしてしまう。

 「お嬢さん心配はいりませんよ。午前中に学園長には話は通してありますんで。これは見本ということで無料でお配りしますがこれから作るもの騎士部の応援グッズに関してはうちの商会で取り扱い売り上げの一部は騎士部の部活動費に充てるって事で了解ももらってますんで安心して下さい」

 しれっと仕事が出来る男。

 あっ、そう。まあ、お金をとるのは仕方がないってわかってるけど‥


 すかさずカロラ様が「まあ、サタリさんってすごいんですね。お仕事完璧じゃありませんか。私そう言う頼もしい男性って好きですわ」

 ふふっと微笑んでサタリの胸に触れる。

 「サタリさんってかなり鍛えてらっしゃるの?もう、やだぁ、この筋肉すご~い!」

 「いえ、それほどでも。ですが、ご令嬢。こんなふうに男の身体に触れるなんて学園の生徒じゃなかったら勘違いされますよ」

 サタリは手慣れた様子でカロラ様の手をそっと握ってやんわりとその手をどける。

 ふん、サタリって結婚女慣れしてるのね。まあ、考えてみれば彼だってもう24歳。女の一人や二人いてもおかしくはないんだもの。

 今までそんな事あまり考えたことはなかった。だってサタリはいつだって一緒にいてくれたし彼女の話なんか聞いた事もなかったから。


 せっかくグスタフに会えた気分も一気に萎えて脳内はサタリの事でいっぱいになる。

 こんなにサタリの事を気にしてどうするのよ。

 ぎゅっと唇をかみしめる。


 私とサタリ、カロラ様の間に見えない嫌な空気が漂う。


 「カロラ様、彼のおっしゃる通りよ。それより品物を見せて頂いてもいいかしら?」

 マロン様がそんな空気を断ち切るようにそう言った。

 おかげで場の雰囲気は一気に騎士部のグッズの話に。

 

 30数人の女性たちがあっという間に扇子とタオルを選んで行く。

 マロン様から聞いた話によると、騎士部の中でも主な主要メンバーは5人。

 金髪のシグルド様。銀髪のグスタフ様。

 それからティーモは茶色い髪に翠色の目。

 レイリーは赤髪でヘーゼル色の瞳。

 マヨックは青色髪でのこげ茶色の瞳らしい。

 みんな3年生で貴族。近衛兵や騎士隊への入隊もほぼ決まっているらしい。

 これなら扇子の色も金、銀、青、緑、赤、茶色。タオルも4色。これだけあれば充分ね。


 見ればサタリはたくさんの令嬢に取り囲まれ扇子やタオルを手渡している。

 サタリは愛想よくにこやかに品物を手渡して行く。

 「リネアさん、あなたの護衛って完璧ね」

 「もう、こんな素敵な護衛なら私も欲しいくらい」

 「サタリさんって素敵です~」

 

 みんなはサタリをべた褒め。

 まあ、喜んでくれたのは良かったけど。

 けど‥けど‥何よ。女にデレデレしちゃって!!

 私はその隣で、胸の中に込み上げるこのもやもやとむかむかした気持ちをどんどん膨らませて行った。









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