case5.凍える冬の恋人繋ぎ
凍てつく様に寒い冬。学校からの帰りの道を、高校二年生の如月隼人と香坂奈津美は並んで歩いていた。隼人は奈津美の手が悴んでいる事に気がついて……。
凍える冬の日の、恋人繋ぎの話です。
ぜひお読みください。
夕焼けの名残が校舎の窓に淡く映る。
放課後の空気は冷え込み、校庭の隅にある水たまりは薄氷を張り、そこに映る桜の木はすでに葉を落としている。
学校からの帰りの道を、如月隼人と香坂奈津美は並んで歩いていた。
「寒いね……」
奈津美の声は小さく、吐息の白さが二人の間に揺らめいた。奈津美は顔を少し窄め、手に息を吹きかけて温めている。
隼人はその背中を優しく見守りながら、ふと立ち止まった。奈津美の手先が赤く悴んでいる。息の熱があっという間にかき消されていくのを隣で見て、彼はぎこちなく手を差し出した。
「手、貸して」
奈津美は息を吹きかける手を止めて、驚いたように隼人の顔を見る。
「え?」
隼人はそっと彼女の左手を手に取った。触れた瞬間、想像以上に冷たい手に息を呑んだ。
「冷たいな……」
彼の声は掠れ、思わずきゅっと手に力が入る。その後、隼人は少し考えるそぶりをして、二人の手を恋人繋ぎに握りかえる。
そのまま、自分のコートのポケットに突っ込んだ。
「え、隼人!?」
奈津美は驚いて隼人を見る。
ネックウォーマーで顔の半分を覆っているけれど、見える耳はうっすら紅潮していて、隼人が自分のした事に照れている事が分かった。
「冷たかったから……」
そう言って、隼人はちらりと目を細めて笑った。照れくさそうに、ぎこちなく、でも確かな気持ちのこもった笑顔。
奈津美の胸は、大きく高鳴った。
冷えた空気の中にだんだんと熱が満ちていくような、そんな不思議な温かさ。
「えへへ……あったかい……」
そう言って、彼女は手をきゅっと握り直した。ぬくもりが指先に伝わり、心にも小さな炎が灯った。
隼人は言葉を返さず、ただ、強く手を握り返した。
しばらく歩くとバス停に着いた。奈津美はここでいつもバスに乗る。
風が強く吹き抜けて、奈津美のマフラーがふわりと揺れる。
今日は、もう少しこのまま、隼人と一緒に歩いていたかった。
「奈津美?」
隼人に呼びかけられ、奈津美は自分が止まってしまっていた事に気づいた。
「今日は、もう少し一緒にいたい、かも……」
奈津美が照れ臭そうにそう呟く。すると隼人がポケットに入れた手を強く握り直したのが分かった。
「俺も。……じゃあ、次のバス停まで、歩こうか」
そう言って、照れ臭そうに笑う隼人。奈津美も胸がいっぱいになって、「うん」と大きく頷いた。
寒い冬の帰り道、いつもより少し長い帰り道を、ふたりはゆっくりと歩いた。
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本作は、case2.初デートのお祭り のカップルの話です。
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陽ノ下 咲




