case22.熱を出した日
高校二年生の月城尚也と、本間みくは、幼馴染で、最近恋人になった二人。ある日みくが熱を出してしまい、心配した尚也はみくの家にお見舞いに行くことにして……。
幼馴染の二人の、熱の看病の話です。
ぜひお読みください。
1十一月下旬。木々の葉もすっかり落ち、冬の足音が聞こえ始める時期。
寒空の下、月城尚也は一人で通学路を歩いていた。
いつもであれば、横には幼なじみで恋人の本間みくがいるはずだった。
変わらぬ道、変わらぬ朝の光景なのに、彼女がいないだけで、全てが色褪せて見える。
「……寒いな」
みくがいない朝はこんなにも寂しかったのかと、今さら思い知らされる。
みくは昨夜、風邪を引いて熱があるとLINEしてきた。
心配で連絡を送ったが、返ってきたのは「ごめん、寝るね」の一言だけだった。
学校に着いても、心ここにあらずだった。友達と話していても、笑っているフリをしていても、心の中にぽっかり穴があいているようだった。
昼休み、スマホを開いて「大丈夫?」とメッセージを送る。それでも、放課後まで既読はつかなかった。
(そんなに具合、悪いのかな……)
じわりと不安が胸を占める。
みくの顔が、辛そうにうつむいている姿が頭をよぎる。
じっとしていられず、教科書をカバンに押し込みながら、スマホを手にもう一度メッセージを送った。
『お見舞いに行くね』
下校途中のコンビニで、ゼリー飲料とおかゆ、スポーツドリンクを買い、みくの家へと向かった。
玄関に車が無い。両親は仕事できっと今日も遅くなるのだろう。みくの家も尚也の家も共働きで、昔から夜まで家に誰もいないことが多かった。
小さい頃は、よく二人でお互いの家を行き来して遊び、留守番も一緒にしていた。
チャイムを押しても、応答はない。
(寝てるのかな……)
不安が胸を締め付ける。ドアノブを回してみると――カチャリ、とあっさり開いた。
みくが居るとはいえ、不用心ではないかと思う一方で、今日はそれで助かったな、とも思った。
「みくちゃん、居る?お見舞いに来たんだけど……」
玄関から声をかけても、返事はなかった。少し迷ったが、このまま帰ることなどできなかった。
「お邪魔します」
そっと靴を脱ぎ、静かに廊下を歩いていく。
勝手知ったる廊下の奥に、みくの部屋がある。
ドアの前で一度深呼吸し、軽くノックをした。
「みくちゃん、入るよー……?」
ゆっくりとドアを開けると、そこにはベッドに横たわり、汗をかいてうなされるみくの姿があった。
「……っ!」
思わず駆け寄る。額に汗がにじみ、頬は熱で上気している。息も荒く、目を閉じて苦しそうに唸っていた。
尚也は急いで洗面所に向かい、タオルを濡らして戻ってきた。そっと額に当てようとしたその時――
「あ……なおやだぁ」
うっすらと目を開け、みくが尚也を見つめた。
「起きなくていいよ。辛いだろうから、寝てて」
優しくそう言って、そっとタオルで額を拭ってやる。
「気持ちいい。ありがとう、尚也」
トロンとした瞳で、安心したように微笑む。
無防備な笑顔に、尚也の心臓が跳ねた。
(やばい、かわいい……って、違うだろ!)
自分の思考を振り払うように首を振る。
(こんな時に何考えてんだ、僕は。目の前にいるのは、病気で辛そうな、恋人なのに)
机の上には薬と水の入ったペットボトルが置かれていたが、どちらも封が開いていない。
「薬、飲んでないの?何か食べた?」
首を横に振るみく。
「おかゆ、買ってきたから。ちょっと待ってて」
台所でレンジを使って温め、スプーンを手に戻る。ベッドの端に座り、ひと匙すくって口元に差し出すと、みくは少し照れたように口を開けた。
「えへへ……ありがと」
そう言って、少し恥ずかしそうにおかゆを食べるみくを、熱を出しても変わらず可愛いな、と尚也は眺めていた。
おかゆを食べ終えた後、尚也は薬を手に取って差し出したが、みくは上手く飲めない様子だった。
喉を通らず、何度もむせてしまう。
「無理しないでいいよ」
「でも……飲まなきゃ、治らないし……」
尚也は一瞬だけ迷った。
「……目、つぶってて」
「え?」
「大丈夫だから、僕に任せて」
「分かった」
みくがこくりと頷き、目を閉じる。
尚也は自分の口に水を含み、そっとみくの唇に口づけた。
唇が触れ合い、みくが驚いたように目を開ける。けれど、尚也がそっと頷くと、みくはほんの少しだけ唇を開く。
少しだけ開いた唇に流し込む様に、口移しで薬を飲ませる。
ちゃんと飲んだことを確認してから、ゆっくりと唇を離した。
「……ん。飲めたね」
「……うん、ありがと」
2人とも、顔を真っ赤にしていた。
薬を飲んだ後、みくは再び眠りに落ちた。
尚也はみくの額に冷却シートを貼った後、しばらくそばに座り、彼女の寝顔を見つめた。
さっきよりも穏やかな顔に、心から安堵した。
ーーー
その日の夜、みくは、尚也とキスする夢を見た。
目の前に尚也の顔がある。
ゆっくりと近づいてきて、優しく唇が触れる。
柔らかい唇の感触。
そっと、離れる。
名残惜しさを感じていると、もう一度唇が触れて、尚也の舌が、少し開いたみくの唇に入ってきてーー
そこでみくは目を覚ました。
「……なんて夢を……」
両手で頬を覆い、顔を真っ赤にする。
身体を起こすと、額に貼ってあった冷却シートが剥がれた。
身体の怠さはすっかり無くなっていた。
机の上に置いてある、飲みかけのペットボトルと使いかけの薬を見た。
「そうだ、尚也が来てくれてたんだ……」
みくは尚也が来てくれていた事を思い出した。そして、尚也がしてくれたキスの看病の事も。
また、ボッと顔が熱くなる。
指で、自分の唇をそっと触った。恥ずかしさと、それよりももっと大きな幸せな気持ちがみくの心の中に溢れる。
ふと時計を見ると、時計の針はまだ深夜の時間を指していた。みくはもう一度眠る事にして、ベッドに横になった。
さっきの夢の続きを見れたらいいな、と思いながら。
次の日の朝、すっかり元気になったみくは、一番に尚也にお礼を言った。
「尚也、昨日はありがとうね」
すると尚也はいつもの優しい笑顔で笑ったが、少し体調が優れないようだった。
「うん……いや、でも油断した。ちょっと喉が痛いかも」
「え、尚也も?あー、うつしちゃったかな……」
みくは心配になった。
(だって、熱あるのに……キス、しちゃったもんね……)
そう考え心配しつつ、少し頬を赤らめていると、
「でも、みくちゃんが辛いよりこっちの方が全然いいよ。今日はおとなしくしとく」
尚也はそう言ってみくに笑いかけてくれた。直哉の優しさに胸がきゅんとした。
でもやっぱり心配なので、尚也を覗き込み、みくが言う。
「無理しないでね。今度は、私が看病するから」
「へへ、ありがと、みくちゃん」
尚也が嬉しそうに微笑んでくれた。
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本作は
case1.突然のバックハグ の幼馴染二人の話です。
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case4.雨の日の相合傘
case11.どんな君も好きだけど
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陽ノ下 咲




