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日常恋愛オムニバス  作者: 陽ノ下 咲


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22/42

case22.熱を出した日

高校二年生の月城(つきしろ)尚也(なおや)と、本間(ほんま)みくは、幼馴染で、最近恋人になった二人。ある日みくが熱を出してしまい、心配した尚也はみくの家にお見舞いに行くことにして……。


幼馴染の二人の、熱の看病の話です。

ぜひお読みください。

 1十一月下旬。木々の葉もすっかり落ち、冬の足音が聞こえ始める時期。

 寒空の下、月城尚也は一人で通学路を歩いていた。

 いつもであれば、横には幼なじみで恋人の本間みくがいるはずだった。

 変わらぬ道、変わらぬ朝の光景なのに、彼女がいないだけで、全てが色褪せて見える。


「……寒いな」


 みくがいない朝はこんなにも寂しかったのかと、今さら思い知らされる。

 みくは昨夜、風邪を引いて熱があるとLINEしてきた。

 心配で連絡を送ったが、返ってきたのは「ごめん、寝るね」の一言だけだった。


 学校に着いても、心ここにあらずだった。友達と話していても、笑っているフリをしていても、心の中にぽっかり穴があいているようだった。


 昼休み、スマホを開いて「大丈夫?」とメッセージを送る。それでも、放課後まで既読はつかなかった。


(そんなに具合、悪いのかな……)


 じわりと不安が胸を占める。

 みくの顔が、辛そうにうつむいている姿が頭をよぎる。

 じっとしていられず、教科書をカバンに押し込みながら、スマホを手にもう一度メッセージを送った。


『お見舞いに行くね』


 下校途中のコンビニで、ゼリー飲料とおかゆ、スポーツドリンクを買い、みくの家へと向かった。



 玄関に車が無い。両親は仕事できっと今日も遅くなるのだろう。みくの家も尚也の家も共働きで、昔から夜まで家に誰もいないことが多かった。

 小さい頃は、よく二人でお互いの家を行き来して遊び、留守番も一緒にしていた。


 チャイムを押しても、応答はない。


(寝てるのかな……)


 不安が胸を締め付ける。ドアノブを回してみると――カチャリ、とあっさり開いた。

 みくが居るとはいえ、不用心ではないかと思う一方で、今日はそれで助かったな、とも思った。


「みくちゃん、居る?お見舞いに来たんだけど……」


 玄関から声をかけても、返事はなかった。少し迷ったが、このまま帰ることなどできなかった。


「お邪魔します」


 そっと靴を脱ぎ、静かに廊下を歩いていく。

勝手知ったる廊下の奥に、みくの部屋がある。

 ドアの前で一度深呼吸し、軽くノックをした。


「みくちゃん、入るよー……?」


 ゆっくりとドアを開けると、そこにはベッドに横たわり、汗をかいてうなされるみくの姿があった。


「……っ!」


 思わず駆け寄る。額に汗がにじみ、頬は熱で上気している。息も荒く、目を閉じて苦しそうに唸っていた。


 尚也は急いで洗面所に向かい、タオルを濡らして戻ってきた。そっと額に当てようとしたその時――


「あ……なおやだぁ」


 うっすらと目を開け、みくが尚也を見つめた。


「起きなくていいよ。辛いだろうから、寝てて」


 優しくそう言って、そっとタオルで額を拭ってやる。


「気持ちいい。ありがとう、尚也」


 トロンとした瞳で、安心したように微笑む。

 無防備な笑顔に、尚也の心臓が跳ねた。


(やばい、かわいい……って、違うだろ!)


 自分の思考を振り払うように首を振る。


(こんな時に何考えてんだ、僕は。目の前にいるのは、病気で辛そうな、恋人なのに)


 机の上には薬と水の入ったペットボトルが置かれていたが、どちらも封が開いていない。


「薬、飲んでないの?何か食べた?」


 首を横に振るみく。


「おかゆ、買ってきたから。ちょっと待ってて」


 台所でレンジを使って温め、スプーンを手に戻る。ベッドの端に座り、ひと匙すくって口元に差し出すと、みくは少し照れたように口を開けた。


 「えへへ……ありがと」


 そう言って、少し恥ずかしそうにおかゆを食べるみくを、熱を出しても変わらず可愛いな、と尚也は眺めていた。


 おかゆを食べ終えた後、尚也は薬を手に取って差し出したが、みくは上手く飲めない様子だった。

 喉を通らず、何度もむせてしまう。


「無理しないでいいよ」


「でも……飲まなきゃ、治らないし……」


 尚也は一瞬だけ迷った。


「……目、つぶってて」


「え?」


「大丈夫だから、僕に任せて」


「分かった」


 みくがこくりと頷き、目を閉じる。

 尚也は自分の口に水を含み、そっとみくの唇に口づけた。

 唇が触れ合い、みくが驚いたように目を開ける。けれど、尚也がそっと頷くと、みくはほんの少しだけ唇を開く。

 少しだけ開いた唇に流し込む様に、口移しで薬を飲ませる。

 ちゃんと飲んだことを確認してから、ゆっくりと唇を離した。


「……ん。飲めたね」


「……うん、ありがと」


 2人とも、顔を真っ赤にしていた。


 薬を飲んだ後、みくは再び眠りに落ちた。

 尚也はみくの額に冷却シートを貼った後、しばらくそばに座り、彼女の寝顔を見つめた。

 さっきよりも穏やかな顔に、心から安堵した。



ーーー


 その日の夜、みくは、尚也とキスする夢を見た。


 目の前に尚也の顔がある。

 ゆっくりと近づいてきて、優しく唇が触れる。

 柔らかい唇の感触。

 そっと、離れる。

 名残惜しさを感じていると、もう一度唇が触れて、尚也の舌が、少し開いたみくの唇に入ってきてーー



 そこでみくは目を覚ました。


 「……なんて夢を……」


 両手で頬を覆い、顔を真っ赤にする。


 身体を起こすと、額に貼ってあった冷却シートが剥がれた。

 身体の怠さはすっかり無くなっていた。

 机の上に置いてある、飲みかけのペットボトルと使いかけの薬を見た。


 「そうだ、尚也が来てくれてたんだ……」


 みくは尚也が来てくれていた事を思い出した。そして、尚也がしてくれたキスの看病の事も。


 また、ボッと顔が熱くなる。


 指で、自分の唇をそっと触った。恥ずかしさと、それよりももっと大きな幸せな気持ちがみくの心の中に溢れる。


 ふと時計を見ると、時計の針はまだ深夜の時間を指していた。みくはもう一度眠る事にして、ベッドに横になった。

 さっきの夢の続きを見れたらいいな、と思いながら。

 


 次の日の朝、すっかり元気になったみくは、一番に尚也にお礼を言った。


「尚也、昨日はありがとうね」


 すると尚也はいつもの優しい笑顔で笑ったが、少し体調が優れないようだった。


「うん……いや、でも油断した。ちょっと喉が痛いかも」


「え、尚也も?あー、うつしちゃったかな……」


 みくは心配になった。


(だって、熱あるのに……キス、しちゃったもんね……)


 そう考え心配しつつ、少し頬を赤らめていると、


「でも、みくちゃんが辛いよりこっちの方が全然いいよ。今日はおとなしくしとく」


 尚也はそう言ってみくに笑いかけてくれた。直哉の優しさに胸がきゅんとした。

 でもやっぱり心配なので、尚也を覗き込み、みくが言う。


「無理しないでね。今度は、私が看病するから」 


「へへ、ありがと、みくちゃん」


 尚也が嬉しそうに微笑んでくれた。





見つけていただき、お読みくださり、ありがとうございます!


本作は

case1.突然のバックハグ の幼馴染二人の話です。


尚也×みくの話のバックナンバー

case1.突然のバックハグ

case4.雨の日の相合傘

case11.どんな君も好きだけど

case17.起こしに行ったその先で


こちらも合わせてお読み頂けると嬉しいです。

ぜひお読みください!

陽ノ下 咲

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