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1章 魔法大学入学 冒険者ミルズ誕生

冒険者登録しました。

本格始動はまた今度です。

王都の冒険者ギルドは、常に活気に満ち溢れていた。朝から晩まで、壁には張り出された依頼書がひしめき合い、酒盛りをする屈強な冒険者たちの怒号と、依頼を受ける冒険者たちの真剣な声が絶え間なく響く喧騒。汗と魔物の血、そして酒と煙草の匂いが混じり合う独特の雰囲気が、そこにはあった。ミルディアスは、そんな雑多な雰囲気を興味深げに眺めながら、受付へと向かった。


「あの、冒険者登録をしたいのですが」


ミルディアスが声をかけると、カウンターの向こうで書類を整理していた受付嬢が顔を上げた。彼女はミルディアスの若さと、彼が身につけている上質なローブに少し驚いたようだが、すぐに事務的な表情に戻った。


「新規登録ですね。登録名と、簡単な適性試験を受けていただきます」


「登録名は、ミルズでお願いします」


適性試験は、ギルドの裏手にあるダンジョンで行われる。ギルド職員が一人付き添い、ダンジョンの各階層を巡り、魔物との戦闘能力や状況判断能力などを確認する形式だ。ミルズがどれほどの動きを見せられるかを確認するため、まずは第一層から開始し、階層を上げていくことになる。


「では、ミルズさん。まずは第一層で様子を見ましょう。ゴブリンやスライムといった、初級魔物が主ですが、油断は禁物ですよ」


付き添いの職員、ロバーツは、がっしりとした体格で、その腕には古傷がいくつも刻まれていた。かつては自身も冒険者として名を馳せたであろう、歴戦の雰囲気を纏っている。彼はダンジョン入口を指差した。薄暗い通路には、微かに魔物の唸り声が響き、湿った空気が肌を撫でた。


ミルズは躊躇なく足を踏み入れた。彼の足元から、微かな青い光が滲み、全身に魔力が漲る。身体強化を常時発動させた状態だ。


第一層。薄暗い通路の先で、緑色の肌を持つゴブリンが棍棒を振り上げて襲いかかってきた。ミルズは、彼を目にするや否や、一瞬で距離を詰めた。彼は魔法を使わない。ただ、自身の身体を強化し、並外れた速度と力で、魔物たちをあっという間に無力化していく。彼の動きは、洗練された武術と、常識外れの身体能力が融合したもので、まるで舞を踊るかのように流麗だった。ゴブリンは、何が起きたか理解できないまま、彼の拳一発で呻き声をあげて沈んだ。


ロバーツは、その光景を呆然と見つめていた。続くスライムは彼の足払いで宙を舞い、壁に叩きつけられて消滅する。どれも、通常の冒険者が苦戦するような相手ではないが、魔法なしでこれほどの速度と手練れで対処する者は稀だ。まるで熟練の冒険者が新人を見ているかのようだった。ロバーツ自身も、若かりし頃は相当な手練れとして知られていたが、目の前の少年の動きは、それをも凌駕する洗練されたものだった。


「次、第二層へ」


ロバーツは、冷静に告げた。ミルズは軽く頷いた。彼の額には、一滴の汗も浮かんでいない。


第二層、第三層と進むにつれて、魔物の強度は増していく。オーク、コボルトの群れ、そして魔法を使う魔術師型ゴブリン。しかし、ミルズの勢いは衰えなかった。彼は冷静に相手の動きを読み、攻撃を寸前で回避し、最小限の動きで最大の結果を出していく。彼の身体強化は、まるで魔力枯渇の概念がないかのように持続し、その速度と力は全く落ちなかった。魔物の猛攻をひらりとかわし、関節を的確に狙い、次々と地面に伏せていく。魔術師型ゴブリンが詠唱を開始するも、彼の加速した動きの前では、その詠唱を終えることすら叶わない。


五層に到達した時、ロバーツの顔はすでに驚愕を通り越して、畏敬の念に変わっていた。五層ともなると、中堅どころの冒険者でも苦戦するような魔物が現れる。巨大なミミズのようなグラウンドワームが地中から飛び出し、触手を振り回す。しかし、ミルズはグラウンドワームの攻撃を完璧に見切り、その巨体に乗り上げて弱点である頭部を素早く叩き潰した。それを、ミルズはソロで、しかも一切魔法を使わず、圧倒的な実力でねじ伏せてきたのだ。彼の体力も、魔力(彼にとっては体内の魔力の循環)も、まだ十分に余裕があるように見えた。彼はただ、静かに次の指示を待っている。


「ミルズさん……ここまでで十分です。五層をソロで問題なく突破できる実力であれば、C級判定となりますので」


ギルドのルールでは、新規登録時の最高ランクはC級と定められている。五層をソロで攻略できる能力は、Cランクの基準を軽く上回っていた。これ以上の試験は、彼の実力を確認する意味では無意味であり、ギルドの規定上も、C級以上のランクを与えることはできなかった。ロバーツは、これほどの新人が現れたことに興奮を隠せないでいた。


ギルドに戻ると、カウンター周辺は、ここ数年で初めての快挙にちょっとした騒ぎになっていた。新人登録でC級判定を受ける者が現れるのは、滅多にないことだからだ。他の職員たちも、彼が戻ってくるのを興味津々で見つめていた。中には、「まさか、あのブルークアル家の次男坊か?」と囁く者もいたが、ミルズは意に介さなかった。


「ミルズさん、おめでとうございます!C級冒険者としての登録が完了いたしました!」


受付嬢が満面の笑みで、真新しいギルド章を差し出した。それは、金属製で、Cの文字が刻まれ、中央には剣と盾の紋様が施されている。その光沢は、彼の新たな始まりを象徴しているかのようだった。


ミルズはそれを受け取ると、首から提げ、さっそく次の依頼に取り掛かるかのように尋ねた。


「ありがとうございます。では、魔石の買取をお願いしたいのですが」


「かしこまりました。こちらへどうぞ!」


買取カウンターへと案内されるミルズ。彼はマジックバッグから、ごく自然に、魔石を取り出した。一つ、また一つと、彼の指先からカウンターに並べられていくそれらの魔石は、一般的な魔石とは明らかに異なっていた。


それらは、まるで夜空の星を閉じ込めたかのように透き通り、内部から淡い光を放っている。一つ一つが手のひら大ほどの大きさで、規則的な多角形に結晶化しており、その精緻な形状と純粋な輝きは、見る者を魅了した。一般的な魔石が、地中から掘り出された原石のような不揃いな形をしているのに対し、ミルズの魔石は、人工物のように完璧な造形をしていた。


ギルド職員が目を大きく見開く。買取担当の老練な鑑定士も、思わず眼鏡をずらして凝視した。


「こ、これは……高純度の魔石、それも、この美しさ……!まさか、これほど完璧な結晶を見たのは初めてだ!」


彼らが普段目にする魔石は、もっと粗野で、不純物を含んだものだ。しかし、ミルズが提示した魔石は、まるで熟練の宝石職人が何十年もかけて加工したかのように完璧だった。これほどの品質の魔石は、最高級の魔道具の素材としてはもちろん、魔道具職人ならば喉から手が出るほど欲しがる逸品に違いない。中には、まるで宝石の鑑定をするかのように、手のひらに乗せて光にかざす職員もいた。


興奮を隠せないギルド職員は、ややはしゃいだ声で査定を始めた。その場にいた他の冒険者たちも、カウンターに並べられた魔石の異様な輝きに気づき、ざわめき始めた。


ミルズはマジックバッグから、それらを無造作に数十個もカウンターに並べた。まるで、道端の小石でも置くかのような手つきだ。ギルド職員は、その量と質の双方に、さらに目を丸くした。


査定が終わり、提示された金額は、途方もないものだった。金貨が詰まった袋がいくつも用意され、重たげな音を立ててミルズの前に置かれる。彼はそれらをまるでパンの袋でも扱うかのように、無造作にマジックバッグへとしまい込んだ。その手つきは、彼が普段からこれほどの金銭を扱っていることを示唆していた。


ギルドを後にし、夕暮れの道を歩くミルズ。今日の成果は上々だった。これで当面の活動資金は潤沢に確保できた。貴族の次男坊という立場上、家からの仕送りだけでは研究費が賄えないことは、彼自身がよく理解していた。


しかし、彼の背後から、いくつかの視線が絡みついているのを彼は感じ取っていた。ギルド内で彼の「快挙」を目にし、そして「金貨の袋」を無造作にマジックバッグにしまう様子を見ていた冒険者崩れが、彼をつけてきたのだ。彼らの欲望が、背中をぞわぞわとさせる。


人通りの少ない、曲がりくねった路地に入ったところで、三人の男が道を阻むように立ちはだかった。彼らの顔には、欲と悪意がにじみ出ている。


「おい、小僧。いいもの持ってるみたいじゃねぇか」


一人の男がニヤリと笑い、手のひらで粗悪なナイフの刃を弄ぶ。見るからに質の悪い冒険者崩れだ。


ミルズは、ため息をついた。


「あまり、面倒事を増やしたくないのですが」


「うるせぇ!お前みてぇな小僧が、そんなもん持っているのが悪い!」


男の一人が、警告もなしにミルズに飛びかかってきた。手にした鈍器を、まるで丸太でも振り回すかのように荒々しく振り下ろす。


ミルズは、ただ、ほんのわずかに身体を強化し、男が振り下ろしてきた鈍器を、片手でひらりと受け止めた。彼は鈍器の勢いを殺さず、流れるように受け流し、その手に、ごく微量の魔力を流し込み、相手の腕の神経を一時的に麻痺させる。男は、「ぐっ!」と呻き、手に力が入らなくなり、鈍器を取り落としてよろめいた。その顔は、何が起こったのか理解できないまま、恐怖に歪んでいる。


残りの二人も、ほぼ同時に襲いかかってくる。ミルズは、一歩も動くことなく、彼らの攻撃を最小限の動きで躱し、それぞれの急所に軽く「触れて」いく。その動きは、まるで風が吹き抜けるように滑らかで、彼らの目には捉えられなかった。


その指先が触れるたびに、男たちは体が痺れたり、一瞬呼吸が止まったり、足がもつれたりして、次々と地面に倒れ伏した。彼らは、何が起こったのか理解できないまま、恐怖と混乱に満ちた呻き声を上げる。


「ふぅ……」


ミルズは、軽く息を吐いた。彼らは、戦闘不能にはなったが、致命傷は負っていない。ただ、しばらくは動けないだろう。自らの魔力操作が、このような形で他者の身体に影響を与えることを再確認した。


その時だった。


突如として、背後から地を揺るがすような轟音が響き渡った。ミルズが振り返る間もなく、三人の男のうちの一人が、視界から消し飛んだ。残る二人も、何が起つたか分からぬまま、恐怖に顔を引きつらせて後ずさる。


「……愚劣な。冒険者を装ってはいるが、こいつらは盗賊のたぐいだな」


低く、しかし力強い声が路地に響き渡った。声の主は、路地の奥から現れた、一人の男。全身を黄金色のプレートアーマーで包み、背中には大剣を背負っている。その姿は、まるで神話に登場する英雄のようだ。


「なっ……黄金のっ、バアル!?なんで貴様がこんなところに!?」


倒れていた盗賊の一人が、絶望に顔を歪ませて叫んだ。その声は恐怖に震え、まるで悪夢でも見ているかのようだった。


「何か手助けは必要か?」


バアルは、淡々と問うた。


ミルズは、困ったように小さく笑い、首を横に振った。


「いえ、大丈夫です。もう終わりましたので、彼らのことはご心配なく。私はもう、これで帰りますので」


ミルズは、やんわりとバアルの申し出を断った。ギルドに戻って報奨金を受け取る手間を考えると、今はとにかく自宅に帰って今日の出来事を整理したい気持ちが強かった。それに、これ以上「悪目立ち」するのも本意ではない。


「そうか。ならば我がこの者たちはギルドに突き出しておくとするか」


バアルは、そう言って倒れた盗賊たちを無造作に縄で縛り上げた。その手つきは迷いなく、あっという間だった。彼にとっては、これは日常的な業務の一つに過ぎないのだろう。ミルズは、この男が後日、自身の魔力操作に関する研究に、思わぬ形で関わってくることになるとは、この時は知る由もなかった。


「ありがとうございます。助かります」


ミルズは、一礼してその場を辞した。バアルは何も言わず、ただその場に立ち、ミルズが路地を抜けていくのを見送っていた。


ミルズは、何事もなかったかのように路地を抜け、自宅への道を急いだ。夜空には、すでに満月が輝き始め、王都の街並みを静かに照らしていた。


今回の出来事で、ミルズは改めて自身の魔力操作の応用範囲と、それに対する世間の認識の乖離を認識した。そして、この王都には、彼とは異なる形で「規格外」の力を振るう存在がいることを肌で感じた。冒険者としての道は、まだ始まったばかりだ。

バアルを主人公にした物語を考えていたのですが、

しばらくは書かないだろうなと思います。

後で出てくる予定ですが、しばらく登場しません。多分

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