1章 魔法大学入学 叙爵し男爵へ
どんどん魔法大学から離れているような気がします。
一か月──事件の喧騒が遠ざかり、町の傷跡が静かに癒え始めた頃、王都からの書簡が届いた。いくつかの祝辞とともに、礼勅と勲功目録が添えられている。町を救った功績を称え、王国側から「叙爵」の打診が来たのだ。
ギルドの冒険者たちも、多くが命を賭して戦い、死者の山を前に奮戦した。だが叙爵の候補として真っ先に名が上がったのは、外で群れを押し留め、圧倒的な戦果で脅威を消し去った「ミルズ」――ミルディアスだけだった。
不満を持つ冒険者もいたがギルマスが「お前貴族になんかになりたいのか?俺は嫌だね。」と言えば殆どの冒険者は納得して帰っていった。
王府側の見立ては冷徹だった。アンデットの残骸を確認した結果万単位に及ぶだろう問うことだった。
それを単独で撃破できる戦力が国外へ流れてはならない。
彼を「公的管理下に置く」ことで、戦力と知見が王の元に留まることを望んだのだという。
答申は形式的だが、裏には確かな政治的計算があった。
ミルディアス自身はその胸中をあまり表に出さなかった。
保護した獣人たちの事を考えると、今の館は手狭になってきている。
彼は以前から移転と居住地の確保を考えていた。
それに元来、ミルディアスの実家は貴族であり「爵位」を受けることに違和感はなかった。
親元から独立したくらいの感覚だった。
クラウス達家臣と議論し計算の末、ミルディアスは叙爵の話を受けることにした。
理由は実利のみだ――保護者としての責務を果たすために、拠点と権限が必要だった。
王から下賜された爵位は「男爵」。
伴って与えられた領地は、辺境都市ガルニアの南西、古くより人が入らぬ禁忌の森と呼ばれた広大な地――通称「闇の森」だった。外務の役人は淡々と説明する。
空いている土地がなく、領地として割り当てられるのは未開拓の地ばかりだ。
だが広さは桁外れで、開けば莫大な利益と影響力を得る可能性がある。
王府の論法は単純だった。ミルディアスの力を買い、その手腕でこの地を開かせたい、ということだ。
その森には古い名があった。もっと昔は「ヴァリスの森」と呼ばれ――それはこの地を護った女神ヴァリスの名に由来する、生命の豊かな場所だった。そこで暮らしたのはエルフたちで、温かい光が木々の下に常に満ちていたという。しかしある日を境に大量の魔力が地脈を侵し、森は人の住めぬ瘴気に満ちた場所へと変わった。ヴァリス王の住むヴァリスタイン城は廃墟と化し、森が浸食し数百年の月日を経て「闇の森」と呼ばれるようになり、いつからか人々はそこを忌避するようになった。
男爵となったミルディアスは、叙爵の喜びよりも現実的な準備に頭を巡らせた。
領地が未開である以上、単に移住のための家を建てるだけでは足りない。
魔力の異常域を監視・抑制し、居住可能な環境を確保するための手立てが必要だ。
候補に挙がった手段は幾つかある——
・周囲の魔力を集め、安定した形で蓄える「魔石」への変換を行う強化型魔道具の導入。
これによって強大な魔力による影響を部分的に抑え、周辺への流出を管理する。
・領地周辺に結界を張り、まずは居住でくる場所を確保する。
・現地の地質/魔力分布を詳細に調査すること。古い遺構や残留魔装があるかもしれない。
エルフの遺物や、ヴァリス王の遺構の痕跡が出れば利用の余地もある。
・魔獣や、かつての住民の末裔の存在の可能性。
場合によって対話と交渉が必要になるかもしれない。
・入植者と保護獣人たちの生活線をどう設計するか。農地・水源・防衛線・交易路の整備計画も要る。
彼は思案しながら、既に何人かの技術者と魔道具師へ手紙を出した。まずは調査隊を編成し、数週間の探索で得られたデータを基に、拠点設計を立てる。魔力を魔石に変換する魔道具と、結界を精製する魔道具どちらも開発を並行して進めねばならない。さらに都市と王府への報告、補助金の交渉、入植者の募集と訓練――やることは山積みだ。物資の運搬も必要だ。
ミルディアスは誰に命令されるでもなく、この未開の地を人が住めるように変えてみせるつもりだった。保護した獣人たちに、ただの屋根ではなく、安定した生活と誇りを与えるために。
彼は地図を広げ、指先で闇の森の輪郭をなぞった。荒れた地には危険が待ち受けるが、同時に可能性も横たわる。叙爵は名誉であると同時に、重責である。ミルディアスは短く息をつき、然るべき者へと知らせる手配を進め始めた。開拓は始まったばかりだ。成功すれば、彼と彼の屋敷に寄せられた命は救われる。失敗すれば――多くの命が失われるだろう。
だが選択は既になされた。男爵ミルディアスの名は、静かに辺境の地に刻まれることとなった。
疲れを感じ、外を見るべく窓へ向かう。
なんとなしに空を見上げてみると、はるか上空に黒い点が見えた。
特に意味は無いが視力強化し、その姿を捉えた大型の鳥が大空を飛んでいるようだった。
羽ばたいていないことが少し不思議に思った。
鳥は羽ばたかなくても飛べるのかと、羽ばたいて飛んでいるのではない?
なぜ羽ばたかなくて落ちないのか疑問に思いながら空をしばし眺めていた。
ミルディアスが全力で移動する場合、距離は大して意味をなさない。
魔法大学から大分離れるけど、通学がが可能になりますが、
一旦は開拓に専念するため、しばし休学することになります。
※といっても試験さえ通れば良いので、留年はしない予定。




