1章 魔法大学入学 まどろみの中で
王女様の名前忘れてしまったので、読み返してみた。
騒動が収まり、ミルディアスは静かに館へ戻った。
湯殿で熱い湯に身を沈め、返り血と汗、土埃を洗い流す。
戦いの緊張がほどけると、濃厚な疲労が一気に押し寄せてきた。
風呂上がり、執事クラウスにギルドに向かってからの顛末と、クラウスからは館に異常がなかったか確認しながら、深い赤のワインを静かに味わう。
戦士の身体に、ようやく人の温度が戻るようなひとときだった。
やがて寝室へ向かい、厚い毛布の中に身を滑らせる。
しばらくすると、いつものように何処からか黒猫が音もなくベッドに跳び乗ってきた。
喉をゴロゴロ鳴らしミルディアスの頬をひと舐めすると、そのまま布団の中へ入り脇の下へ潜り込み、当然のように腕を枕にして丸くなる。
「まったく、いつもながら勝手なものだ……」
そう呟きながら悪い気もしないミルズは静かに目を閉じた。
ここまでは、いつも通りの夜だった。
ふと、意識が浮かび上がったような、ただ鮮明ではなく
眠りと覚醒の狭間、白濁した夢の中の世界にいるような。
なぜか、自分の腕には猫と違った重さを感じた、体には柔らかな体温が寄り添っていた。
視線を向ければ、そこには裸の少女。
あり得ないことだが、いつもの事であるかのように、あぁ夢かと心は妙に落ち着いた。
少女はゆるりと目を開け、ミルディアスを見つめて微笑む。
「……起きたの?」
その顔は、第三王女——ルミナ。
王宮に咲く月の花と称される気高い少女、魔法大学の先輩で遥かに手の届かぬ存在、、、だよな。
あぁ、夢か、、、、
当然のようにミルディアスの腕の中が自分の居場所とばかりに、
彼女は笑う、あぁ夢だ、、、
夢ならばと、ミルディアスは抗うことなく、静かに少女を抱き寄せる。
唇が触れた瞬間、世界が淡くほどけていった。
目を開けると、ベッドには自分ひとりだった。
腕の中の少女はいるはずもなく、黒猫がいるだけだった。
「リリィやっぱお前だよな……夢だよな、」
安堵とも、失望ともつかぬ息が漏れた。
思い出されるのは、夢の中の微笑。
妙にリアルな柔らかさ。
そして——彼女の瞳。
「……厄介な夢を見たものだ」
「あんな夢を見るとは、自分はどうもルミナ王女のことを意識しているようだ。」
黒猫がまだ寝ぼけ顔で伸びをすると、窓から飛び出して行ってしまった。
いつもと変わらぬ朝のはずなのに、世界はほんの少し色を変えていた。
黒猫=王女といつになったら気が付くのか知らず知らずミルズはやらかしている。
王女様の火遊びは、そのうち火傷するよね。




