1章 魔法大学入学 第六話 サークル勧誘3
サークル勧誘編終了です。
事後処理みたいなのもあると思うけど書かないかな。
第四話 サークル勧誘戦(3)
食堂の一角は、突如として静まり返った。先ほどまで互いを罵倒し合っていた魔剣部と身体強化魔法部のメンバーは、今や一人の少年、ミルディアス・ブルークアルを敵と見なし、彼を取り囲むように迫りつつあった。
魔剣部のリーダーらしき男が、魔法で強化された剣を構え、怒りの形相でミルディアスに斬りかかった。剣の切っ先からは、微かに魔力の光がスパークしている。彼は、ミルディアスが無傷で自分たちを無力化したことに、純粋な怒りと、説明できない恐怖を感じていた。
「てめぇ!ふざけた真似しやがって!今度こそただじゃおかねぇぞ!」
同時に、ビルダー部のリーダーらしき男も、全身に身体強化魔法を纏い、岩のように肥大した拳を振り上げ、ミルディアスの頭部へと叩きつけようと突進してきた。彼の拳は、一撃で鉄板を砕くほどの威力を秘めている。
フレッド、レイモンド、エリオットの三人は、その光景を目の当たりにし、息をのんだ。彼らはミルディアスが魔法を使えないことを知っている。しかし、先ほどの素早い動きは、彼らの常識を遥かに超えていた。だが、それでも、これだけの数の熟練した魔法使いに囲まれ、二つの部のリーダーが同時に襲いかかってくる状況は、あまりにも絶望的だ。
「ミルズ!危ない!」
フレッドが思わず叫んだ。しかし、ミルディアスは微動だにしなかった。その瞳は、襲い来る二人を冷静に見据えている。
(なるほど。同時に来るか。だが……)
ミルディアスの口元に、微かな笑みが浮かんだ。それは、追い詰められた者の笑みではなく、何か面白いものを見つけた時の、純粋な好奇心に満ちた笑みだった。彼の心臓が、微かに高鳴る。それは恐怖ではなく、これから始まるであろう「実験」への期待に他ならなかった。
剣が、身体強化された拳が、同時にミルディアスに迫る。もはや避けることは不可能に見えた。
その瞬間、ミルディアスは意識的に自身の体内に渦巻く膨大な魔力を、全身へと巡らせた。彼の全身の細胞の一つ一つが、魔力で満たされていく感覚。それが起こる瞬間、彼の肌が僅かに青みがかった光を帯びたように見えた。それはほんの一瞬の出来事だったが、彼の存在が、それまでとは全く異なる領域に足を踏み入れたことを示唆していた。
脳が魔力で強化され、思考が加速する。襲い来る剣と拳の軌道が、まるでスローモーションであるかのように鮮明に脳裏に描かれる。相手の筋肉の動き、呼吸の乱れ、次の一手の予測。あらゆる情報が瞬時に解析され、最適な対処法が導き出される。身体もまた、思考に追いつくかのように加速する。筋肉の出力は増し、骨は鋼鉄の如き硬度を得、血管は爆発的な魔力の流れに耐えうるよう強化される。心臓はより力強く鼓動し、内臓全てが超常的な機能を果たし始める。通常の身体強化魔法のように呪文を唱え、一定量の魔力を消費して特定の効果を得るものではない。彼の持つ無限の魔力は、筋肉、骨、皮、血管、心臓からすべての内臓、そして脳に至るまで、全身のありとあらゆる部位を直接的に、瞬時に強化したのだ。その魔力消費量は、通常の身体強化魔法の数百倍に及ぶ非効率極まりないものではあったが、彼には有り余る魔力がある。それどころか、もはや強化できない場所など存在せず、その効果は同等、いやそれ以上の領域に達していた。
魔剣部のリーダーが放った剣は、まさにミルディアスの目の前、鼻先数センチにまで迫っていた。しかし、ミルディアスの身体は、彼自身の意思で、剣の到達よりも早く、わずかに横へとスライドする。まるで、その場に存在しないかのように、あるいは蜃気楼のように、剣は彼の体をすり抜けた。男は、標的を失った剣と共に、大きく体勢を崩し、虚しく空を切った。彼は自らの勢いで、コントロールを失い、床に膝をつく。
同時に、ビルダー部のリーダーの渾身の拳が、ミルディアスの頭部に迫っていた。だが、その拳もまた、寸前で止まった。ミルディアスは、ただ頭を僅かに傾けただけだった。彼の強化された皮膚が、拳風で微かに揺らぐ。男の拳は、彼に触れることすら叶わず、虚空を叩いた。そして、その衝撃は、男自身の腕に跳ね返り、痺れとなって全身を駆け巡った。男は、自身の全力の一撃が何事もなく受け流されたことに、困惑と恐怖に顔を歪ませた。
ミルディアスの動きは、どれも洗練されすぎていて、魔法の発動を伴わない。それはまるで、長年培われた武術の達人の動きそのものだった。幼い頃から、貴族としての護身術だけでなく、父の意向で実戦的な戦闘訓練を受けてきたミルディアスは、モンスター討伐の実戦経験すら持っている。その身に宿る膨大な魔力と、それを意識的に身体強化へと変換する能力は、彼の動きを常識を超えた領域へと押し上げていた。
彼の周囲にいた他の部員たちも、何が起こったのか理解できないまま、次々と襲いかかろうとしていた。だが、ミルディアスの加速した思考は、既に彼らの位置、動き、そして次の一手を完璧に予測していた。
ビルダー部の部員が、背後からミルディアスにタックルを仕掛けようと突進してくる。ミルディアスは振り返ることなく、まるで背中に目があるかのように、左の掌底を男の腹部に軽くはたく。それは、打撃というよりも、触れるような、しかし的確な一撃だった。男は、突然襲いかかった見えない衝撃波に、息を詰まらせ、その場で前のめりに倒れ込んだ。
同時に、右側から、魔剣部の部員が剣を振り下ろしてくる。ミルディアスは右足を軸に、体を半回転させた。彼の足先が、男の剣を持つ手首に、優しく、しかし確実に触れる。男は、まるで痺れたかのように剣を取り落とし、そのまま自身のバランスを崩して地面に転がった。
ミルディアスは、流れるような動作で食堂内を動き回る。彼の速度は、既に常人の目では追いきれない領域に達していた。食堂の床に敷かれたタイルが、彼の足が踏みしめるたびに、ミシリと微かに軋む音を立てる。だが、彼自身は、その超高速移動を全く苦にすることなく、優雅に、そして効率的に動き続ける。
「どこだ……あいつはどこにいる!?」
魔剣部の部員の一人が、目が追いつかないまま、剣を闇雲に振り回した。しかし、彼の剣が空を切るたびに、ミルディアスは既に彼の死角に回り込み、彼の肩を軽くはたく。叩かれた部員は、まるで電気ショックを受けたかのように、その場でガクンと膝を折る。
ビルダー部の部員が、食堂の椅子を掴んでミルディアスに投げつけた。椅子は猛烈な勢いで飛んでくるが、ミルディアスはそれを目で追うことすらせず、身体をわずかに捻るだけで、飛来する椅子の軌道を逸らす。椅子は食堂の壁に激突し、派手な音を立てて砕け散った。
「くそっ、見えない!見えねえぞあいつ!」
「は、速すぎる……本当に人間かよ!?」
部員たちの間で、恐怖と混乱が広がっていく。彼らは、目の前にいる存在が、自分たちの常識では計り知れない怪物であるかのように感じ始めていた。攻撃しようにも、ミルディアスがどこにいるのかも把握できない。かろうじて見えたと思っても、その姿は次の瞬間には霞のように消え失せている。
ミルディアスは、彼らを傷つけることなく、あくまで無力化することに徹していた。彼の指が、彼らの急所――例えば首筋の神経、関節のツボ、あるいは単に体の重心――に触れる。その指先から、微量の魔力が的確に流し込まれ、彼らの身体機能を一時的に麻痺させるのだ。それは、医療に精通した魔術師ならば、回復魔法の応用として使うような、精密な魔力操作の技だった。彼が魔力を外部に「放出」すること自体はできないが、体内で練り上げた魔力を「接触」によって相手に「流し込む」ことならば、意識して行うことができたのだ。
食堂内に、バタバタと人が倒れる音が響き渡る。
ある者は全身の関節を一時的に固められ、
ある者は呼吸を止める寸前の感覚に陥り、
またある者は、一瞬意識を失いかける。
だが、彼らは皆、致命傷を負うことなく、ただ戦意を完全に喪失させられ、その場にうずくまるだけだった。
数秒後には、十数名の魔剣部とビルダー部の精鋭たちが、食堂の床に転がっていた。誰もが息も絶え絶えで、ミルディアスを恐怖の目で見上げている。
ミルディアスは、最後に残った魔剣部のサブリーダーらしき男の前にゆっくりと立った。男は、恐怖に顔を引きつらせ、震える手で剣を握りしめている。
「もう、よろしいですか?」
ミルディアスは、涼しげな声で尋ねた。彼の全身を覆っていた青みがかった光は、既に消え失せ、普段通りの穏やかな表情に戻っている。だが、男には、彼の瞳の奥に、底知れぬ何かを見た気がした。
「……ま、参った……参りました……!」
男は、持っていた剣をガシャンと音を立てて床に落とし、両手を上げた。その震える声は、食堂中に響き渡る静寂の中で、はっきりと聞き取れた。
こうして、国立魔法大学の食堂で起こったサークル勧誘戦の乱闘は、たった一人の少年によって、あっけなく終結した。
「ミルズ……お前、一体……」
フレッドは、目の前で繰り広げられた光景に、完全に言葉を失っていた。レイモンドとエリオットもまた、ミルディアスを信じられないものを見るかのように見つめている。彼らの常識では、魔法を使えない人間が、これほど多数の魔法使いを圧倒するなど、ありえないことだったからだ。
ミルディアスは、そんな友人たちの方を振り返り、いつもの穏やかな笑顔を向けた。
「さあ?とにかく、これで騒ぎは収まったようだし、僕たちもそろそろ行こうか」
彼は、何事もなかったかのように食堂の出口へと歩き出す。その後ろ姿は、先ほどまでの超常的な能力を見せた人物とは、まるで別人のようだった。
「……いやいやいやいや!『収まった』で済む話じゃねえだろお前!?」
フレッドが、ようやく我に返って叫んだ。彼のツッコミが、静まり返った食堂に響き渡る。
「それにしても、ミルズのあの動きと力……」
レイモンドが、信じられないといった様子で呟いた。エリオットも深く頷いている。
食堂に残された魔剣部とビルダー部の面々は、打ちひしがれたままその場にへたり込んでいる。彼らの心には、恐怖と、そして理解不能な現象に対する困惑だけが残っていた。
「あいつ……本当に、魔法使えねぇのかよ……?」
国立魔法大学の食堂に、信じられないほどの静寂が広がっていた。先ほどまで乱闘騒ぎの渦中にあった魔剣部と身体強化魔法部のメンバーは、全員が床に転がり、ミルディアスの後ろ姿を茫然と見つめている。彼らを無力化した少年は、何事もなかったかのように出口へと歩を進めていた。
フレッド、レイモンド、エリオットの三人は、その光景を目の当たりにして、未だ言葉を失っていた。特にフレッドは、口を半開きにしたまま固まっている。
「ミルズ……お前、まさか……身体強化魔法、使えたのか!?」
フレッドが、震える声で叫んだ。それは、驚きと、どこか裏切られたような感情が入り混じった声だった。ミルディアスが魔法を使えないことは、彼自身が最もよく理解しているはずだったからだ。
ミルディアスは、食堂の出口付近で立ち止まり、振り返った。彼の顔には、いつもの穏やかな笑みが浮かんでいる。
「いや、使えないよ」
彼の答えは、あっさりとしたものだった。
「だって、見たぞ!お前、急に動きが速くなって、体当たりされてもびくともしなかったし、それに、あの青い光も……!」
フレッドが混乱した様子で詰め寄る。彼の隣で、レイモンドとエリオットも、ミルディアスの言葉の真意を測りかねているようだった。彼らが目にした現象は、どう考えても身体強化魔法以外の何物でもなかったからだ。
「フレッド、君たちが知っている身体強化魔法は、一定量の魔力を対価に、特定の身体部位を一時的に強化する魔法だろ?」
ミルディアスは、問いかけるように言った。フレッドは頷いた。それは、魔法大学に入学する者ならば誰もが知る、常識中の常識だった。
「僕がやったのは、ただ魔力を体中に満たしただけだよ。魔力さえあれば、誰にでもできることさ」
ミルディアスは、あっさりとそう告げた。彼の言葉に、フレッドの表情は、完全に固まった。レイモンドとエリオットも、信じられないものを見るような目でミルディアスを見つめている。
「…………」
フレッドは言葉を失った。彼の頭の中は、ミルディアスのあまりにも常識外れな発言と、目の前で起こった現実が全く結びつかず、完全にフリーズしていた。
ミルディアスは、友人たちの反応に小さく苦笑いを浮かべると、それ以上説明することなく、食堂を後にした。彼の背中は、どこか飄々としていて、先ほどの騒動が嘘のように感じられた。
ミルディアスが去った後も、フレッドは、その場に茫然と立ち尽くしていた。彼の隣で、レイモンドとエリオットは顔を見合わせ、深いため息をついた。
「『魔力さえあれば誰にでもできる』……だと?あんなの、できるわけないだろう」
レイモンドが、呆れたように呟いた。
「だが、彼は本当に魔法を使わなかった。あれは、魔力の直接的な行使……彼自身の魔力量と、それを精密に操作する能力がなければ、不可能な芸当だ」
エリオットが、冷静に分析する。彼の表情には、驚愕と、そして深い探求心が宿っていた。ミルディアスの持つ能力は、既存の魔法理論では説明できない、未知の領域を示唆している。
フレッドは、友人の言葉も耳に入らないようだった。彼は、ミルディアスの言葉を反芻するように、ゆっくりと自身の掌を前に突き出した。
「……魔力を、体中に満たす……」
彼はそう呟くと、自身の体内に意識を集中し、魔力を全身へと巡らせようと試みた。普段、魔法を唱える際に掌に集める魔力を、全身に行き渡らせるイメージをする。しかし、彼の体内で魔力はほんのわずかに脈打っただけで、すぐに散ってしまう。どれだけ集中しても、全身に魔力を行き渡らせることなど、到底できなかった。一瞬でも全身を魔力で満たすほどの魔力なんて、彼にはないから当然だ。
「いやいやいや、誰にもできないって!」
フレッドは、思わず大声で叫んだ。彼の声は、まだ騒然とした空気が残る食堂に響き渡る。
「……あれって、もう魔法でよくないか!?」
彼の素朴な、しかし的を射たツッコミが、食堂の空間に虚しく響き渡った。だが、その言葉は、彼らの心に、ミルディアスという存在が持つ、常識外れの矛盾を深く刻み込むこととなった。
フレッドの突っ込みを書きたくて始めた感じなので、
無事突っ込めたので一安心です。
魔法剣士部と部?サークルにした方がよかったか?
いや、、、全体ではサークルと総称し、各々は研究室だったり部であったりサークルなど独自に呼ぶのでまあいっか
次回は魔法大学をちょっと離れて、冒険者活動を開始させようとおもっています。




