1章 魔法大学入学 第五話 サークル勧誘2
トラブル発生。
食堂の一角で、魔剣部と身体強化魔法部の勧誘担当者たちが、ミルディアスを挟んで激しい言い争いを続けている。彼らの声は次第にヒートアップし、周囲の学生たちの注目をさらに集めていた。
「いいか、ブルークアル!うちの魔法剣士部(魔剣部)はな、文字通り魔法と剣技の融合を極める!魔法を剣に宿して放つ一撃は、通常の魔法を凌駕する!お前のその途方もない魔力があれば、誰も到達したことのない領域にまで踏み込めるんだ!」
魔剣部の男が熱弁する。背中に背負った長剣が、興奮に震えているかのようだ。彼の言葉は、魔法と武術の境界をなくし、新たな戦い方を生み出すという彼らの思想を表していた。
「フン、何を大口を叩いている。**身体強化魔法部こそが真の強さだ!我々は身体強化魔法を駆使して肉体を極限まで高め、己の拳や蹴り、あるいは魔法を纏った肉体そのものをもって相手を圧倒する!**魔法の剣術など、身体能力の向上があってこそ。お前のような魔力持ちなら、もはや人を超えた存在になれるだろう!」
ビルダー部の男も負けじと、自慢の筋肉をアピールするように腕を組み、力強く反論した。彼らの思想は、魔法を己の肉体と一体化させ、純粋な物理的破壊力を追求するというものだ。
「馬鹿馬鹿しい!魔法剣士の洗練された剣技には遠く及ばん!」
「洗練?泥臭くても勝てばいいんだ!真の力とは肉体から生まれる!」
ついに口論は互いのサークルを罵倒する領域にまで達し、場は険悪な雰囲気に包まれる。フレッドとレイモンドは、間に挟まれたミルディアスを心配そうに見守っている。エリオットは相変わらず冷静だが、眉間に微かな皺が刻まれていた。
「おい、お前ら!そろそろいい加減にしろ!」
食堂の奥から、別の魔剣部のメンバーらしき男が数名、こちらに近づいてくるのが見えた。彼らの顔には、いら立ちの色が明確に浮かんでいる。同時に、ビルダー部のメンバーも、筋肉質な体を揺らしながら、数名が駆け寄ってきた。
「なんだ、テメェら。喧嘩売ってんのか?」
「そっちこそ!新人を囲い込もうとしてんじゃねぇよ!」
一触即発。いや、既にそれは火種を越え、燃え盛る炎となっていた。
次の瞬間、食堂の床が震えるほどの衝撃音と共に、魔剣部の男がビルダー部の男に渾身の拳を叩き込んだ。ビルダー部の男も、負けじと強力な回し蹴りを繰り出す。
「うおおおおおおっ!」
「てめぇら、やる気か!」
たちまち食堂の一角は、サークルの垣根を越えた乱闘騒ぎに発展した。テーブルが倒れ、食器が砕け散る。周囲の学生たちは悲鳴を上げて逃げ惑い、瞬く間にその場から遠ざかる。
「おい、ミルズ!まずいぞ、このままじゃ巻き込まれる!」
フレッドがミルディアスの腕を引いた。彼は顔色を青くし、完全に混乱している。レイモンドもエリオットも、この状況にどう対処すべきか迷っているようだ。
「そうだ、ミルズ。こんな乱闘に巻き込まれる必要はない!僕たちは関係ないんだから、早くここから離れよう!」
レイモンドがミルディアスの反対側の腕を引こうとした。
その時、魔剣部のリーダーらしき男が、顔を血走らせて叫んだ。
「おい、テメェら!こんな奴ら、無視してやることはねぇ!お前らもやれ!」
その言葉は、ミルディアスとフレッドたちに向けられているようだった。彼らは、この乱闘に巻き込み、敵対するビルダー部を非難するように仕向けようとしているのか。
もはや食堂はカオスと化したていた
「魔法大学なのになんて脳筋な先輩たちなんだ」
彼らの困惑をよそに、ミルディアスは無造作に、乱闘の中心へと足を踏み入れた。
乱闘の只中、彼が踏み込んだ瞬間に、彼の周囲の空気が僅かに歪んだように感じられた。それは誰も気づかないほどの微細な変化だったが、ミルディアスの全身から、膨大な魔力が静かに放出され、周囲の空気を押し込めている証拠だった。彼はその魔力を意識することなく、ただ自身の身体の一部として扱っている。
まず、ミルディアスの目の前で、ビルダー部の男が放った強力な蹴りが、魔剣部の男の腹部に叩き込まれようとしていた。蹴りの速度は目にも止まらぬ速さだ。しかし、ミルディアスは、まるで最初からその軌道を知っていたかのように、滑らかな体捌きで二人の間に割って入った。
彼の指先が、ビルダー部の男の足首に触れた。ただ、触れただけ。しかし、その瞬間、男の蹴りは寸前で止まり、まるで人形の糸が切れたかのように、彼の体はふわりと宙に浮き、そのまま食堂の壁へとゆっくりと押し付けられた。壁に激突する寸前で、彼は無傷で床に滑り落ちた。まるで、見えない巨大な掌に包み込まれて優しく置かれたかのように。
同時に、背後から振り下ろされた魔剣部の男の剣の切っ先が、ミルディアスの頭部に迫る。彼は振り返ることもなく、ただ肩をわずかに動かした。すると、剣は彼の肩を掠めることもなく、まるで軌道が逸れたかのように、虚しく空を切った。そして、剣を振り抜いた男は、そのまま自らの勢いに任せるように、数歩後ずさり、床に膝をついた。彼もまた、怪我一つない。
ミルディアスの動きは、どれも洗練されすぎていて、魔法の発動を伴わない。それはまるで、長年培われた武術の達人の動きそのものだった。幼い頃から、貴族としての護身術だけでなく、父の意向で実戦的な戦闘訓練を受けてきたミルディアスは、モンスター討伐の実戦経験すら持っている。その身に宿る膨大な魔力は、彼自身の身体能力を無意識のうちに強化し、彼の動きを常識を超えた領域へと押し上げていた。
彼の周囲にいた他の部員たちも、何が起こったのか理解できないまま、次々と無力化されていく。ミルディアスは一人ひとりの動きを見極め、最小限の動きで彼らの攻撃をいなし、衝突の力を利用して、誰一人傷つけることなく、壁や床に無力化させていった。それは、まるで彼だけが時間の流れから切り離され、すべてを見通しているかのようだった。その動作は流れるように滑らかで、まるで舞踏を見ているかのように優雅だ。
瞬く間に、食堂の乱闘は静まり返った。十数名の魔剣部とビルダー部のメンバーが、誰一人傷つくことなく、だが完全に体勢を崩され、床にうずくまるか、壁にもたれかかるかして動けなくなっていた。
「……な、なんだ、今の……」
フレッドが、呆然とした声で呟いた。彼の隣で、レイモンドとエリオットも、信じられないものを見るかのように目を瞠っている。
その時、床に膝をついていた魔剣部のリーダーらしき男が、ハッと顔を上げた。彼は、ミルディアスのあまりの動きに理解が追いつかないようだったが、すぐに怒りの表情を浮かべた。
「て、てめぇ!何しやがる!いきなり俺たちの邪魔をするとは、一体何様だ!」
男が叫び、起き上がりざまに、再びミルディアスに向かってくる。その手には、魔法で刃を強化した剣が握られていた。
一方、壁にもたれかかっていたビルダー部のリーダーらしき男も、同様にミルディアスに抗議の叫びを浴びせた。
「ふざけるな!俺たちの邪魔をするな!貴様、何様のつもりだ!」
彼もまた、全身に魔力を纏い、その巨体をミルディアスへとぶつけようと迫る。
先ほどまで互いに敵対していた魔剣部とビルダー部。しかし、その矛先は、いつの間にか一人の少年に向けられていた。
魔剣部対ビルダー部だったはずの乱闘は、いつの間にか、魔剣部+ビルダー部対ミルディアス、という構図になりつつあった。食堂の他の学生たちは、息をのんでその光景を見守っている。誰もが、これから何が起こるのか、固唾を飲んで見守っていた。
ミル君はただの落ちこぼれではないのです。




