1章 魔法大学入学 護衛依頼4 コーナー領
アース侯爵領からコーナー公爵領へ
コーナー公爵領での再会
ジェット都市を出発した商隊は、広大な平野を西へと進んだ。二日間の旅路は比較的穏やかで、特筆すべき困難もなく、商隊は無事にコーナー公爵領のリーバー都市へと到着した。
フーは魔力の卵の中で安らかに過ごし、旅の間に少しずつ元気を取り戻していた。到着する頃には、以前のような怯えは薄れ、目にはかすかな好奇の光が宿るようになっていた。まだ完全に傷が癒えたわけではないが、食欲も出てきて、時折、ミルディアスやハインツの顔をじっと見つめるなど、人間らしい感情の兆しを見せ始めていた。ミルディアスは、フーが一日も早く心身ともに回復することを願っていた。
その頃、リーバー都市には、第三王女ルミナも滞在していた。彼女は夏季休暇で実家である王城に戻った後、公爵であるおじの家に立ち寄ってから魔法大学に戻る予定で、この地でのんびりとした日々を過ごしていた。
公爵邸の一室で、ルミナ王女は公爵であるおじと談笑していた。
「ルミナ、魔法大学での生活はどうだ? 勉学に励んでいるようだが、無理はしていないか?」
公爵は優しい眼差しで姪を見つめた。
「ええ、おじ様。おかげさまで、充実した日々を送っていますわ。ただ……」
ルミナは言葉を濁し、少し俯いた。公爵はすぐにその意図を察した。
「ジャガーノートの件か。あの時は本当に肝を冷やしたぞ。まさか、あのような災害が起きるとは……。お前が無事で何よりだった」
公爵の言葉に、ルミナは静かに頷いた。
「はい。あの時は、本当に危ないところでした。でも、そのおかげで、ある方と出会うことができましたわ。その方がいなければ、私は今、ここにはいなかったでしょう」
ルミナの表情は、その「ある方」を思い出すかのように、わずかに和らいだ。公爵は、その表情の変化に気づき、興味深そうにルミナを見つめた。
「ほう、それはまた、どのような方だ?」
ルミナは少し照れたように微笑み、話題を変えた。
「それより、おじ様。この街の魔道具店に、上質の魔石が大量に入荷したと聞きましたわ。少し見て回りたいのですが、よろしいでしょうか?」
公爵は快く頷いた。
「ああ、構わないとも。付き人には、マリアをつけよう。くれぐれも無理はするなよ」
ルミナ王女は、付き人の女性マリアと共に、リーバー都市の魔道具店を訪れていた。目的は、以前から目を付けていた、大量に仕入れられたという上質の魔石だ。彼女は多彩な魔法を使いこなすが、その魔力量には不安を抱えており、不足分を常に魔石に頼っていた。魔石は彼女にとって生命線であり、だからこそ絶えず良質なものを求めている。あのジャガーノートとの戦いの際も、魔力切れがなければ、きっと逃げ切ることはできたはずだと、彼女は今でも固く信じていた。一方で、あの恐ろしい災害がなければ、ミルディアスとあんなにも素晴らしい時間を過ごすことはできなかった、とも思っていた。
また時間ができたら彼の家にこっそりと潜り込もうと考えていた矢先だった。
「ルミナ王女様?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにミルディアスが近くに立っていた。
ルミナ王女は、思わず抱きつきたい衝動を必死に抑え、彼にお礼を言うのが精一杯だった。彼女の傍らにいた家臣が「名前を呼ぶなど不敬な」と口を挟もうとしたが、王女は静かに彼を制した。
「恩人だからいいのよ」
そして、少し頬を赤らめたのか、ミルディアスの方を向き直り、「いずれ正式にお礼に伺うわ」とだけ伝えた。それからすぐに家臣たちに魔石を買い込むよう指示し、さっと魔道具店を出て行った。
ミルディアスは、ルミナ王女との予期せぬ再会に驚きつつも、彼女が無事であったことに安堵した。彼はその後、暁の魔女たちと合流し、リーバー都市での滞在を楽しんでいた。
フレイアは、リーバー都市の市場でもその好奇心を発揮していた。
「ミルズさん、見てください!この地方特有の、縞模様のある大きな球体の果物だそうです!**冷やすと特に美味しくて、口の中で溶けるような甘みと、みずみずしさがたまらないんですよ!**お菓子にも合いそうですね!」
彼女は目を輝かせながら、見慣れない果物をミルディアスに見せた。その無邪気な笑顔は、ミルディアスの心を和ませる。
シオンは、リーバー都市のギルドで情報収集を続けていた。
「ミルズさん、この辺りでも、ジェット都市で聞いたような変わった魔物の報告がいくつか上がっています。特に、夜になると森の奥から奇妙な音が聞こえるという話も……何か関連があるかもしれません」
彼女は真剣な表情で、集めた情報をミルディアスに共有した。
コトネは、リーバー都市の魔法道具店を巡り、珍しい魔道具を探していた。
「この魔道具は、魔力の流れを感知して特定の現象を起こすものです。あちらのアイテムは、特定の属性の魔法を強化するものです」
彼女は静かに、しかし熱心に、ミルディアスに語りかけた。その知識の深さに、ミルディアスもまた多くのことを学んだ。
ミルディアスは、彼らとの交流を通じて、この世界の知識や常識が、いかに自身のそれと異なるかを深く認識していた。彼らから得られる情報は、ダンジョンでの経験だけでは決して知り得なかった、この世界の複雑さと多様性を教えてくれる。彼らが持つそれぞれの専門性や視点が、ミルディアス自身の視野を広げ、新たな可能性を感じさせていた。
公爵邸からの招待と新たな依頼
ルミナ王女との再会から一日が経った日の午後、ミルディアスのもとに公爵邸からの使いが訪れた。それは、ルミナ王女の付き人であるマリアだった。
「ミルディアス様、ルミナ王女様より、明後日の夕食に公爵邸へお越しいただきたいとのご招待です」
マリアは恭しく頭を下げ、招待状を手渡した。ミルディアスは招待状を受け取り、中身を確認した。ルミナ王女からの丁寧な感謝の言葉と、公爵邸での夕食への招待が記されていた。
「承知いたしました。お招き、ありがたくお受けいたします」
ミルディアスはマリアに返事を伝え、招待状を懐にしまった。
夕食の席で、ミルディアスは暁の魔女の三人に公爵邸からの招待について話した。
「公爵邸からの招待ですか! それはすごいですね、ミルズさん!」フレイアが目を輝かせた。
「王女様直々のご招待とは、やはりミルズ殿の功績は大きいということでしょう」シオンが冷静に分析する。
「公爵邸の蔵書には、珍しい魔導書も多いと聞きます。もし機会があれば、少し覗いてみたいですね」コトネが静かに呟いた。
ミルディアスは、公爵邸での夕食が、ルミナ王女との関係を深めるだけでなく、この世界のさらなる知識を得る機会になるかもしれないと感じていた。
翌日、ミルディアスは、ダンジョンで手に入れた魔物の素材を買い取り依頼に出向くため、リーバー都市のギルドを訪れた。ギルドのカウンターには、活気ある冒険者たちがひしめき合っていた。ミルディアスは、持参した素材を鑑定士に見せ、買い取りを依頼した。鑑定士は素材の品質の高さに驚き、高額な買い取り価格を提示した。
買い取りの手続きを終えた後、ギルドマスターがミルディアスに声をかけてきた。
「ミルズ殿、実はあなたにお願いしたい依頼があるのだが、少し時間をいただけないだろうか?」
ギルドマスターは、ミルディアスを奥の部屋へと招き入れた。部屋には、リーバー都市周辺の地図が広げられていた。
「最近、この公爵領の森で、奇妙な魔物の報告が相次いでいる。通常の魔物とは異なる生態で、冒険者たちも手を焼いているようだ。そこで、あなたのような優秀な冒険者に調査を依頼したい」
ギルドマスターは、リーバー都市周辺で報告されている「変わった魔物」について詳しく説明した。シオンから聞いていた情報と一致する部分も多かった。
「調査の期間は、どのくらいを想定されていますか?」ミルディアスが尋ねた。
「できる限り長く調査していただきたいが、まずは二日間ほどで、何か手がかりだけでも掴んでいただければ十分だ」
ミルディアスは、ルミナ王女との夕食の予定を思い出した。
「承知いたしました。二日後には公爵邸での予定がありますので、それまでで調査を終了するという条件であれば、お引き受けいたします」
ギルドマスターは、ミルディアスの条件を快諾した。
「感謝する、ミルズ殿。期待しているぞ」
ミルディアスは、ギルドマスターから依頼の詳細を聞き、暁の魔女たちと合流した。
「変わった魔物の調査依頼ですか。面白そうですね!」フレイアが目を輝かせた。
「ジェット都市で聞いた報告と関連があるかもしれませんね。慎重に調査を進めましょう」シオンが冷静に指示を出す。
「この地域の魔物の生態は、私の知識とは異なる部分が多いです。新たな発見があるかもしれません」コトネが興味深そうに呟いた。
こうして、ミルディアスと暁の魔女たちは、リーバー都市周辺の森へと足を踏み入れることになった。彼らは、公爵邸での夕食までの二日間、この地の謎に包まれた魔物たちの調査に乗り出すことになった。
この後どうなるかはちょっと、これから考えます(;^ω^)




