1章 魔法大学入学 護衛依頼3 アース領2
獣人登場するけど、なんか活躍させたいが。
ジェット都市での休息
ジェット都市での休息は、ミルディアスにとって貴重な時間となった。
『暁の魔女』の三人とも、ジェット都市での時間をそれぞれに楽しんでいた。フレイアは、都市の市場を巡り、珍しい食材やお土産を探し回っていた。彼女は、ミルディアスに、色とりどりの菓子や、奇妙な形をした果物を差し入れに持ってくることもあった。
「ミルズさん、これ、おいしいですよ!こっちの果物も、甘くてジューシーなんです!」
フレイアは、子供のように無邪気な笑顔で、ミルディアスに話しかける。その屈託のない笑顔は、ミルディアスの心を和ませた。
シオンは、都市のギルドを訪れ、情報収集を行っていた。彼女は、ミルディアスに、この地域の冒険者たちの動向や、最近発生した魔物被害の報告などを共有してくれた。
「ミルズさん、最近、この周辺で変わった魔物の報告がいくつか上がっています。奇妙な光を放つ蝶の群れや、特定の場所からしか現れない霧の魔物など、通常の生態とは異なる点が目立つようです」
コトネは、都市の魔法道具店を巡り、珍しい魔道具を探していた。彼女は、ミルディアスに、さまざまな魔道具の特性や使用法について、専門的な知識を披露してくれた。
「この魔道具は、魔力の流れを感知して特定の現象を起こすものです。あちらのアイテムは、使用者と魔物の間に結界を張る効果があります」
コトネは、静かに、しかし熱心に、ミルディアスに語りかけた。彼女の知識は深く、ミルディアスもまた、彼女との会話から多くのことを学んだ。
ミルディアスは、彼らとの交流を通じて、人間社会の多様性や、人々の温かさに触れることができた。ダンジョンでの孤独な戦いとは異なり、仲間と共に旅をすることの楽しさを、彼は改めて実感していた。
彼は、この都市の図書館を訪れ、この世界の歴史や文化、魔法についてさらに深く学ぶことにした。図書館は広大で、膨大な数の書物が収められていた。
ミルディアスがジェット都市に到着して間もない頃、彼はこの都市の裏側にある暗い現実に直面した。アース侯爵領は、かつて獣人たちを大切にする領主によって、他の領地よりも獣人が優遇されていた歴史を持つ。その領主は、奴隷という形でありながらも、各地から買い集めた獣人たちを保護し、自領で幸せに暮らさせたという。しかし、当時の領主が亡くなってから、獣人を可愛がる気持ちは薄れていき、獣人の奴隷が多くいる領地という実態だけが残った。結果として、この地は獣人奴隷の売買が盛んに行われるようになっていたのだ。
ある日、ミルディアスが都市の市場を散策していると、奴隷商人の露店に出くわした。そこには、鎖に繋がれた数名の獣人たちが、憔悴しきった表情で座り込んでいた。彼らの目には希望がなく、粗末な布切れをまとった身体には、虐待の跡も見て取れる。特に、一人の虎人族の少年が、ひときわひどい扱いを受けていた。痩せこけた体、汚れた毛並み、そして深く傷ついた瞳。その姿は、ミルディアスの心を強く揺さぶった。
ミルディアスは迷わず、その奴隷商人に近づいた。
「この少年を、いくらで売る?」
奴隷商人は、突然声をかけてきたミルディアスの威圧感に気圧されつつも、虎人族の少年を指差した。
「へへ、旦那様、見る目がありますね!こいつは少し気性が荒くて苦労しましたが、腕力もそこそこありますぜ!特別価格で銀貨50枚でどうです!?」
奴隷商人は、その破格の値段を告げた。明らかに高値だが、ミルディアスは躊躇しなかった。
「わかった。買い取ろう」
ミルディアスは即座に銀貨50枚を支払った。奴隷商人は目を丸くしてそれを受け取り、すぐに少年の首輪と鎖を外した。少年は、突然の解放に戸惑い、警戒した目でミルディアスを見上げた。
ミルディアスは、怯える少年の手をそっと取り、宿屋へと連れて帰った。宿の部屋に戻ると、まず温かい湯を用意し、少年の汚れた身体を丁寧に洗ってやった。手入れの行き届いていなかった毛並みはいくらかましになったが、虐待によるものか、まだ小さな傷跡や汚れが残っている。それでも、ミルディアスが優しく梳いてやると、いくらか落ち着いたように見えた。そして、清潔な衣服を与え、たっぷりの食事を振る舞った。少年は、最初はおずおずと口にしていたが、その温かさとおいしさに、やがて貪るように食べ始めた。
「お前の名前は?」
ミルディアスが優しく尋ねると、少年は小さく「フー」と答えた。彼の声はまだ細く、かすれていた。
翌朝、ミルディアスはハインツに相談を持ちかけた。
「ハインツさん、このフーという少年を、商隊の乗客としてガルニアまで連れて行きたいのですが」
ミルディアスの言葉に、ハインツはわずかに眉をひそめた。
「ミルズ殿、お気持ちはわかりますが、アース侯爵領では獣人のほとんどが奴隷として扱われています。乗客の中には、奴隷と一緒に旅をすることを嫌がる者もいるかもしれませんし、不要なトラブルが発生する可能性もあります。最悪の場合、領地を出る際に衛兵に引き渡しを命じられることも……」
ハインツは言葉を選びながら説明した。彼はミルディアスの行動を理解しつつも、商隊の責任者としての立場から、最悪の事態を避けたかったのだ。
「費用は私が支払います。乗客の目につかないように、屋上か、あるいは荷物の中にでも……」
ミルディアスは、フーを何としても連れて行きたいと考えていた。
ハインツはミルディアスの真剣な眼差しを受け止め、深く考え込んだ後、一つの提案をした。
「費用はいりません。しかし、乗客としてではなく、馬車の屋上、目立たないところに匿う形でならば、こちらも手配しましょう。万が一、騒ぎになっても、私の方で対処します」
ハインツは、ミルディアスが商隊にもたらした恩義と、今後の取引におけるミルディアスの重要性を考慮し、この申し出を受け入れたのだ。
「ありがとうございます、ハインツさん」
ミルディアスは心から感謝した。フーはまだ心身ともに弱っている。彼を魔力の卵の中に入れて守ると同時に、旅の間で元気になるのを待つことにした。
一方、ハインツの商談はジェット都市で大成功を収めていた。魔法都市ガルニアで手に入れた上質の魔石が大量にあったおかげで、コーナー公爵領でさばく分を少し残しておいた他は、すべてを売り払い、ベンガル商会にはだいぶ大きな利益が出たからだ。魔道具の方も順調に売れ行きを伸ばし、ハインツの顔は喜びでほくほくだった。今回の護衛任務は、彼にとっても、そしてベンガル商会にとっても、これ以上ないほど実りの多いものとなっていた。
数日間の休息を終え、商隊は再び旅立つ準備を始めた。次の目的地は、コーナー公爵領のリーバー都市だ。ジェット都市での出来事は、彼らの旅に新たな緊張感をもたらしたが、同時に、彼らの絆をより一層深めることにもなった。ミルディアスは、新たな旅路に胸を膨らませていた。
獣人はなんでもよかったんだけど、すぐネコ科になってしまう。
熊とか羊とかでもいいんだけどね。




