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1章 魔法大学入学 護衛依頼2

ちょっと長いです。

三日目:野営と予兆

三日目。商隊は、宿場町が途切れる区間へと差し掛かっていた。アース侯爵領とコーナー公爵領の領堺にあたるこの地域は、人里離れた未開の地が広がり、盗賊や魔物が襲ってくる頻度が高い、最も警戒が必要な場所だとハインツは出発前に説明していた。夜間の安全確保のため、野営が必須となる区間だ。


日中は順調に進み、大きな問題は起こらなかった。時折、街道を横切る小動物や、遠くで鳴く魔物の声が聞こえる程度だ。昼食休憩の際には、馬たちを早々に馬車から外し、自由に水を飲ませ、草を食べさせた。彼らは決して逃げ出すことはなく、御者たちの呼びかけに素直に応じる。その賢さと従順さに、ミルディアスは改めて感心した。彼らの健やかな様子は、旅路の過酷さを忘れさせるほどだった。


夕刻、商隊は街道脇の開けた場所に野営の準備を始めた。周囲には視界を遮るものも少なく、警戒には適した場所だった。商会の護衛の一人が、周囲を驚かせるように、突如として空間から小さな木造の小屋を丸ごと出現させた。それは、ゾラの空間魔法を彷彿とさせる光景だった。小屋の出現と共に、周囲の冒険者や御者たちから驚きの声が上がる。ミルディアスは、きっと同じような空間魔法なのだろうと推測しながら、その魔法の精妙さに感嘆した。彼もまた、空間を操る術を学んでおり、その難しさを知っていたからこそ、護衛の魔法の腕前に感心せずにはいられなかった。他の護衛たちは手際よく火をおこし、料理の準備に取り掛かる。薪が燃えるパチパチという音と、香ばしい匂いが夜の闇に広がる。


ミルディアスと『暁の魔女』の三人は、それぞれ四方を警戒にあたっていた。シオンは冷静な目で周囲を見渡し、フレイアは軽快な足取りで陣地の外周を歩き、コトネは静かに魔力を探っていた。特に異常は感じられなかった。空は澄み渡り、星が瞬き始めている。ただ一人、ミルディアスを除いては。


ミルディアスは、約1kmほど離れた森の中に、微かな人の気配を感じ取っていた。その気配は、森の獣とは異なる、明確な人のものだった。森のエルフであれば問題ないが、そうでなければおそらく盗賊だろう。その気配は物見なのか、動く気配はなかった。まるで石像のように、じっとこちらを観察しているようだった。ミルディアスは即座に疑似脳を二つ展開し、一つを周囲の警戒に、もう一つを森の気配に意識を集中させた。周囲に異変はない。他の護衛や冒険者たちは、火の周りで談笑したり、食事の準備をしたりしている。森の気配は、一時間ほどして森の奥へと消えていった。監視されているとは知らずに。


ミルディアスは、自身は動かないまま、その森の気配をきっちり追跡していた。彼の意識は、遠く離れた森の奥深くへと伸びていく。もう意識を集中しなくても追跡可能だったから、見失う心配はなかった。なぜなら、動かなかった一時間のうちに、彼の魔力で編まれた極細の糸を、その気配の主、すなわち盗賊団の物見に張り付けていたからだ。それは肉眼では見えず、魔力探知でも微弱すぎて感知できない、ミルディアス独自の技術だった。一度張り付ければ、相手がどれだけ移動しようと、その位置を正確に把握し続けることができる。


夕食は、乗客を含めた全員で共にした。温かいシチューと焼きたてのパンが振る舞われ、旅の疲れを癒すように皆が舌鼓を打つ。賑やかな食事が終わり、あたりに静けさが戻り始めた頃、ミルディアスは食事を終えたハインツに声をかけ、他の護衛に聞かれないよう、こっそりと森の気配について伝えた。

「ハインツさん、先ほどから森の中に人の気配を感じていました。森の民であれば問題ありませんが、そうでなければ盗賊の可能性が高いです。物見のようでしたが、一時間ほどで森の奥に戻っていきました。恐らく、我々の油断を誘い、夜間の不意打ちを狙っているはずです。襲撃は深夜か明け方になるでしょう」

ハインツはミルディアスの言葉に驚きを隠せない。その顔には、一瞬にして緊張が走り、長年の経験から培われた鋭い眼光が宿った。

「ここから森の端まで1kmはありそうですが、その距離で人の気配を感知できるとは……ミルズ殿、恐れ入りました」

ハインツは彼の並外れた知覚能力に舌を巻き、深く頷いた。Aランク冒険者の実力は、彼の想像をはるかに超えていた。彼の言葉に一片の疑いも抱かなかった。


時刻は今、午後7時を過ぎたところだった。ハインツはすぐに護衛たち(商会と冒険者)を集め、ミルディアスからの情報を展開した。野営の火を囲む彼らの表情は、一様に引き締まっていく。

「皆、聞け。ミルズ殿からの情報だ。森に不審な気配があった。盗賊の物見の可能性が高い。このまま夜を明かすのは危険と判断する」

ハインツは毅然とした声で告げた。その場の空気が一瞬にして張り詰める。

「今から乗客と御者に仮眠を取らせ、馬を休ませる。食事は早々に済ませ、三時間後に出発準備を開始し、深夜前にここを発つ。夜間の移動になるが、馬は夜目も効くし、早いうちから休ませてあるから問題ないだろう。この危険な区域をできるだけ早く抜けるぞ」

護衛たちは皆、ハインツの指示に迷いなく従った。彼らはベテランであり、ハインツの判断に疑問を挟む者はいなかった。各自が持ち場に戻り、迅速に出発準備に取り掛かる。


かくして、午後10時を過ぎた頃、深夜前に出発準備を開始したベンガル商会の商隊。馬たちはすでに馬車に繋がれ、御者たちは手綱を握り、出発の合図を待っている。その異様な動きに、ついてきた他の商隊たちは何事かとざわめいた。彼らはまだ野営の準備を終えたばかりで、火を囲んで談笑している者もいた。しかし、ベンガル商隊の異様な動きから何か異常を検知したのか、あるいはミルディアスの魔力探知能力がわずかに周囲に漏れ伝わったのか、彼らも慌ただしく動き始めた。遅れて出発の準備を始める者、警戒態勢に入る者、様々な反応を見せた。街道には急な緊張感が漂い始めた。


ゴブリンとの激突、そして変貌

そうこうしていると、森の方から黒い影が現れ始めた。闇に紛れて移動するその影は、みるみるうちに数を増していく。まるで蠢く絨毯のように、無数の影が森の縁から溢れ出した。こちらの行動を察知したのか、予定よりも早く襲撃を仕掛けてきたのだろうか。現れたのは、剣や棍棒を構えたゴブリンの群れだった。彼らは唸り声を上げながら、不揃いな足音を響かせ、街道へと殺到してくる。

「盗賊じゃなかったのかよ!」

商会の護衛の一人が、思わず叫んだ。彼の顔には困惑と焦りの色が浮かんでいる。想定外の敵に、誰もが戸惑いを隠せない。


その叫びを聞きながら、ミルディアスは冷静に状況を判断した。ゴブリンの群れであれば、盗賊よりも対処しやすい。しかし、その数が予想以上に多い。まさに波のように押し寄せる敵勢だ。

「自分が押さえます!」「商会の護衛と『暁の魔女』はそのまま馬車と一緒に移動して!後から追いつきます!」

ミルディアスは、ハインツと『暁の魔女』の三人に向け、明確な指示を飛ばした。彼の声は、夜の闇に響き渡る。その声には一切の動揺がなく、揺るぎない自信が満ちていた。

「すまん!」

ハインツは一瞬躊躇したが、ミルディアスの言葉を信じ、御者に指示を出す。彼の判断は早かった。護衛任務の経験から、この状況で最も頼れるのは誰か、瞬時に理解したのだ。何やら叫び、ミルディアスに駆け寄ろうとする『暁の魔女』の三人(特にフレイアが顕著だった)を、他の商会護衛が引き留める形となり、ベンガル商隊の馬車は軋みを上げながらも速度を上げた。彼らには、ミルディアスの言葉が絶対だった。後続の商隊も、目の前の光景に呆然としながらも、ベンガル商隊の動きに倣い、慌てて馬車を発進させようとする。


ミルディアスの優先順位は明確だった。


ベンガル商隊の馬車が無事に、安全圏へ移動すること。


自分も無事に戻ること。


他の商隊もできれば助けること。


敵の殲滅。


ゴブリンたちは、街道に飛び出したミルディアス目掛けて殺到する。その数はゆうに千を超えるように見えた。しかし、ミルディアスはすでに魔道具の杖を構え、拘束連射でゴブリンたちを薙ぎ払っていく。彼の杖から放たれる魔力の弾丸は、まるで機関銃の掃射のように連射され、次々とゴブリンを貫き、彼らはあっという間に死んでいった。地面には、緑色の血液が飛び散り、異臭が立ち込める。ゴブリンの肉体は脆弱であり、ミルディアスの魔力弾は容易く彼らを粉砕した。厄介なのはゴブリンライダーだった。狼に乗った彼らはとても素早く、横から回り込もうとする。その機動力は、徒党を組むゴブリンたちとは一線を画していた。しかし、それでもミルディアスの張った防衛線を抜けることはできなかった。彼の周囲、そして街道と森の間には、すでに魔力網が張り巡らされており、今も商隊の進路に合わせて魔力網が伸び続けている。それは透明な蜘蛛の巣のようであり、ゴブリンたちが触れると、まるで粘着質の液体に捕らえられたかのように動きが鈍り、魔力の衝撃が全身を走る。ゴブリンライダーの狼も、その魔力網に触れるたびに怯え、進路を変えざるを得ない。


ミルディアスの魔力の波動は、商隊の馬たちを落ち着かせていた。本来であれば、これほどの魔物の群れが襲来すれば、馬たちはパニックを起こし、制御不能になるはずだ。しかし、ミルディアスが放つ、穏やかで力強い魔力の波長が、彼らの恐怖心を打ち消していた。遠く離れた『暁の魔女』の三人には、その魔力を感じることができ、これだけ離れてなお、ミルズに守護されていることを知った。彼らの表情には、驚きと安堵が混じり合っていた。シオンはミルディアスの放つ魔力に目を瞠り、フレイアは「あれがAランクの力なの!?」と興奮気味に呟き、コトネは静かに、しかし深く、その圧倒的な存在感に畏敬の念を抱いていた。


八本の魔力腕を縦横無尽に振り回し、ミルディアスはゴブリンたちを次々と打ち倒していく。一本一本の腕は、彼の意識と直結し、的確に敵を捉え、粉砕する。腕はまるで生き物のようにしなり、硬化し、伸縮自在に動く。慣れてきたのか、使える腕の数も増え、動きもより洗練されてきていた。ダンジョンでの戦闘経験が、彼の魔力操作の精度を格段に高めていたのだ。しかし、全力で振るうには、生身の下半身が安定せず、バランスをとるのが難しかった。彼自身の身体能力だけでは、八本の魔力腕がもたらす反動を完全に制御しきれない。また、広範囲に展開されるゴブリンを追うのに、距離があるのがネックだった。魔力網に絡み取られるので、ベンガル商隊の馬車へたどり着くことはないが、他の商隊もまだ出発できていなかった。彼らの馬車はまだ完全に停止しており、御者も護衛も呆然とミルディアスの戦いを見つめていた。


戦いの最中、なんとなしにミルディアスは、御者は大丈夫だろうか、馬たちはおびえていないかと気になった。彼らの命を預かっているという責任感が、彼の思考をよぎる。遠くに見える馬たちの姿、彼らが懸命に馬車を引こうとしているのが、彼の五感にはっきりと伝わってくる。馬、長距離移動を苦としない見事な体躯の馬たち。ペルシュロン、ベルジャン、クライズデール。御者たちがわが子のように愛し、自慢していた、あの力強く、優雅な馬たちだ。馬車から外して自由にさせた時に少し走った姿は優雅で、圧倒的に早かった。馬車を引く安定感、長距離移動……馬の下半身があれば、便利そうだな。彼の脳裏に、御者との会話が蘇る。ここ数日馬を観察していたからイメージは完璧だった。そして観察するときは、生物研究部の時の習慣で、どのような構造なのか、骨は、筋肉は、内臓は、細部にわたるまで観察していた。なにせ解剖するまでもなく、観察する方法は心得ている。薄い魔力を馬に浸透させ、魔力だけそのまま取り外せば、魔力でできた透明の馬が出来上がる。


ミルディアスは、この閃きを実行に移す。彼の魔力が、その場に湧き上がるように凝縮されていく。彼の足元から、青い魔力が奔流のように溢れ出し、みるみるうちに馬の形を成していく。彼の魔力体が、まるで生きた馬の肉体を纏うかのように変化していくのだ。その造形は、これまでの魔力腕とは一線を画す、生命感に満ちたものだった。馬の首を消し、自分の下半身とつなぐ。ついでに上半身も魔力を巻き付け、八本の腕と連結させる。彼の全身が、青い魔力に包まれ、まるで光り輝く彫像のようだ。


ケンタウロスに近い姿に見えるが、だが青く輝く魔力はまるで、ミルディアスを神獣のような幻想的な存在に見せた。その姿は、夜闇に浮かぶ幻影のように、あるいは伝説の生き物のように、周囲の者たちの目に焼き付いた。誰もが息を呑み、言葉を失う。八本の魔力腕で敵を屠り、四本の魔力の足で戦場を駆け抜ける。魔力の蹄が地面を蹴り、ゴブリンたちが軽々と弾き飛ばされる。その一歩は大地を揺るがし、その速さは視認するのも困難なほどだ。腕が間に合わなければ、蹴るだけでいい。矢や魔法が飛んできたが、そんなものは彼の魔力の鎧に触れることすらなく、軽く払って終わりだった。彼の身体は、もはやゴブリンたちの攻撃を一切寄せ付けない、絶対的な防御力を有していた。


まさしく今まさに出発するばかりの商隊たちが、突然ミルディアスが青い神獣に変身したと、逃げるのを忘れて茫然と見入っていた。恐怖すら忘れ、彼らはただその光景に魅入られていた。それは、彼らの常識を遥かに超えた、神話のような出来事だった。


蹂躙。ミルディアスは、圧倒的な力でゴブリンの群れをなぎ倒していく。その数は万を超え、どこまでも続くかと思われたが、彼の前に立ち塞がるものはいなかった。ゴブリンシャーマンが呪文を唱えようとしても、魔力腕がその喉を締め上げ、ゴブリンコマンダーが指示を出そうとしても、魔力蹄がその胴体を砕き、ゴブリンキングが威圧しても、全てが無意味だった。ミルディアスの魔力腕が、あるいは魔力の蹄が、彼らを容赦なく打ち砕いていく。地面には、大量のゴブリンの亡骸が積み重なり、夜の闇にその異様な光景が広がった。そこにはゴブリンシャーマン、コマンダー、キングなどの上位種も含まれていたことが、後の調査で判明した。彼の行動は、まさに一方的な殲滅戦だった。わずか数分で、数万のゴブリンの群れは、まるで最初から存在しなかったかのように消え去ったのだ。


そして森の気配の主も森から出てきていた。彼は、暗闇の中で隠密に動き、ゴブリンと商隊の戦いの様子を伺っていた。しかし、目の前で繰り広げられた、人間離れした「神獣」によるゴブリン群の殲滅という驚愕の光景に、彼はただ絶望していた。自分たちがミルディアスの魔力網に絡み取られていることにも気が付かず、まるで動けないまま、絶望に顔を歪ませていた。彼はもはや、獲物を狙う盗賊ではなく、恐怖に凍り付いたただの人間だった。

ケンタウロスよりもスレイプニルかなー。

足6本とか8本にしようかな。

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