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1章 魔法大学入学 第四話 サークル勧誘

研究室、部活、迷ってサークルにしました。

国立魔法大学に入学してから、早くも一ヶ月が過ぎた。


その間、ミルディアスは基礎魔法学の授業に欠かさず出席し、教わった通りに四元素魔法の発動を試み続けた。しかし、彼の掌から火花一つ散ることはなく、水滴一つ現れることもない。ただ、規格外の魔力が身体の中を熱く駆け巡るだけだった。


周囲の学生たちの視線は、一ヶ月前とは明らかに変わっていた。当初の驚愕と羨望は、今や困惑と嘲笑に変わっている。「魔力量だけはすごいが、魔法が使えない役立たず」という陰口は、もはや公然と囁かれるようになっていた。それでも、ミルディアスは表情一つ変えない。彼の心は、いつものように穏やかで、前向きだった。


(なぜ、こんなにも魔力があるのに、現象として形にならないんだろう? 魔力を『変換』するという部分が、僕には理解できていないのか、それとも別の要因があるのか……)


彼はノートの端に、複雑な魔法陣の構造図と、自身の体内の魔力の流れのイメージ図を書きなぐっていた。グレン先生も首を傾げ、特別に時間を作って個人指導を試みたが、やはり状況は変わらなかった。


しかし、ミルディアスは諦めていない。むしろ、謎が深まるほどに、その探求心は燃え上がっていた。この大学には、まだ彼の知らない魔法体系や、古くから伝わる秘術、あるいは魔力そのものの本質を研究している賢者たちがいるはずだ。


そんな中、学園内は新たな熱気に包まれていた。一ヶ月間の基礎課程が終了し、本日より「サークル勧誘」が解禁されたのだ。


国立魔法大学には、多種多様なサークルが存在する。実践的な魔法戦を訓練する武闘系サークルから、古代魔法の研究を行う学術系、魔法薬の調合を行う錬金術系、さらには生活魔法を極める料理サークルなど、その種類は数百に及ぶ。


サークルへの所属は強制ではないが、多くの学生が何らかのサークルに加入するのが慣例となっている。サークル活動は、授業だけでは得られない実践的な経験や、専門知識の深化、そして何より、共に学ぶ仲間との出会いの場となるからだ。


「ミルズ!おい、ミルズ!」


昼休み、食堂で食事をしていたミルディアスの元に、興奮した様子のフレッドが駆け寄ってきた。彼の隣には、二人の見慣れない男子学生がいる。一人はすらりとした長身で、知的な雰囲気を漂わせた青年。もう一人は、小柄ながらも筋肉質で、いかにも活発そうな印象だ。


「どうしたんだ、フレッド。随分と慌てているな」


ミルディアスは、冷静に虹鱒のソテーを口に運びながら尋ねた。


「どうしたもこうしたもねぇよ!今日からサークル勧誘解禁だぜ!見てみろよ、大学の広場がすげぇことになってる!」


フレッドは興奮気味に指をさす。確かに、窓の外の広場からは、今までになく賑やかな声が聞こえてくる。


「ああ、そうか。もうそんな時期なんだな」


ミルディアスは納得したように頷いた。


「おいおいミルズ、お前そんな呑気なこと言ってる場合かよ。サークル選びは重要なんだぜ!で、こいつら、お前にも紹介するよ。こっちがエリオット、俺と同じ魔法戦術科の奴だ」


フレッドは長身の青年を紹介した。エリオットは軽く会釈する。彼の整った顔立ちには、どこか思慮深い雰囲気が漂っている。


「エリオット・ヴァルクです。初めまして、ブルークアル侯爵子息。魔力測定の際には驚かされました」


「ミルディアスだ。よろしく、エリオット。気にしないでくれ、あの結果は僕自身も困惑している」


ミルディアスは穏やかに返した。


「で、こっちがレイモンド。薬草学部の奴なんだけど、なんか気が合ってさ」


フレッドが次に小柄な筋肉質の青年を紹介する。レイモンドは人懐っこい笑顔で手を振った。


「レイモンド・グリフィン!よろしくな、ブルークアル!噂は聞いてるぜ、お前すげえ魔力量らしいな!」


「よろしく、レイモンド。魔力量は、まあ、それなりにね」


ミルディアスは苦笑した。この「それなりに」が、周囲には全く通用しないことは、彼自身が一番よく分かっている。


「で、だ!三人でどのサークルに入るか相談してたんだよ!お前も一緒に見学行こうぜ!お前のあの魔力量なら、どんなサークルだって喉から手が出るほど欲しいはずだ!」


フレッドが前のめりになる。


「僕は、まず僕の魔力の謎を解明する手がかりになるようなサークルを探しているんだが……」


ミルディアスが言うと、エリオットが興味深そうに口を挟んだ。


「なるほど、ブルークアル侯爵子息は、ご自身の魔力特性を追求されるのですね。それでしたら、学術系のサークルも視野に入れるべきかと。あるいは、古文書や魔力理論を研究するサークルなど……」


「でも、ブルークアルの魔力、あれだけすごいんだから、絶対実践系のサークルがいいって!特に、うちの魔法剣士部とか!」


フレッドが熱弁を振る。彼自身は、入学当初から魔法剣士部に憧れているらしかった。


「いや、フレッド。確かに魔力量は魅力的だが、魔法の発動ができないと聞いている。それでは魔法剣士部では力を発揮できないだろう。むしろ、彼の特性を活かすなら、身体強化魔法部の方が適しているのではないか?」


レイモンドが冷静に反論した。彼もまた、独自の視点を持っているようだ。


「はあ?レイモンド、お前、何をトンチンカンなこと言ってんだよ!魔法剣士部は、魔法で剣を強化するんだぞ!魔力はいくらあっても困らねえんだ!」


「いや、そもそも魔法が発動できないブルークアルに、剣を魔法で強化できるのか?身体強化は、自身の魔力を肉体に直接流し込むことで発動する。属性変換の必要がない分、適性があるかもしれない」


フレッドとレイモンドは、互いに一歩も引かず、言い争いを始めた。ミルディアスの横で、エリオットが小さくため息をついている。


「……彼らは普段からああなのですか?」


エリオットが、ミルディアスに小声で尋ねた。


「ああ。どうやら気が合うらしくてね。意見が食い違うと、すぐにこうなってしまうんだ」


ミルディアスは苦笑しながら答えた。彼の視線は、熱く議論するフレッドとレイモンドに向けられている。確かに、自分のことで意見を戦わせているのは少し申し訳ないが、彼らの間に流れる友情の空気は心地よかった。


すると、その言い争いの声に引き寄せられるように、二人の学生が近づいてきた。一人は全身に引き締まった筋肉をつけ、簡素な道着を身につけた男。もう一人は、背中に長剣を背負い、どこか鋭い眼光を持つ男だ。彼らの制服には、それぞれ異なるサークルエンブレムが縫い付けられている。


筋肉質の男が、フレッドとレイモンドの間に割って入った。


「おいおい、新人ども。そんなところで何をもたもたしてるんだ?お前ら、サークル選びか?なら、**身体強化魔法部ビルダー**に入れば間違いないぜ!」


その男の声に続いて、剣を背負った男が、すかさず口を開く。


「フン、ビルダー部だと?何を言うかと思えば。新人が目指すべきは、強さを直接追求する**魔法剣士部(魔剣部)**だろう!お前ら、そこの魔力量『測定不能』の新人だろ?うちなら、その膨大な魔力を存分に活かせるぞ!」


剣士風の男は、ミルディアスに向けて、明らかに彼を品定めするような視線を向けた。


「はあ?そっちこそ何を言ってるんですか!ブルークアルの特性を考えれば、身体強化の方がよほど理に適っている!うちの部に来れば、君の魔力で強化し放題じゃないか、圧倒的な力で全て粉砕できる!」


ビルダー部の男が、ミルディアスの肩を掴む勢いで熱弁を振るう。


「ふざけるな!、魔法と剣技を融合させる魔法剣の方が威力絶大だ!その膨大な魔力があれば、常時魔法剣を発動し続けられるだろうが!」


魔剣部の男も、負けじとミルディアスのもう片方の肩に手を伸ばした。


二人の勧誘担当者は、ミルディアスを挟んで、一歩も引かずに言い争いを始めた。互いのサークルの利点を声高に主張し合い、相手のサークルを貶めるような言葉まで飛び交う。食堂の他の学生たちも、その騒ぎに気づき、面白そうにこちらを見ている。


フレッドとレイモンドは、自分たちの口論が新たな火種を生んだことに困惑し、顔を見合わせている。エリオットは、相変わらず冷静な表情で、この状況を観察していた。


そして、渦中のミルディアスは、両肩を掴まれながらも、どこか興味深そうに、二人の勧誘担当者の言い争いを眺めていた。


(なるほど。サークル選びというのは、随分と賑やかなイベントのようだね)


彼は心の中で静かに呟いた。

トラブル発生です。

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