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1章 魔法大学入学 ジャガーノート7

vs黒いミノタウロス

「くそ…無駄にできる時間はない」

ミルディアスは低い声で呟いた。王女の香りが微かに、しかし確かにこの深層へと続いている。この場で足止めを食らっている場合ではないと、焦燥感が募る。


(この黒いミノタウロスを倒せば、なんとか切り抜けられるはずだ)

彼は即座に状況を分析した。目の前の黒いミノタウロスは、一般的な個体とは比較にならないほどの魔力を放っている。だが、ライノスのような突破力はない。この一体を排除できれば、一時的な突破口は開けるだろう。


「グオオォォォッ!」

ミノタウロスが地響きを立てて突進してくる。振り下ろされる巨大な斧は、空気を切り裂くほどの速度だった。ミルディアスは、周囲から迫る魔物の群れを深藍の魔力腕で牽制しつつ、ミノタウロスの一撃を最小限の動きで躱した。


彼は、深藍の魔力腕を縦横無尽に操り、ミノタウロスに肉薄する。本来の右腕と合わせて六本の腕が、まるで嵐のように舞った。一本はミノタウロスの斧を強引に受け止め、もう一本は巨体を抑えつけようと、残りの魔力腕は急所を狙って攻撃を仕掛ける。


ズガァン!

深藍の魔力腕と斧が激しく衝突する。その威力は、完全に魔力だけで構築された腕を軋ませるほどだった。ミルディアスの放つ拳が、ミノタウロスの顔面にめり込み、深藍の魔力を宿した掌底がその胴を深く抉る。斬りつけるような魔力腕が、硬質な皮膚を切り裂こうとする。


だが、ミノタウロスは微動だにしない。顔面が砕かれ、胴体から血が噴き出しても、次の瞬間には傷口がみるみるうちに塞がっていく。その再生速度は、ミルディアスの攻撃速度を上回っていた。


「馬鹿な…ここまでとは!」

ミルディアスは舌打ちした。渾身の一撃を叩き込んでも、傷はすぐに塞がってしまう。殴っても、斬りつけても、魔力で押し潰そうとしても、この黒いミノタウロスを倒せない。

彼の攻撃は、まるで巨大な岩を削るかのようだ。わずかな傷跡を残すばかりで、すぐにその傷も塞がってしまう。圧倒的な再生能力と、その頑強な肉体。


「くそっ、このままではジリ貧だ…!まさか、ここまで強いとは…!」

肉体は悲鳴を上げ、魔力も底が見え始めている。7層での激戦で既にかなりの消耗を強いられていた上に、この8層の魔物たちの質は、彼が想定していたものを遥かに超えていた。


ミノタウロスの返しの斧が、彼の魔力腕を弾き、さらにその一歩奥へ踏み込んだもう一体のオーガの棍棒が、ミルディアスの左肩を直撃する。鈍い音と共に、ミシミシと骨が軋む感触が伝わってくる。魔力で繋ぎ止めた左腕の根本が、今にも再び引きちぎれそうなほどの激痛が走った。


「ぐああ…っ!」

体の隅々がきしみ、悲鳴を上げる。肉体は悲鳴を上げ、魔力も底が見え始めていた。


彼は疲労困憊の体で、さらに深く分析を試みた。

「…この再生能力を上回るには、どうすればいい」「一撃の出力を極限まで高めるには…!」


「脳がもう一つあったら…」

その突飛な思考が、ミルディアスの脳内で稲妻のように閃いた。現実離れしている。常識では考えられない。だが、この極限状態においては、常識こそが彼を縛る鎖だった。


(一から、生命の根幹である脳を魔力で構築するなど、不可能だ。そんな知識も、時間も、そして何より、私の魔力だけでは、質量が足りない)

彼はすぐにその空想を打ち消した。だが、思考は止まらない。別の可能性が、彼の脳裏をよぎる。


(だが…もし、今この私の脳に充満している魔力を、そのままの状態で持ち出すことはできないか?核となる構造さえ維持できれば…)

それは、繊細かつ危険な試みだった。自身の意識の根幹に触れるような行為は、精神の崩壊を招きかねない。だが、他に道はない。


ミルディアスは、呼吸を深く吸い込んだ。全身の魔力回路を極限まで開き、脳へと濃密な深藍の魔力を送り込む。頭蓋の内側で、奔流のような魔力が渦を巻く。激しい頭痛が彼の意識を揺さぶるが、彼は決して意識を手放さない。


(そのまま…ゆっくりと…形を崩さぬように…)

精神を極限まで集中させ、彼は脳内の魔力の一部を、まるで薄い膜を剥がすように、慎重に引き剥がし始めた。それは、針で豆腐を穿つような、繊細な作業だった。


そして、彼の右手の先に、何もない空間に、ぼんやりとした深藍色の光が浮かび上がった。それは、まるで水中で揺らめく蜃気楼のように、不安定な形をしていた。


(できた…!不完全だが…脳の、ほんの雛形だ)

それは、うっすらと青い、透明な脳の形をしていた。まだ脆弱で、すぐにでも霧散してしまいそうな、頼りない存在。だが、ミルディアスにとっては、一縷の希望の光だった。


彼は、その魔力でできた疑似脳に、さらに自身の魔力を注ぎ込んだ。濃度を上げ、形を安定させ、より強く、より緻密な構造へと再構築していく。それは、まるでガラス細工を磨き上げるような、精密な作業だった。


(もっと…もっと強く…!私の思考に耐えられるだけの強度を!)

深藍の光は徐々に濃さを増し、疑似脳は、より鮮明な青色を帯びていく。そして、ミルディアスは、自身の物理的な脳と、空間に固定された魔力の疑似脳を、深藍の魔力の糸で慎重に連結させた。


繋がった瞬間、ミルディアスの意識に、奔流のような情報が流れ込んできた。まるで、これまで一本の細い管でしか繋がっていなかった回線が、太く強靭なパイプで繋がったかのように、処理速度が飛躍的に向上したのを実感する。


「…今までより、出力が上がった…!」

彼の口から、抑えきれない驚愕と歓喜の声が漏れた。思考がクリアになり、周囲の状況が、まるでスローモーションのように把握できる。体中に、これまで感じたことのない力が漲っていた。


「これなら…!」

ミルディアスの瞳に、確信の色が宿る。彼は、深藍の魔力腕を再び展開し、ミノタウロスへと向かい合った。


「グオオォォォッ!」

ミノタウロスが、再び斧を振り上げた。だが、その動きは、ミルディアスの加速した思考の前では、もはや容易に予測できるものだった。


ミルディアスの反撃は、これまでとは全く異質だった。深藍の魔力腕から繰り出される一撃一撃の速度、そして威力が、目に見えて向上している。ミノタウロスの硬い皮膚を容易に抉り、筋肉を断ち切る。これまでほとんど通らなかった攻撃が、確実に黒い巨体を蝕んでいく。


「はやく…!」

思考速度の向上に伴い、ミルディアスの攻撃はさらに激しさを増す。六本の腕が、まるで意思を持つ生き物のように、ミノタウロスの全身をあらゆる角度から捉え、絶え間なく攻撃を叩き込む。


「強く…!強く…もっと!!」

彼は、心の中で叫んだ。高まる演算能力が、彼の魔力制御をより精密にし、攻撃の密度と威力を限界まで引き上げる。


一心不乱に繰り出される深藍の奔流は、ミノタウロスの再生能力を徐々に凌駕し始める。これまで微かにしか残せなかった傷が深く刻まれ、完全に再生する前に、次の攻撃が新たな傷を生み出す。黒い毛皮は血で染まり、巨体は少しずつ、しかし確実に削られていく。


そして、ついにその時が来た。ミルディアスの繰り出す怒涛の攻撃は、ミノタウロスの強靭な肉体を、遂に削り切っていた。巨体はバランスを失い、よろめき、深藍の魔力によって抉られた無数の傷口から、黒い血が滝のように流れ出す。


「今だ…!」

ミルディアスは、その刹那の隙を見逃さなかった。体勢を立て直し、懐から魔道具の杖を取り出す。


杖の先端に、彼の全身の魔力、限界を超えた膨大な魔力が一点に集中していく。杖は深藍の光を帯び、その輝きは増していくばかりだ。まるで、これまで抑制されていた力が解放され、杖そのものが共鳴しているかのようだった。


「いっけぇぇぇぇぇ!!」

ミルディアスの魂の叫びと共に、杖の先端から、深藍色の強烈な魔力弾が解き放たれた。それは、ただの魔力弾ではなかった。禍々しい深藍の魔力の渦を巻き込み、周囲の空気を激しく震わせながら、一直線にミノタウロスの胴体へと向かっていく。


魔力弾は、抵抗する間もなくミノタウロスの巨体に激突した。轟音と共に、禍々しい深藍の魔力の奔流が、ミノタウロスの胴体を瞬く間に飲み込み、跡形もなく消し飛ばした。肉片一つ残らず、ただそこに、強烈な魔力の残滓が渦巻いているだけだった。


辛うじて残ったのは、首から上の頭部のみだった。その巨大な目は、虚空を捉え、生きていた証のように、わずかに痙攣していたが、やがてその動きも止まり、完全に静止した。


ミルディアスは、荒い息をつきながら、杖を地面に突き立て、その場に膝をついた。左腕の痛み、全身の疲労、そして魔力を無理やり引き出したことによる強烈な倦怠感が、一気に押し寄せてくる。だが、彼の瞳には、確かに目的を達成したという、静かな光が宿っていた。

黒ミノ撃破、黒ライは上層であがっていったみたいだ

残ったモンスターは処理したが、

他のモンスターもだいぶ、、、

地上も心配だけど、第三王女を優先する。


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