1章 魔法大学入学 ジャガーノート2
なんな魔術師登場しました。
ジャガーノート:光の森の異邦人
中層15層「光の森」。空のないはずのダンジョン内に広がる幻想的な森の中で、ミルディアスはガルドのパーティーと共に、獲物であるグローリー・カメレオンを探していた。木々の間から差し込む陽光のような光は、辺りを明るく照らし、まるで本当に外界の森にいるような錯覚を覚える。
「本当に不思議な場所ですね。ダンジョンの中にこんな森があるなんて」リリアが周囲を見渡しながら、感嘆の声を漏らした。木々の葉は鮮やかな緑色に輝き、足元には見たこともないような花々が咲き乱れている。
ガルドは辺りを警戒しながら頷いた。「ああ、だが油断は禁物だぜ。こんな場所にも危険は潜んでいるからな。グローリー・カメレオンは擬態が得意だから、目を凝らして探さないとな」
エリックは杖を手に、周囲の植物を興味深そうに観察していた。「この植物たちも、外界のものとは組成が異なっている可能性があります。採取して調べてみたいですね」
ミルディアスは、彼らの会話に耳を傾けつつ、周囲に自身の魔力網を静かに展開していた。広範囲に広がる魔力網は、森の微細な魔力の流れや、生き物の気配を捉え、その情報をミルディアスの脳へと送ってくる。
その時、ミルディアスの魔力網が、少し離れた場所で複数の魔力の激しい動きを捉えた。それは、先ほど浅層で見かけた赤狼のものだった。そして、その群れの中心には、昨日遭遇した奇妙な冒険者の魔力の気配があった。
「ガルド、少し離れます」ミルディアスはそう告げると、単独で魔力の反応があった場所へと近づいていった。ガルドたちは一瞬訝しんだが、ミルディアスの実力を知っているため、特に制止することはなかった。
森の木々の間を抜け、開けた場所に出ると、ミルディアスの目に飛び込んできたのは、まさに昨日見かけたお面をつけた両手に手斧を持った異様な魔術師の姿だった。彼は、数匹の赤狼の群れを相手に、激しい攻防を繰り広げていた。
彼の身のこなしは、やはり常識外れだった。魔術師のような濃密な魔力を全身に纏いながら、その動きは獣のように素早く、まるで風を切るように赤狼の間を駆け抜ける。両手に握られた手斧は、獲物の急所を正確に捉え、一撃ごとに赤狼の動きを止めていく。
ミルディアスが昨日感じた通り、彼の周囲の魔力は常に激しく変動していた。火、水、土、風、光、闇、聖、精霊……あらゆる属性の魔力が、まるで彼の意志に従うかのように奔流し、その都度、彼の攻撃や防御を強化しているようだった。目に見える派手な魔法の発動はない。しかし、手斧が赤狼の皮膚に触れる瞬間、かすかな魔力の奔流が感じられ、その一撃の威力を何倍にも高めているのが分かった。まるで、認識できないほど繊細かつ高速な魔法を、絶え間なく使用しているようだった。その戦闘スタイルは、まさに魔術を操るバーサーカーとしか言いようがなかった。
赤狼たちは鋭い牙と爪で襲いかかるが、ゾラの予測不能な動きと、強化された手斧の一撃の前に、次々と倒れていく。血飛沫が舞い、獣の咆哮が森に響き渡る中、ゾラの仮面の奥の瞳が、獲物を狩る獣のように鋭く光った。
ミルディアスは、その異質な戦闘に見惚れていた。魔法を極めた者としての探究心、そして純粋な戦闘技術への興味が、彼の心を捉えて離さない。
その時だった。一体の赤狼が、背後からゾラに忍び寄ろうとした。ミルディアスは反射的に魔力を高め、援護しようとした瞬間、ゾラがまるで背後に目があるかのように振り返り、手にした手斧を逆手に振るった。鈍い音と共に、赤狼の首が不自然な方向に折れ曲がり、地面に崩れ落ちた。その一連の動作は、流れるように淀みがなかった。
完全に赤狼の群れを討伐し終えたゾラは、荒い息一つついていない様子で、ゆっくりとミルディアスの方を振り返った。仮面の奥の視線が、ミルディアスの存在を確かに捉えている。
「なにか用かい?」昨日と同じ、少し鼻にかかった中性的な声が響いた。
ミルディアスは冷静に答えた。「いや、特に用はないよ。ただ…君の魔法に見とれてただけさ」
ゾラは、仮面の下でわずかに口角を上げたように見えた。「ふーん、あんた、本当に目がいいんだね」
短い沈黙が流れた後、ゾラは興味なさそうに肩をすくめた。「まあいいさ。邪魔したんなら悪いね」そう言って、彼は再び森の奥へと姿を消していった。その動きは、相変わらず捉えどころがなく、まるで風のようにその場から消え去ったかのようだった。
ゾラとの遭遇に、ミルディアスは一瞬意識を奪われたが、すぐに目的を思い出した。彼はガルドたちの元へと戻り、カメレオン探索に意識を集中させた。
魔力網を再び周囲に展開し、先ほどよりも範囲を広げて森の中を探っていく。光の森は視界が良いとはいえ、グローリー・カメレオンの擬態能力は侮れない。しかし、ミルディアスの魔力網は、周囲の魔力の流れのわずかな変化や、隠れている生物の微細な熱源までをも捉えることができる。
注意深く森を進むこと数分、ミルディアスの魔力網の中に、周囲の景色に溶け込むように隠れている、体長1メートルほどの奇妙なシルエットが捉えられた。その体色は周囲の木の幹と全く同じ色合いをしているが、確かに生命反応があり、そして特徴的な、微弱ながらも輝くような魔力の波動を発している。間違いなく、あれがグローリー・カメレオンだ。
「発見しました」ミルディアスはガルドたちに静かに告げると、一人でカメレオンのいる場所へと近づいていった。
グローリー・カメレオンは、近づくミルディアスに全く気づいていない様子で、じっと木の幹に張り付いている。その目は、確かに微かに、しかし確かに、宝石のように淡い光を放っていた。
ミルディアスは、周囲に魔力網をそっと展開し、カメレオンに気づかれることなく魔力網で包囲する、素早く魔力網を収束しグローリー・カメレオンの胴体を巻き取った。
突然の拘束に、グローリー・カメレオンはけたたましい鳴き声を上げ、激しく体を捩ったが、ミルディアスの魔力でできた縄は、びくともしない。そのまま、ミルディアスは魔力の縄を操り、カメレオンを安全に捕獲した。
数匹のグローリー・カメレオンを無事に捕獲したミルディアスは、ガルドたちの元へと戻った。
「これが、グローリー・カメレオンであってますか?」
ミルディアスは、捕獲したカメレオンのうちの一匹をガルドに手渡した。
ガルドは、その美しい光を放つ瞳を持つカメレオンを見て、満面の笑みを浮かべた。「おお!こいつが噂のグローリー・カメレオンか!目が本当に輝いてる!ミルズ、本当にありがとうな!」
ガルドの目的は達成されたが、ミルディアスの目的は、あくまで中層の環境を経験しておくことだった。
ガルドはすぐに目標達成できたけど、まだまだダンジョン探索は続きます。
ところでジャガーノートって何だろうね。




