1章 魔法大学入学 魔法模擬戦4
ミルディアス君の登場です。
「次、八番目の試合だ! ミルディアス・ブルークアルと、オルガ・フレイム!」
グレン教授の声が響き渡ると、訓練場の生徒たちのざわめきが一段と大きくなった。オルガの試合はいつも派手で、勝利への期待も高いため、「オルガ、頑張れ!」「爆炎でぶっ飛ばせー!」といった声援が、あちこちから飛ぶ。
ミルディアスは自身のサークルへとゆっくりと歩み出した。その指先には、まだ誰も気づかない、微かな「魔力毛」が揺らめいていた。対するオルガ・フレイムは、燃え立つような赤毛が特徴の少年で、自信満々の笑みを浮かべている。
「おいおい、魔法が使えない奴が相手かよ!」オルガの声が15m離れたミルディアスにもはっきりと届く。「まさか、オレ様の爆炎に、ただ突っ立って耐えるつもりか? せいぜい、ローブを焦がされないように頑張るんだな!」
ミルディアスは、オルガの挑発には耳も貸さず、ただ静かに相手を見据えていた。彼の意識は、指先からかすかに伸びる「魔力毛」に集中している。
「開始!」グレン教授の合図と同時に、オルガが動いた。
「まずは挨拶代わりだ! 爆裂弾!」
オルガの掌から、バスケットボールほどの火の玉が次々と放たれる。それらは凄まじい速度でミルディアスのサークルへと飛来し、着弾する寸前に次々と爆発した。
「ドォン! ドォン! ドォン!」
轟音と共に、訓練場の一角に猛烈な爆炎と土煙が巻き起こる。爆風が観客席まで吹き荒れ、生徒たちは思わず身をかがめた。
「うわぁっ、すっげえ威力!」
「オルガ、いきなり全開かよ! ミルディアス、大丈夫なのか!!?」
しかし、爆炎が収まり、土煙が晴れると、そこに立っていたミルディアスの姿は、**全くの無傷だった。**彼の周囲の地面は爆撃でえぐれているにも関わらず、ミルディアス自身は、ローブの裾すら焦がすことなく、平然とそこに立っていたのだ。
「は、はぁ!? ウソだろ、無傷!?」オルガは目を見開き、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。その顔はまるで、初めて見る奇妙な生き物でも目の当たりにしたかのような、間抜けな表情だ。彼の自信満々の笑みはどこへやら、呆然とした顔はコミカルにさえ見える。
「まさか、あの爆炎を無傷で…」ラガン助教も驚きを隠せない。「一体、どうやって…?」
グレン教授は静かにミルディアスを見つめていた。彼の表情には、驚きと共に、何かを試すような期待の色が浮かんでいる。
「おい、まさか本当に防御しかできないのかよ? お前、それじゃあ魔法使いじゃねぇだろ!」オルガは苛立ちを露わに叫んだ。
ミルディアスは、オルガの言葉を静かに受け止めていた。彼の口元に、微かな笑みが浮かぶ。次の爆裂弾が飛来した瞬間、ミルディアスは、ごく自然な動作で、まるで何かを払いのけるかのように掌でその火の玉を「殴った」。
その瞬間、火の玉はまるでゴムまりのように方向を変え、凄まじい勢いでオルガ自身のサークルへと弾き飛ばされた。
「なっ!?」オルガは思わず後ずさった。弾き返された火の玉は、彼のサークルの縁で爆発し、再び轟音が響く。
ミルディアスの声が、嘲るようにオルガに届いた。
「そう慌てるなよ、オルガ。どうせお前の魔法は効かないんだ」ミルディアスは小さく笑った。「もっと火力を上げてみろよ」
オルガは、自身の魔法を弾き返されたことに加え、ミルディアスの挑発に顔を真っ赤にした。「くそっ! なんだお前は! 反応しろよ! どうせ防御しかできないんだろ!このままサンドバッグになりやがれぇぇぇ!!」
オルガは再び、間隔を空けずに連続して爆裂弾を放ち始めた。ミルディアスは相変わらず、爆風と土煙の中に消え、そして無傷で現れる。まるで、爆炎が彼を避けているかのようだ。
ミルディアスは、オルガの攻撃には目もくれず、自身の指先から「魔力毛」を長く出して動かす訓練に夢中だった。周りの爆炎と土煙に紛れて、彼の繊細な魔力毛の動きは誰にも見えていない。彼の意識の奥では、その微かな「魔力毛」が、少しずつ、確実に彼の指先から伸びていく感覚があった。ほんの数センチだったものが、やがて数メートルになり、さらにその感覚は伸びていく。操作精度もどんどん上がっていく。オルガの爆炎が止むたびに、彼はその確かな進歩を実感していた。感覚的には、もう10m以上は操れるようになっている。
(よし、もう少しだ…もう少し、長く…そして、精密に…!)
オルガは、再び奇妙な行動を始めたミルディアスに目を留めた。ミルディアスは、おもむろに地面に手を伸ばし、土を握り、それを丸めている。その手には、先ほど教授に見せた、殺傷能力を持つ土塊に似たものが形成されていくのが見えた。
「おい、待て待て待て! マジかよ!?」オルガは顔色を変えて叫んだ。「まさか、それを投げる気か!? それは禁止されたはずだろ!? グレン先生!」
「だ、駄目だミルディアス! それは危険すぎる!」グレン教授が声を荒げようとした、その時。
ミルディアスは、完成した土塊を、オルガに向かって投げつけた。
「てめぇ…!」オルガは顔を青くしたが、土塊は彼自身に当たることはなく、オルガのサークルの数メートル手前の地面に着弾した。
「ドォン!!」
先ほどよりもさらに巨大な爆発が起こった。地面が派手にえぐれ、凄まじい土煙と爆風が訓練場全体を包み込む。観客席の生徒たちは、爆風の衝撃に吹き飛ばされそうになりながら、目を見開いた。
「ま、まさか…土塊が当たったのか!?」
「オルガに何かあったのか!?」
煙が辺りを包み込み、何も見えなくなった。数秒後、風が煙を晴らすと、そこに現れたのは、地面に大の字になって気絶しているオルガだった。
訓練場は静まり返った。何が起きたのか、誰も理解できなかった。オルガの周りの地面は派手にえぐれているが、彼の体には土塊が当たったような外傷は一切ない。
オルガの勝利を予想していた生徒の一人が、血相を変えて叫んだ。「反則だ! 土団子を投げつけたんだ! 直接当たったんだ! 反則負けだミルディアス!」
しかし、ラガン助教が素早くオルガの様子を確認する。「土塊が当たった痕跡はないな…」
グレン教授は、じっとミルディアスを見つめていた。彼の目は、ミルディアスの指先から微かに揺らめく「魔力毛」を捉えていた。
「オルガは、土塊の直撃によるものではない。何らかの魔法攻撃を受けて、気絶したと判断する」グレン教授の声が響き渡った。「よって、勝者、ミルディアス・ブルークアル!」
生徒たちは騒然とした。何が起こったのか、誰も理解できない。派手にえぐれた地面を見ていた生徒たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
オルガは、土塊が当たったような跡は全くなく、ただ気を失っているだけだった。実は、煙に紛れて、ミルディアスが指先から出した「魔力毛」をオルガの首に巻き付けていたのだった。「魔力毛」で頸動脈を圧迫した結果、オルガは脳が一時的に酸欠を起こして気絶したのだ。グレン教授は、ミルディアスの「魔力毛」を捉えたことで、その事実を見抜いていた。
ミルディアスは、ただ静かにサークルの中央に立っていた。彼の表情には、勝利の喜びも、安堵も見て取れない。ただ、彼の指先が、微かに、誇らしげに震えているように見えた。
(まだだ…)ミルディアスの心の中で、静かな興奮が渦巻いていた。彼の目標は、クラスメイトとの勝ち負けではない。魔法使いとして、より高みを目指すことだ。彼は、自分の指先をじっと見つめる。「魔力毛」は、ただの攻撃手段ではない。魔力を体外に出し、操るという、これまでの常識を覆す発見だ。これがもっと自由に、もっと複雑に動かせたら…
彼の目の前には、限りない可能性が広がっていた。魔法が使えない、と言われてきた彼の未来が、今、大きく変わろうとしていた。
とりあえず魔力の使い道が増えました。
今回は相手が単細胞だったので、簡単に勝てました。
当初の予定ではミルディアスは負けるというか、引き分けでサンドバッグのあだ名がつく予定でした。
今後のイベントの都合で、ミルディアスの成長速度を速めました。