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決戦の前




『決戦前夜 ― 秋空の下で ―』



「いよいよ、あと一個だなっちゃ」


「んだんだ〜。やっとここまで来たって感じすっぺな……徹のおかげだよ、ほんと、ありがどね。あと一個、ぜってぇ勝つべし!」


「あぁ。1週間あっから、じっくり準備して、ぜってぇ優勝すっぺな」


「決勝の相手、多賀城レッドスターズ……あそこ、走るの早ぇし、技術もうめぇんだよな」


「んだ。準決で見だっけど、ドリブル仕掛けるときも、スピード全然落ちねぇし、パスもきっちり通してくるっちゃ」


「基本、パスサッカーで崩してくっから、どんだけパスコース潰せっかが勝負の分かれ目だっちゃね」


 ユリは自分の膝をぽんと叩きながら、真剣な目で作戦ボードを見つめていた。徹も腕を組んだまま、静かに頷ぐ。


「一番気ぃつけねばなんねぇのは、やっぱFWの苦竹光だべ。あいつ中心に全部組み立ててっから、自由にさせだら一気にやられっぞ」


「んだな……あのスピードとキープ力、やっかいだわ。誰かピッタリ張り付かねど」


「真斗がいいんでねぇが? スピードもスタミナもあるし、集中力もあっから、ずっとついていけっちゃ」


「うん、うちもそう思ってだ。真斗に頼むべ」


 ユリは、マグネットを動かしながら布陣を並べていく。


「真斗が苦竹について、前は徹と修斗。ボランチは、うちと雅。後ろは真希、和也、尚吾、佑太。キーパーは道也。これで決まりだね」


「んだな。バランス悪くねぇ。けど、苦竹の動きは練習でも再現して、感覚つかませねばなんね」


 徹がニヤッと笑う。


「岩出さんだな。スタッフで一番速ぇし、インターハイ経験もあるし。あの人なら仮想・苦竹、ぴったりだっちゃ」


「さっそく頼んでみっぺ。1週間あっから、スクリメージ3回は組めっぺな。うまぐ使えば、もっと精度上がっぺ」


「んだな。この一週間、無駄にすっぺねぇ」


 二人は最後のマグネットを置いて、ぱんと手を叩いた。


 冷たい風が窓の隙間からそっと吹き込んできて、部屋の空気がピンと張り詰めた。

 10月の陽射しは柔らかいが、心の中の火は、静かに燃え続けていた。



秋晴れの朝と再始動


準決勝から二日ぶりの朝。空は高く澄んでいて、空気は少し冷たい。木々は少しずつ赤や黄色に染まりはじめ、通学路の落ち葉が風にカサカサと舞っていた。


「昨日、一日休んだの、やっぱ正解だったべな。だいぶ楽になったわ」


 徹はそう言いながら、ペダルをこぎ続ける。ユリが横を走りながら笑った。


「んだね〜。準決んときは、足ガクガクだったもん。……今朝もちょっと重いけど」


 そのとき、後ろから追い付いてきた柚月が元気に並んだ。


「でもさ、決勝に向けて、気持ちはバリバリ上がってきたっちゃ! レッドスターズに勝ったら、ほんとに優勝だよ〜?」


「そう思うと、ドキドキしてきたわ〜」


「なぁ、今日の練習、何から始めっぺ? パス回し中心にする?」


「んだね。特に中盤の動き、ちゃんと合わせっぺな。相手のパス、精度高ぇっちゃから」


「あと、岩出さんとの1対1もな。真斗のマッチアップ、がっつり見てぇよな〜」


 3人の会話は、自転車のチェーンの音に溶けて、秋の静かな街を流れていく。



グラウンドに再集結


やがて、荒浜小学校が見えてきた。朝の光に照らされたグラウンドでは、すでに数人のメンバーがボールを蹴りはじめている。


「おっ、みんな来てっぞ」


 スパイクに履き替えた徹が軽くボールを蹴ると、ユリも柚月も自然とパスを回しはじめる。


 昨日は完全休養。だからこそ、今日のこの感触が、身体にも心にもじんわり沁みていく。


「……やっぱ、サッカーやってるときが一番楽しいな」


 そのつぶやきは、風に乗ってユリの耳に届いた。


「んだんだ。うちもそう思う」


 ユリは笑って、徹のボールを軽やかにトラップして返す。


 徹は思った――サッカーができるって、こんなにも幸せなことなんだなって。そしてなにより、ユリと一緒に同じピッチに立てるこの時間が、かけがえのない宝物だと。



岩出隆、登場


そのとき――


「おーい! 徹〜、ユリ〜、柚月〜!」


 遠くから、懐かしい声が響いた。インターハイ出場経験を持ち、いまは宮城大学の主力として活躍している岩出隆だ。


「岩出さ〜ん! 久しぶりです!」


「決勝まで来たって聞いて、びっくりしたわ。すげーじゃん。で、相手は速くてドリブルもうまいFWがいて、そいつを中心に組み立ててくるって?」


「はい、これが準決勝の動画っす」


 岩出は動画を見ながら頷いた。


「確かに、速ぇし、ボール持っても減速しねぇ。……なるほどな」


 ちょうどそのころ、原町監督や他のメンバーも到着し、全体ミーティングが始まる。


「監督、お久しぶりです。決勝進出、おめでとうございます」


「おお、隆。忙しいのにありがとな。で、どう思う?」


 岩出はグラウンドを見渡しながら、静かに答えた。


「……たしかに速ぇ。でも、対応できねぇほどじゃねぇっす。真斗くんなら止められますよ。あとは、チーム全体でパスの出し手を素早く潰すことっすね」


 原町監督が頷いた横で、真斗の目がキリッと鋭くなる。


 風がふわりと抜け、秋の朝のグラウンドに緊張と期待が混じった空気が流れ始めた。


■決勝6日前(月曜日)


― 本気の1対1、始動 ―


 朝の空気はひんやりしていて、草の上にはうっすら露が残っていた。秋の匂いが、グラウンドの隅々にまで染み渡っている。


「んじゃ、さっそくやってみっぺ。真斗、1対1いぐぞ!」


 岩出がスパイクの紐をぎゅっと締め直し、真斗も無言で頷いで、ゆっくり前へ出た。周囲のメンバーたちは自然と円を描くように集まり、二人の間にスペースが生まれる。


「岩出さんと勝負……なんか緊張すんなぁ…」


「どきどきすっぺ、これ……」


 柚月と雅がヒソヒソ話す。徹は、真斗の背中をじっと見つめながら、拳をぎゅっと握った。


「真斗、苦竹はこう来っからな。スピードで一気に抜いてきて、切り返しとフェイント混ぜでくっから、油断すんなよ」


「はい。お願いします!」


 ボールをセットした岩出が、一気に踏み込む。左、右、フェイントからの縦抜け――


 真斗は低い姿勢のまま、丁寧に足を運ぶ。岩出が一瞬、逆を突こうと体をひねった瞬間、真斗が鋭く踏み込んで足を出した。


「……おっ、ナイスっ!」


「とったっちゃ! 真斗、すっげぇ!!」


「フェイントにも引っかがんねぇで、冷静だったな〜」


 岩出がニッと笑って、真斗の肩をぽんと叩く。


「やるなぁ、真斗。大したもんだ」


「ありがとうございます。でも……まだまだです。苦竹は、もっと速いし、もっとずる賢い動きしてくっから」


「その気持ちがあれば、大丈夫だ。おめぇなら止められる」


 1対1はその後も数本繰り返され、見るたびに真斗の反応は鋭くなっていった。

 原町監督が手を叩いて、全体に声をかける。


「よしっ、次はミニゲームいぐぞ! 真斗は引き続ぎ岩出さんについて、他のやつらは全体の動き、確認すっぺな!」


「おっしゃー!」「はいっ!」


 グラウンドに活気が戻り、まるで本番のような空気が流れはじめた。



■決勝5日前(火曜日)


― 頭で戦う日 ―


 この日は、ボール回しの精度を高めるメニュー中心。

 狭いスペースでの3対2のポゼッション練習では、ユリがキレのある動きを見せた。


「おぉ〜、ユリ、今日めっちゃキレてんなや〜!」


 柚月が笑いながら声をかけると、ユリは肩で息をしながら笑う。


「昨日な、兄ちゃんと動画見でたんだ〜。多賀城の守備、ちょっとクセあるっちゃよ。サイドに引っ張られると、中ガラ空きになる」


「マジか!? すげ〜な、それ!」


「情報は武器だっちゃ。せっかく見つけたんなら、活かさねばな」


 徹も横で頷いた。

 プレーと頭をリンクさせることで、ユリは今や、チームの“頭脳”として頼られる存在になっていた。



■決勝4日前(水曜日)


― 苦竹対策、加速 ―


 この日は、DFとボランチの連携強化に時間を割いた。

 岩出と真斗の1対1も、日を追うごとに緊張感を増していた。


「ナイス! 真斗、それ本番でも通用すっぺ!」


「いや〜、岩出さん、ほんと手加減ねぇもんな……」


「お前が止めねぇと、誰が止めんだよ。頼んだぞ、相棒!」


 徹の声に、真斗は笑ってガッツポーズ。


「んだな。止めっからな、まかせでけさい!」


 息が白くなり始めたグラウンドに、真斗の決意が強く響いていた。



■決勝3日前(木曜日)


― セットプレーと風の読み ―


 この日は軽めの調整と、セットプレーの確認が中心。


 ユリと雅がコーナーキックのキッカーを交代で務め、真希や和也がニアへ飛び込む練習を繰り返す。


「徹、ゴール前で焦んねぇでな。落ち着いて、こぼれ玉も狙えっぺ」


「うん、わがってら。あと一歩、粘るのが大事だな」


 秋の風がグラウンドを吹き抜け、ボールの軌道をわずかに変える。

 その風さえも読み切ろうと、彼らは集中を高めていた。



■決勝2日前(金曜日)


― 本番さながらの模擬戦 ―


 この日は岩出の所属する宮城大学から、選手2名が助っ人に来てくれた。

 仮想レッドスターズとしての模擬試合。


 最初は圧倒されていたが、後半になると息が合ってきて、

 徹のスルーパス → 修斗が抜け出す → ユリが詰めて、シュート!


「よっしゃぁぁ! 今の完璧だったなや!」


「連携バッチリだっちゃ!」


 試合後、岩出がぽつりと呟いた。


「……このチーム、まじで強ぇわ。苦竹止められるかもしんねぇ」



■決勝前日(土曜日)


― 黄金色の夕陽の中で ―


 この日は短時間の軽い調整と、戦術ミーティングのみ。


 夕方、淡い黄金色の夕陽が荒浜小のグラウンドに差し込み、子どもたちの額には汗とともに、静かな決意の光が宿っていた。


 原町監督が前に出て、みんなを見渡す。


「……いよいよ、明日だな」


 その声は低く、でもあたたかかった。


「泣いでも笑っても、明日で最後だ。ここまで来れたのは、おめぇらが毎日真剣にやってきたからだっちゃ。おら、誇りに思ってっからな」


 誰一人、視線を逸らす者はいなかった。


「相手は強ぇ。でも、うちらかって、ここまできたんだ。てっぺん、とっぺし。最高の秋にすっぺな!」


「はいっ!!」


 声が、空に向かってまっすぐ伸びていった。

 どこか泣きそうなほど、澄んで、強くて、美しい声だった。



■決勝前夜 ― 波の音と、心の声 ―


 夕焼けがゆっくりと沈み、空が紫と金のグラデーションに染まっていく。

 荒浜の海辺には、潮の香りと、遠くからかすかに聞こえる波の音だけがあった。


 徹とユリは、少し距離をあけて歩いていた。

 砂を踏むたび、ザッザッと乾いた音が響く。


「……いよいよ、明日だね」


 ユリがぽつりと呟いた。

 徹は空を仰ぎ、ゆっくり頷く。


「んだな。……ちょっと、怖い。けどな、楽しみでもあっちゃ」


 海の向こうには、もう夜の気配が忍び寄っていた。

 ユリはポケットに手を入れながら、小さく笑った。


「……うち、やっぱサッカー、好きだわ。どんなに苦しい時も、やっぱボール蹴ってると楽しいもんな」


「おれもだ。……ユリとこうして、一緒に試合出られっと、ほんと幸せだと思ってる」


 言葉のあとは、しばらく沈黙が続いた。けれど、その沈黙は心地よく、波の音だけが二人の間をやさしく満たしていた。


「明日、勝とうね。絶対に」


 ユリの言葉は、決して大きくはなかったけれど、まっすぐだった。


 徹は力強くうなずいて、握りこぶしを作った。


「んだ、勝っぺよ。絶対にな」


 仲間たちはそれぞれの想いを胸に、秋の海の風を感じながら、しばし、言葉少なに波を見つめていた。

 明日という日を、誰よりも強く信じて――



■夜 ― 小さなメモと、大きな誓い ―


 夜になり、徹は静かな部屋で、自分の机の引き出しから、しわくちゃになったメモ用紙を取り出した。


 それは、ユリと一緒に最初の頃から作ってきた「戦術メモ」だった。

 フォーメーションのアイディア、相手チームの特徴、チームメンバーの得意な動きや苦手な場面――

 びっしりと書き込まれたその紙には、時間と努力と、なにより仲間との日々が詰まっていた。


「……ここまで、来たんだな」


 窓から差し込む月明かりが、メモの文字を照らしていた。


 目を閉じると、耳の奥に聞こえてくる。

 ボールを蹴る音。仲間の掛け声。ユリの笑顔。真斗のスライディング。柚月の明るい声。


――全部、出し切っぺな。

 なにがあっても、最後まで、走り抜く。


 徹はそっとメモを畳み、胸ポケットにしまった。


「明日……全員で、てっぺん、取っぺし」


 月の光だけが、優しく頷く。



◆決勝戦の朝(10月)


 迎えた決勝戦の朝。ユリはやや緊張した面持ちで、ベッドからそっと起き上がった。


 〈ユリ・ナレーション〉

 いよいよ、この日が来たんだっちゃ。胸の奥が、ちょっとだけ苦しい。でも、怖くはない。むしろ――楽しみだ。


「あと一個。うちら、できることは全部やってきたっちゃ。あとは、監督さんと岩出さん信じて、戦うだけだべ」


 そう自分に言い聞かせながら、リビングへ。母の梓が験担ぎでカツ丼を用意してくれていた。


「ほれ、これ食べでスタミナつけで、全力出してこいな」

「ありがと、お母さん。がんばってくっから」


 〈ユリ・ナレーション〉

 小さい頃から、試合の朝はいつもお母さんのカツ丼だったっちゃ。今日の味は、なんだか一番しみる気がする。


 食後、歯を磨いて準備を終えたユリは、スマホを手に取る。


「徹〜、起ぎでっか? 今ごはん終わって、そっちさ向かうがら〜」

「おはようユリ、とっくに起ぎでっぺ。待ってっからよ〜」


 〈ユリ・ナレーション〉

 徹の声、聞いただけで落ち着く。いっつも変わんねぇんだよな。試合前の特効薬みたいだっちゃ。


 顔を洗って、髪を整えて、ユニフォームに袖を通す。ぐっと背筋が伸びるのを感じた。


「いよいよだな」


 〈ユリ・ナレーション〉

 このユニフォームには、みんなの汗と涙がしみ込んでる。これは、自分一人の戦いじゃねぇ。チームの誇り、背負ってんだ。


 玄関を出て、自転車にまたがる。


「行ってきます!」


 〈ユリ・ナレーション〉

 私、今から決勝戦に行くんだ。……もう、立ち止まらねぇ。


 元気にペダルを漕ぎ、徹の家へ。


「ユリ、おはよう〜。あとひとつだな。ぜってぇ、うちら勝つべよ!」

「んだね! 絶対、勝っぺし!」


 〈ユリ・ナレーション〉

 徹、あんたとなら、どこまででも走れる気がする。さぁ、行こう――最後の戦いさ!



◆会場入り〜キックオフ


 集合場所の荒浜州学校でメンバーが揃う。秋の空は澄み渡り、肌寒さと緊張感が入り混じる。


 今日の試合は、どのポジションも高い集中力と判断力が求められる。小さなミスが勝敗を左右する、そんな試合になると誰もが分かっていた。


 〈ユリ・ナレーション〉

 今までの試合とは、レベルがぜんぜん違う。ひとつのミスが命取り。……でも、それが決勝ってやつだっちゃ。負けられねぇ。


 試合前、原町監督が声をかける。


「みんな、緊張してっか? でもよ、ここまで来たら、実力の差なんて、ほとんどねぇ。サッカー楽しんでこい。最後に勝つのは、サッカーを一番楽しんだチームだ」


 〈ユリ・ナレーション〉

 監督の声、あったけぇな……言葉ひとつで、肩の力がふっと抜ける。そうだ、サッカーって楽しいから好きになったんだよな。


 続いて、岩出が前線組に声をかける。


「みんななら、どんな壁だって越えてけっから。自分たちがやってきたこと、信じてこい。最高のサッカーしようぜ」


 〈ユリ・ナレーション〉

 岩出さんの言葉、背中押してくれた。あのキツい練習も、みんなでやったから笑えた。今、全部が繋がってる気がする。


 そして、決勝戦の笛が鳴る――



◆前半の攻防


 レッドスターズのキックオフ。真斗がエース・苦竹のマークにつく。チーム全体が連動し、パスコースを消しにかかる。


 〈ユリ・ナレーション〉

 笛の音が、全身にビリビリ響いた。ここからは一瞬の判断と一歩の速さが勝負を分ける――それが、決勝戦だっちゃ。


 開始5分、レッドスターズは攻めあぐねる。


「ほう、なかなかええディフェンスしてんじゃん。ここまでマークされるとは思わなんだ」

「んだっちゃ、対策ばっちり立てでっからよ。スタミナでも負けねぇぞ」

「……んじゃ、互いに楽しもうぜ、決勝戦」

「あぁ、楽しむべ!」


 〈ユリ・ナレーション〉

 敵なのに、火花じゃなくて敬意がある。そんなやり取りも、決勝ならではだべな。


 しかし一瞬の隙に、苦竹へパスが通る。


「柚月、止めろ〜!」


 柚月が足を伸ばしてボールをクリア。スローインから再開。


 すぐさま修斗がカットし、カウンター。左サイドの雅へ、そこからセンターへ上がる徹にパス。


 ユリも右サイドを駆け上がる。


「徹〜! こっち〜!」


 徹が右前方にボールを流し、ユリがダイレクトでシュート!


 〈ユリ・ナレーション〉

 蹴った瞬間、思った――入るっ!


 ……しかし、GK岩城が左手一本で弾く! コーナーキック!


 〈ユリ・ナレーション〉

 やっぱ、あのキーパーただもんじゃねぇ……でも、まだまだ攻めっぺ!


 キッカーは柚月。直接ゴールを狙う――しかし風に流され、ゴールポスト直撃! 跳ね返ったボールはセカンドボールとなり、相手に奪われる。


 カウンター。苦竹が抜け出す。雅と裕太が体を張って守るが、こぼれ球を相手FWがミドルシュート!


 〈ユリ・ナレーション〉

 あっぶねぇ……でも、道也がしっかり弾いた! よし、きた――!


 ユリの足元にボールが転がる。すぐさまロングパス。徹へ――!


 だが苦竹が戻ってきてコースを塞ぐ。ここで時間が流れ、前半終了。


 〈ユリ・ナレーション〉

 全力でぶつかってる。だけど、まだ終わっちゃいねぇ。この勝負、絶対にうちらが勝ちきるっちゃ!



◆ハーフタイム


 選手たちが息を切らしながら戻ってくる。ユニフォームは土と汗にまみれていた。


 〈ユリ・ナレーション〉

 息、苦しい……足も重い。でも、怖くねぇ。うちら、本気で、全員で戦ってるって実感してっから。


 監督が笑顔で言う。


「楽しんでるか? 決勝の舞台で、これだけの試合ができるのは、ここまで勝ち上がってきたお前らだけだ。後半も、楽しんでこいよ!」


 〈ユリ・ナレーション〉

 “楽しむ”って、簡単なようで一番むずかしい。でも、監督が言うと、素直に心に入ってくるんだ。


 岩出が言葉を継ぐ。


「苦竹のスプリント、ちょっと落ちてきてる。焦らず、揺さぶっていけば、必ず隙が出る。後半、全部出しきってこい」


「はいっ!」


 ベンチでは、先発から外れた石田真希と盛田和重が、静かにユニフォームを整えていた。


 〈ユリ・ナレーション〉

 みんな、スタンバイしてる。出てない時間も、戦いは続いてんだ。全員が、この決勝のピースなんだっちゃ。









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