「いぐぞ、秋の舞台へ
試合から三日後――再始動の日
東北の空は、少しだけ秋の気配をはらんでいた。
仙台ジュニアFCのグラウンドには、早朝のひんやりとした風が吹き抜ける。
だが、その空気とは裏腹に、ピッチの中はすでに熱気を帯びていた。
「んじゃー、リフティング百回な。落としたら最初っから!」
真斗の声に、ユリは舌を出して笑う。
「昨日より増えでるし……」
「昨日勝ったがらって、気ぃ緩めっつぁら、次でボロ負けだっちゃ。な?」
修斗が真剣な目で言った。
その言葉に、徹も静かに頷いた。
「……おら、まだ点取り足りねえと思ってら。PKだげじゃ足りねえ。流れで決めてやっがんな、次」
「ユリは? どしたい?」
その問いに、ユリはボールを膝で受け止め、軽やかに足でコントロールしながら言った。
「おらは、徹ともっと合わせっぞ。ワンツーで崩して、ビュッてゴール決めっがら」
「ビュッて……適当かよ」
「いーの、感覚っちゃ感覚!」
一同に笑いが広がる。
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監督の言葉と、新たなテーマ
練習の最後、監督がチームを集めた。
「よくがんばったな。岩沼戦、全員よく走った。だけど、PKまでいったってことは、流れの中での得点力がまだ足りねえってことだ」
選手たちはうなずく。
「次は準々決勝。相手は石巻サッカークラブ。技術でかわされっと、走り負けっと、やられる。お前ら、勝ちてえか?」
「はいっ!」
「だったら、ボールがないときの動き、もっと考えろ。特にユリ、徹、お前らツートップだ。二人の距離とタイミング、もっと詰めろ」
「はい!」
声をそろえて応える。
互いに目を合わせると、自然と笑みがこぼれる。
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練習後の帰り道
練習が終わると、ユリと徹はグラウンド裏の並木道をゆっくり歩いていた。
「……おらたち、けっこー組み合ってきたっちゃね」
「んだな。パスのタイミング、前よりピタッて合うようになった気すっぺ」
「おら、あんたがボール持ってっ時、どう走ったらパスくるか、わがってきたもん」
「……おらも、ユリの動き、なんとなぐ見えんだ」
ぽつりと、徹が言った。
ユリはうれしくなって、ついちょっとだけ得意げに言う。
「それ、“以心伝心”っつーやづだっちゃ」
「ははっ、それは言い過ぎだべ」
二人の笑い声が、秋の空に伸びていった。
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夜、ユリのひとりごと
その夜、ユリは布団の中で、ぼんやり天井を見つめながら考えていた。
(まだ勝ちたい。もっと遠ぐまで行ぎてぇ)
勝ちたい気持ちもあるけれど、それだけじゃない。
チームで走ってる時間、徹とパスを回す瞬間。
その全部が、ユリにとってかけがえのないものになっていた。
(徹と、もっと強ぐなりてぇ)
そう思いながら、ユリは静かに目を閉じた。
明日はまた、ボールを追う日が来る。