いよいよブラジルへ
最終節 ノエビアの夜――「斜め」と「数字」の最終確認
空気は張りつめ、芝の水分はもうほとんど残っていない。
勝点は同じ、得失点差は**+2で仙台**。引き分け以上で優勝。
円陣の中央で、美里が短く言う。
「浮かない。最初の5分、“斜め”は見せるだけ」
GK・葵がグローブを打ち合わせた。
柚月は胸の文字「仙台」を一度なで、息を吸う。(浮かない)
ホイッスル。序盤から、研がれた刃どうしの奪い合い。
湯郷は4-4-2のブロックを高く設定。島村公美子と丸形梨恵がラインを押し上げ、内田好美と南山千明がボールサイドを圧縮、二列目の中野琴音が跳ねるように奪いに来る。前線にはスプリント巧者の塩谷瑠南、セカンド回収の秋元美雨。背後では今野瞳がカバーリング、最後尾には伊藤楓。
「最短距離は餌だべ」
柚月はCB直通の半身受けから、“見せて外す斜め”。
相手のアンカー(※架空:杉浦芽生)が一歩釣られ、空いた内側へ美里が立つ。
触らない。触らずに通す。ボールは流れ、右IH(※架空:相沢紗英)がワンタッチで逆サイドへ。
スタンドの空気がわずかに傾く。
18分 仙台 1–0
右SBのクロスがDFに当たりこぼれる。柚月は背中受けの半身、針穴へ**“斜め”。
ペナルティアークで美里が落とし、左から走り込んだボランチ(※架空:日比谷みちる)がズドン**。
ネットの下段が跳ね、歓声の弾が破裂する。
「合図、通った」
(でも浮かない。数字はまだ呼吸している)
湯郷のタッチラインでは、谷口博志監督が腕を回してプレッシング方向を指示。ブロックの横ズレが速い。
31分 湯郷 1–1
右サイドで南山千明が巧みに時間を作る。逆起点を踏ませて仙台のスライドを遅らせ、内田好美の縦楔。
最終ラインの裏、塩谷瑠南がファーストタッチで角度を作り、ニアへ鋭いグラウンダー。
ポストをかすめて吸い込まれた。同点。
ベンチがざわつく。だが美里は笑って言った。
「いいよ。引き分けで充分、じゃなくて、勝つつもりで引き分けも拾う」
柚月はうなずく。(“斜め”はもう言語だ。合図の後を再設計する)
後半――“遅い縦”と“最短時間”の反復横跳び
湯郷は中野琴音を一列上げて、ボール非保持の3-4-3気味に変形。島村がスライドして外のスペースを消す。
58分
スローイン。柚月はボールがラインを越える前に動き出し、再開の一拍を削る。
「最短時間」で相手の思考を圧迫。ニア前で弾かれたボールを美里がミドル、しかしGK伊藤楓が横っ飛びで弾く。
67分
湯郷のカウンター。秋元美雨が抜け、今野瞳の内側サポートからスルーパス。
「やばい!」
葵が前へ、ペナルティ外ぎりぎりでヘディングクリア。芝を擦る音が大きく聞こえる。
スタンドがどよめき、数字がまた一拍延びる。
74分
仙台のビルド。柚月は“斜め”を二回連続で外す。
三回目、わざと直線。
「いま!」
右シャドー(※架空:渡瀬ひかり)がフリック。美里が抜け、右足アウトで流し込む――
と見せて、最後の最後で置く。GK伊藤の重心をずらしたが、ポスト外。
アディショナルタイム――数字に“蓋”をする勇気
掲示板が冷酷に告げる:**+2(得失点差)**はそのまま。
「最後の斜めは、時間を削る斜めだ」
柚月は自分に言い聞かせる。(斜めはパスの軌道じゃない。“ピッチの視線”を斜めにする)
90+2分
湯郷CK。キッカーは中野琴音。ファーへ深いボール。
丸形梨恵が競り勝ち、ドンピシャのヘッド――
葵、右手一本。
指先で方向を変え、クロスバー直撃。跳ね返りを美里がクリア。
ホイッスル。
1–1。
スタンドが一瞬、静かになる。次の瞬間、爆発。
優勝
抱き合う輪の外で、柚月は空を見上げた。(浮かない。泣かない)
ベンチからスタッフが走る。美里が肩を叩く。
「おめでとう、“斜めの合図”。」
葵が笑う。「最後の一本は、未来にセーブしといた」
スコアボードの数字は止まった。だが、心の中の数字はまだ呼吸している。
ユアスタで始まった2026の物語は、ここでいったん句点を打ち、すぐに次の行へ続く。
“最後の斜めは、未来と天国をつなぐパス。”
今日は、それを皆で通した日。
(ユリ、見えだべ? 風はちゃんと、こっち向いでら)
優勝インタビュー(ピッチ上)
場内の照明が金色に寄っていく。大型ビジョンに「優勝」の文字。ピッチ中央、スタンドに向けて組まれた台に三人が上がる。マイクを握るのは地元局の新人アナ・佐伯。
佐伯「まずはキャプテン・美里選手! 優勝おめでとうございます!」
美里「ありがとさまです。……“浮かない”って、今日いちばん難しかったです。嬉しくて浮きそうなんで(笑)。でもね、最後まで“合図”はピッチの上に置いとけた。みんなのおかげです」
佐伯「続いて、今季のキーワード“斜め”。柚月選手、あなたにとって“斜め”とは?」
柚月「えっと……合図です。パスってより、“この先を一緒に見よっか”っていう視線の角度。今日は二回外して、三回目に通しました。外す勇気は、信頼の内側だっちゃ」
佐伯「名言が飛び出します。最後は守護神! GK・葵選手、あのラストのセーブ――未来に取っておいたって?」
葵(笑って)「はい。未来の自分に貸し借りしないように、今ちゃんと払い戻しました。あれ、右手一本で届くって“風”が教えてくれたんで」
フラッシュ・インタビュー(個別)
――美里(主将)
「“勝つつもりで引き分けも拾う”。あれはベンチで決めた合言葉。優勝ってワンプレーで決まらないでしょ。だから、90分間の小さな最適解を積み上げる。今日は全員がそれをやり切った日」
――柚月(MF)
「“遅い縦”は、勇気いるんですよ。スタンドから『出せ!』って声が飛ぶ瞬間に“待つ”から。でも、数字が呼吸してる間は、呼吸合わせるのが先だべ」
――葵(GK)
「CKのコース、蹴る前の歩幅で分かるときあるんです。今日は“ファー深め”。だから一歩、先に構える余白を作りました。セーブは、いつもみんなの前プレの延長です」
ロッカールームの裏話
・メダル探し事件
表彰式直後、誰かのメダルが見当たらない。騒然――と思ったら、美里の首に二枚かかっていた。「重いなと思ったんだよね!」で爆笑。
・監督のカンペ落下
優勝スピーチのカンペ(“浮かない・ありがとう・世界へ”の三行)が床にひらり。副主将が拾って、「監督、三行でまとめたのえらいっす」とツッコミ。監督、満面の笑み。
・葵の“未来貯金”儀式
試合後、葵がグローブの甲に小さく「✓」を入れる。意味を聞かれて「借りは返したの印。今日は右手」。左手には去年のチェックがひとつだけ。静かな歓声。
・“斜め”ステッカー
アナリストが作った小さな三角形ステッカー(黄×緑)。選手の携帯やボトルにぺたぺた。「外す勇気」「時間は面」の文字入り。広報さん、公式グッズ化を検討へ。
ユリに向けて(静かな語りかけ)
照明が落ち、ロッカールームの音が一段下がる。三人がそれぞれのやり方で、ユリの写真に向き合う。
柚月
「ユリ、見えだべ? “最後の斜め”は、未来と天国つないだよ。あんたが『時間、ずらせ』って教えでくれたから、私、焦らんで済んだ。……ありがと。次は世界で合図出すね」
美里
「約束、ひとつ返したよ。もうひとつ。“楽しく勝つ”。こっちはまだ道半ば。お前の分まで、笑って強情にやるから」
葵
「ラストの一球、もし届かなくても、ユリが笑う顔が先に浮いてた。だから届いた。そっちでも、ちゃんと見守ってて。たまに風で背中、押して」
優勝祝賀パレード(仙台)
翌日。定禅寺通りからアーケードへ。黄色と緑の紙吹雪が舞い、わらすが手作りの旗を振る。
スピーカーからはブラスの軽やかなリズム。選手の乗るオープンバスが、ゆっくり進む。早すぎない。街と呼吸を合わせる速度で。
お店の二階から、商店の方が横断幕を広げる。「斜めの合図、世界へ」
高校の吹奏楽部が「花は咲く」のメドレーを奏でる。途中でテンポが一拍揺れる。指揮者が笑って、すぐ整える。街が音でひとつになる。
バスの先頭で美里がマイク。「浮かないで歩くの、むずい!」
柚月「浮いていいのは紙吹雪!」
葵「紙吹雪もキャッチしちゃいそう!」――笑いが波打つ。
最後尾、柚月が胸の“仙台”をそっとなでる。風が通りを抜け、ユリの字みたいな小さな笑顔が、ふと、旗の折り目に宿る。
2027年 女子ワールドカップ 日本代表・参加選手発表(物語内)
都内、会見場。背面ボードには**“RE-DESIGN THE PITCH”**の文字。
監督がマイクに向かい、静かに一礼する。
監督「ピッチの再設計――それが今回のテーマです。スピードとフィジカルの更新は当然として、“合図を共有できる選手”を選びました」
GK
葵(ベガルタ仙台)
三浦 有里(Jクラブ/※架空)
瀬川 ひなた(海外/※架空)
DF
2. 國武 愛美(仙台)
3. 西野 朱音(仙台)
4. 金月 夏萌(神戸/※物語内設定)
5. ヴィアン・サンプソン(※対戦国所属の表記は割愛/物語演出上の固有名は国内合宿枠での交流選手として記載)
16. 今野 瞳(湯郷)
19. 島村 公美子(湯郷)
22. 丸形 梨恵(湯郷)
MF
6. 柚月(ベガルタ仙台)
7. 井上 陽菜(仙台)
8. 内田 好美(湯郷)
10. 美里(ベガルタ仙台)
14. 日比谷 みちる(仙台/※架空)
15. 中野 琴音(湯郷)
20. 南山 千明(湯郷)
FW
9. 塩谷 瑠南(湯郷)
11. 渡瀬 ひかり(仙台/※架空)
13. 秋元 美雨(湯郷)
18. 相沢 紗英(仙台/※架空)
21. 植木 理子(海外クラブ/※物語内)
※編成は物語世界のフィクションです。実在選手名の一部は“モデル”として引用し、所属・役割は物語上の設定を含みます。
監督(続き)
「“斜め”は軌道ではなく、視線の角度です。合図のあとを再設計する――その言語化を担えるのが柚月。最後方から未来にセーブできるのが葵。キャプテンは美里。彼女の“勝つつもりで引き分けも拾う”は、トーナメントの哲学そのものです」
フラッシュが連なる。
会見場の窓が震え、外を新しい風が通る。
柚月(小声で)「ユリ、次の合図、見でてな」
彼女の手帳の最後の行に、細い字で書き足される。
“世界基準の斜め――外す勇気、通す誠実。”
そして小さな笑顔の絵文字。
仙台の空で覚えた角度のまま、世界へ――。
了解しました。では――
「2027年女子ワールドカップ出場メンバー発表後の会見シーン」として、
原町監督・岩出コーチ・主力選手たち(相馬=大船柚月、美里、葵ほか)のコメントを、ニュース記事+ドキュメント風にまとめます。
(物語設定に基づき:仙台ジュニアFC出身の原町監督&岩出コーチが、なでしこジャパンを率いてブラジルへ。)
なでしこジャパン 2027
「仙台の風、再び世界へ」――原町体制がW杯出陣を宣言!
都内・日本サッカー協会ハウスで行われた会見。
背面には大きく掲げられた文字――
“Re-Design the Pitch 世界を再設計する”
原町監督コメント
「このチームは、“合図”でつながるチームです。
私が仙台ジュニアFCを指導していたころ、幼い選手たちが“ボールで会話する”姿を見ていました。
あの頃と同じ空気が、この代表にもあります。
岩出コーチとは十数年ぶりの“再合流”ですが、あの頃のように――選手たちと一緒に“風の方向”を感じ取りながら、ブラジルで優勝を目指します。」
仙台ジュニアFC時代、
大船徹(現・仙台ジュニアOB、柚月の夫)、柚月、ユリらを指導してきた原町監督。
のちにJリーグ女子部門、名で詩織ぐ(※名で詩織ぐは架空クラブ名設定)を率いて国内タイトル二冠を達成。
その実績と育成力を買われ、代表監督に就任した。
岩出コーチコメント
「監督とはジュニアの頃からの腐れ縁です。
あの頃の“基礎”が、いま世界と戦う選手たちの“言語”になってる。
原町監督が“風を読む”なら、私は“音を拾う”。
つまりピッチの中で鳴る“声にならない合図”を拾って、分析と調整でチームを支えます。
ブラジルは高温多湿。でも、仙台の冬を越えた選手たちなら大丈夫です。」
岩出コーチは仙台ジュニアFCで守備・分析担当を務め、
後に国内トップクラブのテクニカルディレクターとして実績を積み、
今回、原町体制の右腕として代表スタッフに復帰。
主な選手たちのコメント
相馬(大船)柚月(MF/ベガルタ仙台)
「やっと“合図”が世界共通語になる時が来たなって思います。
ブラジルの風は強いらしいけど、仙台の風も負けねぇ。
“外す勇気、通す誠実”で、ピッチを再設計してきます。」
森岡美里(主将・MF/ベガルタ仙台)
「仙台で育った仲間と、世界で再会できることが嬉しい。
原町さんと岩出さんは、うちらに“笑いながら勝つ”ことを教えてくれた人。
トーナメントは我慢比べ。でも、笑顔で我慢できたチームが一番強い。」
伊達葵(GK/ベガルタ仙台)
「未来貯金、全部引き出す時が来ました。
一試合ごとに“右手の✓”をつけて帰ってくるつもりです。
最後は、風と一緒にセーブします。」
内田好美(MF/湯郷ベル)
「湯郷と仙台、立場は違っても、ピッチの中では同じ“斜め”を見てる。
チームを越えて、“なでしこ”としてつながれるのが一番の誇りです。」
出発前セレモニー(仙台空港)
出発当日、仙台空港ロビーに集まったサポーターの数は1,500人。
「がんばっぺ!なでしこ」の横断幕とともに、黄色い風船が天井へ。
柚月が手を振りながら笑う。
「浮くのは風船だけでいい! うちらは着地して優勝持って帰っぺ!」
原町監督は深く一礼し、
「世界を驚かせるのは“スピード”じゃなく、“理解力”です」と語り、
搭乗ゲートへと歩みを進めた。
ブラジルへ――
2027年女子ワールドカップ。
なでしこジャパン、再び世界へ。
“斜めの合図”は、今度は南半球の風へと伝わっていく。
A組スカウティング(日本/スウェーデン/カナダ/韓国)
スウェーデン
特徴:高さ・強度・クロスとセットプレーの破壊力が武器。2023W杯ではCKから量産、CBアマンダ・イレステドが大会屈指の得点源に(主にヘディング)。GKムショヴィッチは驚異的なショットストップで米国を完封。
主力例:ロルフォ/ブラックステニウス/リナ・フルティグ/リッティング・カネリュード/アングルダール/アスラニ/ムショヴィッチ など。
カナダ
特徴:堅牢な最終ライン(ヴァネッサ・ジル)、運動量の高いSB、ゲームを締めるMF、決定力あるWG、守護神シェリダン。ロースコアの粘り勝ちが得意。
韓国
特徴:技術と連結。中盤の配球と二列目の連動、低い位置からのビルド。ブロックはコンパクトで、スイッチ一発より“揺さぶりの回数”が攻略の鍵。
初戦プラン:日本 vs スウェーデン(詳細)
警戒ポイント(相手)
セットプレー(特にCK)
6yd周辺を厚く占有し、ニアのゾーンに強いボール→イレステドが初コンタクトで得点/落とし。大会データでも“セットプレー女王”。対応を誤ると流れを持っていかれる。
サイド→クロス
右にリッティング・カネリュード、左にロルフォ(内外どちらも可)。中央でブラックステニウスがニア/ファーへ分断。ワイド起点→ボックス人数で圧。
ガーディアン
GKムショヴィッチの神セーブ
シュートストップ能力が異常値。至近距離の強打が通らない試合も想定。**二次攻撃(セカンド回収→即撃ち)**を組み込む。
先発想定と“誰が誰を見る”(日本側・役割割当)
(以下は物語チーム編成に基づく役割案)
CB 國武愛美:CK/FKのイレステド(主担当・マンマーク)+ニアの空中戦。肘打ち/ブロック対策は一歩前でポジション確保。
CB 西野朱音:流動するブラックステニウス(主担当)。ニアへの“型通りの入り”を身体で外へ誘導。
SB(右):ロルフォの内外スイッチに備え、内側のレーン封鎖優先。外に出過ぎない。
SB(左):カネリュードの縦運び&カットイン両対応。縦は遅らせ、内は潰す。
森岡美里(CAP / LCM):アングルダールの配球へ“半身遮断”。ボールサイドで斜めの通路を切る。
大船(旧・相馬)柚月(RCM):アスラニの受けどころを影で消す。ボール保持では“合図としての斜め→外す→遅い縦”の三段活用で相手IHの視線をずらす。
GK 伊達葵:6ydのゾーン主権を明示。CKは「ニア:國武」「中央:ゾーン+西野」「ファー:カバー+二次球回収」。飛び出し基準を事前共有(助走2歩で触れる高さのみ)。
参照:スウェーデンのCK“ニア厚め・6yd占拠・イレステド初コンタクト”傾向。
日本の攻撃プラン(ムショヴィッチ攻略)
第一撃は“角度”重視、第二撃で仕留める。
中距離の巻く系より、マイナス折返し→置きシュート(GKの重心移動直後)を増やす。こぼれ球に二列目が遅れて入る設計。
ショートCKの採用
直接入れず、二度目の配球で6ydを外す(エリア外→再侵入)。ムショヴィッチの“最短距離の反応”を無効化。スウェーデンは密集守備時の外側二列目が空きやすい。
トランジション:遅い縦
相手SBの前進後ろ(ハーフスペース背面)に“遅い縦”。ロルフォ側の背後は特に二列目の侵入が刺さる。
日本の守備プラン(ファウルマネジメント含む)
外で受け止める:深い位置での安易なファウル=CK献上は即失点リスク。手前で遅らせ、外→外で完結。
ゾーン+マンのハイブリッド:ニアは國武のマン、中央~6ydはゾーン、ファーは西野のマン+葵のコマンド。セカンドは柚月。
レフェリング傾向の早期把握:接触強度に寛容な主審なら“競りの主導権”を取りに行く。寛容でない場合は手の使い方を早めに修正。
ミニ・ゲームプラン(相手展開別の即応)
相手が前半からハイテンポ
→ 前半20分までは“受け流し”。ショートカウンターは打たないで、自陣→敵陣へ陣地回復を優先。ムショヴィッチの前で“撃って終わる”より“保持で終わる”。
相手がクロス連打
→ クリア方向を外/タッチへ固定。中央クリアは再波状を招く。サイドで2対2+戻り1の形を崩さない。
終盤ビハインド時のスウェーデン
→ 早い段階でCBを前に置く2トップ化+CK総動員。こちらはファウル管理と交代で高さ追加(長身DF投入)で“6ydの密度”維持。
まとめ(初戦の“勝ち筋”)
セットプレーを与えない(CK数を抑える:サイドで完結)。
合図としての斜め→外す→遅い縦でIHとSBの視線をズラし、ムショヴィッチの一発止めの後に二発目を用意。
守備はニアのイレステドに國武を“人”。6yd内はゾーン主権を伊達葵が握る。
A組:カナダの現在地(要点)
監督交代後(2025)、より前向きな4-4-2/4-2-3-1でサイド起点と強度を前面に。主軸はGKシェリダン、DFヴァネッサ・ジル、SBアシュレイ・ローレンス、MFジェシー・フレミング、WGアドリアナ・レオン、CFジョーディン・フイテマ等。
鍵は堅牢な最終ライン+高質SB+中盤のゲーム管理。とくにローレンスの運搬力/フレミングの配置転換でテンポを握る。
守護神カイレン・シェリダンのショットストップはワールドクラス。一撃で仕留めにくい。
カナダ主力の警戒ポイント(と、誰が誰を見るか)
相手警戒点日本側の主担当・対処
GK シェリダン反応速度が速い。至近距離の強打に強い1発で決め切るより二次波(こぼれ→即差し替え)を設計。PA内は“置きシュート”多用。
CB ヴァネッサ・ジル空中戦/対人の塔。セットプレー加点源CK/FKは國武がマン気味+伊達葵が6yd主権宣言(飛び出し基準共有)。セカンドは**大船(柚月)**固定。
SB アシュレイ・ローレンス縦運びと内側侵入の質。配球も巧い**左SB側(日本の右)は“内レーン優先封鎖”。外は遅らせ、内は潰す。カバーは森岡(美里)**で二枚目。
MF ジェシー・フレミング配球・PA侵入・PK精度。リズムの心臓森岡が半身で配球線を遮断、**大船(柚月)**が受け所を影で消す。前向き許さない。
WG アドリアナ・レオン切り返しからのシュート。二列目到達日本左SBが内切りケア、外は遅らせ→タッチへ。PA縁での軽い足のファウル厳禁。
CF ジョーディン・フイテマ斜めの動き出し&空中戦西野が主担当。ニアの型通りの入りを体で外へ。クロス源を減らす守備。
日本(伊達葵/國武・西野/森岡・大船)のゲームプラン
1) 守備(最優先KPI:CK本数を抑える)
サイドで完結:中で倒してFK/CKを与えない。クリア方向は外固定。
ゾーン+マンのハイブリッド(セット守備):ニア=國武(人)、6yd=ゾーン+葵コマンド、ファー=西野(人)。セカンドは柚月専任。
ローレンス抑止:日本右SBは“内優先”、外は遅らせ→戻りを待つ。フレミングの前向きだけは絶対に許さない。
2) 攻撃(シェリダン攻略=二次波設計)
合図としての“斜め”→外す→“遅い縦”:IH/SBの視線をズラし、PA内はマイナス折返し→置きで重心逆を突く。二発目を仕留めに行く。
ショートCK:一度外に出して6yd密度を薄め、二度目の配球で再侵入。直入れ勝負は避ける。
トランジション:ローレンス前進後ろのハーフスペースへ“遅い縦”。二列目(渡瀬/相沢など)が遅れて刺す形を増やす。
3) 試合運び(レフェリー傾向と温度管理)
接触基準が厳しければ手の使い方を早期修正。
立ち上がり20分は受け流し優先(“撃って終わる”より“保持で終わる”)。後半はテンポ上げ→ショートCK増やす。
セットプレー個別メモ
カナダCK(守備):ニア潰し(國武)、6ydは葵コマンド“出る/出ない”事前共有。スクリーン対策に西野が一歩外から侵入(視界確保)。
日本CK(攻撃):ショート→アウトサイド→マイナスの三手。直接はジルの強度に飲まれる確率が高い。
勝ち筋の要約
CK本数<3を目安に抑制。サイドで完結する守備。
“斜め→外す→遅い縦”+マイナス折返しでシェリダンの初弾対応を空振りさせ、二次波で決める。
フレミング前向き禁止/ローレンスの内封鎖。ここが止まれば、カナダの攻撃効率は落ちる。
了解。ブラジル現地での適応を終えて――
A組:韓国(KOR)スカウティング → 日本のゲームプラン
韓国の現在地(要点)
中盤の技術と連結が核。ゲームメーカーはジ・ソヨン(全韓国最多得点&最多出場のレジェンド)で、二列目~IHで配球・最終局面への“最後の一手”を担う。
前線はイ・グンミン(万能型FW/シャドー)、チェ・ユリ(カットインと背後抜け)らの組み合わせ。左SB/左WBのチャン・セルギは運搬力と配球に長ける。
直近の国際試合では、ブロックを整えた状態からの耐久力が高く、相手の強度にさらされてもライン間を詰めて失点を限定する傾向。
想定フォーメーション/主力(KOR)
4-2-3-1(可変で4-4-2/4-1-4-1)
CF:イ・グンミン(もしくはCFとシャドーを流動)
LW/RW:チェ・ユリ(サイド起点)
10番:ジ・ソヨン(心臓)
LSB:チャン・セルギ(縦運び+内側配球)
CB/守護神:相手のGKは対戦ごとに異なるが、ブロック完成後の枠内対応は安定(=“一撃必殺”より二次波が有効)。
日本(JPN)の役割割当:「誰が誰を見るか」
ゾーン基準+マン部分最小化(合図=斜めで相手の視線を“外へ”誘導)
韓国の要所主要脅威日本の主担当 / 連携
ジ・ソヨン(10)受けて前向き/ラスパス森岡美里が“半身遮断”で縦パス線をカット。大船(相馬)柚月が“影マーキング”で背中から受け所を消す。
イ・グンミン(CF/SS)斜めの動き出し/落としからの再侵入西野朱音が主担当。國武愛美はカバー優先で“裏一発”を許さない。
チェ・ユリ(WG)カットイン→シュート/ニア詰め日本左SBが内切り最優先。PA角での軽い足ファウル厳禁。
チャン・セルギ(LSB)持ち上がり/サイドチェンジ日本右SBは“内レーン封鎖”。外は遅らせ、森岡が二枚目で内を閉じる。
ねらい:10番とLSBの内側回廊を塞ぐ=韓国の“リズム発生装置”を止める。
守備プラン(JPN)
外で完結:PA手前の内向きファウル禁止。タッチへ逃がしてリトリート。韓国はセットからの直接脅威より流れの中の連結が怖い。
トリガー型プレス:
左CB→左SBへの横パスでスイッチ(チャン・セルギに背を向けさせる)。
10番が背中で受けに降りた瞬間は“背後の受け手不在”になりやすいので我慢して前進を遅らせる。
CK/FK守備:高さ勝負は五分。6ydは伊達葵のゾーン主権、ニアは國武の人基準、セカンドは柚月固定。
攻撃プラン(JPN)
**“斜め→外す→遅い縦”**で中盤の視線をズラす
まず合図としての斜めを見せる→外す→韓国SB背後のハーフスペースへ“遅い縦”。韓国はブロック完成が速いぶん、背面の再加速に弱い。
マイナス折り返しの設計
枠内一発で仕留めにくいので、マイナス→置きシュート→二次波までをテンプレ化。直近の国際試合でも“二度目の波”で仕留める相手が有利だった。
ガーディアン
ショートCK多用
6yd密度が高い相手に直入れは非推奨。ショート→二度目の配球→PA角の遅い縦で再侵入。
交代カード(想定)
同点/拮抗(60’):シャドーorIHに遅れて入る走力枠(渡瀬/相沢など)→二次波の人数を確保。
ビハインド(70’):右にスピードWG、左は偽WG(内ポケット滞在)で内側の受け手を増やす。CKは長身DFを前線に一時配置。
逃げ切り(80’):森岡を一列落として3枚形で中央圧縮、柚月はカウンターの“遅い縦”専担。
試合のKPI(日本)
PA内被ファウル:0~1回(=危険FK/PKを与えない)
被CK:≦3(外で完結)
マイナス折返しからの“二次波シュート”:3本以上
ジ・ソヨンの“前向き受け”:前後半で各≦3回(体感値ベース)
さいごに(原町×岩出の合意メモ)
「内側の言語」を止める:ジとセルギの“内回廊”を消す。
「外で揺さぶって、背中で刺す」:斜め→外す→遅い縦。
“数字が呼吸する間”は焦らない:前半20分までは温度管理。
大船徹からのメッセージ ――仙台より
大会前夜、練習を終えた相馬(大船)柚月の端末に届いた一通の手例。
画面の向こう、仙台の夜空をバックに、ユニフォーム姿の大船徹が穏やかに笑う。
手例メッセージ(全文)
「柚月、ブラジル入りおめでとう。
こっちはリーグ戦で遠征続きで、直接は行けねぇけど……仙台から風に乗せて応援してっからな。
スタジアムで風が背中押したら、それ俺だと思え(笑)」
少し間を置いて、表情が引き締まる。
「ワールドカップは、リーグ戦とは空気の質が違う。
点取り合戦でも、技術比べでもねぇ。
“90分をどう制御するか”っていう戦いだ。
相手が格上でも、ボール持たせていい時間を作れば、呼吸が変わる。
呼吸が変われば、流れが変わる。
それを感じ取る力が、お前にはある。」
「いつもの“斜め”も大事だけど、
ワールドカップでは“間を作る勇気”を持て。
焦る相手に間を与えると、必ずどこかで空気が割れる。
その割れ目に一歩入る。それが世界の戦い方だ。」
「あともう一つ。
点を取られたあと、スタンドが静まり返る瞬間。
あの沈黙を怖がるな。
あの沈黙こそ、チームが呼吸を合わせ直す時間だ。
お前なら、それを“合図”に変えられる。
世界の舞台でも、“浮かない笑顔”でな。」
「俺も週末の試合が終わったら、ユニ着て画面の前で見てる。
風は同じ方向に吹いてるから。
頑張れ、柚月。……いや、“大船柚月”として。」
柚月は再生を終え、しばらく画面を見つめていた。
ウィンドブレーカーの袖を握りしめ、つぶやく。
「うん……間を作る勇気、ね。
じゃあ、世界の間を、斜めでつないでくるよ。」
外ではブラジルの風が夜の街を抜ける。
仙台からの風と交わり、ひとつのリズムになる。
――“合図としての斜め”、世界篇の幕が上がる。




