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後半戦スタート。

2対0とリードを広げた仙台ジュニアFC。残り時間わずか、追い詰められた旭川イレブンズは、まさに怒涛の攻撃を仕掛けてきた。


前線では桶川 勝や飯田 健一が必死にボールを追い、ミッドフィルダーの金谷 光子や結城 祥生も攻撃に加わる。ゴールをこじ開けようと必死だ。しかし仙台ジュニアFCの選手たちは守備陣形を崩さず、全員で身体を張って守り抜く。


ゴール前、伊藤 敦のヘディングを、GK道也みちやが見事にキャッチし、大きく声を響かせる。


「よっしゃ!落ち着けぇーっ!」


その一声からカウンターが始まった。


名取 閖子ユリが素早く左サイドにボールを流す。反応した**大船 とおる**がドリブルでサイドラインを駆け上がる。末田 正和を切り返しでかわし、中央へ鋭いパス。


「今だ、真斗っ!」


右サイドを走っていた真斗がディフェンダーを引きつけ、中央へボールを流す。


そこに走り込んだのは中央のみやび。戻りきれていない旭川の守備陣の空いたスペースを見逃さず、右足を振り抜いた。


――ズドンッ!


ボールはゴール左上隅に突き刺さる。たちばな 和也かずやも反応するが、わずかに届かない。


スタンドの仙台応援団が歓喜に沸き上がる。


「決まったぁぁああっ!!!」


試合終盤、これで3対0。アディショナルタイムに入っても仙台ジュニアは集中を切らさず、原町監督の声が飛ぶ。


「油断すんなよー!最後まで走りきんのっしゃ!」


岩出コーチも仙台弁で鼓舞する。


「んだ、気抜いだら一発くっからな!ラストまで頼んだぞ!」


旭川イレブンズは最後の最後まで攻め続けたが、仙台ジュニアFCの鉄壁の守備は崩れなかった。


試合終了のホイッスル――。

仙台ジュニアFC、堂々の 3対0 勝利!




試合が終わり、仙台ジュニアFCの選手たちはピッチに座り込む。やった、勝った――。

そんな安堵感が、みんなの体から漂っていた。


旭川イレブンズと握手を交わす。相手の選手たちからは、自然と称賛の言葉が返ってきた。


「スピードもあるし、攻撃の組み立ても上手かった。俺たちの完敗だ。」


仙台ジュニアの選手たちは笑顔で頷きながらも、試合の余韻に浸る。勝利の喜びと、相手への敬意――両方が胸に広がっていた。



「次も勝てよ。俺たち、私たちの思いも預けるから――。」

「うん、ぜったいに負けらんねぇな!」と、大船 とおるが力強く拳を握る。

「みんなの思いを無駄にせんように、もっと走らんと!」と、名取 閖子ユリが笑顔で応える。


真斗も肩をぽんと叩きながら、「よし、次の試合も全力で行こうぜ。俺たちならできる!」

「そうだ、みんなで力合わせれば、どんな相手だって怖くない!」と真斗が叫ぶ。


岩出コーチもピッチに座ったまま、仙台弁でにっこり。

「んだ、今日の勝利で慢心せんごとやれよ。次も気ぬぐな!」

原町監督も軽く笑みを浮かべながら、「お前らの気持ちがあれば、どんな試合でも大丈夫だ」と言った。


勝利の余韻の中、選手たちは互いに肩を組み、次への決意を固めた。ピッチに漂う安堵と希望――それが仙台ジュニアFCを包んでいた。

 

  


宿舎に戻ると、選手たちは疲れた体をソファや椅子に預け、夕食の時間になった。


「はぁ~、やっと座れる~」と、大船 とおるがため息交じりに席につく。

「でも、腹ペコだね!今日の勝利メシは格別だ!」と名取 閖子ユリが笑顔で箸を持つ。


食卓は一気にリラックスモード。笑い声が飛び交い、おしゃべりにも花が咲く。





試合に出た選手も、サポートに回った選手も、それぞれの役割を果たした一日。

準決勝の対戦相手の偵察もこなし、昼からは軽く練習メニューをこなす。


宿舎に戻ると、夕食前のひととき。着替えを済ませ、選手たちは少し重い思いを胸に過ごす。

今日の勝利の余韻の中にも、次の試合への責任感と緊張感が混じり合っていた。


誰も口には出さないが、心の奥ではそれぞれが「次も勝たなければ」という思いを抱えている。

静かに部屋の空気が張りつめる中、選手たちは互いに小さく頷き合い、明日への準備を心の中で誓った。




そして、夕食の時間。


宿舎のおかみさんが、にこやかに選手たちの前に色紙を差し出した。

「みんなの勝利を祈って、従業員みんなでメッセージを書いたんだよ」


色紙には、夕食を作る厨房の人、掃除を担当するスタッフ、受付の人――宿舎の全員の手書きメッセージがびっしりと詰まっていた。


「頑張れ、仙台ジュニアFC!」

「みんなの活躍を楽しみにしてるよ!」

「次の試合も、力いっぱい!」


選手たちは一枚一枚読みながら、自然と笑顔がこぼれる。

疲れで重かった体も、張りつめていた心も、ふわりとほどけていくようだった。


「みんなの思い、ちゃんと預かるぞ……!」と、大船 とおるが拳をぎゅっと握る。

「次も絶対、勝たんとね」と名取 閖子ユリが小さく頷いた。


夕食のテーブルには、勝利の喜びと、宿舎のみんなのあたたかい思いが溶け合って、ほんのひととき、穏やかな時間が流れた。




夕食を終えた後、選手たちは待ちに待った入浴タイム。女子グループと男子グループに分かれ、宿舎の浴場に向かう。


女子グループは湯船に浸かるや否や大騒ぎだ。

「キャー!あつーい!」

「泡だらけー、見て見て!」

名取 閖子ユリや雅、ほかの女子たちは笑い声を上げながら水を掛け合い、髪や体を洗いながら次の試合や今日のハイライトを楽しそうに話す。湯気に包まれ、浴場中に笑い声が響き渡った。


一方、男子グループは静かそのもの。真斗、大船 とおる、迅らは肩まで湯に浸かり、目を閉じて疲れを癒す。

「ふぅ……今日も動きまくったな」

「次もあのスピードに対応せんと……体力温存だ」

小さな息遣いと時折のひとこと以外、男子たちは静かに過ごす。


女子の笑い声が湯船越しに漏れても、男子たちは耳だけで聞き流す。

「……あいつら、元気だな」と真斗が小声で呟き、大船 徹も軽く頷く。


入浴を終え、体を拭いて部屋に戻ると、男女それぞれの自由時間が始まる。


女子たちは髪を乾かしながらおしゃべりをひ続け、今日の試合のハイライトや次の相手の戦術を笑いながら再現する。

「ねぇ、あのパスもう一回やってみて!」

「えー、恥ずかしいって!」


男子たちはベッドや椅子に座り、静かに体を休めつつ、次の試合のことを頭の中で整理する。

「……あのスプリント力、やっぱりすごかったな」

「次も全力で守らんと」


男女で全く異なる雰囲気の夜。湯気と笑い声の残る宿舎で、仙台ジュニアFCの選手たちは、それぞれのスタイルで疲れを癒し、明日への準備を進めていた。



消灯前、部屋の電気を落とした中で、仙台ジュニアの選手たちは布団に横になりながら、偵察してきた横浜FCジュニアの話を思い出していた。


男子の部屋では、真斗が天井を見つめながらぽつりと言う。

「横浜、やっぱテクニック半端なかったな。中盤のパス回し、止めんの相当きついぞ」


大船 とおるが布団に腕を組んで寝転びながら応じる。

「しかも個人のスピードも速ぇ。ウチみたいにフィジカルで押すだけじゃ、振り回されかねん」


一方その頃、女子部屋では名取 閖子ユリが布団の上でごろりと転がりながら声をあげた。

「でもさ、ウチの守備だって今日崩されなかったでしょ? 連携で止めればいけるって!」


まさが枕を抱え、真剣な顔で言葉を続ける。

「そう。大事なのは前線からのプレッシャー。あのボランチを自由にさせなければ、きっとチャンスは作れる」


そこに金谷 光子みつこが少し真剣な声で割り込む。

「でも、あの10番のシュート力は本物だよ。ちょっとでも甘くしたら持っていかれる。だからこそ、私たちのカバーリングが大事になる」


一瞬、女子部屋が静まり返る。横浜の強さを全員が実感しているからこそ、笑いだけでは終わらない。


その時、廊下から岩出コーチの声が響いた。

「おーい! そろそろ寝ろよー! 明日はもっと走るんだからな!」


男女の部屋から同時に笑い声が起こる。

「はーい! わかってまーす!」

「走るのかぁ……またかよー!」


笑い混じりの声が夜の宿舎に響き、少しの緊張がほぐれる。


「横浜は強い。でも、ウチだってここまで勝ってきたんだ」

男子部屋で真斗が呟き、その思いは女子部屋のユリや雅、光子の胸にも同じように広がっていった。


そして、布団に潜り込んだ選手たちの心には、不安よりも次の準決勝への闘志がじんわりと灯っていった。


   



就寝前 ― 家族へのメール


布団に潜り込みながら、徹はスマホを取り出し、試合を見てくれていた両親と妹のつばさに短いメールを打った。


「今日も勝ったぞ。準決勝も必ず勝つから。まだ帰るのは少し先になっから、待っててけさいん」


仙台弁混じりのメッセージを送信すると、すぐに「送信済み」の文字が表示される。

徹は小さく笑い、肩の力を抜いた。


一方、ユリも枕元でスマホを操作していた。両親と兄・太一に向けて、少し照れくさそうに打ち込む。


「準決勝進出だよ! 明日も全力で走るから。応援しててね!」


しばらくすると、二人のスマホがほぼ同時に震えた。


徹のもとには、大船家からの返信。


「疲れてっぺと思うけど、がんばってこい。お前ならやれる。翼も応援してっからな」


ユリの画面には、名取家からの力強いひと言が光っていた。


「ユリ、次はシュート決めろよ! 楽しみにしてっから!」


布団の中で徹もユリも、画面を見つめながら自然と笑みがこぼれる。


「……よし。やるしかねぇな」

「うん。絶対負けない」


遠く離れていても、家族の声援が背中を押してくれている。

明日、準決勝。

眠りに落ちる前のひとときに、二人の心は不思議なほど穏やかで、力強かった。

 


深夜 ― 疲れを落とす眠り


それぞれがスマホを置き、布団をかぶると、部屋の中はすぐに静けさを取り戻した。

廊下の明かりがわずかに障子の隙間から差し込むだけ。


一日の疲れは、想像以上に大きい。

走って、戦って、声を張り上げて……心も体も限界まで使った。


布団に横たわると、あっという間にまぶたが重くなる。

「明日は勝つ」

「絶対に負けない」

それぞれの胸の奥に、家族の声援と自分たちの誓いを刻み込んだまま――。


ユリは小さく寝息を立て、雅は夢の中でもボールを追っているように手を動かす。

徹はうっすら笑みを浮かべながら眠り、真斗は静かに深い呼吸を繰り返す。


男子も女子も、全員がぐっすりと眠りにつき、疲れを落としていった。






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