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準決勝。

【準決勝前・選手たちのやり取り】


大船徹:「おう、ユリ、柚月、今日はどげんな気持ちで行ぐんだ?」


名取閖子:「うーん……緊張するっちゃけど、でも絶対勝つしかねぇべ。あんたも、気合い入っとる?」


徹:「おらはばっちりだっちゃ。先制点取って、流れ作るど。」


相馬柚月:「ふふ、ふたりとも頼もしいっちゃ。あたしは右サイドばしっかり守るっちゃ。絶対抜かせん。」


大崎道也キーパー:「こっちは相手のパス回し早えけど、冷静に対応すっぺ。味方ば信じて動くことが大事だな。」


葵(キーパー、女子):「わたしもサイドバックの動き見ながら、声だしてサポートするね。ミスしてもお互いカバーし合おう。」


ユリ:「道也、葵、頼んだべ。後ろが安定してっから、安心して攻められるっちゃ。」


徹:「よし、みんな気合い入ってるな。そろそろ監督ミーティング始まるべ。」


柚月:「はい、集中すっぺ。最後まで声だして、連携ば確認すっちゃ。」


道也:「準備オッケーだな。それじゃ、監督の話聞ぐべ。」


葵:「うん、がんばろうね!」

  




【準決勝・仙台ジュニアFC戦術ミーティング】


原町監督:「よし、みんな。次の相手は横浜FCジュニアだ。Jリーグ傘下のチームで、パス回しが正確、守備も硬い。失点は少ないと思え。」


岩出コーチ:「前線はスピードあるけど、まだ子どもらだから、焦って無理に攻めなくていい。相手のパスコースば消しつつ、奪ったら素早く展開すっぺ。」


徹:「監督、俺らの左FWからの攻めはどうすればいいっすか?」


原町監督:「おう、徹。おめのドリブルは相手ディフェンスを引きつけるのに使え。右サイドの柚月と連動して、スペースが開いたら速攻でクロス上げろ。」


ユリ:「左サイドば狙うっちゃな。了解。」


柚月:「右サイドも任せろっちゃ。速攻のタイミングば合わせっぺ。」


道也:「守備ラインはどうすればいいべ?相手のフォワードが速えべ?」


原町監督:「道也、中央守りつつ、声だして後ろば指示せい。ゴール前のスペースは絶対空けんな。」


雅:「ヘディングの合わせは、誰が狙うべ?」


監督:「前線三人、徹・迅・真斗だ。クロス来たら一番良いポジションで合わせろ。」


徹:「了解っちゃ。ボール来たら迷わず打つっぺ。」


ユリ:「私もボランチとして、攻守の切り替え早くすっちゃ。隙を作らせん。」


岩出コーチ:「あと忘れんな、試合は楽しむもんだ。ガチガチにならず、自分たちのリズムでやれ。」


柚月:「はい、気合い入れるっちゃ!」


道也:「オッケーだ、全員で集中して動ぐべ。」


徹:「よし、みんな準備オッケーだな。後はピッチで証明すっぺ。」


ユリ:「うん、行ぐべ!」



原町監督:「あと一つ大事なこと。今回のキーパーは葵で行ぐ。道也は疲労もあるし、葵にも実戦で経験積ませんとならん。頼むぞ、全員でサポートしろ。」


道也:「はい、監督。任せっちゃ。葵ばしっかりフォローするべ。」


葵:「わかったっちゃ。精一杯やるっちゃ!」


ユリ:「よーし、葵ば守るっちゃ。道也も少し休めっぺ。」


徹:「そだね。俺らもしっかり守備固めて、葵が安心してプレーできるようにすっぺ。」


岩出コーチ:「うん、その通り。キーパー交代も戦略の一部だ。全員で連動してカバーせい。」


柚月:「よーし、今日も全力でやるっちゃ!」


監督:「よし、じゃあこれで準備オッケーだ。ピッチで思いっきり楽しめ!」



【横浜FCジュニア・前日ミーティング】

監督名:田村修一

選手名:

•FW:佐伯颯太、松岡陽向、森下蓮

•MF:齋藤遥、石川茉央、服部大地

•DF:高橋匠、田中勇、吉岡翔

•GK:鈴木一樹



田村監督:「みんな、明日の相手は仙台ジュニアFCだ。特に注意するのはスピードだ。前線の大船徹と真斗、迅の3人はスプリント力が半端ねぇ。ボールを持ったら簡単に奪わせんなよ。」


佐伯颯太:「はい、監督。どのラインで潰すのがいいっすか?」


田村監督:「FWは相手の左サイドと中央を意識して、特に左サイドのユリこと名取閖子はボランチだけどスピードと読みが良い。簡単にフリーにさせるな。」


松岡陽向:「右サイドの真斗と徹も注意ですね?」


田村監督:「その通り。素早いパス回しとカウンターが持ち味だ。特に道也のキーパーは高い技術があるが、まだ若干疲労気味。キーパーも含めて全員でプレスをかけろ。」


齋藤遥:「中盤はどう守りますか?」


田村監督:「仙台は中盤のユリと柚月が左右に広く動く。こいつらにパスを自由に通させると前線が暴れるから、常にマークを意識して、パスコースを消すんだ。」


石川茉央:「相手の守備ラインも読んだほうがいいですか?」


田村監督:「もちろんだ。仙台ジュニアの守備は硬いが、ボールを奪ったら攻撃に転じるスピードはすごい。ロングパスも使うから、すぐに戻るんだぞ。」


服部大地:「了解っす、監督!」


田村監督:「よし、明日は全員で集中して、仙台の速攻を封じつつ、自分たちのパス精度を生かして崩していく。準備は万全にしろ。質問はないか?」


全員:「はいっ!」


田村監督:「よし、じゃあ明日の試合、勝つために全力だぞ!」



前日練習を終え、宿舎に戻った仙台ジュニアFCの選手たち。夕食で鹿児島名物の黒豚を堪能したあと、男女それぞれにお風呂タイム。湯気の立つ大浴場には、わちゃわちゃと笑い声や会話があふれる。


女子チームはお湯につかりながら、リラックスした雰囲気の中で戦術を最終確認する。


名取閖子:「ふぅ〜、やっとお風呂であったまるなぁ。柚月、明日は左サイドどう動くんだべ?」

相馬柚月:「んだな、ユリが前に出たタイミングで私が右に回るべ。そしたら中央も空くから、真希や葵にボール渡せるっちゃ。」

真希:「うんうん、中央に来るボールは右足で決める。お湯で体ほぐしつつ、頭ではタイミング覚えるっちゃ。」

葵:「わいも前線の動き確認する。道也の経験も頼りになるから助かるべ」


男子チームも同じく湯につかりながら、前線の動きや守備の確認を行う。


大船徹:「お湯で体あったまると、明日のカウンターのイメージ湧くな。」

真斗:「右サイドと中央の連動、湯につかりながら思い出すべ。」

迅:「わいも前線で動きながら、パスのコース意識するべ。」

大崎道也:「葵は、初めての先発で緊張もあると思うが、俺がしっかりサポートするべ」



お風呂で温まった身体と、笑い声に包まれたリラックスした空間で、選手たちは頭の中で戦術を反芻し、明日の準決勝に向けて万全の準備を整えた。



ぐっすり眠った選手たちは、翌朝しっかり朝食をとり、体を目覚めさせる。各ポジションに分かれ、ボール回しで動きの確認を行う。葵も先発キーパーとして、ボールの感触やコースを体に叩き込み、軽いフットワークで入念に練習をこなす。


仙台ジュニアFCは、横浜FCジュニアの選手の動きや特徴を確認しつつ、ウォーミングアップを終える。選手たちが一堂に集まり、ピッチに立つと、静かな緊張感が漂う。いよいよ、決勝進出をかけた準決勝の試合が始まろうとしていた。



ピッチに立つ選手たち。冷たい朝の空気が張りつめ、どこか胸の奥がそわそわする。足元のボールを蹴るたびに、緊張と期待が入り混じった感覚が体中を駆け巡る。


「よーし、今日も思いっきり走るべ!」と大船徹が右手を握りしめる。


「徹兄ちゃん、ボールの感触、ばっちり覚えたよな?」名取閖子は笑顔を見せつつ、左サイドで軽くジャンプする。


「おう、ユリ。しっかりキープして、こっから展開すっから」と徹。


相馬柚月は少し顔をしかめて、「相手のパス回し、早いって聞いだが、負げねぇべ。しっかり守って、チャンスあれば攻めっぺ」と気合を込める。


先発キーパーの葵はゴール前で手を合わせながら、「あー緊張すっけど…道也さんが後ろで見てるし、しっかり守るべ」と自分に言い聞かせる。


「おら、今日は行ける気がするわ」と迅が中央で軽くボールをドリブルしながら、にやりと笑う。


互いに視線を交わし、無言の意思疎通で気持ちを一つにする仙台ジュニアFCの選手たち。ピッチの端で笛を握る審判が息を吸う音までが、やけに大きく感じられた。


「よーし、行ぐぞ、全員!」原町監督の声がピッチに響き渡り、選手たちは一斉に集中力を高める。胸の高鳴りと共に、決勝進出をかけた準決勝が、ついに幕を開ける瞬間だった。




ピッチに立つ横浜FCジュニアの選手たち。朝日を浴びて少し緊張しているが、闘志も湧き上がる。


キーパーの鈴木一樹はゴール前で手を握り、冷静にボールの軌道を思い描く。

「しっかり集中しよう。仙台はスピードあるけど、俺たちの守備は崩れない。」


DFの高橋匠は横でつぶやく。

「失点したら終わりじゃない。前半はまず耐える。パス回しのリズムを崩すんだ。」


DFの田中勇は後輩たちに声をかける。

「ユリとかスピードある選手多いけど、しっかりマークしてこっちのペースに持っていくぞ。」


DFの吉岡翔はゴール前を見据え、歯を食いしばる。

「仙台がボールを持ったら、すぐに奪い返す。隙を見せたらやられるからな。」


MFの服部大地は軽くボールを触り、FWに視線を送る。

「焦らず、パスコースを消すんだ。簡単には奪わせない。」


FWの佐伯颯太は拳を握り、仲間たちに声をかける。

「チャンスが来たら一気に攻めろ。前半はまず守って、隙を狙うんだ。」


松岡陽向は微笑みながらも真剣な目で仲間を見つめる。

「焦らず、でも絶対に負けない。声を出して連携をしっかり取ろう。」


森下蓮も前を見据え、心を奮い立たせる。

「仙台の速攻は怖いけど、全員でカバーしてやる。」


監督の松永はベンチから声をかける。

「仙台はボールのキープ力も高い。パスコースを消して、簡単に奪われないように。焦るな、落ち着け。」


選手たちは互いに目を合わせ、無言の確認。心の中で「絶対に勝つ」と誓い合う。ピッチに張りつめた空気の中、準決勝のキックオフが迫っていた。



いよいよ準決勝、決勝進出をかけた大一番のホイッスルが鳴り響いた。スタジアムに緊張と期待の空気が広がる。


仙台ジュニアFCのキックオフ。キッカーは迅。軽くボールをタッチし、すぐ後ろに控えるユリへとパスを出す。ユリは前線を一瞥し、左足で大きなロングボールを蹴り出した。狙いは前線の真斗。


「行ぐぞ、マナト!」

ユリの声とともに、ボールは正確に真斗へと渡る。真斗は胸でトラップし、相手DFの動きを確認。


左サイドには徹、右には真希がそれぞれマークを引き連れて走る。真斗は一度右の真希へとパスを送る。真希はワンタッチでボールをコントロールし、素早く顔を上げた。


「徹、走れ!」

その声に応じるように、徹が左サイドライン際を一気に駆け上がる。真希は体を開いて大きくサイドチェンジ。ボールは美しい弧を描いて徹の足元へ。


徹はダイレクトにキックフェイントを入れ、すぐに中央へ切り込む。ノーマークでセンターを駆け上がっていた迅に絶妙なパスが通る。


「任せろ!」迅が叫びながら、前へ。相手DFが慌てて寄せに来る。


迅は冷静にボールをコントロールし、シュート体勢に入ったように見せかけて左へパス。そこにはすでに走り込んでいたユリがいた。


観客席がどよめく。

「打つぞ!」と身構えた横浜FCジュニアのDF陣は、一斉にゴール前を締める。


ユリは一瞬、迷わずボールを足元に収めた。その瞳は冷静にゴールと仲間の位置を測っていた——。



ユリは迷わなかった。右足のアウトサイドで、走り込んでいた徹へ鋭いグラウンダーのパスを送る。


「ユリ、来いっ!」

徹が声を張り上げ、相手DFのマークを背中で受けながらワンタッチでリターンパスを出す。


その瞬間だった。横浜FCジュニアのDFラインが一瞬だけズレる。徹に気を取られたセンターバックが半歩遅れ、中央に大きな隙間が生まれる。


「今だ!」

ユリは猛然と前に詰める。身体をひねり、左足を振り抜いた。


ズドンッ!


強烈なシュートが放たれた。ボールは一直線にゴール左上を目がけて突き進む。横浜FCジュニアのGK、鈴木一樹が懸命に飛びつくが、指先をかすめただけでネットに突き刺さった。


「ゴオオオールッ!!!」


スタンドが大歓声に包まれる。仙台ジュニアFC、試合開始からわずか数分で先制点!

徹とユリはすぐに抱き合い、他の仲間たちも次々に駆け寄ってくる。


「やっだなユリ!最高のタイミングだっちゃ!」

徹が笑顔で叫ぶ。

ユリも息を切らしながら、拳を突き上げた。

「徹のおかげだ!ワンタッチ、完璧だった!」




キックオフ直後の一連の流れは、まさに練習通りだった。

迅からユリ、ユリから徹、そしてワンタッチで戻されたボールを左足で振り抜いた瞬間——。


横浜FCジュニアの守備陣形は、まだ整いきっていなかった。前線からのプレスを意識して前がかりになっていたDFラインが、ほんのわずかにズレた。そこを逃さず突いた、鮮やかな一撃。


「ゴールッ!!!」


ユリのシュートはゴール左上へと突き刺さり、試合開始わずか数分で仙台ジュニアFCが先制点を奪った。


観客席がどよめきと歓声に包まれる中、選手たちは一気に駆け寄る。

徹がユリの肩を叩き、興奮した声をあげる。


「やっぺユリ!相手、完全に立ち上がり隙あったべ!」

ユリは笑顔で拳を握りしめ、答えた。

「徹のリターンが完璧だったからだ!これで流れ、こっちのもんだっちゃ!」


ベンチ前では、原町監督と岩出コーチも立ち上がり、力強く拍手を送っていた。




しかし、このあと、横浜FCジュニアの反撃が始まる。

失点直後にもかかわらず、彼らの表情には焦りがなかった。


「慌てるな、ここからだ」

キャプテンの服部大地が声を張り上げると、すぐに全員の動きが整い始める。


彼らの強みは、流れるようなパスワークと正確なライン取り。

ボールを保持すると、中盤の斉藤遥と石川莉央がリズムを刻むように短いパスを繋ぎ、相手を左右に揺さぶる。


「翔、少し下がって角度つくれ!」

「了解!」と声を返した吉岡翔が素早くポジションを修正、ワンタッチで前線へ。


仙台ジュニアFCの選手たちはボールを追いかけさせられ、自然と走らされる展開になる。

スタミナを削り、焦れさせ、隙を突く——まさに横浜FCジュニアの得意とする戦術だ。


FWの佐伯颯太、松岡陽向、森下蓮は常に最前線で駆け回り、パスコースを要求しながら仙台ジュニアの守備陣を引きつけていく。


「っしゃ、回せ回せ!こっから崩すぞ!」

颯太の声に合わせ、横浜のリズムが一気に加速する。


仙台ジュニアFCのベンチ前では、原町監督が険しい表情で呟いた。

「やっべな……横浜、ボール回し本気で上げてきたぞ。スタミナ削りにきてる……」


岩出コーチもうなずき、ピッチに立つ選手たちへ声を飛ばす。

「無理に取りに行ぐな!ライン揃えて耐えろ!辛抱づよく守るんだ!」


仙台ジュニアFCにとって、ここからが本当の勝負だった。




やがて、横浜FCジュニアがゴールに迫ってくる。

5枚で形成した仙台ジュニアFCの最終ラインを、左右に振りながら突破を狙う。右サイドの石川莉央が仕掛け、低いクロスを中央へ折り返した瞬間——。


「もらった!」

中央に構えていた迅が素早く読み切り、鋭く足を伸ばしてカット。ボールはそのまま前方に転がる。


「行ぐぞッ!」

迅が叫びながら一気にトップスピードに乗る。圧倒的な加速で相手DFの間をすり抜け、そのままゴールへと突き進む。


横浜のディフェンダーたちは、直前の攻め上がりで前線に人数をかけており、戻りが間に合わない。完全に置き去りにされる。


——一対一。

仙台ジュニアの迅と、横浜FCジュニアの守護神、鈴木一樹。


「(速ぇ……! 予想以上だ)」

一樹の心臓が大きく打つ。だが焦りはなかった。ゴール前に迫る迅のフォームを凝視し、呼吸を整える。


「(左か……いや、まだ溜めてる。タイミングをずらして……右か!)」


瞬間、迅の左足から放たれたシュートに合わせて、一樹は鋭く前へ飛び出した。体を大きく広げ、腕を伸ばす。


——バシィッ!


乾いた音が響き、ボールは一樹の手に弾かれた。

まさにスーパーセーブ。横浜のゴールを守り切った。


「ナイスキーッ!!!」

「一樹、助かったぁ!」


仲間たちが叫び声を上げる中、一樹はまだ地面に転がりながらも冷静に状況を確認していた。


「(危ねぇ……でも、あいつのスピードはヤベぇな。もう一回同じシーン作られたら……)」


横浜FCジュニアの守護神は、胸の奥で静かな危機感を抱きながらも、仲間の声援に軽く手を挙げて応えた。



弾かれたボールは、そのまま横浜FCジュニアの服部大地の足元へ。

「行くぞッ!」と大地が声を上げ、素早く前線の佐伯颯太へパスを送る。そこから松岡陽向、森下蓮とテンポ良くボールが回され、横浜が再び仕掛ける。


だが、仙台ジュニアFCの選手たちも動じない。

「焦んのすんな! ライン締めろ!」と、センターバックの雅が大声で指示を飛ばす。


横浜の選手たちがスプリントで仕掛けても、スピード勝負では仙台ジュニアの徹や迅、柚月らが上回る。相手もそれを理解しているため、無理に突っ込まず、ショートパスを繋ぎながらじわじわとラインを押し上げてきた。


——だが、仙台ジュニアは既にその戦術を読んでいた。

原町監督がミーティングで繰り返し強調したのは、「奪いに行くんじゃねぇ、待て。ライン締めてコース消せ」だった。


「わがっだ! 無理すんな!」

ユリが声をかけ、ボランチの位置から冷静にパスコースを切る。


横浜は、ボールを保持している時間が長いにもかかわらず、なかなか決定的な突破口を見いだせない。

「(これ……持たされてるな)」

大地が眉をひそめた。仙台が意図的に奪いに来ず、あくまでラインを固めて耐える姿勢を見せていることに気付いたのだ。


「大地、縦、縦ッ!」

颯太が叫び、大地は意識を切り替える。パス回しで揺さぶっても通じないなら——縦に鋭く差し込むしかない。


一瞬のスキを突き、服部大地が低い弾道のパスをゴール前へ通す。

ボールは颯太の足元へ。仙台ジュニアのゴール前がざわめいた。



横浜FCジュニアが縦への突破から放ったシュートは強烈だったが、仙台ジュニアFCのゴールマウスに立つ葵が冷静にキャッチ。

「ナイス葵!」と仲間の声が飛ぶ。


葵はすぐさま前線を確認。相手が攻め込んできた分、守備陣形は崩れている。チャンスだ。

「真斗、行け!」

キックと同時にボールは高く前線へ。真斗が的確に落下点へ入り、胸でボールを収める。


——次の瞬間、仙台のカウンターが始まった。

真斗 → 雅 → 瑠唯 → ユリ → 徹 → 迅……とワンタッチのリズムが続き、横浜の守備を翻弄する。


最後は右サイドに展開され、柚月がゴールへと斜めに切り込む。

「打つぞッ!」と踏み込んだ瞬間、相手ディフェンダーが必死にスライディング。

柚月の足にぶつかり、柚月が倒れ込む。


主審の笛が高く鳴った——PK。


場内が一気にざわめく。仙台ベンチからも歓声が飛んだ。

キッカーに選ばれたのは、先制点を決めたユリ。


そのとき、葵が小走りでユリに近づき、耳元でそっと囁く。

「ユリ、右隅さ狙え。あのキーパー、一瞬だけ左に体重移すんだ。クセ、見抜いだ」


ユリは驚いたように葵を見て、すぐに頷く。

「わがった。任せで」


胸の鼓動が早まる。スタジアム全体が静まり返り、ユリとゴール前の鈴木一樹だけが時間を支配しているように感じられる。


ユリは助走に入る。

——どっちに打つ? そう思わせながら、体をわずかに左へ傾ける。

キーパー鈴木は反応し、左に重心を移した。


その瞬間、ユリの左足から放たれたボールは鋭く右隅へと飛んでいった——。




ユリのPKはキーパー鈴木の指先をかすめたものの、鋭く右隅に突き刺さった。

ゴールネットが揺れると同時に、仙台ベンチもスタンドも大歓声に包まれる。

スコアは 2–0。点差は広がり、横浜にとっては苦しい状況となった。


そのままアディショナルタイムを消化し、主審の笛が鳴り響いて前半終了。



ハーフタイム:横浜FCジュニアベンチ


横浜の選手たちはベンチに戻ると、額から大粒の汗を拭いながら息を整える。

監督 田村修一は腕を組み、しばし黙ったまま選手の表情を見渡す。


「……正直、思ったよりも厄介だな」

隣にいたコーチが小声で漏らす。


修一はうなずき、声を張った。

「スプリント力、切り替えの速さ、ボールキープ……全部予想以上だ。こっちの“持たせて削る”作戦はもう効かねぇ」


フォワードの 佐伯颯太 が悔しそうに唇を噛む。

「回してるうちに逆に体力持ってかれてる感じっす……」


修一はホワイトボードにラインを引きながら続ける。

「後半はサイドだ。縦の突破にこだわるんじゃなく、サイドチェンジを織り交ぜて相手のブロックを広げろ。幅を使って揺さぶるんだ」


DFの 高橋匠 が頷き、拳を握った。

「了解っす!相手の縦パス警戒はさすがに徹底してきてる……なら外から崩してやりましょう!」



ハーフタイム:仙台ジュニアFCベンチ


一方、仙台の選手たちは肩で息をしながらも、どこか自信に満ちた表情をしていた。

原町監督 は冷静に言葉を選び、全員の視線を集める。


「おめだぢ、よぐやったな。けど、まだ半分だべ」


DF陣に向き直る。

「最終ラインはしっかり締めろ。ゴールさえ割られなければ、それでいい。無理にボール取りに行ぐな。持たせでええ。持たせで、縦のコースを消せ」


MFの 柚月 が手を挙げて確認する。

「監督、相手サイドから来るとしたら?」


「そん時は両サイドの戻りを速ぐすんだ。無理すんな、まず形を整えろ。それで十分守れる」


キーパーの 葵 が力強くうなずく。

「はい、私が最後で絶対止めます!」


監督は微笑み、最後に声を張り上げる。

「焦るのは相手だ。うちらは冷静さ、失うな!」


選手たちの「はいっ!」という声が響き、ハーフタイムのベンチを包んだ。







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